暮らしのなかで知っていく #1 

近所の喫茶店でスパゲッティを注文して席に着く。「高岡に夢中になって欲しいと思ってね」そう語る横井は、富山県の高岡ツアーを企画した女性。伝統工芸品で有名な富山県の高岡に惚れ込んだ1人だ。これは私の先入観だろうか。「ツアー」と聞くと、非日常の時間を消費するように楽しんで、日常へと名残惜しく帰っていく、現実離れしたものを想像してしまう。

「普通じゃ体験できない深い関わりができるんだよ」

「へー。どういうこと?」

「高岡の人って本当にお酒強くてさ。ツアー中は毎晩一緒に飲むんだよね。宿はホテルじゃなくて、高岡の人が用意してくれた場所で寝るし。翌日の工場見学は、昨晩一緒に飲んでいたおっちゃんのところに行くから、昨日はありがとう〜って話したりして」

「なにそれ、住んでるみたい」

「うん、そういう感じ」

参加者が参加しているわけでもなく、地域の人がツアーを用意しているわけでもなく、ご近所さんが「ちょっとお邪魔します〜」って手土産持って家に入っていく感じ。なるほど、そういう距離感で、高岡という地域を体験できるんだ。でもそれってどうやって実現しているんだろう。

「WHEREの代表のぽぽさんは、惚れ込んだ地域にお邪魔して、数週間住み込んで、暮らしの中で仲良くなって、ツアーを作っていくの。だから完成するのがツアーっていうより、イベントっていうより、何ていうんだろう……」

「暮らしの体験?」

「その表現のが近いのかもしれない」

暮らしの中に溶け込んで、食べて、寝て。だからこそ工場の見学は、人柄の知らない「プロフェッショナルの話」ではなくて「昨日一緒に飲んだおじちゃんの話」になる。おじちゃんが考えていること、好きなこと、大切にしていること、その人柄、その人生に触れた上で、伝統工芸品があること。そんな背景を知るからこそ、理解の幅はぐっと広がるし、遠いものだと感じていた伝統工芸品は、自分の現実とぐっと近いものに感じるだろう。

「毎晩盛り上がって飲みすぎて、朝起きたら床だった」と楽しそうに話す横井。今でも高岡の人が東京にくる際は、参加者を集めて飲み会を開いているらしい。この表現はふさわしくないかもしれない。「共に過ごしたメンバーで飲み会をしている」これくらいの方が、どうもしっくりくる。

非日常を消費するツアーのイメージは、だいぶ古かったみたい。地域の魅力を知るだけでなく、暮らしに溶け込んで、魅力の背景にある誰かの人生ごと知っていく。それは非日常を消費するというよりも、誰かの人生を追体験することに近いのかもしれない。

「高岡ツアー、またやらないの?」
「うーん、今のところ予定はないかな」
「えー、やってよ」
「コラムで反響があったらね」

高岡の人とたまに飲んでいるという横井の暮らしには、もう高岡が入りこんでいる。また開催する気になってくれることを、願うばかりだ。

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ローカルレターのインタビューを担当する、水田真綾です。普段はCRAZY MAGAZINEの執筆・編集をしています。地域の人の魅力に触れた人が、どう感じて、どんなことに気づいたのか、ゆるく、柔らかく伝えていけたらと思っています。

SPECIAL THANKS 横井理子!

これからもふるさとの応援をお願いします。