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地域の食文化「水だんご」を受け継ぎ、伝統を守り続ける中にあった “葛藤” と “喜び” とは|富山県魚津市

JUL. 15

拝啓、日々の忙しさと夏の暑さから、スッキリしたいあなたへ

あなたの “思い出の味” といえば、どんな味でしょうか?

お母さんの卵焼き。近所のお肉屋さんのコロッケ。友達とよく食べていた駄菓子などなど。思い出すと懐かしく、ふと無性に食べたくなることがあったりしますよね。

そんな思い出の味の中でも、今回は富山県黒部市で多くの人が思い出の味として語ってくれる “水だんご” に注目。当時27歳という若さで地域の伝統を受け継ぎ、県内外に水だんごのファンを作り続ける藤吉とうきちを運営されている大野慎太郎さんを取材しました。

食文化を途絶えさせたくない

藤吉で作られている “水だんご” の始まりは1959年。地元で有名な老舗菓子舗「河田屋」を営む河田ご夫妻が夏の商品として、昔から黒部地域では夏になると各家庭で作られていた “水だんご” を商品化しました。

1975年ごろまでは米を自分たちで製粉していましたが、コストや体力面の限界により藤吉の本社である「有限会社 大野商店」から水だんごの原料である米粉と片栗粉を仕入れるようになります。

慎太郎さんは学生の頃から河田屋さんが繁忙期の時にはお手伝いに行っており、大野商店の6代目になってからもその関係は続くほど気の知れた間柄。

「大野商店としても、私個人としても河田屋さんとはご縁がありました。以前は各家庭で作られていた水だんごですが、この当時は河田屋さんの水だんごで育ったという人が多かったんです。だからこそ河田屋さんがお店を畳んで、水だんごがなくなってしまうと知った時には本当に悲しかったです」

河田屋さんも水だんごはなくしたくないと、どこか引き継いでくれるお店はないか懸命に探されていたそう。しかし作るのに手間のかかる水だんごを引き継いでくれるお店は見つけることができませんでした。

「私たちが小さい頃から食べてきた食文化がなくなってしまうことはどうしても避けたかったんです」

50年以上の歴史を持ち地元の人にとってはなくてはならない食べ物となっていた “水だんご” を絶対に途絶えさせたくなかったという慎太郎さんは、当時全く挑戦したことのなかった食品製造に挑戦することを決めます。

地域の伝統を受け継ぐ葛藤と覚悟

「地域の伝統となっている水だんごを引き継ぐには、相当な覚悟がないと駄目だよねとみんなで話し合いました。河田屋さんと同じ味が出せるのか、プレッシャーは大きかったですが “伝統の味を絶やしちゃいけない” という想いの方が勝りました」

河田屋さんのご主人に想いを伝え、2012年に作り方をはじめ、紋章など全てを慎太郎さんが運営する藤吉が受け継ぎます。

「水だんごは材料も作り方も言葉にするととてもシンプルですが、言葉にはできない熟練の技がたくさんあるんです。どのタイミングでお湯を入れるのか、その日の外気温によってお湯の量だって変わります。河田屋さんの味になるように必死に4年間続けてきて、最近ようやく河田屋のおじいちゃんに認めてもらいここまできました」

藤吉が水だんごを引き継げた時、意外にも10代から30代の方が年配の方と一緒になって喜んでくれたそう。

「夏休みになっておばあちゃんのお家に行ったら、必ず食べる懐かしい食べ物だった水だんごを恋しく思ったり、自分の子どもや友人に知って欲しいと思っている方が本当に多かったんです」

河田屋さんが廃業された時、水だんごも一緒になくなってしまったと思われた方が多かったからこそ、藤吉で同じ味が食べられると知った時は本当に多くの方が喜んでくれたと言います。

新たな挑戦の先に見つけたポテンシャル

藤吉で働くすべての人が “受け継いでよかった” と思うとともに、ここから藤吉の新たな挑戦が始まります。

「河田屋さんで作られていた水だんごは、賞味期限が1日しかありませんでした。これでは県外どころか、県内にすら運ぶことができません。どんなに美味しい水だんごでも、黒部地域外の人にこの美味しさを届けられないのが現状でした」

“地域外の人にも水だんごを食べてもらいたい!” そんな想いで、慎太郎さんは材料を変えず、添加物を入れないで製造日を伸ばすことに挑戦することを決めます。

「たくさんの失敗を繰り返しながら、今では製造日を入れて4日間賞味期限を伸ばすことに成功しました」

地道な努力とより多くの方に水だんごの魅力を知っていただきたいという想いから、賞味期限を伸ばし県内外に運べるようになった水だんご。地域外のスーパーにも並べられるくらい品質改善を行った今だからこそ、慎太郎さんはお客様と “会話をしながら” 商品を販売したいと言います。

「ただ単にスーパーに “水だんご” を並べるのではなく、”水だんご” への想いや黒部地域のことを知っていただいた上で、水だんごを買っていただきたいと思っています」

ただのお団子ではなく、地域に愛された水だんごだからこそ、この水だんごに込められた想いやストーリーを知って欲しい。そんな想いを常に持ち、藤吉スタッフの皆さんは店頭に立って接客をしています。

「お客様とお話ししていると多くの発見があります。最初にお客様の前に立った時は、”水だんご” の持つポテンシャルの高さに驚かされました」

“水だんご” という名前のキャッチーさはもちろん、水で洗うというインパクトに加え、都内では珍しい “青きな粉” に興味を持つ人が続出。米粉と片栗粉と水しか使用していないのに、初めて出会うツルツルもちもちの食感に虜になってしまう人も多いんだそう。

「都内に在住のお客様で、河田屋さんの “水だんご“ を食べた方に出会ったことがありました。その際、お客様に “東京の水と黒部の水は全然違う。黒部の水で洗った水だんごの方が美味しい” と言われたことを今でも覚えています」

「私たちにとっては日常の一部として成り立っている湧き水や、青きな粉、水だんごが地域外の方からすると珍しく、とても貴重なものであることに驚きました。黒部の湧き水で冷やした水だんごはちょうど良く冷えていて、本当に美味しいんです」

会話の “きっかけ” にしてほしい

米粉と片栗粉と水と、とてもシンプルな材料からできている水だんごは、素朴でどこか “懐かしさ” を感じさせる味がします。

「水だんごがふるさとを思い出す “きっかけ” になってくれたらいいなと思っています。水だんごを食べることで、懐かしい味を思い出し、家族や友達と “地元にもこんな味あったよね” “また食べたいね” と、そんな風に話す会話のきっかけに “水だんご” があったら嬉しいです」

米粉と片栗粉と水というシンプルな材料でできている “水だんご” を湧き水で洗い、少し冷たくなったところに “青きな粉” をふるって一口。

ツルツルっとした喉越しのいいお団子と、甘じょっぱい青きな粉にどこか懐かしさを感じることでしょう。

Editor's Note

編集後記

初めて私が藤吉の水だんごを食べたのは、メンバーからのお土産でした。冷たい水で洗って食べる水だんごのツルツルモチモチが美味しいのなんのって。そしてその後、藤吉がやっているカフェで「水だんご パフェ」を食べたのですが、これがさらに格別すぎる…!悶絶しました(今思い出してもヨダレが…笑)。ぜひ、まずはお気軽にオンラインストアでご購入を。機会があれば富山県魚津市にあるカフェにも行ってみてくださいね!^^

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