レポート
※本レポートはシェアリングエコノミー協会東北支部初のイベント「東北のコミュニティを豊かにするシェアリングエコノミー」を記事にしています。
「地域コミュニティ」と「デジタル」をかけ合わせることで、暮らしが少し便利になるだけではなく、コミュニティのあり方そのものや、そこで暮らす価値観も変化していきます。
資本(お金)だけが価値ではない時代だからこそ、人口減少が進んでいる時代だからこそ、デジタルの力を使い、シェアリングエコノミーを進めることは、豊かな生き方を目指すための大きな手段となっています。
今回はそんな「デジタル×地域コミュニティ」「シェアリングエコノミー×地域コミュニティ」をテーマに、東北で「共助」を切り口に最先端の取り組みを行う関係者のトークセッションをお届けします。
前編では、地域に根付く「シェア」や「共助」にデジタルを掛け合わせることで生まれる多様性をお届けしました。
後編では、より豊かに生きられるコミュニティをつくっていくために奮闘する登壇者らが、デジタルと共存することでご自身が得たものを中心に実体験を語ります。
モデレーター:亀山さんは「デジタル活用」という文脈で、どんな変化がありましたか。
亀山氏(以下敬称略):デジタル活用、高度なことは全然わからないんですが、僕が田舎町でも人気カフェを生み出せたのは、SNSが普及し始めていたことが大きいと思います。当時、広告も宣伝も一切せずに、カフェをオープンしてすぐ1日50人~60人ほどのお客さんが来てくれました。
亀山:当時はまずFacebookを始めました。そもそも瓦礫(がれき)撤去からのスタートだったので、ただボランティアでお手伝いしてもらうだけでなく、楽しい時間を感じて欲しいとお昼にバーベキューや瓦礫だらけの海で泳いでいたんですが、その様子をSNSにどんどんアップしていました。
そしたら「一緒にやりたい」という人が増えていって、多いときは1日100人のボランティアが集まって。カフェができるまでには1,000人を超える人たちが関わってくれました。オープンまでにいろいろな人が関わって、関わってくれた人がSNSで発信してくれたことが大きかったですね。
当時の僕にとってはSNSというデジタルの存在が非常に大きかったですが、今後はより一層「その場にいなくても寄り合いができる」とか「自分で考えたことが現実に反映されていく」とか、そういうことも実現していきそうで面白いなと思っています。
亀山:たくさんの人が来てくださることは嬉しい反面、住民の方のご迷惑になることもあったので、今は完全予約制にしていまして。その後に始めた宿泊も1日5人までなんです。僕自身、「人が集まる」ことに対して、住民との距離感やバランスに悩んでいたんですが、メタバースだと無限だなと思っています。行き止まりにならない。
デジタルになればなるほど、本当に「あつまれどうぶつの森(以下、あつ森)」のゲームみたいですよね。あつ森も楽しいんですけど、リアルで体験することにはまた違った面白さもあるので、デジタルが進めば進むほどアナログの価値は高まっていく、だからデジタルとアナログは対立することじゃないと思うんですよ。なので、デジタル化にも積極的に取り組んでいきたいですね。
モデレーター:そうですよね。落としどころとして、最後は身体性を感じますね。やってみて楽しい、動いてみて面白いとか、そういう体験があることで自然に場所やまちの魅力が広がっていく。共有地を空間に縛られずつくっていく、ところにつながっていくんでしょうか。
亀山:誰かが勝手に「ここは俺の土地」って言い始めるといろんな問題が起こりますよね。例えば、多くの人にとっても海は共有物なんですよね。特に我々は毎日海からの恵みを食べたり、お金に換えて暮らしたりしてるので、みんなの物っていう感覚が体感的にあるんですよ。
ところが、地上に上がると「この区画がいくら」みたいな話になってしまう。しかも東京に行ったらとんでもない金額なのに、片や地域なら一坪1万いかない。そこの価値ってなんだろう、と思います。
モデレーター:丑田さんが取り組んでいる共有地やコモニングの考え方は、マネタイズとか資本経済になじむものなんでしょうか。
丑田氏(以下敬称略):お金が介在する場合としない場合があって、その間ぐらいもあるんですよね。例えば、遊休施設をリノベーションした無料の遊び場「ただのあそび場」は、ほぼ貨幣経済が介在していないんです。物件はほぼ無料だし、管理してる人もボランタリーで、使った人やみんなが一緒に掃除する、といった仕組みです。
「お金が回らないと絶対続かないよ」と言う方もいるんですけど、続くものは続くんですよね。
丑田:住民みんなで出し合って運営している「湯の越温泉」もコモニングされています。一方でお金が回らないと水道光熱費も払えないし、物件のメンテナンスもできないので、ちゃんと入浴料、宿泊料としてお金をいただいて、給料も出せるようにしていく。
いわゆるスタートアップ的に規模を拡大して100店舗増やしていくといったモデルではありませんが、ローカル経済でお金も大事にしながら、コモンズをつくっているモデルがこうして実際にあります。
他にも、「プラットフォーム・コーポラティズム」の考え方も資本主義の中ではカウンターカルチャー的に言われてます。「プラットフォーム・コーポラティズム」は従来のようにスケール性は求める一方で、創業者や株主が全てのリターンを得るのではなく、分散させ各々がコミットしながら楽しんでいくという概念。貨幣とは関わりますが、既存の資本主義とはまた違った形になっていくんじゃないかなと思います。
丑田:僕は自治をしている感とか、自分たちで楽しめている感があることが大事だと思っていて。
シェアとコモンズには明確な違いがあるわけではないんですが、ネイティブニュアンスとすると、「シェア」は所有してるものをちょっと共有して、場合によってはそれをサービスとしてお金いただいて収益化することに対して、「コモン」はみんなで持つので、最初から誰かの所有を切り出していくわけじゃない。
どちらにも共通して、「自分たちで育んでいる」とか「自分たちで関わっていくようにしていく」みたいな感じがあって、「シェアで収益を得たい」っていうよりは、シェアやコモンする行為が楽しかったり、それ自体が遊びになってたりすることが多いですね。
モデレーター:東北らしいコモンズや、シェアリングエコノミーのキーワードについて、最後に一言ずついただきたいです。
星氏(以下敬称略):「関わり方のグラデーション」ってすごく大事な言葉だと思います。
外から地域に関わりたいと思っている人にとっては、実際コミュニティに所属されている方が求めている関わり方がわからないし、多くを求められてもしんどいところもきっとありますよね。
地域の中で対話がされて、関わり方の多様性が認められたり、可視化されたりしていくと、関わりたい人が自分の関わり方を見つけ、シェアやコモンズが広がっていくきっかけにもなると思うので、お互いに言語化や対話を積み重ねることが大切だと思いました。
モデレーター:ありがとうございます。関わりかたのグラデーション、すごく大事ですね。東北特有の “割り切れない” ところは、個人的に愛おしい部分でもあるので、東北らしさを感じます。
丑田:コモンズやシェアリングエコノミーにおいて大事なのは、「役に立つかどうか」と「意味があるかどうか」というこの2つを手放すことだと思っています。
シェアは「役に立つ」とか「小遣い稼ぎになる」とか、そういう方向性で語られがちですよね。それはそれでいいんですけど、可能性を狭めすぎてるんじゃないかなと。「社会課題の解決に寄与する」とか「まちづくりに寄与する」とかも、考えすぎると窮屈ですし、それこそ自治体の枠にはまっちゃったりとか、予算が増えちゃったりする。
「役に立つかどうか」と「意味があるかどうか」の2つを手放した世界って、意味もないし役にも立たない、子どもがただ遊んでいるだけの状態だと思っていて。これは人間がもともと生まれながら自然にやってきたことなんですけど、大人になるにつれて、「この仕事は役に立つのか」とか「意味があるのか」と評価の物差しで測ってしまうようになる。
評価の物差しから逸脱した、本当の意味でのプレイフルな気持ちを出発点にして、結果として森林課題はまちづくり、地方創生などのキーワードに接続されていく形でいいのではないでしょうか。評価の物差しに捉われすぎない野生児がいっぱい生まれていったらいいですね。
亀山:我々は、自然の一部として生きてる感覚を取り戻すことを大事にしているんです。田舎だとそういうことが日常なんですけど、都市の人にもそういう感覚を取り戻してほしいなと思っていて。僕らは食べるもの、着るもの、建物、全部自然から受け取ってる。
資本主義経済の恩恵を受けて、何の不自由もなく僕も40歳まで生きてきましたし、それを否定することはない。でも、もうこのままだと環境も人も限界じゃないですか。だからもう自然の一部として生きてる感覚をみんなで取り戻して、それをビジネスやより豊かな暮らしを次世代に残す方法に繋げていけるといいなと。
だからこそ「移住しましょう」じゃなくて、「関わりしろ」が大事であり、「関わりしろのグラデーション」が必要で。
年に1回でも、月に何回でも遊びに来てもらってもいいですし、もちろん移住の選択肢があってもいい。それぞれの関わり方を持てる仕組みがつくれたらなと思っています。
お互いの良さをカバーし合うことが共助だと思ってるので、そういう世の中をつくっていくために、いろんなデジタルツールがこれからもっと広まっていくといいですよね。まだまだ試行錯誤の中なので、皆さんといろいろお話しながら一緒につくっていきたいです。
Editor's Note
デジタルを活用しましょう、いうのは簡単ですが、活用することによって実際どういうことが起こるのかについてはやってみないとわからないというのが現実だと思います。登壇者の方々は、「シェアエコを意識した」「デジタルを活用しようと思った」のではなく、より豊かに、より楽しく生きられるコミュニティを作っていく過程で新たな一歩を踏み出していくことになったというのが、まさにこの難しさを体現しているのかもしれないなと思う一方、やってみたらもっとわくわくする使い方ができるかもしれない、そういった可能性も強く感じました。
AYAMI NAKAZAWA
中澤 文実