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LOCAL LETTER

「観光」を全ての入り口に。Astlocalが挑む、静岡市の生き残り戦略

NOV. 05

SHIZUOKA

拝啓、地域の魅力発信の糸口に悩むアナタへ

リモートワークの普及や移住支援の充実などで、地方に戻る選択がしやすくなった昨今。「地元のために頑張りたい」という思いで、地域活性に関わる事業の立ち上げを考える方もいるのではないでしょうか。

ただ、ひとくちに地域活性といっても様々なアプローチの仕方がありますよね。ときには「この地域に一番必要な施策は何か」という課題にぶつかることもあるかもしれません。

何を軸として地域活性化に取り組めばいいかわからない。そんなアナタに知ってほしい企業が、静岡市にあります。「ローカルを観光で強くする」をビジョンに掲げるAstlocal株式会社(以下、Astlocal)です。

今回は、「観光が全ての入り口になる」と語るAstlocal代表の桜井貴斗さんに、地方における観光の力についてお話を伺いました。

桜井 貴斗(さくらい たかと)氏 Astlocal株式会社 代表取締役/北海道生まれ静岡育ち。県外の大学へ進学後、就職で再び静岡へ。大手求人メディア会社で営業やインハウスマーケター、新規事業開発の立ち上げを経験したのち、2022年に全国の地方マーケティング支援を行う株式会社HONEを設立。その後、2023年7月に地方の観光支援に特化したAstlocal株式会社を立ち上げる。

「住民1000人の村」を見てきたからこそ感じる“危機感”

人口約67万人の静岡県静岡市(2025年7月時点)。全国的に人口は減少傾向にあるとはいえ、約1,700の市区町村の中では上位30位前後に位置しており、地方都市としては依然として高い人口規模を誇ります。

一見、人口という側面では地域活性の緊急度は高くないようにも感じますが、豊かな環境だからこその課題もあると桜井さんは話します。

「静岡市は人口が比較的多く、暮らすには困らない環境なので移住先によく選ばれます。ただ産業という視点で考えると、ヤマハやスズキなど静岡県西部にある企業が目立ち、静岡市の印象は薄くなりがちです。

観光にしても、静岡茶に海鮮に徳川家康にと、”どれも良い”と見どころが分散してしまうんです。なんでも揃っているからこそ、あえて団結する必要がなく、良くも悪くもおおらかで危機感が生まれにくい。そんな空気感が静岡市にはあるように思います。

しかし、人口1000人の村だとしたらどうでしょうか。自分たちの村を守るために、行動を起こす光景が思い浮かぶのではないでしょうか。実際、地方支援の現場では、そうした切実さを原動力に地域活性へ必死に取り組むまちや村を多く見てきました。

一致団結しなくても生きていける今はよくとも、今後人口が減っていったときにどうするか豊かさ故に、アプローチが難しい現状があります」

現在は民間企業各社がそれぞれに観光戦略を立てており、静岡市全体としての一体感が生まれにくい状況です。「静岡市といえば◯◯」という印象が持たれにくいまま人口減少が進むことに、様々な地域のマーケティング支援を行う桜井さんは強い危機感を抱いていました。

また急速な人口減少については静岡市も、生活に欠かせないサービスの縮小や、税収減による行政サービス水準の低下、地域コミュニティ機能の弱体化につながるとして、その対策は喫緊の課題*であるとしています

(*:静岡市将来人口の独自推計より)

「観光」は全ての入り口になる

全国各地の地域を対象にマーケティング支援を行う、株式会社HONEの代表でもある桜井さん。

その一方で、Astlocalでは「ローカルを観光で強くする」を掲げ、民泊の運営から地域の観光戦略まで、静岡を中心に地元に根ざした取り組みを展開してきました。Astlocalではなぜ、静岡の観光に着目したのでしょうか。

地方は、観光という戦略を捨てて生き残ることはできないなと思ったんです」

桜井さんはそう切り出します。

「人口減少や流出は静岡に限った話ではありません。人口が減れば内需も減りますよね。もちろん日本人観光客の存在も大切です。でも、国内でニーズを奪い合うよりも、外国人観光客——つまり外貨の獲得が、これからはもっと必要になってくると思うんです」

静岡市のインバウンドの人数は正式に公表されていないものの、その多くは静岡県中部ではなく、熱海や伊豆など東部エリアを訪れているのではないかと桜井さんは話します。

「1回その土地に来なければ、住みたいという気持ちにはならない。その最初の入り口が観光になるんじゃないかな。歴史や文化など、まちの良さを知ってもらうきっかけになる。観光が全ての入り口になると思います

静岡市を、外国人旅行客の旅の目的地や、日本人の移住先候補にできたら。そんな思いから、桜井さんは静岡の観光に取り組み始めました。

はじまりの民泊「ミクソロジーハウスふじや」

静岡市の観光に力を入れるにあたり、まずは観光の拠点となる宿泊施設の拡大に取り掛かりました。

世界規模の民泊施設検索サイトに静岡市の民泊先がまだ数件しか載っていない現状を、外国人観光客を呼びこむチャンスと捉え、地道な物件探しからスタート自分たちの足で稼ぐことにとことんこだわり、様々な条件をクリアしてようやく見つけたのが、港町の用宗にある築90年の古民家でした。

そこをリノベーションし、2025年3月に「ミクソロジーハウスふじや」として生まれ変わらせたのです。

「フルリノベーションというよりは、できるだけそのままの雰囲気を残しながら、安心感がある宿を作ろうと意識しました」

「ミクソロジーハウスふじや」の外観。宿の中で今回の取材も行った。

実際に筆者が宿泊させていただきましたが、例えるなら“清潔感のあるおばあちゃん家”。古民家だからといって内装が古いわけではなく、桜井さんの心配りが隅々まで伝わる、思わず長居したくなるような心地よさがありました。

古民家ならではの開放的な空間は自然な会話が生まれ、宿に滞在する人たちとの心の距離も近づけてくれるようでした。

初めて来たのに懐かしいー。そんな温かな思いがじわ〜っと胸に広がっていく場所です。

玄関をくぐると、古民家ならではの大広間がお出迎え。子どもの頃に戻ったようなワクワクと、のんびりできそうな落ち着いた雰囲気が、宿泊することへの期待感を高める。
地域の中学生が職場体験で訪れたときに作成したという「ミクソロジーハウスふじや」周辺マップ。地域との関わりを大切にする姿勢も、この民泊の居心地の良さに繋がっている。

Astlocalは、観光から地方を元気にするべく、物件選定に向けたアドバイスから市場調査、宿のコンセプト策定、リフォーム業者の選定、民泊の運営&集客、観光ガイドの育成、観光地の編集/PRなど、観光にまつわることをオールインワンで担います。

また当事者目線を忘れないために、ときには観光客の方に直接調査を行うことも。川上から川下まで伴走する姿勢や、戦略を練るだけでなく実際に動いてみる行動力は、Astlocalならではの強み。桜井さんにお話を伺った際も、そのバイタリティとパワフルさがひしひしと伝わってきました。

静岡市を「ホビー×天守閣」のまちへ

最後に、Astlocalが今後静岡市で取り組む事業の展望を伺いました。

「静岡の良さは、僕はやっぱりガンダムやプラモデルだと思います。あまり知られていませんが、全国の85%のプラモデルは静岡から出荷されているんですよ。

また、ガンプラ(ガンダムのプラモデル)を製造するBANDAI SPIRITSの工場も静岡市にあるんです。だからホビーという文脈は外せない。それと、年間50地域ほど訪れているぼくの仮説ですが、天守閣があるまちは栄えているんです。城跡ではなく、天守閣がないとダメなんですよ」

仮説と言いつつ、様々な地域を自分の足で訪れてきた実体験があるだけに、確信のこもった瞳で訴えてくださる桜井さん。別の地域では既に「キャッスルステイ」といって、復元された天守閣を貸し切りで宿泊でき、かつてそこで生活していたお殿様気分を味わえるプランもあるのだとか。

「ぼくはそれを駿府城でやりたくて」

なんと…!静岡では家康体験ができるというわけですね!静岡出身の筆者も思わずワクワク感で身を乗り出してしまいました。実現したら、他県の友人にも自信を持っておすすめできる観光スポットになりそうです。

民泊など、観光のために自分たちでできることを着実に実現させて、そこからインバウンドの観光誘致や行政連携など各方面に発展させていきたいです。経済的にも社会的にも、観光に良い影響を生み出せる存在として、Astlocalの取り組みを行政にもきちんと伝えていきたいと思っています」

関東と関西を繋ぐ位置にある静岡県静岡市。観光資源が十分に活かされておらず、現状は“通過点”になりやすい地域でもあります。

しかし、全国の地方課題を肌で感じ、解決してきた桜井さんだからこそ“観光”には地方を変える大きな可能性が秘められているといいます。

地方都市である静岡市の本当の魅力を発信するきっかけとして、静岡の代名詞となる観光資源の開発に、桜井さんは意欲を燃やします。もう、通過するだけでは物足りない!

これからは静岡市がますます旅の目的地となりそうです。

本記事はインタビューライター養成講座受講生が執筆いたしました。

Editor's Note

編集後記

静岡出身でありながら、静岡のことを何も知らなかった...と目から鱗な1時間でした。今は静岡を離れていますが、長期休みごとに必ず帰っている大好きなまち静岡。その心落ち着く帰省先を守ってくれている大人に出会えたことが、今回のインタビューでの最大のご褒美です。
今まではあまり考えていなかったですが、私も将来的に地元へ貢献できるかな...と考えるようになったのも大きな変化となりました。


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