ミドル人材
人生100年時代、これからの自分のキャリアについて考えた時に、地方移住という選択も視野に入れている。
そんなミドル人材のアナタに向けてお送りするのが、ミドル人材のライフシフト戦略 『時代はLocal to Localへ〜地域(大山町)×地域(新庄村)をツナゲル』をテーマに行われたトークセッション。実際に移住を経験し、地方で活躍するミドル人材の3名が、リアルな声をお届けします。
最初にお届けする前編では、地方での生き方や仕事づくり、働き方などについて赤裸々に語っていただきました。
安川氏(以下、敬称略):本日のテーマはミドル人材のライフシフト戦略です。まずライフシフトとは、これまでは教育を受けて、働いて、引退といった3ステップの人生を送る人が大半だった時代から、長寿化により人生の節々で多様な選択を可能にする「マルチステージ人生」へ生き方を変えることなんですね。
安川:そういう中で「移住」は、大きく人生のステージを変える一つの転機だと思いますが、まずは貝本さんの考えをお話しいただければと思います。
貝本氏(以下、敬称略):まず都会でも能力を上げていける人はいると思いますが、置かれている環境から考えて、僕自身にはそこまでの能力はないと思っていたんです。そんな中で、「自分にしかできないことって何だろう」「自分が生まれた価値って何だろう」と考えた時に、僕は地方移住を決断しました。この選択は人生にとってすごく大きかったと思います。
貝本:移住後8年経って思うのは、こちらに来てからものすごい速度で自分自身が成長したということ。都会で培ったスキルが役立つ場面ももちろんありましたが、それよりも地方の環境が成長させてくれたのだと思います。地方はお金も人も選択肢も少ない中なので、0から1を作り上げていく力が養われたと感じています。
安川:旅と同じで突然予期せぬ事も起きるし、持ち札も少ない。そこで本来の人間が持つ野生的な力が発揮されて成長していくのではないかと思いました。千葉さんはどうお考えですか?
千葉氏(以下、敬称略):地方では「制限の中で生み出す」ことが多いのかなと思っていて。やはりお金や人の面など色々なことに制限があるからこそ、自分の力で解決しようとするのではないかと。
千葉:そして、成長したら解決できる流れも見えやすい。何より主体的に動けるのが良いところだと思います。地方は「自分で何かをやりたい」「何かを動かしたい」人には向いている場所ですね。
安川:アントレプレナーシップ(起業家精神)のある人が活躍していますよね。
貝本:アントレプレナーシップのある人に加えて、より多くの人から求められたいという人にも向いていると思います。東京にいた時に僕が担当していた仕事を、僕がいなくなったら別の人がやっている。効率も特に変わっていない。つまり「役割としては求められているけど、自分じゃなくても良いのかな」という経験をしてきました。
でも地方に来ると「僕がいないと回らない」ということが沢山あって。より「個」が大切にされているように思います。
安川:代替不可能な存在になれるということですよね。あとはマルチプレーが得意な人にも向いていると思います。千葉さんもまさに今マルチなことをやっていますよね。
千葉:スーパーマルチですね。今朝は空き家にまつわる仕事や自社の仕事、それから行政の仕事もやっていました。
安川:結論として、地方で働くことで生きる力もつくし、多様な仕事も覚えられる。それから自己表現したい人に地方は向いているのかなと思います。
貝本:僕は地方で活躍する人が増えたら良いなと思っているのですが、これには理由があって。ドラゴンクエストに出てくるダーマ神殿ってご存知ですか?戦士だった人がそこへ行くと、魔法使いに転職できるんです。転職後は一時期弱くなるのですが、ある程度までいくと戦士と魔法使いが合体した魔法が使えるようになるんです。
僕はそのダーマ神殿が地方だなと思っていて。東京でそのまま働いていたら戦士としてはレベル99までいけたかもしれないですが、魔法使いに転職しないと使えない魔法は絶対身に付けられないと思うんです。
つまり、一つの場所で経験値を上げることで行ける世界と、別の場所に行って別のスキルを身に付けて行ける世界は全然違うんです。
安川:今日のテーマでもあるミドル人材の視点からですが、ただ単に一つのキャリアが長ければ良いわけではないですよね。移住や転職を機に、違う自分になれるじゃないですか。
貝本:本当にそうですよ。僕みたいにテレビを作れる人間ってごまんといるんです。ですが、テレビが作れて、地域づくりにも詳しい人間はあまりいないんですよ。
安川:テレビ×地域づくりでイノベーションが起こせそうですよね。千葉さんはこの件に関してどう思われますか?
千葉:僕自身は何かに特化したスキルは何も持っていないんです。ですが、結局は組み合わせの勝負かなと思います。何か一つのスキルで日本一ではなく、このスキルとこのスキルを組み合わせたら、唯一無二の存在になれるなとか。
貝本:組み合わせて強くなる考え方にとても共感できます。僕はテレビの仕事とは全く関係ないですが、空き家を借りて子どもの遊び場を作りました。結果的にそれによって地域の人から信頼が得られ、テレビの仕事にもつながっていきます。
安川:ミドル人材の移住の動機はさまざまあると思いますが、なかなか地方に来られないという方も結構多いと思うんですよ。やはり一番の足がかりとなっているのは、仕事じゃないでしょうか。
貝本:そうですね。新しいことをやろうとする場合、大変なこともありますよね。ビジネスは先行事例を一つのエビデンスとして交渉していくのが普通だと思うのですが、まず田舎にはないですからね。
安川:そういったこともあって、なかなか移住って難しいと気づいている人も多くて。移住はせずに、関係人口として関わっている人もいますよね。
千葉さんにお聞きしたいのですが、千葉さんと同じようなミドル人材が移住して来るのはなかなか難しいのではないかと思うのですが、その辺りいかがでしょうか?
千葉:そうですね。地方での働き方に関して思うのは、まだまだ表に出ていないけれど、実は仕事になり得るものが沢山あると思っていて。それは人と関わったり話をしたりする中で見つけることが多いんです。「実はこういうスキルがあるんだよね、こういうこともやってきたんだよね」みたいなことが、話の中から発見される。
安川:貝本さんはどう思われますか?
貝本:実際、地方には足りてないものが多いんです。僕の会社だけを見てもそうですし、地域全体で見ても無いものはめちゃくちゃあるので。だから、逆に地方で何もできない人はいないと思うんです。
例えばうちの町で言えば、町民の皆さんがさまざまな想いを持っているのですが、資料を作るのが苦手なんです。口頭文化というのか、書面を作ることがあまりなくて。それに対して、都会は書面を作ることが多いですよね。都会で身に付けたパワーポイントで資料を作れるというスキルがとても役に立つんです。
それを1件いくらという形で仕事にして月に数件こなせば、下手したら都会よりも稼げる可能性があると思います。もちろん、他の仕事とも組み合わせて。
千葉:貝本さんがおっしゃったように、実は自分の持っているスキルとか、自分自身を振り返ってみて「これってこのフィールドに落とし込めるよね」みたいな、擦り合わせの作業が必要ですよね。
都市部での企業勤めなど、ある一定の期間頑張って来られた人たちは、何かしら活かせるスキル、もっと言うとパソコンが使えるだけでもスキルとしてはかなり役立ってくるのではないかと思います。
貝本:既存スキルを持って地域に入り込みながら、色々なことを身につけていく中で、更に多様な働き方ができるかもしれませんね。もっと地域のことを知ることで「こうしたらどうですか」という提案もできる。コンサル業のようなこともできますよね。
安川:ポートフォリオワーカー的な働き方ですよね。例えば、デザイナーをやりながら農業もやって、更に週1回オフィスワーカーとして働く。こういう多様な複業を持つ生き方が、まさに百姓なのではないかと思います。
貝本さんも今、会社に属しながらポートフォリオワーカーになっていて、多様な仕事ができていますよね。貝本さんのような働き方を実現するにはどうしたら良いと思われますか?
貝本:見知らぬ土地に行って「仕事ください」と言ってもそれは難しいと思うのですが、地域の中に千葉さんのような、その人の特性に合わせて「あなたはこういう仕事ができますよ」と提案してくれる人がいたら良いなと思います。
そういうクリエイティブな提案ができる人が地域にいて、仕事をプロデュースしてくれたら絶対上手くいきますよね。
逆に「とにかくこれをやりたい」という想いを持ってやって来て、地域に対する順応性がない人は上手くいかない気がします。
安川:想いが強すぎて上手くいかないケースもありますよね。千葉さんはどう思われますか?
千葉:やりたいことがあるのは良いと思いますが、フィールドを考えず想いだけ先走ると絶対にミスマッチが起こります。何か事業を起こす前に、しっかりと助走の段階を踏むことが重要なのではないかと思います。
実体験をもとに地方での生き方や仕事づくり、働き方などについて語られた前編。
後編ではより「地域と地域をツナゲル」に踏み込んだ内容をお届けします。「地方転職や起業後の次は? 地方で暮らすミドル人材が話す今後の豊かさ」もお楽しみに!
Editor's Note
地方で暮らすことのメリットや注意点など、さまざまなことについて語っていただいた前編。私も消滅可能性都市で日々暮らす中で共感する場面がとても多く、中でも「○○さんがいないと地域が回らない」といったことが実際に身の回りでも多々起きているので、より求められたい人には地方が向いているのかなと、お話を聞きながら改めて思いました。
それぞれ地方で活躍されている登壇者の方々から、リアルな声をお届けした今回のイベント。移住について悩んでいる方の後押しとなりそうな内容も多かったように思います。本記事が、ミドル人材で移住を検討している方たちの手引書になることを願っています。
KANA KITASHIMA
北嶋 夏奈