SUMMIT by WHERE
ここ数年で急速に拡大しつつあるシェアリングエコノミービジネス。
「シェア経済」が進む中で、今後は地域資源もよりシェアされていく時代になるだろう。では、実際にシェアリングエコノミーの考え方を地域に取り入れ、地域経済を動かしていくためには、どのようなことがポイントになるのだろうか——。
そんな疑問をもつアナタのために開催した、地域経済を共に動かす起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」。第1回目は、完全オンラインにて、日本各地30箇所以上の地域から、第一線で活躍する方々が集まりました。
中でも本記事では、「地域経済を動かす、シェアリング・エコノミーの育て方」について、佐別当 隆志氏(株式会社アドレス 代表取締役)、小池 克典氏(LivingAnywhere Commons 事業責任者)、大瀬良 亮氏(株式会社KabuK Style Co-founder)、高橋 邦男氏(こゆ地域づくり推進機構 執行理事)、澤田 哲也氏(ミテモ株式会社 代表取締役 / 株式会社インソース 取締役)の豪華5名のトークをお届け。
自らが地域を飛び回り、数多くの地域をみてきた彼らが、ビジネスを生み出し育む上で大切にしている着眼点や、今後の目標を語りました。
澤田氏(モデレーター:以下、敬称略):前半で佐別当さんから、地方と都市を繋げるための「翻訳家」の存在が大事という話がありましたが、「翻訳家」になり得る人はどんな人なのでしょうか?
小池氏(以下、敬称略):僕らも翻訳家の存在がすごく重要だと感じています。まず僕らが拠点をつくる際に考える場所の魅力を因数分解すると「ロケーション × 建物のハード × コミュニティ」になると思っているんです。
その中で僕らが扱う物件は、不動産的価値がなくなってしまった場所にあるものなので、基本的にロケーション的魅力はないものが多い。これって反対をいうと、コミュニティさえあれば、人が来る要因になるとも思っていて、拠点をつくる絶対条件の一つに「コミュニティが存在しているか」があります。
小池:さらにいうと、コミュニティの中でも、ソフト面を運用できる人(翻訳家)がいるかどうかは重要視していて。静岡県下田市に僕らの拠点の一つがあるんですが、そこはコミュニティマネージャー(翻訳家)を中心に、かなり盛り上がりを見せているんです。
下田市のコミュニティマネージャー(翻訳家)がどんな人かというと、都心のコワーキングでコミュニティマネージャーをやっていたとかそいう訳では全然なくて、下田生まれ、下田育ちの47歳のあんちゃんです。コミュニティマネージャー(翻訳家)の役割がわからなくても、地元がめちゃくちゃ好きで、下田に来てくれる人も大好き、自分の友達同士が繋がることが嬉しいと感じる方なんです。こういう「強烈な地元愛があること」と「寛容さがあること」が重要な要素だと思っていて。地元愛が強くても、他人を受け入れる寛容さがないと、衝突が生まれてしまうケースもあると思っているので、このふたつは特に大切にしています。
大瀬良氏(以下、敬称略):僕らは「風と土」という言葉を大事にしていて、ある脳学者の方が「風と土は混ざっていい風土になる」とおっしゃられていたんですが、僕自身が地域に関わりながら感じているのは、「風と土」は、時に「水と油」になるということです。実際に「水と油」になっている場面も目の当たりにしながら、「風と土」がうまく融合して、いい風土をつくるためには、時間と事件がポイントだと思っていて。観光業界も大きな打撃を受ける中で、HafHに対する流れが大きく変わっていったと感じています。
大瀬良:そしてこの「風と土」をうまくコーディネートする翻訳家が、やっぱり地域にはいるんですよ。ここで僕らが勘違いしてはいけないのは、風はあくまで風であり続けるし、土は土、翻訳家は翻訳家なんです。土(地元)の立場で重要なのは、土として凝り固まらないこと。地元をよく知っている土の人と、外から新しい流れを呼び起こす風の人、その両者を繋ぐ翻訳家という多様な価値観があってはじめてコミュニティは成り立つので、それぞれの役割を理解して、適切な距離をとっていかないとサスティナブルにはならないことが薄々見えてきていると思います。
澤田:皆さんのようなプラットフォーマーを呼び込むために、皆さんが何を基準に地域を見ているのかは気になる部分じゃないかなと思っています。小池さんからは「地元愛」と「寛容さ」が出ましたが、皆さんはどんな基準や観点で地域を見ているのでしょうか?
佐別当氏(以下、敬称略):アクセスとか金額ももちろんありますが、ADDressの世界観に共感してもらっているか否かは非常に大きい基準だと思っています。僕らのサービスは、家守(ADDressが持つ拠点の管理者)になっても、この仕事だけで暮らしていけるほど稼げるわけではなくて、地域に人が訪れた際に、受け入れ側がボランティアや赤字でやるのではなく、多少のお金が入ってくる仕組みであることを理解していただける方と一緒にやっています。
僕らは物件をつくっておしまいではなく、そこから先の+αの関係性を作り出したいと思っていて、この部分を家守が理解してくださっているからこそ、実際に利用者の方が地域の方から畑を借りて一緒にシェア農場を始めた場所もあれば、利用者と地域の方が一緒に合同会社をつくった場所や、暮らした地域でデュアルスクールに通う利用者が生まれています。
佐別当 隆志(Takashi Sabetto)氏 株式会社アドレス 代表取締役 / 2000年株式会社ガイアックスに入社。広報・事業開発を経て、2016年シェアリングエコノミー協会設立。内閣官房、総務省、経産省のシェアリングエコノミーに関する委員を務める。18年、定額で全国住み放題の多拠点コリビングサービス事業 株式会社アドレス代表取締役社長。19年シェアリングエコノミー協会常任理事。
高橋氏(以下、敬称略):新富町にもADDressの拠点があるのですが、利用者さんたちから「一緒に仕事をしたい」と言っていただくことがあります。地域で副業ができると生き方も変わってくるので、ビジョンや世界観、それらの先に何を目指しているのかを共有することは、わたし達からも力を入れてやりたいなって思います。
大瀬良:僕らは人口や年間の観光客数は一切見ていません。それよりも重要なのは「コミュニティの面白さ」で、例えば和歌山県白浜町にワーケーションで行った時に、田辺市にもお邪魔させてもらったんですが、ここで出会った “田上さん” というお米屋さんがめちゃくちゃかっこいい、ジャイアンで面白いんですよ(笑)
この田上さんは、熊野米というJALのファーストクラスでも提供されているようなお米をつくっている人なんですが、ツーブロックのジャケパンでめちゃくちゃかっこよくて。地元の若い女の子からもかっこいいと尊敬されているし、70,80代の大先輩たちも信頼していると言うんです。両者の信頼のど真ん中にいるジャイアンが、オープンネスやイノベーティブに向かっていくと、この街は絶対に面白くなっていくと思っていて、拠点はまだないんですがこういう場所にHafHがあれば、たくさんの人たちに楽しんでもらえるなと想像が膨らみますね。
高橋:皆さんが展開されているサービスって、今どんどん全国に広がっていっているじゃないですか。僕ら地域側からすると、選択肢が本当に増えたなと思っています。少し前までは、例えば地域おこし協力隊でもミスマッチがたくさんあったと思っていて、このミスマッチが負の歴史としてネット上にいっぱい残ってるじゃないですか。
例えミスマッチが起こったとしても、ミスマッチだとわかったタイミングで、別の拠点にいくきっかけがあれば、もっと違う結末があったんじゃないかなと思っていて。僕自身、新富町にいて感じるのは、僕らが活動するはるか前から、地元愛と寛容さを兼ね備えている地元の方っていらっしゃるんですよ。ただ、それを披露する場がなかっただけだし、どの地域が優れているかではなく、地域それぞれにやっぱり特色やカルチャー、歴史が紡がれているので、皆さんが展開されているプラットフォームは、「選択肢」として各々が選び取りながら拡充している感覚があるので、ミスマッチが起きにくくなるんじゃないかと思っています。
僕らは、新富町を新しいチャレンジができる場所になったらいいと思っていますが、新富町が答えじゃなくてもいい。そんな風に感じますね。
大瀬良:実際に利用者さんからも「自分で選択できることがいい」という方がいるので、高橋さんのおっしゃる通りだと思いますね。
高橋:場所や仕事内容は、シェアできるのが当たり前になってきている状況で、地域側からすると「あの地域で活躍している、あの人の、この部分のスキルを、うちにもシェアしてほしい」と、人材のシェアリングも進んでいくんじゃないかなって思っていて、今日のテーマである「地域経済を動かす、シェアリングエコノミーの育て方」で考えると、僕らが今必要だと感じているのは、人材のシェアリングだったりします。スキルシェアというよりは、その人そのものというか、パーソナリティを含めた、その人の力をシェアしたいですね。
小池:人材のシェアリングは、LivingAnywhere Commonsでも起きていると感じています。例えばLivingAnywhere Commonsを通じて、とあるコミュニティのファンになったけど、物理的にその場所にずっといるわけではない利用者が、地域からは離れても「地域で仲良くなったあの人がやりたいプロジェクトに貢献したい」と、オンライン上でコミュニケーションを取りながら、関わり合い続けているんです。関係性がボーダレスになってきていることをすごく実感していて、ファンをつくる、フォローをする、人材のシェアリングが起こる、そんな感じになっていくのかなと思っています。
佐別当:週5日間正社員として働く人は減っていくと思っていて、ADDressの会員さんを見ていると「この人本当に仕事しているんだろうか?」って人が多いんですよね(笑)わざわざ地方に行って、テレワークだからって、8時間をフルに働いている人ってどのくらいいるのかって言ったら、中には移動中にしか仕事しませんみたいな人もいるんです。
地方に行ったら、地元の人と楽しむことを大事にしている人たちもいて、なんだったら、デザインや動画が撮れたりするから、ADDressで点々としながら動画を撮って、地元の人たちにプロモーションビデオを無料でつくってあげるみたいなことをされている人もいて。それを知った地元の方が、別の動画制作を発注して、好きなことをやりながら、最低限食べれるだけのお金を稼げば十分という生き方をする人は、若い人たちを含めて増えていくんじゃないかなって思いますね。
小池:僕らの話を聞いている方の中には、じゃあやってみようって行動される方も多いと思うんですが、そんな皆さんに是非お伝えしたいなって思うのは、せっかく地方に行ったのに、東京でできる仕事をフルに入れて、ただただリモートワークをしまったら勿体ないということです。例えば、15時で切り上げるとか、この日は半日フルで空けるとかして、その場でしかできないことをやった方が絶対にいいです。隣の人と喋るでもいいし、散歩するでもいい。結構ありがちなのが、リモートワークといって仕事をフルでいれて、目の前に海や自然があって豊かだから、ワーケーション最高っていう方。それって勿体無くないですか?(笑)
高橋:それでいうと、受け入れる地域側も間違っているなあと思うことがあって。例えば、Wi-Fi環境が良くて、休息できる場所や食事の場所が整っている、とか。従来型の考え方でいうと、都市の人を都市の人としてしか受け入れられてないようなところがあるんじゃないかなと思っていて、僕ら自身もまだそういう要素があると思うんですが、前半で「共創」というキーワードが出ましたが、お互いの価値観を重ねられるようなことができたらいいよなと思いますね。
小池:結構ありがちなのが、都心のコワーキングスペースを地域につくろうとするパターンですよね。(笑)
高橋:それはあるあるですね。(笑)
大瀬良:ありますよね。場所づくりから入ることは、絶対やめた方がいいって思いますね。(笑)
小池:むしろオープンにして、リアル縁側に机いっこ置いておいた方がよっぽど交流生まれると思いますね。
高橋:都市的なものをモデルとして考えがち部分はあると、改めて思いますね。
大瀬良:実際に地域に行って働いてみたいという方がいたら、できれば3泊以上は同じところにいることをオススメします。1泊や2泊だとどうしてもバタバタするし、楽しまなくちゃ、でも仕事もしなくちゃって、かえって疲れてしまうので。3泊超えてくると、ちょっと洗濯したいなとか、自炊したいなとか、観光ではみえない暮らしの部分が見えてくるので、まさに交流と観光と仕事をバランスよくやるなら最低3泊、できたら1週間以上いた方がいいし、企業の方もそういった制度を整えてもらえるといいなと思いますね。
小池:実際LIFULLで、社員はLivingAnywhere Commonsの拠点を勤務地として認めるとしたら、めちゃくちゃ利用率が上がりました。まさに4泊5日とかで使う人が多くて。企業がゼロから制度をつくるって難しいので、まずはやってみてダメなら変えようという形でやったんですが、勤務地化したのは、社会的にも大きなインパクトがありましたね。
澤田:あっという間に終了時間の5分前になりました。(笑)最後にこれから皆さんのプラットフォームが、「時代の価値が変わる中で、どういう役割を担っていこうとされてらっしゃるのか」という観点も含めて、皆さんから一言ずついただければと思います。
佐別当:たぶん僕らが取組んでいるのって、20世紀のいわゆる大量生産大量消費・中央集権型の管理社会ではなくて、地域分散型の社会や共創型の組織を目指しているのではないかと思っていて、これって答えがないんですよね。答えがない中で、関わりたいっていう人たち、都心の人もそうだし、地方の人たちもそうだし、自治体もそうだし、大企業もそうだし、そういう人たちと「共創」していくことが大切なわけであって、その新しいモデルを、牽引していくくらいのことをする必要があると強く感じています。
せっかくプレーヤーが増えているからこそ、HafHさんやLivingAnywhere Commonsさんをはじめ、移動面も見据えてANA・JALさんやJRさんらも巻き込んで、新しい実証実験をやっていく必要があると思っています。大手企業が働く人たちの場所と時間を管理しながら、ワーケーションやリモートワークを促進するなんてハッキリ言って有り得ないわけですよ(笑)
それに対してADDressは(多分HafHさんも)、会社員の入会比率が急増している状況です。組織が追いつけない体制に対して、個人は動き始めているわけです。もはや時間も場所も管理しない方が、生産性や幸福度が上がることに組織側が気づくのは時間の問題です。
コロナをきっかけに、サービスにも注目していただいている状況かなと思っているだけに、今だからこそみんなで変えていくというリーダーシップを一緒につくっていきたいので、そこに各企業、各利用者さん、各オーナーさんが、一緒に参画して欲しいなと思ってます。
小池:ぜひ僕らも乗っかりたいなと思ったので、お繋ぎいただけたら嬉しいです。役割っていう部分でお答えすると、基本的には、市場を一緒につくっていくフェーズだと思うので、我々の視座もあげて連携をとっていきたいと思っています。
僕自身は、シェアハウスができた流れと似てるかなと思っていて、当時シェアハウスの文化が入ってきた当初は、懐疑的にいろんな意見が飛び交いましたが、今は私たちの生活に根付いていますよね。あくまでもひとつの生活様式として、場に捉われない暮らし方も徐々に認知されていく、そういう転換期だと思ってます。だからこそ、僕は場に捉われない暮らし方に対して、市民権を得やすい仕組みをつくっていきたいんです。
その時に、特にLivingAnywhere Commonsが重要になる役割は企業側だと思っていて、企業がこの新しい形態にどう参入していくかという部分をしっかりサポートしていきたいなと思ってます。
大瀬良:僕らは一人一人の「本当はこんな風に生きたいけど生きれていない」という3つの不自由さ(住まい、職場、移動)を、プラットフォーム(HafH)を通じて、ちょっと背中を押すことで、やりやすくすることが役割だと思って、サービスの向上を進めています。
コロナをきっかけに、改めて現代は、未来の正解が誰にもわからない時代だと感じています。正解を決めるのは、政府や会社ではなく、自分自身。HafHをはじめとするいろんなプラットフォームが、自分にとっての幸せな生き方は何かをしっかりと問いただすきっかけになれば嬉しいなと思っています。今日はありがとうございました。
高橋:僕、ワークライフバランスという言葉に違和感があるんです。workもlifeも、live(生きる)という言葉に集約されると僕は思っていて、バランスをとるも何も、最初から1つだと思うんです。僕らは、面白く生きていくことを追求できるような価値観を広げていきたいなと思っていて、そのキーワードが今日何度か述べさせていただいた「共創」。新しい価値観をつくることこそが、面白く生きれる方法だと思っています。
今日色々お話しさせていただいた通り、プラットフォームが充実して、選択肢が増えてきた中で、もう迷うことないと思うんです。何かを試してみて、もし1つダメでもまた別の場所で新しい出会いがあると思いますし、新しい場所に飛び込んでいく方法も生まれてきているので、それらをフル活用して、liveを追求していく人たちが、一人でも増えるといいなと思います。ありがとうございました。
NANA TAKAYAMA
高山 奈々