SUMMIT by WHERE
越境教育————。
聞き慣れない言葉かもしれませんが、実は地域のあらゆるところで、始まっています。越境とは、今までの教育のあり方から離れ、越えていくこと。越えることでもたらされる価値とは?コロナとどう向き合っていくのか?
では、越えることでもたらされる価値とは何か?コロナ禍でどのように向き合っていくべきなのだろうか?
そんな疑問を持つアナタのために開催した、地域経済を共に動かす起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」。第1回目は、完全オンラインにて、日本各地30箇所以上の地域から、第一線で活躍する方々が集まりました。
中でも本記事では、「越境教育の夜明け、あらゆる制限からの開放とは?」について、岩本悠氏(一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム 代表理事)、内藤賢司氏(ゼロ高等学院 学院長)、林靖人氏(信州大学 総合人間科学系 教授)、三井俊介氏(NPO法人SET 理事長・NPO法人高田暮舎 理事)の豪華4名のトークをお届け。
前編では、地域に入り込み、実践を積んできた登壇者の話から見えてきた「越境教育を進める上で重要な軸」が語られました。
三井氏(モデレーター:以下、敬称略):今回、モデレーターを務めます三井と申します。最初に登壇者の3名から簡単に自己紹介をお願いします。
内藤氏(以下、敬称略): ゼロ高等学院(以下、ゼロ高)代表の内藤と申します。ゼロ高とは、通信制高校のサポート校という枠組みで、高校卒業資格を取りつつ、 オンライン上で色んな活動ができるという学校を運営しています。
基本的に全国にいる生徒とは、FacebookやSlack、Zoomなどを使ってコミュニケーションしているので、「越境」というテーマでは、色々話せるのかと思います。
林氏(以下、敬称略):信州大学に勤めております、林と申します。教育の環境を変えようと思ったら色んな外からの力で、大学が変わっていくこともあると思いますが、一方で「大学の中からこじ開けていかなければならない」とも思っておりまして、中から扉を開けていくためにはどうしたらいいのかと、新しい教育を積極的に取り組んでいます。
岩本氏(以下、敬称略):今から15年ほど前から、島根県の隠岐諸島で、島留学を開始して、学校の中だけなく、島全体をフィールドにしたプロジェクトなどの取組みを実施しています。
5年ほど前からは、島根県の全体に活動を広げていこうとしていて、3年ほど前から「一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム」を立ち上げて、全国の色んな高校や自治体さんと一緒に「地域みらい留学」という越境的な学びをつくっています。
三井:皆様ありがとうございます。私も簡単に自己紹介させていただくと、SETという団体の代表をしております。SETは、東日本大震災で被災した岩手県の陸前高田市でまちづくりをしていて、主に中高生の修学旅行の誘致などをしています。まちの人との交流中で新しい教育の形を生み出しているということで、今回モデレーターをさせていただいております。
三井:早速皆さんに質問なのですが、「越境教育の夜明け、あらゆる制限からの開放」というテーマから連想・発想したことはありますか?
内藤:僕としては、岩本さんのされていることが、個人的には面白いと思っていて。今までの学校教育は、学校の中で完結することが多かった中で、「島」というフィールドに出て学んでいくことは、非常に意味があると思っています。とはいえ、実施していく上では、大変なことも多々あると思うのですが、いかがでしょうか?
岩本:「もっと学校を外に開き、社会と繋がっていくことで、未来を作る資質を育んでいくこと」これをしたくて、活動をはじめました。ただ、先生たちから理解を得るのが難しかったですね。
他府県からきた生徒に予算を使うことにも、最初は理解をしてもらえませんでしたし、そもそも他府県の生徒がわざわざ「こんなとこにくるなんて」という意識があったので、先生たちのマインドセットが一番大変でした。
岩本:先生たちが変わるきっかけはやっぱり、“生徒たちの変化”です。他府県から来た子たちが、地元の子どもたちと一緒に学校の外に出て地域で活動をする中で、「子どもたちがこうに変わってる!」と、教室の中で見れなかったような変化が見えたことで、先生たちの意識が変わっていきました。
さらには、出身地に関わらず、今まで難関大学に挑戦することを考えていなかった子どもたちが、自らチャレンジを選んだり、進学するようになったりという変化も出てきたことで、「教育方針は間違ってないのかもしれない」と、さらに先生たちに自信を持ってもらえるようになりましたね。
内藤:なるほど。私も普段から高校生を相手にしているので、高校教育を変えていく林さんの場合は、大学教育を変えていくって、高校教育以上に難しそうなイメージがります。その辺り、どうなんでしょうか?
林:まず、高校教育と大学教育の大きな違いでいうと、大学には教育委員会がないことだと思っていて、カウンターパート(対応相手)が曖昧なんです。
今回のテーマである「越境」で考えると、一番の焦点になるのは、ステレオタイプをどう越えていくか? だと思っています。固定観念をつくることは、心理学上でも必要なことなので、決して悪いものではないのですが、凝り固まりすぎてしまうと、柔軟に対応ができなくなるので、随時、固定概念を壊していく必要があるはずなんです。この固定概念の壊し方を私自身日々悩んでいるので、今日は皆さんがどのように壊していったかを学びたいと思っています。
内藤さんの質問にお答えすると、大学を変えるきっかけも、社会からの要請(評価)が大きいと感じています。岩本さんのお話にもあったように、「学生たちが変わった」などの評価があれば、学校教育の中にいる人たちも気付きやすいですからね。普段は、やはり固定概念が邪魔をしてしまい、中々気づきにくいんです。
岩本:林さんに「社会からの要請(評価)」をもう少しお聞きしたいです。例えば、高校教育だと、大学進学や就職先といった評価軸を先生も保護者も1番気にするんですが、大学の場合の評価は、どこを見られるのでしょうか?
林さん:客観的な評価もありますが、個人的な評価(学生自身が変化を実感すること)を大切にしています。学生自身が「自分が変われた」「成長できた」と実感するタイミングをつくって、私もその変化を学生に伝えることを意識しています。
三井:先ほど岩本さんの話にあった「地域の外から人が来て、文化交流が行われること」が、「ステレオタイプを超える」上で重要になるかと思いました。
そんな中、新型コロナウイルスの影響を受けて、原体験をリアルで実施するのが難しくなった状況もあるかと思います。この辺り、オンラインをフル活用されているゼロ高の内藤さんは、どう思われますか?
内藤:これはオンライン・オフライン関係ないかもしれないんですが、ゼロ高では「この空間が安心安全であるかどうか」を一番大事にしています。
日常を過ごしているだけでも、肌感覚とか、言語化できない空気感ってあるじゃないですか。10代の子どもたちはその空気感をより敏感に意識していると思っていて。だからこそ、例えば、部屋の色を明るくするとか、軽く音楽をかけるとか、細かい工夫をして「この場所は失敗していいだ」と思える設計をしています。
生徒個人がいかに「ここだったら自分をさらけ出しても大丈夫だな」と感じてもらえるかが、まずは大事だと思っているので、最先端や効果的かどうかは二の次だと考えています。
三井:なるほど。ある意味ステレオタイプを壊す・超えていくためには、まず安心安全な場があって、かつ、その中で自己表現できることが重要だということですね。岩本さんどうでしょうか?
岩本:「なるほど!おもしろい!」と思いながら聞いていました。(笑)心理的な安全や安心を生み出していくことは、チャレンンジする上ですごく重要だと思っていて、「越境」は、今ある物事を超えていくある種のチャレンジなので、リスクを伴うわけです。そのチャレンジをしていく背景に、なんらかの形で「安心安全が担保されている」ことは、非常に重要なポイントだと思いますね。
岩本:私がオンラインの可能性を感じている部分でお話しすると、学校教育における知識や情報といった頭を使う部分に関しては、オンラインで情報を入れていく、情報を処理する、言語表現することは、割とやりやすい分野だと感じています。
ただ、身体性を伴う(五感で魂が震える経験など)部分は、まだまだオンラインだけでは難しいというのが、今の現状だなと。もしかすると、身体性を伴うものはオフラインで、知識や情報をインプットして理解していくことはオンラインで、もっと自由に学びの空間を日本や世界で作っていける可能性があると思ってます。
三井:実は、SETはデンマークと連携をしているんですが、その中で、地元の中学生に対して、まさに今岩本さんがお話されたことを始めていて。地元の中高生の英語学習という形で、デンマークとオンライン授業をしていて、田舎にいながら世界と繋がることをしています。
中高生は、自分の枠の外に出る経験がどうしても少ないんですよね。特に公立の学校は少ない。だからこそ、自分の枠の外と繋がる経験は、すごく目を輝かせて「英語ってこんなにおもしろいんだ!」「世界ってこんなに違うものがあるんだ!」と話していたのが印象的でした。
コロナをきっかけに、地域でもオンラインの価値が一気に上がったので、新しい教育の一個の形になるなと思っています 。
内藤:いまゼロ高生で、山形と名古屋に住んでいる高校生が、同じことを学んでいるんですよ。当たり前のように北海道と京都に住んでいる高校生が話したりもしています。こういう物理的な距離を超えた関わりは、技術的障壁がないからこそできることなので、「0・100」ではないと思っていて、岩本さんがおっしゃったように「ここはオンラインで補完できる、むしろオンラインだからできる」があると思っています。その分、オフラインも感染に気をつけながら、めちゃめちゃ活動する。オフライン、オンライン、オフライン、オンライン、、とオフラインとオンラインを往復することが大事だと思いますね。
林:今までオンラインって日常の中で活用する割合がそんなに多くなかったと思うんですよね。ずっとFace to Faceが基本でした。コロナをきっかけに、オンライン化が進んで、いろんなところで活用されるようになりましたが、オンラインって慣れている人でも、リテラシー力が Face to Face の時よりも圧倒的に求められると思っていて。
食わず嫌いじゃないですが、最初はやっぱり慣れないものなので、「全員に活用してください!」と求めるのは難しいなと思っています。だからこそ私自身は、「おもしろいをつくる」ことを一歩目にしようと意識していて、自分にとっても相手にとっても、「おもしろい!」と思う仕掛けをつくれれば「使いたい」と、自主的に切り替えを進めていけると思うんです。
同じ物事でも、見せ方によって相手が見出す価値って全然変わってくると思うので、「越境」というテーマにおいても、相手が感じる価値や楽しさ、面白さをどう魅せていくかが重要だと、皆さんのお話を聞きながら感じました。
草々
Editor's Note
「越境教育の夜明け」というテーマに、地域も肩書きも手法も違う4名が集い語り合う会。目の前にいる方と、その先にある未来を変えていく熱い姿勢に惹かれ、つい聞き入ってしまいました。「面白い」は人を惹きつけ、越えていける力を持っている。当たり前だけど難しい実践をされている方々のお話にから私もできることはあるんだということを教えてもらえました。
GENSEI TANAKA
田中 絃正