協力隊
起業や兼業、副業をする人が増えてきたと実感するようになってきた昨今。自分の成し遂げたいことや「あったらいいな」を実現するために自ら行動を起こす人たちがいる一方で、「やってみたい」「いつかは起業したい」と考えるものの、一歩踏み出せずにいる人もいるのではないでしょうか。
そこで、今、注目なのが「起業型地域おこし協力隊」。3年間の協力隊の任期後に起業することを目指して活動する地域おこし協力隊です。福島県田村市では、この「起業型」に力を入れて、活躍できる人や場所を増やそうとしています。
今回は、地域おこし協力隊から実際に起業した株式会社火種の代表・大類日和(ひより)さんと、田村市の団体として起業を後押しする一般社団法人Switchの代表・久保田健一さん、同社社員として働き田村市で暮らす佐久間貴代(きよ)さんに話を伺いました。
3人のそれぞれの視点で見る、田村市で起業する魅力とはーー。
起業型地域おこし協力隊として活動後、デザイン会社を創業した株式会社火種の代表・大類日和さん。協力隊になる以前は、群馬と東京に拠点を置くWeb制作会社でデザイナーとして仕事をしていました。
「ローカルでお金を稼ぐと言っても、いきなり売上を作っていくことはハードルが高い」と感じ、3年後の起業を前提に活動するという形ならばやってみようという気持ちになった大類さん。
「特に行く場所を決めていたわけではなかったので、面白そうだよと言われ、これも何かの縁だと田村市に行くことを決めました」(大類さん)
2018年、大類さんは起業型地域おこし協力隊として田村市にやってきました。
一般的な地域おこし協力隊は、例えば地域にキャッシュレスを普及させるとか、今あるお店が閉店した後の運営を任されるといった明確な活動の目的や目標がある、いわゆるミッション型と言われるものが多いです。
一方、起業型地域おこし協力隊は、3年間、市の委嘱に基づいた活動をしたのち、その地で起業をすることを前提に活動をします。起業にあたって業種、業態に特に制限はなく、自分が思うビジネスプランを3年間の活動の中で考え、独立していく仕組みです。
全てにおいて市役所や管理者の了解を得るというわけではなく、ある程度の自由度の高さがあっていろいろと働いていましたね。大類 日和 株式会社火種 / 田村市地域おこし協力隊OB
大学卒業後にWeb制作会社で働いた経験しかなかった大類さんは、当初、自身が3年間で起業をするのは難しいのではと感じていたと言います。
そんな大類さんにとって素敵なご縁につながったのが、田村市の一般社団法人Switchでした。代表理事である久保田健一さんは、田村市出身。広告代理店を経て、同市に戻りオフィスを構えクリエイティブ制作会社を設立。そして、「好きな生き方ができるまち」を目指して地域課題解決や地域づくりを行う一般社団法人Switchを立ち上げました。
Switchは、テレワーク拠点「テラス石森」の運営を行っていて、協力隊となった大類さんは、久保田さんたちと一緒にまちづくりの活動をしながら、3年間の協力隊の活動においてメンターのように伴走してもらい起業準備をする、という流れで歩みを進めていきました。
田村市に来るまでは、Web制作のスキルはまだまだ発展途上にあったと振り返る大類さん。Switchで3年間、デザインの勉強をしつつ、まちづくりの仕事にも関わりながら活動していました。
また、行政や周囲と関わる上では創業支援などを手がける一般社団法人Switchが大類さんをサポート。「協力隊の活動と進捗をヒアリングしながら、起業に向けての悩みや課題の壁打ち相手になってくれた彼らの存在も大きかった」と、大類さんは話します。
「単身で見知らぬ地域に飛び込んでいき、なんとかできる人ってそれほど多くはいないと思います。交流そのものは苦手ではなかったですが、Switchさんが市役所の人を紹介してくれたり、人をつなげてくれたりとサポートがありました。だから任期を終えたあとも『もう少し田村市でやってみたいな』と思いましたね」(大類さん)
今回の起業型地域おこし協力隊についても、起業に向けた事業づくりなどのサポートをSwitchが担います。
地域の中での活動において協力隊のサポートをするSwitch代表理事の久保田さんにも、大類さんとの出会いから現在に至るまでを伺ってみました。
「大類さんが入ったタイミングは、Switchの立ち上げ期でした。地域おこし協力隊との垣根もなく一緒に仕事をしていけたのはよかったですね。私のデザイン仕事の一端を大類さんにお任せしながら、私のやり方も伝えていき、関係を築いていけたのはSwitchとしても大きな出来事でしたね」(久保田さん)
2019年にはSwitchの企画で「お仕事スイッチ」という子どもが親の仕事を体験するイベントに取り組んだ大類さん。
「田舎は仕事がないと言われることもありますが、本当に仕事が無いのではなく、地域にある仕事への理解が足りないから、地域外で働く人が増え、そう言われるのだと感じていました。だからこそ、企画したイベントで、子どもたちが楽しそうだったこともですが、何よりその地域の人たちが一緒に協力して未来につなげていこうという兆しが見えたのが印象的でした」(大類さん)
協力隊の任期を終えて独立した大類さんは、Switchの仕事の一部も請け負う形で現在も関係が続いています。
田村市での起業型地域おこし協力隊は「好きなことがしやすい環境が整ってきていると思います」と久保田さんは言います。
これまでの田村市は都心ではないから、活躍できるフィールドが少ないとされてきました。Switchは少なからず地域に可能性を見出してやれる人が増えるようサポートしています。久保田 健一 一般社団法人Switch
地域で自分のやりたいことを進める中で出てくる悩みは、きっとあるはず。Switchはこれまで、まちの中でいろんな人たちと関わってきたのを活かし、協力隊がまちの中でやりたいことがあった時に、地元の人たちをつなげることや現場での悩みなどをフォローするサポート役を担います。
大類さんが地域に馴染んでいく上で苦労したことはなかったのでしょうか?
「高齢の方と話すと方言が強くて、時々なにを言っているのか聞き取れないことはありますが(笑)。単独でいきなり田村市でデザイナーとして仕事を成り立たせるのは難しかったと思いますが、なんとなく地域に受け入れられている実感は得られたので、この地に残ってもいいなと思えました」(大類さん)
いい意味で地域に縛られるのではなく、フラットに田村市を体感し、自分の仕事や暮らしが豊かに継続できると判断したからこそ、この地に残る決断をしている大類さん。田村市で地域おこし協力隊の活動をするには、どんな人が向いているでしょうか?
「ミッション型とは異なり起業を想定して活動するので、受け身ではないほうがよいと思いますね。地元の人たちといい距離感で良好な関係を築きながら進めようとする人であれば、なんとかなっていくと感じます」(大類さん)
地元の事業者目線で、どんな人が田村市の起業型地域おこし協力隊に向いているのか、Switchの久保田さんにも尋ねてみました。
「自分の想いを優先していいのではないでしょうか。私たちも地域にプラスになってほしいとか、何かを変えたいという想いを持ちながら取り組んでいます。その中で協力隊の人の足りないところを補う役割としていますので、想いにマッチする人であれば、いろんな課題もクリアできるのではないでしょうか」(久保田さん)
「今の田村市には、新しい活動の風を吹かせていくことが必要だと思っています。その上で僕自身は、長い目で見て、地域にだんだんとハマっていけるようにしていけばいいよね、というスタンスで協力隊に接していきたいと思っています」(久保田さん)
Switchは田村市の直轄にある組織ではなく、地域の一団体として協力隊と向き合うことができます。田村市がいて、ビジネス面を支えるMAKOTOWILLがいて、地元で活動するSwitchがいる。
協力隊が田村市で起業するための体制はこれまで以上にできているので、起業や何か始めたい人にとっては、チャンスかもしれません。
では実際に田村市での暮らしぶりや生活のリアルはどんな感じなのでしょうか? 今回は、一般社団法人Switchで働く佐久間貴代(きよ)さんにもお話を聞いてみました。
佐久間さんは、千葉県柏市で育ち、親族の住む静岡県の工場で総務担当として働いたのち、結婚を機に夫の実家がある福島県田村市に移住しました。6歳と4歳の子育てにも奮闘中のお母さん。夫の実家に移住するとは言え、住み慣れないまちに行くことに抵抗はなかったのでしょうか?
「祖父のいる静岡に行ったときも、大学生で語学留学のために中国に行ったときも、新しい土地に行くことに抵抗がなかったんです」(佐久間さん)
田村市は高原の地なので、佐久間さんは特に夏の過ごしやすさを魅力に感じているようです。
「夏の夜は涼しくてとても過ごしやすいんです。今年も夏になって夜にエアコンをつけたのは1週間もなかったと思います。エアコンに頼らず、自然の風で過ごせるのは魅力ですね」(佐久間さん)
福島県に引越して2ヶ所で暮らしたのちに、田村市にやってきた佐久間さん。Switchでは、テレワークセンター「テラス石森」の管理・運営を担うほか、さまざまな事務サポートを担当しています。時には、採用担当として求人記事を作成したり、イベント運営のサポートをすることも。
「田村市を盛り上げる」というSwitchの仕事と、田村市の住人として楽しいまちであってほしいという想いが重なり、佐久間さんのやりがいにつながっているようです。
仕事も充実させながら、子育ても両立させている佐久間さん。実際に田村市は子育てがしやすいと感じているのでしょうか?
「田舎ってお母さんが子育てを頑張らないといけない、と言われるようなイメージを抱く人もいるかもしませんが、そんなことはなく、子どもの迎え時間が少し遅れても『大丈夫よ。お母さんも大変よね』と理解を示してくれて温かく接してくれます。田村市に来てよかったなと思いますね」
佐久間さんいわく、学童や預かり保育のほかに、田村市の中心部では病児保育も始まり、心理的負担も少なく、子育てを安心してできる環境が以前よりもさらに整ってきていると実感しているようです。
5つの町が集まっている田村市では、保育園や小学校などの学校も各町に最低1校はあり、中心部以外の学校も1クラス約10〜20人程度の生徒たちがいる学校が大半です。近くにも通えるし、少し離れた学校でもバスも出ているので学校の選択肢があります。
少人数ですが、一人ひとりを見てくれているという実感があります。中には、 “この学校に入れたいから移住してきた” という方もいて、都心と同じように、学びの機会を選べる選択肢もあると感じています。佐久間 貴代 一般社団法人Switch
最後に佐久間さんに、「田村市にあったらいいな」と思うものを聞いてみました。
「あったらいいなと思うのは、子どもが遊んでいるときゆっくりと親たちが過ごせる場所、でしょうかね。家族同士、お互いの家を行き来しますが、家以外の場所でリフレッシュできる場所はまだまだ少ないかなと感じています。
お座敷や個室のある空間で子ども向けメニューもあって、子どもが遊んでいる間にママ友たちとゆっくり会話を楽しんでリフレッシュできるような場所が増えたら嬉しいですね」(佐久間さん)
佐久間さんのリアルな意見を聞くほど、田村市では仕事と子育てを両立しながら、安心して暮らせるまちということが伝わってきます。
3年後に起業をすることを前提とした、起業型地域おこし協力隊。田村市にゆかりのある人も、これまで縁のなかった人もそれぞれ「田村市でどんなことができるのか?」と不安やわからないこともきっとあるでしょう。そんな思いを解消できる事前説明会と、1泊2日のツアーを実施します。
地域で活躍するキーパーソンの話を聞いたり、まちのスポットを訪れたりしながら、田村市に来たらどんなことができるのか、どのようなサポートを受けながら活動ができるのか、といったことをイメージできる機会です。
ツアーでは実際に田村市に足を運び、この地域で暮らす人や奮闘する人たちと出会うことで、田村市のリアルを知ることができます。
まずは、事前説明会やツアーに参加して自分自身の五感で田村市の魅力や可能性を見つけてみるのはいかがでしょう?
地元に暮らす人たちのリアルを知ることで、起業型地域おこし協力隊の任期終了後の起業に向けてヒントを得られるのではないでしょうか。
■日時・場所
① 10/20(木)19:00~20:30 @オンライン
② 10/22(土)13:30~15:00 @オンライン
■当日の流れ
・プロジェクトの概要(地域おこし協力隊とは?)
・田村市での協力隊活動について
・協力隊OBOG / 協力隊サポートメンバー「Switch」のパネルディスカッション
・質疑応答
・1泊2日現地ツアーのご案内
■参加費
無料
■お申込み
①と②でお申し込み先が異なります。それぞれ希望の日程にて以下ボタンよりお申込みください!
■日時
11月5日(土)~11月6日(日)
■場所
福島県田村市
※定員を10名程に想定しておりますので定員を超える場合は選定させて頂きます。
現地ツアーは協力隊応募への絶対条件ではなく、選考にも関係致しませんのでご参加できなかった方も是非ご応募ください!!
■ツアー内容
・プロジェクトの全体像のご説
・地域で活動しているプレイヤーとの交流
・着任場所、業務の説明
・田村市の観光場所や資源の確認
・ワークショップ
■参加費
移動費は実費となります。(※交通費1万円まで支給)
宿泊費、1日目夕食、2日目昼食、夕食はこちらで負担致します。
Editor's Note
田舎は働き口がなく、暮らしにくい。そんなイメージはすでに一昔前のイメージだと思わせてくれた田村市の人たち。彼らはいわゆる“意識高い系”なのではなく、まちの不自由さがある中で自分が楽しみを見出して暮らせることが、まちの盛り上がりにつながると信じて、やれることをやっています。田村市は何かを始めたい人が行動を移せる場所になりそうです。
ASUKA KUSANO
草野 明日香