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LOCAL LETTER

深刻化するファッションの環境負荷。ビジネスでごみ問題を解決へ

JAN. 09

JAPAN

拝啓、ファッション業界の最先端なサステナブルビジネスが気になるアナタへ

※本レポートはシェアリングエコノミー協会主催のイベント「SHARE WEEK 2023」で行われたトークセッション「世界を変えるサステナブルビジネスの新潮流~社会起業家の戦略~」を記事にしています。

多くの人々にとって洋服は、毎日身につける生活に欠かせないアイテム。そんな身近な存在の洋服ですが、製造や廃棄などほとんどの過程において、実は大きな環境負荷に繋がっていることをご存知でしょうか。

本記事では、ファッション業界における環境問題にビジネスで課題解決に取り組む方々のトークセッションをお届けします。

年間50万トンが国内で廃棄されている洋服。再資源化に取り組む企業に迫る

南氏(モデレーター、以下敬称略):セッション「世界を変えるサステナブルビジネスの新潮流~社会起業家の戦略~」を始めていきたいと思います。

南 章行氏 株式会社ココナラ取締役会長 / 住友銀行(現三井住友銀行)に入行後、2004年に企業買収ファンドのアドバンテッジパートナーズに転職。2009年には英国オックスフォード大学経営大学院(MBA)を修了。帰国後、NPO法人ブラストビートの設立や、NPO法人二枚目の名刺に参加。2011年に株式会社ウェルセルフ(現株式会社ココナラ)を設立し現職。
南 章行氏 株式会社ココナラ取締役会長 / 住友銀行(現三井住友銀行)に入行後、2004年に企業買収ファンドのアドバンテッジパートナーズに転職。2009年には英国オックスフォード大学経営大学院(MBA)を修了。帰国後、NPO法人ブラストビートの設立や、NPO法人二枚目の名刺に参加。2011年に株式会社ウェルセルフ(現株式会社ココナラ)を設立し現職。

南:サブタイトルにある「社会起業家」と言うと、昔は“ビジネスにならない事をやっている人達”というイメージが多少あったように思いますが、最近は様々なビジネスにおいて「ビジネスインパクト」と「ソーシャルインパクト」を同時に求めるような新しい潮流があるように感じています。

比較的近いテーマで別角度からサステナブルビジネスを実践している2名の方にご登壇いただきます。まず川野さんから自己紹介と事業の紹介をお願いいたします。

川野氏(以下敬称略):株式会社ecommitの代表の川野と申します。

川野 輝之氏 株式会社ecommit 代表取締役CEO / 高校卒業後に中古品輸出企業に就職し、4年間の修業期間を経て22歳でECOMMITを創業。創業後、中国に輸出された日本の電子ごみによる環境負荷を目の当たりにし、トレースできない中古品の海外輸出を一切停止し、環境問題に改めて向き合う。現在は、自社開発システムを主軸に企業や自治体のサーキュラーエコノミー推進事業を全国に展開する。
川野 輝之氏 株式会社ecommit 代表取締役CEO / 高校卒業後に中古品輸出企業に就職し、4年間の修業期間を経て22歳でECOMMITを創業。創業後、中国に輸出された日本の電子ごみによる環境負荷を目の当たりにし、トレースできない中古品の海外輸出を一切停止し、環境問題に改めて向き合う。現在は、自社開発システムを主軸に企業や自治体のサーキュラーエコノミー推進事業を全国に展開する。

川野:弊社は「捨てない社会をかなえる」をテーマにあらゆる資源の循環の仕組みを作っている会社です。現在は、日本国内で年間に50万トン廃棄されていると言われている洋服を中心に、行政とは違う形であらゆる場所に回収拠点を設けて、弊社の特殊な選別技術を使って選別しています。

リユースとしてまた商品にできるもの、リサイクルとして繊維などの原料に戻すもの、他の素材に作り替えて自動車メーカーなどに納品するもの、というように仕分けをして、また再度生産フェーズに戻していくような事業を展開しています。

現在、PASSTO(パスト)というサービス名で回収拠点を設けています。都内だと豊洲、千葉県だと幕張や流山などの大型マンションや、アパレル企業の店頭、駅や商業施設など様々なところに置かせていただいています。全国におよそ3,000拠点、年間およそ6,000トンの洋服を回収し、再生原料としてもう一度資源に戻していっている実績がございます。

ごみ問題はモノが気軽に捨てられてしまうから起きているので、「じゃあごみを気軽に回収に出せるような仕組みをつくろう」と、なるべく自宅に近い所や生活に近い所に導線を設計し、資源が循環する仕組みづくりに取り組んでいます。

回収したものをしっかりトレーサビリティを確保して、「どこからどんなものが出てきたのか」「その中に素材として使えるものや、リユースとしてもう1度商品になるものがどれぐらいあったのか」などをしっかりデータ化している点も弊社の特徴です。

南:ご説明ありがとうございます。2007年に創業とのことで、17年間と長くやられているんですね。

川野:スタートアップ企業と自分では名乗りにくくなってきていますが、 気持ちとしてはまだまだスタートアップです。

今まではモノを回収する部分で一歩ずつ成長してきたのですが、ようやく再資源化の流れが見えてきていまして。世の中の流れも加速しているので、一気にここから資金調達もしつつスタートアップとしてやっていきたいという気持ちで、第2創業期を迎えているところです。

南:元々はどのようなきっかけでアパレルの回収を始めたのでしょうか。

川野:元々は農業機械や建設機械の回収をやっていて、パーツとして再度販売したり、資源として金属スクラップとして販売したりしていました。取引先の6割程が海外だったものですから、海外で取引してる間に「洋服にニーズが多くある」ということが分かってきまして。実はそこからスタートしたんです。

一方で日本から海外に送られている洋服の3割程が実は現地で廃棄されてしまっていて、環境負荷に繋がっているという現実も見えてきたので、「これはどうにかしなきゃいけない」と思いました。そこで、リサイクルも含めてしっかり国内で選別をして、もう一度製造に戻していくところにまで力を入れ始めて今の形になっています。

川野:まだまだ本当に課題の多い業界ではありますが、課題を解決するために何が必要で、何がボトルネックになっているかを追求していった時に、バリューチェーン全体に問題があることが見えてきました。

解決するには、まずはごみにならないようにすることがファーストステップ。セカンドステップはそれをちゃんと製造に戻していくこと。最後に今度は作り方や売り方を変えていくことで、あらかじめ循環することを前提としたつくり方や、あらかじめ商品が店頭に戻ってくる売り方をつくること。

ごみ問題だけに目を向けていても一方通行になってしまい、産業構造が変わらない限りは問題が解決していかない。つまり「つくる」ところから変えていかないと現状が変わらないという結論にたどり着きました。

会社も環境インパクトを求める時代。変化するニーズと新しいサービスの形

南:ビジネスの観点だと、リユース&リサイクルのどこの部分が1番の収益になっているんでしょうか。

川野:私たちのビジネス構造は非常にシンプルなんです。現在は集まってきたもののうち98%を再資源化できていて、リユースやリサイクル、何かしらの形で売却ができているんです。これは17年間培ってきた選別技術や販売先、リサイクルのメーカーさんとの取引などの繋がりがあって実現できています。

内訳は、前期の売上の7割程度が物販によるものになっています。残り3割程度は、トレーサビリティシステム(生産から出荷まで全部を追跡することによって環境インパクトの可視化ができる)で、CO2の削減量などを参加いただいた企業様にフィードバックさせていただくレポーティングのサービスフィーが大体3億円くらいとなっています。

この2つの売上がしっかり経済性も伴ってるという状況です。

南:7割の物販は回収に原価そのものはかかっていないから、むしろ路地周りのところがビジネスコストになってきているということですかね。

残りの3割については、ひと昔前だと環境インパクトの情報を取得するなどの需要は無かったように思いますが、「企業にフィードバックすることがお金になり始めた」ということですね。世の中の潮流としてトレーサビリティを必要とし始めたから、今このような仕組みが収益の第2の柱になっている点、非常に興味深いです。ひょっとすると将来後者が超えていく可能性もありますかね。

川野:おっしゃる通りで、今でもトレーサビリティシステムのサービスフィーが伸びているんです。その理由は大きく2つあるかなと思っています。

1つ目は、我々のサービスを導入いただけると、環境だけではなく企業様の事業にもしっかり貢献できることがデータで示せていることかなと。

回収拠点のPASSTOには、ボックスの上に端末を置いてクーポンを自動で配布できるアプリを一緒に付けているんですね。そうすることで、PASSTOを置くだけで来店者が10%ぐらい増えていることがわかってきています。

クーポンを配布すると、クーポン自体は1ヶ月以内に大体7割程度使用されるので、ちゃんと事業の売上として返ってくるんです。地域のゴミを減らして、売上にもちゃんとつながる。ここが根拠として見えてきたので、サービス導入のフィーがいただけるようになってきました。

2つ目は、再生原料を必要としている企業が、いろんな素材をただ単に再生素材として使うのではなく、「この素材にはどのぐらいの環境インパクトがあるのか」という情報を求めるようになってきているということです。特に上場企業様を中心にそういった情報をかなり必要とするようになってきていると感じています。この時代の流れは大きなきっかけだったかなと思います。

環境負荷の大きいファッション産業で、廃棄の少ないものづくりを実現する

南:続いて川崎さん、自己紹介と事業の紹介をお願いいたします。

川崎氏(以下敬称略):Synflux株式会社代表取締役の川崎です。「Fashion for the Planet」というビジョンを掲げて活動しております。

川崎 和也氏 Synflux株式会社 代表取締役CEO / スペキュラティヴ・ファッションデザイナー。専門は、デザインリサーチとファッションデザインの実践的研究。 主な受賞に、第41回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞、H&M財団グローバルチェンジアワード特別賞、文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品選出、Wired Creative Hack Awardなど。
川崎 和也氏 Synflux株式会社 代表取締役CEO / スペキュラティヴ・ファッションデザイナー。専門は、デザインリサーチとファッションデザインの実践的研究。 主な受賞に、第41回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞、H&M財団グローバルチェンジアワード特別賞、文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品選出、Wired Creative Hack Awardなど。

川崎:弊社はデジタル技術の活用を通した技術開発を得意とし、ファッションデザインの方法をデジタル化することによって、できるだけ最適化された設計を実現するためにサービスやビジネスを開発しています。

僕自身は大学時代にファッションデザインの勉強をしていました。服づくりを研究・実作していた中で、製作過程で大量の廃棄が出ていることを知って。「普通に服をつくっているだけじゃダメだ」と仲間と活動を始め、2019年にH&M ファウンデーション(北欧のファッションブランド)主催の『H&M グローバル・チェンジ・アワード』で受賞したことをきっかけに会社を創業しました。

ファッションデザインのプロセスで出てしまう廃棄を削減するために、AIや3D技術をマッシュアップした独自のシステムを開発・実装しています。このシステムを使うと、これまで出てしまっていた布のゴミが1/3になるということ、一着作るのに必要な布のコストが最大で15%ほど削減できます。

川崎:そもそもファッション産業は世界で2番目に環境線がひどい業界だと言われており、世界的に市場が拡大しているので、その分CO2の負荷が高いと言われています。その原因になっているのが布であり、布の生産で約90%のCO2が出てしまっているという現状があるんです。布の廃棄はメーカーからすると経済的なロスにもなりますし、環境へ多大な悪影響を与えてしまっているんですね。

それを解決するためにAIや3D技術を用いてできるだけ最小廃棄化するということに取り組んでいます。設計図のデータをなるべく廃棄が出ないよう再設計し、ブランドやメーカーの方々と一緒にものづくりもしています。

2022年11月に、大学員時代からずっと研究してきた技術が初めて量産を実現することができ、日本と韓国でThe North Face(アウトドアブランド)を製造販売してるGOLDWINさんとタッグを組み、CO2排気量を格段に下げたパーカーを発売いたしました。これは即完しまして、今は第2弾を仕込んでいるところです。

私たちはサプライチェーンの川上の段階である、ファッションデザインや製造の部分をデジタル技術で革新し、最終的にはできるだけゴミが出ないものづくりを実現させたいと思っています。

前編記事では、ファッション産業でサステナブルな取り組みを実践する2社の具体的な取り組みの紹介や、業界の現状についてのお話がありました。

後編記事では、登壇者らが考える「サステナブルとビジネスを両立させる上での重要なポイント」などをお届けします。

Editor's Note

編集後記

買い物をしている時に「可愛いし安いけれど、環境的にはどうなんだろうか?」と考えることが増えた気がします。登壇者の方の想いやこれまでの努力を知り、生活の中でいきなり圧倒的な変化を起こすのは大変ですが、不要になった服は回収に出したり製造の過程を気にしてみたりと、少しずつでも自分のできることをしながらファッションを楽しみたいなと思いました。

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