SHIMOKAWA TOWN
下川町
「紙コップを使って、みんなで宇宙人を作りましょう!」
今でも忘れない、小学生の時にあった図画工作の時間。
この授業が後にも先にも私にとって人生で一番嫌いな授業だった。
「宇宙人なんて見たことないから作れないじゃん」
見たことのないものは形も色もわからない、「正解」がなければ作ることができない。
それが当時の私の言い分だった。
そんな私は社会人になってもなお、仕事で答え探しをよくしてしまう・・・
そんな私に「正解なんてないんですよ」と伝えてくれたのは、今回私が滞在した北海道下川町で『あべ養鶏場』を運営する村上範英さんと能藤一夫さん。
「生き物を相手にしている仕事ですから、すぐに結果が出るわけではありません。鶏は、気温や小さな音にすら敏感に反応するので、同じやり方を繰り返しても良いものは出来上がらないんですよ」(能藤さん)
もともと飲食業界にいたというおふたりは「養鶏ってなに?」という状態で、養鶏場に飛び込む決意をしたんだそう。
「何が正解で、何が不正解なのかなんて全くわかりませんでした」と口を揃えておっしゃるおふたり。暑い時には30度まで上がり、寒い時には-30度まで下がるという寒暖差が非常に激しい下川町で鶏の体調管理をするのは至難の技。
おふたりの師匠にあたる、あべ養鶏場を立ち上げた阿部さんからは毎日「鶏と会話しろ」というアドバイスをもらい戸惑っていたと笑って話してくれた。
「阿部さんから養鶏場を引き継いで約2年が経過しましたが、今でも何が正解で、何が不正解かはわかりません。ずっと手探り状態で進みながら、餌屋さんやひよこ屋さんの知恵もお借りし、支えてもらいながらブラッシュアップしている感覚ですね」(村上さん)
「50年以上養鶏場を営んでいた阿部さんですら、正解はわからないと思います。昨日聞いたことと今日聞いたことが違うなんてこともたくさんありましたしね(笑)だからこそ、阿部さんは私たちに『いい塩梅でやる』ことの大切さを教えてくれました」(能藤さん)
昨年うまくいったからと言って、今年も全く同じようにやれば同じ味の卵ができるわけではない。カチッとハマる正解がないからこそ、適度にやることが大切という阿部さんの教えから、私は「存在しない正解探しに時間を使うのではなく、その時のベストを考え、挑戦してみることが大切」と感じた。
そして、同じことを繰り返すだけではいいものは生み出せないというのは、農業に限った話ではない。同じサービスであったとしても、お客様一人一人に寄り添い、適したサービスを模索・提供していくことで、個人も会社も成長していく。常に正解・不正解がついていない新たな挑戦をしていくことが、より良いものを生み出す原動力になるのだろう。
「そもそも『いい塩梅』というのは、基準がなければわからないんですよ。だから養鶏場を始めたばかりの頃は、まずは基準を知るために、メモ帳とストップウォッチを肌身離さず持って阿部さんの後ろをついて回っていました」(村上さん)
今では当時よりも多くの卵を生産・出荷し、今後はより幅広く六次産業化に取り組んでいこうとしているおふたり。後継者問題をなくすために、養鶏場を株式会社化し、最近では社員の行動基準になるようにと企業理念も生み出した。
企業理念は、
「卵創りに関わる全ての人たちのHAPPYのために」
社員全員が自分のHAPPYとは何かを共有し合い、価値観を広げながら、HAPPYが生まれるように切磋琢磨しているんだそう。
全くの素人にも関わらず、養鶏場という分野で挑戦することを決意し、今なお新たなことに挑戦し続けているおふたりの根底には、「まずやってみよう」と挑戦を前向きに捉えるスタンスと、より幅広い挑戦をするための地道な努力が存在していたのだ。
Editor's Note
最後までお読みいただきありがとうございます。
次回は、おふたりがここまで努力と挑戦を続ける理由を書きたいな、なんて思っています。
そして、今回この記事を書き終えてみて、「今の私なら紙コップからどんな宇宙人をつくるのか」が気になる自分がいたりします。
NANA TAKAYAMA
高山 奈々