FUKUSHIMA
福島
「こんなに面白いのに、地元の魅力が伝わっていない」と感じていませんか。
生まれ育った土地を離れて暮らしてみて、それまで当たり前だったものの価値に気づく人も多いはず。
価値として認識できていなかったのは、そもそも地域のなかで魅力が「当たり前の風景」として埋もれてしまっているからかもしれません。
福島県の会津地方には、地域の魅力を発掘して伝えている大塚セイ子さんがいます。長年のガイド経験をもつ大塚さんは自身のスキルを活かし、有料ガイドの会として「会津おもてなし企画」を立ち上げました。

会津の歴史に精通する大塚さんの案内をきっかけに、再び会津へ足を運ぶ人も多くいるそうです。
実際にお話をうかがってみると、大塚さんのガイドの魅力は知識の豊富さだけではありません。その土地を訪れた人を惹きつけるためのヒントが見えてきました。
大塚さんは、自分自身を”歴史ヲタク”と表現するほどの歴史好き。その背景には、会津生まれ・会津育ちというルーツがあります。
「囲炉裏端でじいちゃんから昔のいろんな話を聞いて育ちました。それがすごく頭に残っていて」
大塚さんの経歴は実に多彩です。子育て、農業、女子サッカーチームのメンバー、小学生が集まるサッカーのクラブチームの監督などさまざまな活動をしてきました。
「思い返してみると、いつも何かで地域と関わっていましたね」
ガイドの活動を始めたのは50代の頃。キャリアのはじまりは、鶴ヶ城のボランティアガイドでした。
その活動のなかでは、お客様から「ほかの場所も見たい」と希望されることも多かったそう。ところが、ボランティアガイドは市の観光課の管轄であるため、どうしても制約があります。案内できる場所や時間は限られていました。
「会津に関心をもって来てくださる方たちが大勢いると分かり、もっとご案内できる方法はないかな、と考えるようになりました」

それまで、地域のガイドといえば、主流は無料のボランティアガイドです。とはいえ、ほかの地域に目を向けると、旅行者のニーズに合わせて案内する有料ガイドの事例もみられるようになっていました。
そこで、会津でもそんな取り組みができないか周囲へ相談した大塚さん。地元からは戸惑いの声も上がったと振り返ります。
「当時は、ガイドはボランティアという意識がものすごく浸透していました。有料でやると話せば、地元では前例がないから驚かれることも多くて。『お金もらってやんのかよー(会津弁)』なんて言われたときもありましたね」
大塚さんはいろいろな場所を案内する方法を探し求め、鶴ヶ城のボランティアガイドと並行して磐梯山ジオパークの研修も受けました。会津を広くガイドする方法を模索していたそうです。
そして、有料ガイドの会「会津おもてなし企画」を立ち上げたのは今から約5年前。ボランティアガイドを始めてから10年以上が経っていました。
現在は会津若松市内を中心に、裏磐梯、五色沼、猪苗代などでガイドをしています。
ホームページも作ったところ、細かい希望に合わせてガイドしてほしいという依頼が多数くるようになりました。
「『自分たちで行くだけでは気づけない深い歴史が分かるから、やっぱりガイドさんをつけてよかったね』という感想をいただいています。最近は、そういった口コミをSNSで見た方からガイドについて問い合わせがくることもありますよ」

現在「会津おもてなし企画」は、約10人のガイドの協力により運営しています。
平均年齢は70歳。
「ほんっとに個性的なガイドさんたちです。同じ場所や歴史を説明するにしても、話す内容がそれぞれ違うんですよ。たとえば、それまでの経験で培ってきた植物、動物、雑学などの知識を絡めて話す人もいます。私は本で読んだ内容に加え、じいちゃんから聞いた話がすごく役に立っていますね。生の歴史ですから」
最近はSNSでも新しいガイドを募集しています。会津の歴史に興味さえあれば、経験は問いません。研修で最低限必要な情報を押さえてもらい、あとは自分で勉強したことや個性を発揮してほしいと語る大塚さん。30〜40代のガイドも活躍しています。
大塚さんはガイドだけでなく、歴史研究家としての顔もあります。現在は会津文化団体連絡協議会副会長で、会津歴史研究会の会長でもあります。ほかにも会津の歴史や文化に関わる複数の団体で理事を務めています。
「せっかく会津に来ていただいたからには、いい思い出を作ってほしくて。だから、ボランティアガイドを始めてから、すごく勉強するようになりました」
お客様に喜んでもらうためには準備や深掘りが必要で、その成果を存分に活かさなければと思ったという大塚さん。案内の質を高め続けようとする姿勢はほかのガイドにも広まっていると話します。

「会津おもてなし企画」は、現役の鶴ヶ城ボランティアガイドの方々にも助っ人をお願いしながら活動してきました。お金をいただくようになって、ガイドのみなさんの変化が目に見えて分かるといいます。
「それまではそこまで深く関心をもっていなかった人も『これどうだっけ?あれどうだっけ?』と勉強するようになりました。研修を受けられないか自分から聞いてくれる人もいます」
ガイドをするうえで大塚さんが大切にしているのは、単に歴史の事実を説明するだけでなく、現代との繋がりを伝えることです。
「たとえば、白虎隊。17歳で結婚した白虎隊士がいて、妻のお腹の中に赤ちゃんがいたんです。彼は自分に子どもがいるとは知らないまま、飯盛山で自刃しました」
大塚さんの解説は、これだけでは終わりません。
「実は最近、その子どもの子孫がいることが分かりました。その方は県外にいるので、これからお話を聞きに行って詳しく調べたいと思っているところです」

会津には、まだ知られていない歴史がたくさんあるそう。大塚さんは自らそれらを発掘し、新しいストーリーをどんどん発信しています。
「何月何日に何が起きたという事実は変わりません。大事なのは、それが今後どうなっていくかです。今までもこれからも全部、歴史になっていきますので」
歴史と今の接点を大切にする視点は、ガイドとしてお客様の関心を高めるうえでも役立っています。
「過去の話だけ聞いてもピンとこないじゃないですか。『そんなことがあったんだ』で終わってしまう。でも、今との繋がりを感じられると、みんな驚いて興味をもってくれます」
もちろん、必ずしもすべてのお客様のリアクションが同じわけではありません。特に、団体旅行のガイドをするときは、人によって反応がさまざまです。
修学旅行では、10台のバスにそれぞれガイドが添乗して案内することもあります。なかには、歴史にあまり興味を示さない生徒も。そんなときは会話のなかで、どんな話題なら相手が関心をもつか探るそうです。
「『とにかく引き出しをいっぱい持ってて』と言っています。何に興味があるか分かれば、相手に合わせて話ができるじゃないですか。『最初は広く浅く引き出しをいっぱい用意して、それから深めていけるといいね』と伝えています。70年も生きていると、みんないろんな引き出しをもっているんですよね」
大塚さんは、ガイドの活動を通して会津全体の活性化を目指しています。そのためにも、会津を何度も訪れてくれるリピーターを増やしたいという思いが強いです。
「また会津に来たいと思ってくださる方が増えるとありがたいですね」

大塚さんは、目の前のお客様に喜んでもらうためにいつも全力を尽くしています。そのホスピタリティに心を打たれ、再び会津を訪れてくれる人も少なくありません。
「ボランティアガイドをしていた頃、すぐに答えられない質問をいただいたときは、お客様さえよければ連絡先をお聞きし、後で調べてお伝えしていました。そのご縁でまた来てくださる方もいます」
「団体旅行で来られた方がもう一度プライベートで来て、『前回買えなかったお土産を買いに来ました』とおっしゃっていて。ありがたいですね」
ガイドとして紡ぐ縁を通し、お客様からアイデアをいただく場合もあります。
たとえば、京都で旅行業に取り組む女性は家族を連れ、2度にわたって会津を訪れました。大塚さんは、有料ガイドの会の立ち上げについても話題にしたそうです。
「その方とお話しするなかで『おもてなしという言葉は素敵だと思いますよ。どこかに入れたらいいんじゃないですか』と言われて」
大塚さんはその女性とのやり取りをきっかけに、有料ガイドの会を「会津おもてなし企画」と名付けました。

ガイドとしてできることを可能な限りやっている大塚さんだからこそ、このようにたくさんの繋がりを作っています。お金を払ってでもガイドを依頼する人が後を絶たないのは、会津に関する知識の質や量もさることながら、おもてなしの心があるからです。
お客様が何を知りたくて、どうすれば喜んでくれるのか、常に考えながらガイドをする。だからこそ、知識やスキルを存分に活かした案内ができるのです。
現在、大塚さんは70代前半。少なくとも80歳まではガイドを続けたいと考えています。
「足腰さえ元気なら動けると思うので、まずは健康が第一です。そういえば『飯盛山の183段の階段を登れなくなったらガイドは終わりだね』という暗黙の了解があったんですよ、昔は。いまはもうスロープコンベア(動く坂道)があるから大丈夫ですけどね」

そんなふうに笑顔を見せる大塚さんはこれからも会津の魅力を伝え、たくさんの繋がりを作っていくでしょう。その縁からきっとまた多くのリピーターが生まれていくに違いありません。
会津は戊辰戦争の痕跡が色濃く残る土地。とはいえ、もともと地元の歴史が好きだったという大塚さんでさえ、未知の事実や見どころがたくさんあります。
それを踏まえると、どの地域にも、まだ注目されていない魅力はいくつも埋まっている可能性があるでしょう。だからこそ、地元の魅力を伝えるためには改めて地域について学び、深く理解することが大切です。
さまざまな角度から地域を捉えられるようになると、大塚さんが言う「引き出し」もより多くもてるようになります。そうすれば、目の前にいる一人ひとりに寄り添った伝え方ができ、心から興味をもってくれる人を増やせるはずです。
Editor's Note
初めて訪れた会津若松。東北出身の私にとっては聞き慣れているものに近い訛りを感じられ、懐かしかったです。まちのあちこちに歴史ある建物があり、地元の人たちの暮らしのなかに伝統が息づいている様子が印象的でした。
MIKI SETO
瀬藤 美季