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LOCAL LETTER

中国地域のアトツギ5名が語る、これからの地域と新規事業

FEB. 27

HIROSHIMA

拝啓、大切なものを受け継ぎ、自分らしい一歩を地域で踏み出そうとしているアナタへ

※本レポートは中国経済産業局が主催したイベント「次世代経営者フォーラム 承継×再構築×新事業の最前線」の中から、講演「中小企業・小規模事業者における新規事業の立ち上げ」、および、トークセッション「挑戦の裏側と成功の秘訣について」を記事にしています。

99.7%*。

これは、日本にある企業のうち「中小企業」が占める割合です。

*中小企業庁、中小企業白書 小規模事業白書 2025年度版https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf

多くの経営者が交代期を迎える今、先代が築いた事業基盤を次世代へいかに繋ぎ、時代にあわせて再構築していくかが課題となっています。

2026年2月19日、中国経済産業局の主催で開催された「次世代経営者フォーラム」には、家業を承継し、地域で活動する5名のアトツギ(後継者・後継予定者)が集まりました。本記事では、5名のアトツギの目線から新規事業への取り組みにおけるリアルな葛藤や試行錯誤の先で見つけた気付きをお届けします。

変化できることが圧倒的な強みになる時代

フォーラムの冒頭、モデレーターを務める早田さんは、現在の経済環境の変化と、これからの経営者に求められる姿勢について語りました。

早田 吉伸 氏 広島県公立大学法人叡啓大学 産学連携・研究推進センター長 ソーシャルシステムデザイン学部 教授/NEC(日本電気株式会社)にて営業・マーケティング、事業開発、経営企画等の業務に従事。経営企画本部マネージャー、社会公共ビジネスユニット本部長代理等を歴任。その間、2度の政府出向により内閣官房主幹として地域活性化政策とICT政策を担当。企業・行政での豊富な実務経験をもとに、研究・教育領域に活動の場を広げ、東京大学公共政策大学院客員研究員、慶應義塾大学大学院非常勤講師等に従事。現在は、公立大学において、MBAなど幅広い人材育成と社会連携を推進。博士(システムデザイン・マネジメント学)。

「この20~30年の間で日本の経済を取り巻く環境が非常に大きく変化しました。かつては、世界の時価総額ランキングの上位を日本企業が占めていましたが、平成時代終盤になると、日本の企業は1社もランキングに入っていません。

また、付加価値の出し方も変化しています。製造業を例にみても、企画や販売、アフターサービスの段階が付加価値が高く、製造や生産そのものの付加価値が低下する構造になっているのです」(早田さん)

早田さんは、昨今のデジタル化によって社会の前提が数ヶ月単位で塗り替えられる時代になったからこそ、「変化できること自体が圧倒的な強み(コアコンピタンス)である」と強調します。

「今の時代は、誰が競争相手で、どこがマーケットなのか完璧に把握するのは難しい状況です。そのため、自分で仮説を立て、試行錯誤し、自らのビジネスを『正解にしていく』動き方が求められますだからこそ、リソースは少なくてもビジネスアイデアを持ち、実際に動ける人が勝っていく。そういう人が多い地方が主役になる時代に変わったと感じています」(早田さん)

こうした変化の中で必要となるのが、権限で人を動かす「マネジメント」以上に、周囲と想いを共にして動いていく「リーダーシップ」であると言います。

「リーダーシップとは共振現象です。リーダーが自らのビジョンを語り、メンバーが『それは自分のビジョンでもある』と共鳴したとき、新しい価値が生まれますそのためには、リーダー自身が『自分は何者で、何をやりたいのか』という自身の軸を発見することが欠かせません」(早田さん)

150人との対話。「今まで」を肯定することから始まる挑戦

岡山県倉敷市で160年以上の歴史を持つ、株式会社若林平三郎商店。その6代目として戻ってきた若林さんは、自身のあゆみをこう振り返ります。

「弊社は代ごとに事業を変えながら続いてきた歴史があります。ところが、私が戻って新しいことを始めようとしたとき、社員の方から『昨日までと変わらない業務を、今日も着実に続けていきたい』という率直な思いを打ち明けられたんです。新しいことへの挑戦を当たり前に受け入れてもらえると思っていたので、驚いてしまいました」(若林さん)

若林 美樹 氏  株式会社若林平三郎商店・株式会社心囃子代表取締役 / 1989年生まれ、岡山県倉敷市出身。大学卒業後、大手金融機関、マーケティングリサーチ会社に勤務。江戸時代創業の家業を継ぐため、2016年に東京からUターン。飲食事業の再建を担当したのち、コロナ禍を経て居酒屋部門の全店舗を独立譲渡。2023年に宅建業免許取得、不動産仲介業とカフェFCエリア本部事業を立ち上げた。2024年8月代表取締役就任。第4回アトツギ甲子園ファイナリスト。

当初は非効率に見える仕組みをすぐに変えようとした若林さんですが、その考えは変化していきます。

「仕組みが非効率になっているのには、必ず理由がある。その時々の現場で、皆が本気で模索した結果が今の形になっているんだと気付きました。だからこそ、今までのやり方を否定するのではなく、まずは聞くことから始めようと、アルバイトの方も含め最大150人の社員と『1on1(個別対話)』を行いました」(若林さん)

若林さんは、目の前の一人一人と丁寧にコミュニケーションを取っていくことで得た成果をこう話しました。

「『何に困っていますか?』『何がしたいですか?』と聞き続け、現場の困りごとを解決していくことで、既存事業や既存社員、会社の未来の選択肢も広がりました。社員の皆が成長していく姿を見ることもできています」(若林さん)

地域の声を介して、新しい価値を共有する

島根県鹿足郡津和野町で1930年創業のお茶屋「香味園 上領茶舗」を継いだリコッタさん。江戸時代から津和野で親しまれてきた「ざら茶」をベースに、フランスのハーブティー(ティザンヌ)の文化を融合させたブレンド茶を開発。さらに、津和野と世界を繋ぐ拠点として、カフェや宿泊施設の運営も手掛けています。

「私は廃業予定だった店を、フランス人の夫と共に引き継ぐ道を選びましたが、先代の祖父母が望んでいたのは『看板を継ぐこと』であり、中身を変えることではありませんでした

当初は実績さえ上がれば喜んでもらえると思い込んでいましたが、新しい挑戦をすること自体が二人のこれまでの歩みを否定するように映ってしまうこともあったんです」(リコッタさん)

リコッタ瑠美 氏 香味園 上領茶舗 代表 / 1982年生まれ、大阪府出身。大学卒業後、2006年にリクルートへ入社し、企画・営業、プロジェクトマネジメントを経験。2017年、フランス人の夫とともに津和野へIターンし、祖父母から茶舗を事業継承。江戸時代から津和野で飲み継がれてきた「ざら茶」を中心に、フランスのティザンヌ文化を取り入れた和洋のブレンド茶を手がける。2023年には古民家を改修し、茶舗兼カフェとゲストハウスを開業。「MYCHA(自分だけのお茶づくり)」ワークショップも開催している。第5回中国地域女性ビジネスプランコンテストSOERU優秀賞を受賞。その他、日本遺産地域プロデューサーとして観光振興の戦略立案にも携わる。

そこでリコッタさんがとった工夫は、直接説得するのではなく、周囲の人々との「関係性」を媒介にすることでした。

「祖父母の代からのお客様を丁寧にお迎えし、新しい商品を体験していただくんです。すると、そのお客様から祖父母へ『あの商品良かったわよ』と感想が届きます。第三者の評価を通じて、守ってきたものが新しい形で愛されていることが伝わり、少しずつ認識の隔たりが埋まっていくのではないかと思います」(リコッタさん)

こうした「第三者からの声」による変化は、別の形でまちにも波及しています。リコッタさんの宿泊施設を訪れるインバウンドの方からの喜びの声は、「このまちには何もない」と諦めていた地域の方がまちの価値を再発見するきっかけとなっています。

ライバルは全国2万5千軒。独自性を問い直した2年間

鳥取県東伯郡北栄町で「花工房あげたけ」を営む根鈴さん。東京で15年間、デジタル分野の人材育成や広報・ブランディングに携わったのち、2017年に家業へ戻りましたが、代表に就任して間もなくコロナ禍による急激な需要消失に直面します。

「お花は結婚式やお葬式、就任祝いなど、人の暮らしに寄り添うビジネスです。外出自粛により対面での需要が途絶え、これまでの顧客基盤だけでは限界が来ると直感しました」(根鈴さん)

そこで根鈴さんはお花のオンライン販売を開始しますが、全国を対象にした市場で、自社の「立ち位置」を改めて問い直すこととなります。

「今までは地域に店舗を構えて花を販売していたので、常連の方々との顔が見える関係がありました。ところが、オンライン販売では、全国約2万5千軒もの花屋さんと比較されることになります。数ある選択肢のなかで、自社の商品をどうやって売っていけばいいのか、非常に悩みました」(根鈴さん)

根鈴 啓一 氏 株式会社花工房あげたけ代表取締役 / 1977生まれ、鳥取県出身。大学卒業後、デジタル分野の人材育成会社に入社。東京・渋谷・横浜エリアの責任者を経て、広報室長としてブランディングに携わり、15年間勤務。2017年5月より実家の生花店 株式会社花工房あげたけの事業継承を開始し、2020年11月より代表に就任。広報・ブランディングの経験を背景に、花や体験の価値を編集・再設計する視点で、EC、体験型店舗プロデュース、新規事業開発を推進している。デジタルハリウッド校友会 会長。一般社団法人EI 代表理事。

根鈴さんは自社の強みを手繰り寄せるべく、購入いただいたお客様に徹底的にヒアリングを行ったといいます。

お客様に商品の良い点や足りない点を詳しくお聞きし、社員と一緒に、期待に応えられたケースとそうでないケースの両面から分析しました。

その中で見えてきたのは、私たちのお客様は誰で、その方がどんな困り事を持っているのか、私たちの独自性や強みでどう解決できるのかです」(根鈴さん)

約2年にわたる試行錯誤を経て、自社の独自性を言語化し、サービスに反映。その結果、ゼロからのスタートだったオンライン販売は、今や事業全体の売上の約4分の1を支える柱となっています。

職人の役割をシフトし、組織の器を広げる

広島県広島市で足場工事会社「株式会社ヒロコウ」の専務を務める小柳さんは、前職の経営コンサルタントとしての知見を活かしながら現場の体制の立て直しを進めています。

「事業を継ぐために戻った当初、会社の営業利益が厳しい状況にあることが分かりました。まずは売上をしっかりと上げるために営業をしていくことが私の役割だと感じましたね。

ただ、弊社は創業以来、信頼によるご紹介を中心に事業を営んできたため、自ら営業をする習慣がありませんでした。そのため、私が唯一の営業担当として、既存事業と新規事業の両方を担うところからスタートしたんです」(小柳さん)

小柳 宜久 氏 株式会社ヒロコウ 専務取締役 CMO / 1994年生まれ。広島市出身。新卒で大手経営コンサルティングファームに入社。上場企業の戦略策定や中小企業の採用支援を行う。同時に社内の新規事業立ち上げを経験。12年の東京生活を経て2024年に家業の足場工事会社に入社。既存事業の新規営業を行う。同時に新規事業を立ち上げ、第5回アトツギ甲子園にて特別賞を受賞。広島全体のアトツギ熱を燃やすことをライフワークとする。高校時代は大阪桐蔭にて甲子園優勝を経験。史上7校目の春夏連覇を成し得た。

営業から現場管理までこなす日々のなかで、新規事業へ割く時間は削られ、売上が半年間停滞する状況もあったといいます。

新規事業を育て、売り上げを上げなければならない。しかし、既存事業も疎かにはできない。このジレンマを、小柳さんは「役割分担の明確化」によって突破し始めます。

「新規事業については、固定の社内人員を抱えず、外部パートナーと協業しながら進める形にしました。一方で既存事業は、今現場に出ている職人の社員たちを『マネジメント職』へと引き上げ、現場管理や営業を任せられる人材へ役割をシフトしてもらうことに注力しています」(小柳さん)

その結果、「新規事業を進めることで、既存事業の売上も上がり、会社全体のボトムアップにつながった」と小柳さんは振り返ります。

業界の固定概念を壊し、自らの「志」を軸に嘘のない仕事を

山口県下関市で老舗クリーニング店に日本茶スタンドを併設するという、異色の掛け合わせに挑んだ菅野さん。業界の常識に縛られない新事業の背景には、自らの志に誠実であり続けようという想いがあります。

「電力会社に務めたのち、妻の実家の家業である倉本クリーニング店を継ぎました。そこで直面したのは、生活スタイルの変化や若者のクリーニング離れなど、業界全体の深刻な低迷でした。

一方で、倉本クリーニング店は80年続いてきた老舗です。こんなにも続いてきた背景には、必ず独自の利点があるはず。SWOT分析を行い自社の強みを洗い出した上で新事業を提案するなど、家族と何度も話し合いました」(菅野さん)

菅野 弘和 氏 Japanese Tea Stand茶翠縁 オーナー 倉本クリーニング クリーニング師 / 1980年生まれ。岡山県出身。電力会社に技術職として18年務めたが、3.11以降、心の変化に気付き退職。その後、義実家の家業であるクリーニング店を引き継ぐ覚悟で修行。しかし、自社やクリーニング業界全体の深刻な構造不況を目の当たりにし、「自分にしかできないこと、ここでしかできないこと」を探求。新たな事業として2020年2月に日本茶のテイクアウト専門店『Japanese Tea Stand茶翠縁』をクリーニング店に併設してミクストラン店として再オープン。

新事業を進める決断について、菅野さんは言葉を続けます。

何々でなければならない』の固定概念を取り払うことを大切にしています。既存の延長線上で新しいサービスをプラスするだけでは、売上にも限界があると感じていました。今の枠組みをぶち壊してでも新しい価値をここで創り出したいと思いました」(菅野さん)

クリーニング店と飲食店を併設する前例のない試みには、食品衛生上の規制など法的な壁もありましたが、菅野さんは「どうすれば実現できるか」という視点で、解決策を見出していきました。

「損得勘定を抜きにして、自分がどうありたいか。『志』を持つことが何より重要だと思っています。自分の心に嘘をつかず、軸をしっかり持って入れさえすれば、具体的な夢は自然と叶っていくように思います志を『事(こと)』にするのが、本来の仕事の姿ではないでしょうか」(菅野さん)

標準化されない「違い」こそが、地域の資産になる

早田さんは、フォーラムの最後をこう締めくくりました。

「社会の標準化が進むなか、必要とされるのは他との『違い』です。都市部が効率的な標準化を追求する一方で、地方や中小企業には一見非効率に見える要素すらも、それが独自の文脈であり、差別化に繋がります。

今日は5名の挑戦に触れましたが、この場にいる皆さん自身も5名のようになれます。ぜひ自分の想いを言葉にし、自己認識を深めていきましょう」(早田さん)

Editor's Note

編集後記

5名の言葉から、家業は「自分を表現するための器」でもあるのだと気付きました。地域ならではの要素を活かして、自らの志に向き合うアトツギの皆さんの姿勢が、一歩踏み出そうとするアナタにとって力になりますように。

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