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※本記事は約3年ぶりに開催となった『ONE KYUSHU サミット』のセッション内容をレポートにしております。
相次ぐ値上げによって、感じざるを得ない漠然とした不景気感。
地域のためにも新たな一手を!と考えてはいるものの、なかなか次を考えるのは難しいと感じているアナタにご紹介するのは『ONE KYUSHU サミット』の中で、「データで見るアジアのゲートウェイ九州〜 2023-2025 コロナ後の社会・経済を読み解く 〜」と題して行われたトークセッション。
今の現状を知る中で見えてきた、新たなビジネスチャンスとはーー。
村岡(ファシリテーター):本セッションでは、データを活用しながら「九州の経済」を読み解いていきたいと思います。まずは登壇者の皆さん、自己紹介をお願いします。
岡野:公益財団法人九州経済調査協会の岡野です。地元のシンクタンクとして政策をつくったり、データの整理を行っています。今日はコロナ後の経済を一緒に読み解いていければと思います。
日髙:宮崎県高千穂町を拠点にインバウンド向けの着地方ガイドツアーを運営している、株式会社訪うの日髙です。創業は2017年で「高千穂の夜神楽(宮崎県高千穂町に伝わる民俗芸能)」というカルチャーに心底惚れてしまい、本社ごと高千穂町へ移転させました。
神田:三菱地所株式会社の神田です。静岡県三島市に住んでいて、東京にある会社へは19年間新幹線通勤をしています。登壇者で唯一の九州外の人間ではありますが、テレワーカーの動向をお話できればと思っています。
岡野(九州経済調査協会):前のセッションでも「コロナの打撃を受けた」というお話がありましたが、データを見ながら、次の九州を考えるベースにしてもらいたいです。
岡野(九州経済調査協会):まず「景気動向指数」ですが、やはりコロナでかなり落ち込みました。全国の青線に対して、九州は緑線。全国と比較しても同じような数値の戻り方をしています。
岡野(九州経済調査協会):地域の経済力を見るときには、「GDP(国内総生産)」「GRP(実質地域内総生産)」に注目するんですが、2015年から2018年のコロナ前を見ると、九州は4年連続で全国の水準を上回り、50兆円を超えてます。
では、「どういう要因で経済の波ができるか」ですが、2019年まで実データを元に、2020年以降は推計したものが下記の表です。コロナで一番落ち込んだのはオレンジ色の「民間消費活動」。経済活動の6割ぐらいは民間の消費で成り立っていますが、コロナでの落ち込みがわかります。
岡野(九州経済調査協会):それに対して緑色が政府の消費。落ち込んだ消費を政府のお金でなんとか上に戻そうと2020年、2021年と引っ張り上げていますが、2022年以降は外需、設備投資、民間消費の3つで何とかこらえています。
岡野(九州経済調査協会):そしてコロナで特に落ち込んだ消費ですが、「旅行関係の消費」がほぼゼロになりました。多くの方が本当に苦労されたということが数字に表れてます。
岡野(九州経済調査協会):次に、人の動きを見る「お出かけ指数」ですが、これは大分県別府市に関する数字。コロナ後の数値を見ると、まだまだ戻ってきていないことがわかります。
岡野(九州経済調査協会):もう一つが「宿泊の稼働指数」。GoToトラベルやいろんな旅行支援があったことで、コロナ前の水準ぐらいまで戻ってきている状況です。
ここまで全体的な数字を見てきたんですけが、これからの九州を考えるにあたって、やはり大事になるのが「成長エンジン」。そこで九州において日本の一割経済(※九州はGDPが全国の1割を占めるため、九州の経済規模を示す言葉)を超える産業を集めたものがこちらです。農業産出額が特に多いのがわかりますね。
岡野(九州経済調査協会):ここからは、お見せしてきた数値を踏まえて「今後九州がどういう産業をつくっていくのか」という話ですが、我々が次世代産業として考えているのが、「フードビジネス産業」「スマートものづくり産業」「ファインマテリアル産業」「スマートシティ産業」「ビッグデータ産業」の5つです。前セッションでお話があった、薬局と薬剤師を繋ぐ『ふぁーまっち』もスマートシティの例になると思います。
村岡(ファシリテーター):九州の姿を可視化してもらいましたが、改めて数字でみるとキツイきついですね…。ここからは、Beyondコロナとして、「働き方」や「企業の考え方」について話を展開していきたいんですが、岡野さんはどうですか?
岡野(九州経済調査協会):企業は働き方と立地がだいぶ変わりましたよね。一番大きな変化はリモートワーク。リモートでミーティングする文化が中小企業にまで広まったのは、非常に大きい。その影響から、いろんな企業が移住やワーケーションを積極的に取り入れたり、副業を解禁したりと、より地域とも繋がれるようになったと思います。
そんな中で、コワーキングスペースがいろんな地域にできてるんですけど、ただのスペースという役割だけでなく、そのスペースの中でいろんな人が繋がり、新しい仕事が生み出されているとも感じていて。
村岡(ファシリテーター):本当に最近広がりましたね。あとはコロナ × DX企業の立地もかなり考え方が変わってきている。
岡野(九州経済調査協会):そうですね。首都圏の方もオフィスに行ってない人がかなり多いみたいです。
神田(三菱地所):東京都の丸の内エリアには、大体就業者が28万人いるって言われてるんですけど、去年弊社でアンケート調査をしたところ、65%の人が「ハイブリッドワーク(オフィス出勤とテレワークのハイブリッド型で勤務)」という結果が出ました。
神田(三菱地所):つまり、作業なら家でやればいいけど、せっかく出社するんだったら、いろんな人と繋がって新しいことを起こそう、みたいな風潮が出てきている感覚があります。
あとは、そういうリアルな機会を地域側に求める人も結構増えてきているなと感じていて。地域が好きで移住をする人もいますが、副業・プロボノも含めて「自分のスキルを地域側で活かしたい」とか「人の役に立ちたい」みたいな欲求があるんだろうなと思います。
岡野(九州経済調査協会):これから私たちが考えないといけないのが、いかにして「生産性」と「所得」を上げるかということ。九州はよく「安くて生活しやすいよね」と言われますが、この「安い」をもう1度しっかり考えた方がいい。
岡野(九州経済調査協会):赤い折れ線が九州8県と全国との所得格差。九州の所得は、今でこそ全国平均に近づいてきてはいますが、全国平均と比べて85%の所得しかない。重要なのは、東京都と比べてではなく、全国平均だということ。
では、その所得を上げるにはどうしたらいいのか、を考える必要があるのですが、そもそも九州の生産性は全国の6割なんです。
岡野(九州経済調査協会):前セッションにあったイントレプレナーの方々のお話を聞いて思ったのは、自社の事業領域と関連するものを連携させながら、町全体のプロデュースを通して新しい価値を生み出すことが、非常に大事だということですね。
村岡(ファシリテーター):グラフを見て、宿泊飲食業・サービス業の生産性が低いですが、日髙さんはどう思いますか?
日髙(訪う):九州が特にそうなんですが、日本の観光業界って女性のプレイヤーがとても少ない。なんでかなと思ったときに、恐らく「キャリアの積み上げが難しいし、稼げないから」の一言に尽きるんだろうなって。私はまだ旅行業を始めて1年ぐらいなんですけど、すでに業界を支える人の少なさに危機感を抱いていますね。
村岡(ファシリテーター):ある意味、日髙さんは逆張りのことをされている印象です。
日髙(訪う):私たちのインバウンド向けツアーは、例えばじゃらんさんや楽天さんのような一般のお客さんがオンラインで買えるような販売の仕方ではなくて、海外の旅行会社エージェントさんと直接やり取りをしています。だから、しっかりと価値があるものをつくって、しっかりお金を払ってくださるお客様に向けて展開をしている。
村岡(ファシリテーター):どれぐらいの単価か聞いてもいいですか?
日髙(訪う):具体的な単価は今からのすり合わせなんですが、サイトに載せてないプライベートツアーオンリーのものだと、2桁万円ぐらいの価格設定ですね。
村岡(ファシリテーター):2桁万円だと10万円〜99万円の幅がありますけど(笑)、でもこれってすごく面白いと思っていて、今までの旅行業って「どう安く売るか」「どう数をさばくか」を意識をしていたのに、日髙さんは「質が担保された、ここでしかつくれないもの」で展開をしているんですよね。これって本当にすごい。
日髙(訪う):さっきの話でいうと、今の働き方は「どこにいても働ける」が主流になってきている中で、我々のような着地型ツアーってどうしても労働集約型的な仕事になってしまう。つまり、地域との信頼がないと絶対にできない仕事だなって、自分が町民になって初めてわかったんですよね。
今、レスポンシブルツーリストやサスティナブルツーリストという言葉も出始めていますが、地元の人たちが「受け入れるのは嫌だ」ってなってしまうと、「何のためにやっているのか?」となってしまうので、持続できることへの意識をもってしっかり進めていきたなって。
村岡(ファシリテーター):すごくコアなことやってますよね。
日髙(訪う):大型バスが入らない集落で、神楽のツアーをさせていただいてるんですけど、受け入れキャパを超えない状態で、地元の人の生活を邪魔しない、壊さないっていうところを一番大切にしています。
村岡(ファシリテーター):日髙さんは「神楽」といった、昔からの風習に挑戦されていますが、そこに飛び込んでいくのって地域の方でも難しい中で、移住者であればなおさら大変だったと思うんです。正直移住されてまだ3年で、どう馴染んでいかれたのかなって。
日髙(訪う):誰と会う時でも必ず「高千穂の夜神楽が好きで、宮崎市から移住してきました」と言い続けました。
あとは、神楽ツアーを企画している中で、町の人から「女の子がオンラインを駆使していろいろやってるらしいぞ」となったみたいで。そういったところから少しずつご縁をいただいて、結果的に女性で初めて神楽保存会に入れていただいた。なので、あらゆるところで愛を叫び続けることしかしていなかったですね(笑)。
村岡(ファシリテーター):愛を叫び続けるがキーワードですね!
岡野(九州経済調査協会):日髙さんのような着地型ツアーの形って需要はたくさんあるでしょうね。現にヨーロッパ層の間で1日30万円のツアーでも、丁寧につくり込まれたものだと行きたい方はたくさんいる。九州の良いところを伝えることもできる取り組みなので、是非続けてもらいたいです。
村岡(ファシリテーター):今の話を聞いて思ったのが、観光もそうですけど付加価値型って行政がつくってきたことが多かった。でも今は民間企業がパワーを持ってきている気もしますよね。
岡野(九州経済調査協会):元々はそういうのをやりたいと思っていた人たちも多かったでしょうけど、それが実現できはじめているのは、民間企業の力が強まっているということなんでしょうね。
村岡(ファシリテーター):このセッションでは数字が多かったですが、九州の経済について伝わりましたでしょうか?
岡野(九州経済調査協会):経済は「生産面」と「支出面」と「分配面」があって成り立つ。ただ、実は今の一番の問題は「労働力不足」で、いくら消費があっても供給できない状況です。だから、同じ1人がたくさんの価値を生み出すことを考えないと、そもそも経済が回らない。
そういう意味でも、生産性が非常に大事だし、生産するためには設備投資をしっかりやって、価値を生み出すようにうまく結びつけていくことが大事ですね。つまりはビジネスチャンスが広がっています!
村岡(ファシリテーター):今が勇気を持って踏み出すタイミングかもしれないですね。お話ありがとうございました。
Editor's Note
九州の経済の動向から見えてきた、新たなビジネスの可能性!漠然と経済動向を捉えていた方も、改めて数値で意識することで決意を新たにした方も多いのではないでしょうか。
YURIKA YOSHIMURA
芳村 百里香