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LOCAL LETTER

これからは “ここにしかない価値”が求められる。九州パンケーキ・村岡浩司さんから学ぶ「ローカルビジネスにおける価値観の転換」とは

JAN. 17

拝啓、大量生産・大量消費の次の時代を望むアナタへ

新型コロナウイルスで大打撃を受けた飲食業界。多くの店舗が売上減に苦しむ中、この1年半でショッピングモールや商店街にあった3店舗の飲食店を閉め、人が集まりにくい郊外へ新たに3店舗の飲食店をオープンする決断をしたひとりの男性がいます。彼の名は、村岡浩司さん。

村岡さんは多数の飲食店を経営する一方で、“九州”という単位に人一倍の可能性を見出し、「九州パンケーキ」をはじめとする「KYUSHU ISLANDⓇ/九州アイランド」プロダクトシリーズを全国に展開。溢れる地元愛は留まることを知らず、2018年には「九州バカ」という本も出版したほど。

そんな地元を愛してやまない村岡さんが考えるローカルビジネスにおける価値観の転換、そして2021年9月にオープンしたばかりの通称 “廃校カフェ” に対する想いについて伺いました。

村岡 浩司(Koji Muraoka)さん 株式会社一平ホールディングス 代表取締役社長 / “世界があこがれる九州をつくる”を経営理念として、九州産の農業素材だけを集めて作られた九州パンケーキミックスをはじめとする、「KYUSHU ISLAND®︎/九州アイランド」プロダクトシリーズを全国に展開。多数の飲食店を経営する一方、九州各地にて様々な地元創生活動や食を通じたコミュニティ活動にも取り組んでいる。

捨てられた廃校に命を!「捉え直し」で生まれる新しいストーリー

宮崎市中心街から車で20分。宮崎市高岡町穆佐(むかさ)地区の美しい山地にひっそりと佇む、MUKASA-HUBと呼ばれる施設があります。

中に入ると思わず「オシャレ!」と声に出してしまうほどの素敵なMUKASA‐HUBですが、なんと元廃校。旧宮崎市立穆佐小学校は2011年に移転廃校となり、永らく眠りについていましたが、村岡さんとの出会いをきっかけにその姿は一変します。

廃校との出会いについて「一目惚れだった」と話す村岡さんですが、一度は捨てられた場所を再利用しようと情熱を燃やし、再び人が集まる場所へと進化させた理由について尋ねました。

「小学校という場所はすごくって、全国民が100%一度は通った経験のある場所なんです。もちろん楽しい思い出や、そうじゃない思い出もあるとは思いますが、少なくとも皆さんにとっての初めての社会ですよね。

また、小学校って、かつてはまちのコミュニティの真ん中にある場所だと思いませんか。例えばバザーがあったり子供会があったりして、地域の繋がりの中心にあった気がしません? そこを僕たちの活動の拠点として使えるんだと思って、ワクワクしたんです」(村岡さん)

その後、1億円以上のリノベーション費用をかけて廃校を本社として整備し、同時にベンチャー企業など若い起業家たちのビジネスをサポートする拠点としてMUKASA‐HUBをオープンさせたのが2017年。

村岡さんは「まちづくりにおけるキーワード的トレンドは移り変わっていくけれど、MUKASA‐HUBのオープン当時は、廃校をはじめとした公共の遊休資産や地域資源の利活用について言われ始めた時期」だと話します。

「廃校って結局は捨てられた場所。でもそれを “地域資源” って捉え直すと、違った文脈で物語がスタートするんですよ。これってすごくおもしろくて、例えば無人駅って線路側からすると負の遺産でしかないですけど、陸側から見れば沿線道路の中心であったり駐車場が近くにたくさんあって、まちの真ん中なんですよね。

こんな風に物事の捉え直しをして、新しい物語の起点にすると、そこから何かが生まれる。そういった意味で、廃校と出会ったときに、いろんなストーリーを想像したというか、一気に妄想が膨らみました」と村岡さんは嬉しそうに話します。

キーワードは “地元の人”。コロナ禍で起きた「豊かさの再定義」とは

創業支援施設 兼 本社社屋として誕生したMUKASA‐HUBでしたが、2021年秋にカフェ「MUKASA Coffee&Roaster」(以下、ムカサコーヒー)をオープンさせたことにより、一気に地元の人が集う場所になりました。“地元の人” をキーワードにつくったというカフェに対する想いには、コロナ禍で感じた苦しみがあったと村岡さんは話します。

2020年の春以降、いろんな気づきというか反省がありました。この1年半はとても辛かったですね。僕が32歳の時に一番初めに手掛けて19年間頑張ってきたお店も含めて、合計3店舗を畳みました。1月末に閉店したショッピングセンターのお店なんかは、開業して1年半しか経っていなかったので全額損金。ほんと大変でした。

これが10年前だったらどういう判断をしていただろうと思うのですが、きっと僕個人の感情を優先させて、むしろ拡大路線に突っ走ったと思います。しかし今の僕としては、一か八かのギャンブルはせず、全てを1回捉えなおすという判断をしました。今僕は51歳なんですけど、10年後だったら事業自体を諦めていたかもしれません。

どれが正解という話ではなくて、今の僕の判断は、店舗の存在価値を捉えなおすということ。この1年半でショッピングモールや商店街のお店を3店舗閉めて自然豊かな郊外に3店舗新しくお店を出すことにしたんです

世界中の既存の価値観が揺らいだ激動の1年半で大きな決断をした村岡さん。その想いに至った背景について伺いました。

「飲食業界でビジネスをやってる人たちって、起業のきっかけは『友達が集まる場所をつくりたい』とか『地元の人を驚かせたい』とか、そういった身近な人に対する想いからスタートしていると思うんです。でも事業の拡大に伴って、いつの間にかそういった感覚を忘れてしまって、売り上げ優先になっていました。“駅ナカ” とか “ショッピングモール” といった好立地の場所の取り合いを繰り返し、いかに売上を伸ばすかという話になっていたような気がします。

でもコロナ以降はそういった場所、いわゆる一等立地がダメージを受けました。また、飲食業自体も不要不急と呼ばれるようになり、これまでの価値観からの転換を迫られたような気がしています。『果たしてどこまでも売上を追いかけることって正義なのか』、『自分は一体何のために商売をしてるんだろう』って。豊かさの再定義というか、存在意義の捉え直しをしたいその想いからこのムカサコーヒーをつくりました」(村岡さん)

村岡さんがたどり着いた、地元ファーストのコミュニティカフェ

“豊かさの再定義のためにつくった” というムカサコーヒーの特徴の一つは、食器やテーブル厨房機器など、店舗にある全てのものをリユースしているところ。

「全て廃業した店舗のものをリユースして使っています。なのでここには新しいものは何もないし、そもそも廃校なので、ピカピカなものが何もないんです。でも、先ほど言った “忘れてしまっていた感覚” とか “自分の中あった長年の疑問点” のようなものを素直に表現して、一つの場として世の中に問いただしたいと思い創り上げた場所なんですよ。

極論、無理をしない方がいいって思っていて、稼働日も木曜日~日曜日の週4日だけ。つまり週休3日にしてるんです」と村岡さんは笑います。

ムカサコーヒーはオープンからわずか数ヶ月ですが、店頭に並ぶパンの種類もぐんぐんと増えているのだそう。この背景には、“近所の人たち” とのコミュニケーションが起因していました。

「顔が見えない誰かの話しは聞く耳を持ちにくいですけど、顔が見える近所の人の話しだったら聞くし、聞かざるを得ないでしょ?(笑)近所の人の声ってすごく鍛えられるんですよね。『もうパンないの?』とか『もっと甘いパンつくって』とか。

近所のおじいちゃんおばあちゃんが座談会をしてる中で、親子連れがいて子どもが走り回ってたり、仕事をしてる人がいたり…。みんなそれぞれの想いでこの空間を共有できるのって最高じゃないですか? 今まで悩んで、たくさん回り道をしてきたからこそ、僕らが表現できる最高の形がここにありますね」(村岡さん)

何でも買える時代だからこそ求められる、ここにしかない価値

村岡さんとお話をするなかで、特に印象に残ったのが再現性という言葉。村岡さんが考える再現性とは、一体なんなのでしょうか。

これからの時代は”ここにしかない価値”が求められると思っています。例えばショッピングセンターに入ってるフランチャイズのお店は、当然展開力のある”再現性が高い”ビジネスモデルです。今ってどの百貨店やショッピングモールに行っても、同じテナントが入ってますよね。

モノがなかった時代だと、“うちの町にも同じものが欲しい!” ってみんなが求めていてどんどん中央からのブランドが地方にも押し寄せてきました。でも今はネットで何でも買える時代ですし、みんながそうした再現性の高い、どこにでもあるブランドを求めているわけではない。

そこから考えるとMUKASA‐HUBは元々廃校ですし、ムカサコーヒーは唯一無二のコンセプトです。もちろん多店舗展開の可能性、つまり再現性なんてゼロに近い。でもね、僕が思う”ここにしかない価値”、つまり再現性の低さっていうのは、これからは武器になると思うんです。だって、それは“地元の人しか知らない独特なエモーショナルなもの” だから」(村岡さん)

「究極的にいうと、僕はこのカフェを近所の人のためだけにやっています隣のおばちゃんがちゃんといつでもパンを買えることが大事だし、地元の卒業生が戻ってきたときに『こんな素敵な場所になってるんだ!』と思ってもらえることが嬉しい。そういった、人の感情が動いたり、近所の人と一緒に楽しそうにしていたりする場所って『行ってみたい!』って思うでしょ?

再現性は高めればその分、感情が入り込む余地が少なくなりますが、再現性が低ければ、人は感情を入れ込みやすい。再現性がないもの、つまりは”ここにしかない価値”ということです。わざわざ探さないと見つからないもの、無理をしてでも手に入れたいもの、だからこそ人は惹かれるのだと思います」(村岡さん)

無理してスケールをせず総和として成長する。村岡さんが目指す「彩りのいい世界」とは

固定概念に捉われず、時代を見据えながら挑み続ける村岡さんですが、最後に今後の目標について伺いました。

「九州の豊かなところ、例えば景色がいいとか、空気が澄んでいるとか、そういったところに九州パンケーキのカフェをつくりたい。そしていつか、九州パンケーキを訪れる旅が “九州の原風景を発見する旅” になるのが、僕の今の目標。よくないですか? 公園の中とか洞窟の中とかに、何これ?ってカフェが現れるイメージです」と村岡さんは笑う。

「僕の尊敬する仲間でもある田口君(株式会社ボーダレス・ジャパン 代表取締役社長・田口一成氏)が『大物がたくさんいる世界よりも、本物がたくさんある世界のほうが彩(いろど)りがいい』って言っていたんですけど。僕も、まさしくそういう彩りがいい世界をつくりたいと思っています。

今までの “大量生産・大量消費という再現性の高いビジネスから生まれた大量のモノを全国民に送りこむ” 時代から、“再現性は低いけれど、個性的なものをみんなが評価してくれる 時代に移り変わってきているんです。個性の総和が彩りとなって豊かなローカルの暮らしを豊かにしてくれるのだと信じています」(村岡さん)

「例えばポテトチップス。これまではいかに設備投資をして大量生産ができるか、全国のスーパーに売るかという勝負だったと思います。しかしこれからは『この土地で獲れたオーガニックなジャガイモで、一袋ずつ丁寧に作ったここでしか買えないポテトチップス』みたいな方がおもしろいと思うんです。そういった情緒価値の高い製品って、むちゃくちゃデジタルとの相性も良いですよね。無理な価格競争に巻き込まれることもありません。

よくスタートアップの現場では『再現性はあるの?スケーラビリティ(拡張性)は考えてるの?』って言われます。でも、ローカルビジネスにおいて、これからのイケてると言われる事業はスケール(事業拡大)を絶対価値としない方法もあると思うんです。ここにしかないものも、小さくても理念を大切にして、そうした付加価値の集合体がまちを彩っていくイメージ。“スケールせず、総和として成長する” という考え方がこれからは浸透してくると思っています」(村岡さん)

“ONE KYUSHU” を合言葉にずっと走ってこられた村岡さんだからこそたどり着いた、「ローカルビジネスにおける価値の転換」。どこまでも売上を追い続ける日々ではなく、身近な人を大切にする想いで作り上げた一見して再現性のない世界が、個性として人々を魅了し続けます。

「2019年までの地方は『どうやって東京や海外から人を呼んでくるか』にフォーカスを当ててばかりでした。でもこれからの時代に考えるべき問いは『本当に地元の人が喜んでくれているのか、楽しんでいるのか』

地元の人が県外の人に『うらやましいでしょ!』って言えるような、まちづくりが求められていると思いますし、僕自身が目指していきたいと思いますね」(村岡さん)

Information

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Editor's Note

編集後記

今回はMUKASA-HUBを訪れての取材になりました。素敵な場所に思わず「自分の地元にもあったらいいのに」と今回の学びと真逆のことを思ってしまいましたが(笑)、こんなに素敵な場所にも関わらず、村岡さんは『箱は箱でしかない』と語っていたのがとても印象的でした。
『箱は箱でしかなくて、そこに彩りを加えるのはここに集う人たち。まさに今日全国から来ていただいてますし、近所の人たちも含めていろんな人たちとここを彩ってもらいたい』

そんな想いを語れる村岡さんが作り上げた場所だからこそ、初めて訪れた私たちが「また来たい!」と思える素敵な場所なんだと思いました。

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