NIIGATA
新潟県
あれは確か、高2の夏の出来事だっただろうか
蒸し暑い日差しの中、体育館に響くスキール音。
蛇口から流れ出る生ぬるい水。
汗が沸騰する音が聞こえる夏に
大好きだった先輩が亡くなった。
部活中に届いた一通の訃報
鳴り止まない通知に発熱した携帯が
その信じがたい出来事が”真実”であると伝えている気がして嫌になる。
なんとなく目を向けた時計の針は
何事もなかったかのように秒針を刻む。
「時間はすべての人間に平等に与えられている」と言うけれど
本当に人に平等に与えられてるものは「いつか死ぬ」ってことなんじゃないかな。
部活終わりの駅から家までの帰り道
通り過ぎた葬儀場で、先輩の名前を見て、目をそらす。
人は大切な何かを失うと
辛いとか悲しいとか以上に痛いんだと知った。
胸の奥の思い出のアルバムにそっと栞を挟み込む、
今、この瞬間、溢れ出した感情を忘れてしまわないように。
あれからもう何度目の夏だろう。
今年も友達と夏の計画を練る。
「これを見ないと夏が始まらないんだ」
そう言って友達が持って来た “ 長岡花火大会 ” のチラシ
「世界一美しい花火」だとか、「視界に収まりきらない迫力」だとか
いろんな感想があるけれど、ただ、
「日本で唯一、慰霊と平和への願いを込めて打ち上げている花火」
という一言が、私の心のアルバムに手をかける。
日本三大花火の 1 つ、「長岡まつり大花火大会」
長岡まつりで打ち上がる火の花は、
美しさを競うためのものではなく、
慰霊と平和への願いを込めて打ち上がる花火。
今から72 年前の1945 年8 月1 日、午後10 時30 分
新潟の空に現れたB-29 と呼ばれる無数の悪魔たち
当たり前に続くと思っていた日常が
当たり前じゃなくなる瞬間。
燃え盛る炎の中に1,486 名の尊い命が失われた。
2017 年8 月1 日、午後10 時30 分
毎年この時間になると、空に一輪の「白菊」が咲く
空襲で亡くなられた方々への慰霊、復興に尽力した先人への感謝、恒久平和への願いを込めて。
今年も、夏の終わりを知らせるように
最後の花火が、日本のどこかで響いて消えた。
どれほどの人が、空に咲く美しい花に涙したのだろう。
どれほどの人が、勇気を出して想いを伝えたのだろう。
そういえば、打ち上げ花火は
下から見ても横から見ても丸く見えるらしい。
それなら、きっとこの広い空の上からも、、
君にもちゃんと見えてるいのだろうか。
この場所にこれて本当によかった。
栞を外して、ページをめくる
“ もう夏の来ない君へ ”
空に咲く美しい花束と。
「ただ、ありがとう。」
WHERE is 新潟県長岡市”長岡まつり大花火大会”
http://nagaokamatsuri.com/
RYOHEI ITO
井藤 良平