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LOCAL LETTER

秘訣は開放状態?クラフトサケ「haccoba」の発想力とチームづくり

NOV. 14

FUKUSHIMA

拝啓、プロダクトとチームにおける「軸のつくり方」を知りたいアナタへ

お酒の新ジャンル『クラフトサケ』をご存知でしょうか。

いま注目のクラフトサケ醸造所「haccoba -Craft Sake Brewery-(ハッコウバ)」代表・佐藤太亮さんに「ユニークな商品」が生まれる秘訣を、お酒づくりに通じるという「どぶろくの文化」から、せまります。

『クラフトサケ』とは“醸造所ごとのオリジナリティを楽しめる“、日本酒(清酒)の製法をベースとしたお酒です。お酒を定義する酒税法においてはその他の醸造酒に分類されます。

「米、米麹、水を原料として発酵」させるのは日本酒と同じですが、発酵段階でフルーツやハーブなどの「副原料」を、自由な発想で加えます。日本酒の製法をベースにしながら、そのルールに縛られない自由で多様なお酒であることが、新ジャンルと呼ばれるゆえんです

発酵中の白濁した状態を「醪(もろみ)」と呼びますが、この状態で仕上げるのがどぶろくというお酒。この醪を「濾(こ)し」て透明にすると『日本酒(清酒)』になります。『どぶろく』は「濾す」工程が必要ではなく「その他の醸造酒」に分類されるので、『クラフトサケ』醸造所でもつくられています。

佐藤 太亮(Sato Taisuke)氏 haccoba -Craft Sake Brewery- 代表 / 新ジャンル「クラフトサケ」醸造家。「酒づくりをもっと自由に」という思いのもと、2021年2月に醸造所兼パブを福島県南相馬市小高区にオープン。2023年10月、浪江町の新醸造所でも醸造開始。2025年頃に、ベルギーに醸造所を開設すべく準備中。クラフトサケブリュワリー協会 副会長。
佐藤 太亮(Sato Taisuke)氏 haccoba -Craft Sake Brewery- 代表 / 新ジャンル「クラフトサケ」醸造家。「酒づくりをもっと自由に」という思いのもと、2021年2月に醸造所兼パブを福島県南相馬市小高区にオープン。2023年10月、浪江町の新醸造所でも醸造開始。2025年頃に、ベルギーに醸造所を開設すべく準備中。クラフトサケブリュワリー協会 副会長。

東北地方の「どぶろく」づくりの手法『花酛(はなもと)』を酒づくりの基本に、3系統の商品をつくる

日本では、古来より「酒(=どぶろく)」は各家でつくり、豊作への感謝などで神様にお供えしていました。そして、できあがったお酒を仲間と酌み交わす、生活に密着した「どぶろくの文化」がありました。

ところが、味噌や漬物づくりのようにあたり前だった“お酒の自家醸造が明治期に禁止”され、今日に至っています

一方で、宗教上で禁止されている国以外において、世界には“自家醸造が合法”の国は多くあります自宅でビールを醸造するなど、小規模な施設でお酒を丁寧につくるクラフトの潮流が、日本酒にも波及してきて、世界各地で「クラフトサケ醸造所」が増えているのです。

「お酒づくりの楽しさを、いまの日本では個人が体験できないんですよね。だから、僕たちが飲んでみたいお酒をワクワクしながらつくるので、いろいろなコンセプトのお酒を、ぜひ体験してみて欲しいですね」(佐藤さん) 

そう語る佐藤さんが手掛けるhaccobaには、基本にしているお酒づくりの製法があります。それは、東北地方に伝わる「どぶろく」づくりの手法『花酛(ハナモト)』です。

お酒づくりの過程で、「雑菌」が発酵中のお酒を腐らせてしまうことがあります。そこで、雑菌の増殖を抑えてくれることを期待して“植物の煮汁を使う製法”が、「どぶろく」づくりで生まれました。煮汁に使う植物とは、東北地方に自生する「唐花草(カラハナソウ)」という日本原産のホップです。

「東北地方の人たちは、『どぶろく』を上手につくりたい一心で、菌たちとつきあう知恵を生み出したのでしょうね」(佐藤さん)

haccobaでは、3系統の商品を展開しています。メイン商品の『はなうたホップス』は、「ビールのドライホップ製法」を取り入れたお酒です。クリアなうまみと爽やかな柑橘の香りを追求しています。

そして、副原料の使用を減らして米の味わいを楽しむ、準定番商品の『水を編む』(通称 “田んぼシリーズ”)。地元のお米農家さんの、田んぼごとに異なるお米の味わいを楽しめるお酒です。

もうひとつの商品『haccoba LAB_(ハッコウバラボ)』シリーズは、さまざまなジャンルの方々とコラボレーションして、1度だけつくるお酒。1本ごとに“どういう体験を届けたいか”の設計書を作成してつくる、酒づくりをもっと自由にという世界観を表現していくお酒です。

(左)メイン商品『はなうたホップス』 / 柑橘を感じる爽やかな香りと味わいを意識して醸造。熟成が進むとお酒がピンク色に変化していく。(右・上下)準定番の商品『水を編む』。通称“田んぼシリーズ” / ラベルの下から別のラベルが現れるギミックも面白い。
(左)メイン商品『はなうたホップス』 / 柑橘を感じる爽やかな香りと味わいを意識して醸造。熟成が進むとお酒がピンク色に変化していく。(右・上下)準定番の商品『水を編む』。通称“田んぼシリーズ” / ラベルの下から別のラベルが現れるギミックも面白い。
『haccoba LAB_』シリーズは、2023年8月時点で26銘柄が誕生。コンセプトは「酒づくりをもっと自由に -さまざまな垣根を超えた自由研究-」。食、アート、ファッションなど、多様なカルチャーが混ざり合うワクワクするお酒。微生物に聴かせる音楽CDの制作や、福祉実験ユニット「ヘラルボニー」とのコラボなど、コラボレーション先への想いや共感から始まるお酒づくりもあるそうだ。
『haccoba LAB_』シリーズは、2023年8月時点で26銘柄が誕生。コンセプトは「酒づくりをもっと自由に -さまざまな垣根を超えた自由研究-」。食、アート、ファッションなど、多様なカルチャーが混ざり合うワクワクするお酒。微生物に聴かせる音楽CDの制作や、福祉実験ユニット「ヘラルボニー」とのコラボなど、コラボレーション先への想いや共感から始まるお酒づくりもあるそうだ。

プロダクトづくりにおける「発想の出発点」は、“自分が飲みたい酒”であること

酒づくりをもっと自由にというコンセプトを体現する佐藤さんですが、ユニークな商品が生まれる秘訣は、どこにあるのだろう。

佐藤さんは、世の中にあるお酒づくりの発想の出発点が、下記の3つであると考えています。

1、自分でつくりたいお酒 
  →(「つくり手」が、製法や技法にこだわって“実現したい酒”)

2、自分を一消費者として、飲みたいと思うお酒
  →(「つくり手」が、ただただ、“飲んでみたい酒”)

3、消費者に向けてつくる、こういう酒を飲んでみたいのではないか、というお酒 
  →(「つくり手」が、“マーケティング視点でつくるお酒”)

佐藤さんが大事にしたい​のは2番自分たちが飲みたい、飲んでみたい酒をつくることだと言う。

「『僕たちが飲みたいと思ってつくる酒』を大事にしています。それは、僕らのように強烈に飲みたいと思っている人に、届けられるかもしれないと思っているからです。

だから、大きな需要や市場調査にそこまで迎合するつもりはありません。結果的に、僕たちが一消費者として飲みたいと思える酒をつくれば、同じ時代に生きている人たちの、たぶん一定数の人たちは、飲みたいと言ってくれると思っています」(佐藤さん)

(上・左下)haccoba 浪江醸造所。あらゆる醸造酒をつくれる酒蔵を目指し、2023年10月に開業。(右下)2023年秋冬、小高駅にも醸造所が完成予定。地域の物産やお土産のマーケットが併設される。
(上・左下)haccoba 浪江醸造所。あらゆる醸造酒をつくれる酒蔵を目指し、2023年10月に開業。(右下)2023年秋冬、小高駅にも醸造所が完成予定。地域の物産やお土産のマーケットが併設される。

haccobaの『集団的創造』に他ジャンルの『素人の感覚』が混じりあって生まれるチーム力が、商品づくりの肝

少数精鋭で多種多様な商品を手がけてきたhaccobaですが、目指すチーム像は、どういうものなのでしょうか。佐藤さんが例にあげたのは、デジタルアートで世界的に有名な、チームラボ代表・猪子寿之さんの集団的創造

『集団的創造』とは、「メンバーごとに異なる専門性を活かし、それぞれが関わる現場の経験から得た知を、集団全員で共有していく。それが新たな創造につながる」という考え方『集団的創造』により、酒づくりがどのように変わるのだろうか。

“まだ見ぬ新しい体験を感じるようなお酒”を、チームであればつくれるかもしれない、と思っていますだから、『1人の天才的な杜氏さんがいて、その人の手によって、この凄い酒ができています』みたいなのとは考え方が違います。自分が天才だなんて思っていないので、僕が決めた方向性よりも“チームのカタチ”が味に影響をおよぼすんじゃないかと思っています。

だから、メンバーには、『チームによるお酒づくりが面白い』と思ってほしい自分でも、そっちの方が楽しいと思うんですよ。表現したいと思う酒の味、ラベルのデザインや売り方、コミュニケーションの方法なども、チームみんなで情報を共有しながらプロダクトづくりをしています。

それから、さまざまなジャンルのみなさんとも、同じチームとしてコラボする『haccoba LAB_(ハッコウバラボ)』をやってきて、『イイな』と思うことがあります。それは、よい意味で『素人の感覚』が加わるんです。僕たちだけでは考えつかないようなご意見から、お酒や商品づくりの新しい着想が生まれたりもします」(佐藤さん)

haccobaのプロダクトづくりには、“お酒を自由につくる喜び”を知る「どぶろくの文化」にヒントがあった

最後に、「これから飲んでみたいお酒」と「会社の展望」について、佐藤さんに伺いました。

「ビールもワイン業界も世界的に“その土地ならではの素材や製法”に回帰しています。日本酒は、『地酒』って言葉が生まれたくらい、地域色が豊かですが、僕は、さらに、自由にお酒を自家醸造していた、かつての『どぶろくの文化』にロマンを感じています。『どぶろく』には、“家庭の数だけつくり方と味があった”はずです」(佐藤さん)

途絶えていた製法に挑戦したり、自分が好きな味わいを追求できるのは、小規模の醸造で丁寧なつくり方をしている、“クラフトの世界”だからこそ。

「2025年頃にベルギーに醸造所を開設できたらと、準備をしています。日本酒とベルギービールの製法を掛け合わせてみたいのです。個人的には『ベルギービールの文化』と『どぶろくの文化』が、けっこう似ていると思っているんですよ。

『ベルギービールの文化』は、その土地だけの製法が根強く残っていて、たとえば、野生の菌を外から受け入れる製法があります。実は『どぶろく』や『日本酒』も、もともとはタンクを密閉しない、“開放状態”でつくるお酒なんです。『微生物(菌)』たちの営みに身を委ねるというか。そんな複雑性を受け止める共通の文化があって、個人的に『絶対に相性がいい!』と思っています」(佐藤さん)

つくりたい土地で、自分が飲んでみたいお酒をつくる。ベルギーでお酒をつくる計画が進行するほど順風満帆に見えますが、最近、会社を一緒に立ち上げたメンバーが独立したことで、「どうやって会社を運営していこうか」と一時、不安になったそうです。

「それでも、今いるメンバーと、新しく入ってくるメンバーの創造性を、僕は信じているんですhaccobaという組織も、密閉しないお酒の醸造タンクのように常に“開放状態”にして、発酵の変化を許容するそんな組織でありたいな、と思っています」(佐藤さん)

その時代のメンバーがつくる酒。メンバーが入れ替わった先に、自分たちが飲みたい酒が変化していくことを、受け入れる。そういうしなやかさが、100年、200年と何代も地域で続くような酒蔵になると、佐藤さんは考えています。

haccobaのユニークなお酒と商品に携わるチームの軸のつくり方。それらに“共通の秘訣”は、内外の創造性を受け入れる“開放状態”にありそうだ。

アナタも、プロダクトやチームの「軸づくり」に、さまざまなジャンルの豊富な事例から、いま必要な情報を探してみませんか?

Editor's Note

編集後記

お酒のタンクの中は、いろいろな条件やバランスが左右する微生物たちが織りなす“発酵の場”。haccobaさんのメンバーとコラボ先のメンバーが、個々の創造性を活かしながら、ひとつのチームとなってお酒を完成させていく。そんな雰囲気をhaccoba(ハッコウバ)という社名からも感じました。

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