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LOCAL LETTER

寛容性を高めることで人の流動性が生まれる。今後の地域創生ビジョン

MAY. 18

拝啓、地域を面白がり可能性を拡げてくれる関係人口をつくりたいアナタへ

※本レポートはPOTLUCK YAESU様、株式会社SHIFT PLUS様のスポンサードによって行われた、地域経済活性化カンファレンス『SHARE by WHERE』で行われたトークセッションを記事にしています。

日本全国の各地域の共通課題として「人口減少・少子高齢化」が叫ばれる中、その根本的な解決策は未だに見つからず、各地域が手をこまねているように感じます。

今回のトークセッションでは、各地域の第一線で地域創生に関わるプレイヤー5名が「人口減少、少子高齢化ではない地域創生ビジョンとは!?」をテーマに様々な切り口から、地方創生について考察。

トークセッションの中で出てきたのは「関係人口」の重要性と、寛容性を高めることで生まれる「関わりしろ」の可能性。地域・個人の枠を越え、一緒に地域を面白がってくれる仲間を見つけたいと思っている方にぜひご一読いただきたい内容です!

地方創生に取り組み10年。そもそも人口減少・少子高齢化は問題なのか?

高木氏(モデレーター:以下敬称略):初めに地方創生の概念について、富田町長教えていただけますか?

富田氏(以下敬称略):地方創生はここ10年の概念で、大きなテーマは2つです。1つは、都会に流出する人を地方に呼び戻す。もう1つが、少子化対策。

10年間で地方創生のプロセスは微妙に変わっていて。途中、総務省から “SDGs” の概念が出て、そして今 “ウェルビーイング” が出始めている。大きなトレンドは変わってきているけど、実際に現場でやっていることは変わらないと思っています。

富田 能成(Yoshinari Tomita)氏 横瀬町町長 / 1965年横瀬町生まれ。横瀬小、横瀬中、熊谷高、ICU 卒。1990年~2009年、日本長期信用銀行(現新生銀行)。法人営業、メキシコ留学、米国支店勤務等経て、不良債権投資や企業再生の分野でキャリアを積む。 2011年4月から横瀬町議会議員を経て、2015年1月より現職。官民連携プラットフォーム「よこらぼ」を立ち上げるなど、都市圏の人材や民間活力を小さな横瀬町に呼び込む施策を次々展開、地方創生のフロントランナーとして注目されている。
富田 能成(Yoshinari Tomita)氏 横瀬町町長 / 1965年横瀬町生まれ。横瀬小、横瀬中、熊谷高、ICU 卒。1990年~2009年、日本長期信用銀行(現新生銀行)。法人営業、メキシコ留学、米国支店勤務等経て、不良債権投資や企業再生の分野でキャリアを積む。 2011年4月から横瀬町議会議員を経て、2015年1月より現職。官民連携プラットフォーム「よこらぼ」を立ち上げるなど、都市圏の人材や民間活力を小さな横瀬町に呼び込む施策を次々展開、地方創生のフロントランナーとして注目されている。

田村氏(以下敬称略)僕自身地域に関わる中で当初は、各自治体からご当地映像をつくりたいという相談が多くて。「うちの地域はこんな酒・魚が美味しくて、人が優しくて、という映像を制作したい」という内容がどんどん変化していったなと感じています。

田村 大(Hiroshi Tamura)氏 株式会社リ・パブリック共同代表 / 神奈川県出身、1971年4月4日生、神奈川県横浜市出身。東京大学文学部心理学科卒、同大学院情報学環・学際情報学府博士課程単位取得退学。1994年博報堂に入社。デジタルメディアの研究・事業開発などを手掛けて、イノベーションラボに参加。2013 年に退職して、株式会社リ・パブリックを設立。2009年、東京大学工学系研究科の堀井秀之教授とともにイノベーションリーダーを育成する学際教育プログラム・東京大学i.schoolを立ち上げる。現在、九州大学・北陸先端科学技術大学院大学で客員教授を兼任。
田村 大(Hiroshi Tamura)氏 株式会社リ・パブリック共同代表 / 神奈川県出身、1971年4月4日生、神奈川県横浜市出身。東京大学文学部心理学科卒、同大学院情報学環・学際情報学府博士課程単位取得退学。1994年博報堂に入社。デジタルメディアの研究・事業開発などを手掛けて、イノベーションラボに参加。2013 年に退職して、株式会社リ・パブリックを設立。2009年、東京大学工学系研究科の堀井秀之教授とともにイノベーションリーダーを育成する学際教育プログラム・東京大学i.schoolを立ち上げる。現在、九州大学・北陸先端科学技術大学院大学で客員教授を兼任。

大瀬良氏(以下敬称略)僕は地方創生を大きな政策の柱に掲げた当時の安倍政権に関わる中で、「人口減少・少子高齢化にどうにか対処する」という総理の原稿の枕詞に違和感がありました。そもそも人口減少や少子高齢化は問題なのか。そこが今回のテーマのきっかけになると思います。

結婚しない・子どもを産まない選択など、多様な生き方を尊重すると言う一方で、人口減少を問題視することは矛盾している。人口減少に対して、行政や町の仕組みが対応できていないことが問題ではないかと。

大瀬良 亮(Ryo Osera)氏 株式会社遊行代表取締役、旅のサブスク「Hafh(ハフ)」創業者、一般社団法人日本ワーケーション協会 顧問 / 筑波大学卒業後、株式会社電通に入社。内閣官房に出向し、安倍政権のSNSを監修。2019年に旅のサブスク「Hafh(ハフ)」を創業、そして今年株式会社遊行を創立。
大瀬良 亮(Ryo Osera)氏 株式会社遊行代表取締役、旅のサブスク「Hafh(ハフ)」創業者、一般社団法人日本ワーケーション協会 顧問 / 筑波大学卒業後、株式会社電通に入社。内閣官房に出向し、安倍政権のSNSを監修。2019年に旅のサブスク「Hafh(ハフ)」を創業、そして今年株式会社遊行を創立。

ユニークに目立ち、選ばれるマーケティングが重要。各行政視点で考える、地方創生施策とは

富田行政サービスにおいて、人口減少対策は説明がしやすいんですよね。「移住促進・少子化対策・切れ目のない子育て支援」全部が人口減少対策のカテゴリーに入ってくるので、まずこの課題にあたっていくという大前提があって、いろいろな政策を作ることに繋がっていると思います。

田村流山市はなぜ人口が増えているんですか?

河尻氏(以下敬称略)鉄道(つくばエクスプレス)が通った影響に加え、来て欲しい移住者像を明確にしたことで、その人たちが引っ越して来てくれたと思っています。

河尻 和佳子(Wakako Kawajiri)氏 千葉県流山市マーケティング課 課長 / 1972年生まれ。東京電力で14年間、営業、マーケティング等を担当。流山市の街を売り込むための任期付職員公募に応募し、前例のない自治体マーケティングの道に入る。首都圏を中心に話題となった「母(父)になるなら、流山市。」広告展開や、母の自己実現を応援する「そのママでいこうproject」、年間16万人を集客する「森のマルシェ」の企画・運営などを手掛ける。
河尻 和佳子(Wakako Kawajiri)氏 千葉県流山市マーケティング課 課長 / 1972年生まれ。東京電力で14年間、営業、マーケティング等を担当。流山市の街を売り込むための任期付職員公募に応募し、前例のない自治体マーケティングの道に入る。首都圏を中心に話題となった「母(父)になるなら、流山市。」広告展開や、母の自己実現を応援する「そのママでいこうproject」、年間16万人を集客する「森のマルシェ」の企画・運営などを手掛ける。

富田流山は人口の流動性がある地域なので強い。通勤圏だから、みんな千葉県の何市に住んでもいいと考えていて、その中で比較優位とか相対優位を作ったのが今の流山ですよね。

高木僕は地域にはどうやって地域がユニークに目立って、選ばれていくかというマーケティングの視点が大事だと思っていて。富山県の成長戦略会議では面白い人・新しい価値を生む人に関わってもらうしかないという話になりました。

ただ地方ほど居住者を大事にして、外部から来る人との線を引きがちです。富山で面白い活動をしていると僕が感じた人は、一回県外に出た経験があったり、富山出身のパートナーがいた移住者だったり。つまり町を面白くしているのは関係人口だと思いますね。

高木 新平(Takagi Shinpei)氏 株式会社ニューピース 代表取締役CEO / 1987年富山県射水市出身。 高岡高校、早稲田大学卒業後、(株)博報堂に入社。 2014年独立し、(株)NEWPEACEを創業。 未来志向のブランディング方法論「VISIONING®」を提唱し、スタートアップを中心にこれまで数多くのブランドの非連続成長に携わる。富山県成長戦略会議委員、富山県クリエイティブディレクターも務める。
高木 新平(Takagi Shinpei)氏 株式会社ニューピース 代表取締役CEO / 1987年富山県射水市出身。 高岡高校、早稲田大学卒業後、(株)博報堂に入社。 2014年独立し、(株)NEWPEACEを創業。 未来志向のブランディング方法論「VISIONING®」を提唱し、スタートアップを中心にこれまで数多くのブランドの非連続成長に携わる。富山県成長戦略会議委員、富山県クリエイティブディレクターも務める。

高木ただ関係人口をつくるためには、まずは地域が認知されないといけない。そのために、香川県の “うどん” など、入口となるイメージが地域には必要で、富山では “寿司” を観光のフックにし関係人口増に繋げようとしています。

田村なぜ “寿司” をフックにしたのでしょうか?

高木日本海で獲れる魚種800種の内、500種も獲れるほど富山の水産資源は豊かですが、以前は金沢の寿司屋で提供されることが多かったんです。それが、最近山の中にできた L’évo (レヴォ) というオーベルジュがSNSなどで有名になり、世界中の人が富山の山奥に集まるようになりました。

立地が悪くても人が来ることがわかったので、寿司に関わるシェフやクリエイターを集めたり、寿司職人の海外留学プログラムを作ったり、富山でもとことん寿司を突き詰めることにしたんです。寿司を起点に一度富山を訪れてもらい、今後関係人口を増やすための具体策は、地域の人や行政と一緒に考えています。

酒蔵や農家もアーティスト!眠っている地域資源を活かす仕組みづくり

大瀬良地域にクリエイティブを取り込もうとすると、芸術分野のアーティストのみを想像しがちですが、実は地域にアーティストはいっぱいいると思っていて。僕の出身地である長崎のトマト農家さんは、トマトが実っている様子が葡萄に見えたらしいんです。それならばと、世界で初めてトマトワインを作りました。

飲んでみると、全然美味しくない(笑)でも彼のクリエイティブは止まらず、なぜかワインボトルを海底に2年間沈めてみることにした。2年後にトマトワインを取り出すと、これがめちゃくちゃ美味しくなっていて。僕はここにものすごく価値を感じたんです。

大瀬良こういった地域の人たちに会いに行ける仕掛けとして “長崎友輪家(ながさきゆーりんちー)” というオンラインのコミュニティを作りました。LINEのオープンチャット機能を使っているんですが現在、県内外から300人以上の人が登録をしていて。コミュニティでは「今から長崎行くので美味しいご飯屋さんないですか」と誰かが聞くと、別の誰かが長崎で好きな飯屋をざーと送っている。オープンチャットを作るだけなので、簡単でどこの地域でもできます。

河尻:魅力はあるけど埋もれているものを “見える化” する仕組みを作っただけで盛り上がったんですね!

高木面白い。富山にはBtoBの産業しかなくて、クリエイターがいないなと最初は思ったんです。例えば、新潟はブルボンや亀田製菓、スノーピークなど、デザイナーが関わっていて最終製品がある企業が多い。でも、BtoB産業ばかりの町は不利だというわけではなく、例えば酒蔵や農家はすぐ最終製品化ができると気づいたんですよね。トマトワインなら、そのラベルをどうしようとか、余白ができたところにデザイナーやフォトグラファーが関わることもできる。

田村僕は福井でデザイナーや事業家を育成し、事業の種を生み出すことを目的にした『XSCHOOL』というプログラムに関わっています。福井ではレースメーカーの人たちが、レースを使った照明を作り始めたことをきっかけに、素材とアイデアを活かして、今までにないものを作る流れが出来た。その動きが派生して、今いろんなところで新しい動きが始まっているので、実は素材って大事だなと感じました。

高木やり方次第で最終的にはできますもんね。あとはお店やギャラリーで発表できる場があるといいですね。

河尻:できるという事実を作るのがとても大事ですね。

地域の「寛容性」を高め「ゆるさ」を生み出すと、新たな人の流動性が生まれる

田村行政の話で、すぐ事業化するとかビジネスにする施策を進めて、途中の段階を踏み越えちゃうことがあるなと感じます。“地域は奥に行けば行くほど寛容度が下がる” という話があり、その感覚はすごくわかるなと。

逆にそれをひっくり返して上手くいったのが、福井県の鯖江だと思います。半年間何もせず、ただ住んでもらうだけでいい “ゆるい移住” を市長が推進し、様々な人たちが自分達の関わり方を勝手に見つけ出した。行政が旗を振って地域の寛容性を高めることによって、役割を与えられない人たちが自由に地域との関わりを作っていて面白い。

河尻流山も昔はまあまあ不寛容でした。今は女性が活躍する町とも言われますが、以前は女性が町で起業すること自体にすごく抵抗感があって。今は市でやっている女性向け創業スクールから卒業生が約180人出て、その人たちが町で活動し始めています。わからないものに対してはみんな不寛容だけど、事実があると、町に活力が生まれてきて「いいよね」という風潮になります。

富田長所と短所は表裏一体だったりします。不寛容というのは、裏を返せば義理堅い親父だったり、面倒見が良くてお節介なおばさんだったりする。田舎が一般的に不寛容の傾向があるというのはよくわかるので、不寛容のいいところを出しつつ、寛容性を持たせることを横瀬は意識しています。

田舎には強いコミュニティがあって、伝統がある。それはリスペクトしつつ、1度振り子の針を振りたいというのもありまして、横瀬では “オープン&フレンドリー” を掲げています。

高木人口増加時代は必然的に子どもという流動性があったけど、人口減少で流動性が減り、人が煮詰まってしまっているのが問題ですね。

富田だからこそ「寛容性」と「ゆるさ」は大事ですよね。横瀬の地域おこし協力隊の初期はずっとフリーミッションで、「あなたのやりたいチャレンジをやってください」としていました。常に私たちは余白部分を大事にしています。

田村寛容性の高い地域の例では、別府があると思います。別府はアート都市としてここ15年ぐらいで有名になりました。アーティストというちょっと独自性が強い人たちに対して町は寛容なんです。

半分が外国人のAPU(立命館アジア太平洋大学)もあり、200ヶ国ぐらいの人が町に出ていて。この受け入れの土台はどのようにできたのかを考えると、観光地であり、100年前からずっと人が行き来していることが、流動性に対する免疫につながっているかなと。

Editor's Note

編集後記

日本全体の人口が減っている中で、どの地域も人口増を目指す違和感が私の中にもありました。では何を目指せばいいのかは、非常に難しい。
今回のセッションで、各地域ごとに取り組んでいる具体策とその背景が見えてきたのはとても勉強になりました。
答えは、これだ!とは断言しづらいけれど、各地域が目指すべきビジョンが見えてきたように思えます。

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