地方創生
※本記事は約3年ぶりの開催となった『ONE KYUSHU サミット』のセッション内容をレポートにしております。
地域コミュニティの活力が低下していく中、県境を越えて官民が連携をすることで、より安全・安心な社会を目指す「九州スマートリージョン構想」という考え方をご存知でしょうか?
今回は『ONE KYUSHU サミット』の中でも、「ONE KYUSHUの未来像〜 九州スマートリージョン構想 〜」と題して行われたトークセッションをお届け。
九州全体をひとつに繋げることで、大雨などの災害や新型コロナウィルスなどの感染症に立ち向かう、自治体の枠に捉われない情報共有のあり方に迫ります。
佐々木(グルーヴノーツ):生まれも育ちも福岡県の佐々木です。元々はITエンジニアでしたが、今は福岡県でグルーヴノーツという会社を経営しています。AIや量子コンピューターといった最先端技術でお客様の課題を解決していくことと、エンジニアが直接小学生にITを教えるアフタースクールの運営を行っています。
石丸(副会長):ONE KYUSHUサミット副会長の石丸です。福岡地域戦略推進協議会(FDC)の事務局長でもあります。
早速「九州スマートリージョン構想」について話を進めますが、私自身公共を生業にしているので、公共の立場で九州を一つにする取り組みができないかと模索しているところです。
その中でも、自立分散型の新しい社会モデルをつくれないかと、「九州スマートビジョン構想」と名付けて進めて参りました。
石丸(副会長):例えば防災。防災は県境をまたいで起こる可能性が高いですが、現状ではそれぞれの判断については県が意思決定を行っています。ですが例えば、福岡県の筑後川の上流は大分県で、何か災害が起こったときに上流から起こっている現状を福岡が先んじて把握できるだけでも、状況は変わってくるはずなんです。
セッション3(起業家必見!コロナ後の成長産業は?データから読むビジネスチャンス)でも、テータを見ながら九州の経済を紐解いてもらいましたが、防災に限らず産業領域でも連携の可能性がある。
2022年10月に知事会と経済団体4つが一堂に会する会議『九州地域戦略会議』で「九州スマートリージョン構想」に関する合意を行い、各県含めて取り組みが始まっている状況です。
平山(ファシリテーター):私や石丸さんは究極的なことをいうと、「県はいらない」と思ってるんです。県をなくして州をつくりたい。
平山(ファシリテーター):九州は農作物が非常に優れていますが、その反面、輸出は非常に弱い。その原因を考えたときに、例えば「牛」一つとっても、九州の各県にブランド牛がいて、その結果流通しづらくなっている現状があると思うんです。
アメリカにもたくさんの飼育場がありますが、肉を加工する場所は国内で4社に限られている。そうすることで流通経路も少なくなるし、情報も蓄積されやすい。だからこそ、九州も県を取っ払ってしまった方がいいのではと思うんです。
石丸(副会長):僕は「県か、市か」という議論すら、ゼロベースで考えなきゃいけないと思ってるんです。ONE KYUSHUで大事なのは、九州として一つの意思決定ができること。
もちろん今日みたいに、人が集まって九州を考える場はありますが、現状、九州のことを意思決定できる人はいません。意思決定できる環境さえあれば、少なくとも「合意形成」はできるのでは?と思っていて、そういうところから始めるべきだと思っています。
平山(ファシリテーター):「県はいらない」の議論からなんですが、仮に九州府庁ができたとして、おふたりが立候補するとしたらどんな公約を掲げられますか?
石丸(副会長):教育に力を入れたいですね。最近ようやく「子育て」や「教育」がフィーチャーされるようになってきましたが、日本は長年教育を劣後にしてきた国だと思うんです。
石丸(副会長):その昔「教育をやりたい」と話すと、周りに言われていたのが「時間がかかりすぎる」という言葉。でも一方で、まちづくりは50年ぐらいのスパンで考える。だったら先に子どもたちに投資をしたほうがいいんじゃないかと思うんですよ。
平山(ファシリテーター):佐々木さんはどうですか?
佐々木(グルーヴノーツ):自分たちが教育事業を行っているのにも関わらずですが、「子育て支援」をしたいですね。「働け」と言われるわりに、子育て世代には働きづらい世の中じゃないですか。
平山(ファシリテーター):ご存知ない方のために補足なんですが、佐々木さんは自分の会社の真横に民間学童を作られたんですよね。
佐々木(グルーヴノーツ):ありがとうございます。私が会社を設立するときはまだ子どもが小さくて、子どもを見てもらえる場所を探さないといけなかったんです。その当時はまだエンジニアとしてシステム開発も行っていたので、帰りが遅かった。
佐々木(グルーヴノーツ):こんな言い方すると問題かもしれませんが、朝に子どもを預けたら、子どもは学校に行って、宿題をやって、ご飯を食べて、シャワーも浴びて、家に帰ったら寝るだけみたいな(笑)。そういうことが実現できるような場所づくりを会社の中にしたかったのが、私たちの学童保育の原点です。
ただ「保育園をつくればいい」ではなく、世の中の価値観も変えて、罪悪感を感じない社会をつくりたい。好きなときに子どもを産んで、好きなときに子どもと接することができるような、女性ならではのライフスタイルに寄り添った社会をつくりたいですね。
平山(ファシリテーター):世界の経済フォーラムを実施したときに、フランスの方がベビーシッターと一緒に来日されたことがあったんですよ。しかも会社のお金で。そういったところに日本と海外の差を感じましたね。
平山(ファシリテーター):佐々木さんは、福岡の一等地で学童保育の事業を展開されていて、一般的に考えると家賃もすごく高いだろうし、なかなか採算がとれないと思うんですが…?
佐々木(グルーヴノーツ):そうなんです(笑)。
平山(ファシリテーター):そう言いながらも、企業なので「採算をどうとるか」の議論だと思うんです。例えば佐々木さんのような取り組みを九州全体で実施することができたら、九州は日本で最も子育てがしやすい地域になり、そこで育った子どもたちは間違いなく活躍できる方々になると思うんですよね。
平山(ファシリテーター):つまり地域としてのポテンシャルが上がっていく。佐々木さんから見て、ここに対する課題感は何がありますか?
佐々木(グルーヴノーツ):先ほどのセッション(リスキリングが重リスキリングが重要。イントレプレナー(社内起業家)が語った、改革術)で、「持続可能なサービスをつくるためにはコストが必要」というお話をされていましたが、全くその通りで、本当に持続可能なものにはお金がかかると実感しています。
私たちの学童の費用は東京の方から見るととても安いようなのですが、九州の方からは「高い」って言われてしまう。でも個別の最適化が求められている教育業界の中で、人件費もかかってくるし、施設の費用などを考えるとコストについては非常に難しい問題だと感じています。
平山(ファシリテーター):まさに「採算をとる」ところが一つ大きなチャレンジだと思いますし、採算がとれる形でモデルケースが広がっていくと、九州の未来も広がっていく気がしますよね。「採算」の部分に関して石丸さんのご意見はいかがでしょうか?
石丸(副会長):学童の話がありましたけれど、今の子どもたちは学校が終わってご飯を食べる間もなく塾に行ってヘトヘトになって家に帰ってくる。受験生だともっと顕著で、塾の送り迎えも入るので、親の負担も増えます。でもこれを学校で完結させることができたとしたら、移動もなくなるし、負担も軽減される。
石丸(副会長):ほかにも、学校の駐車場を有料化したり、学校がもっとビジネスライクに使える環境をつくったりするだけでも、世の中がらりと変わることが山ほどあると思うんです。でも法律で許されていないこともたくさんある。そういう今までの価値観を法律ごと変えたり、補助金を延命目的で使わなかったりするだけで、すさまじい変化が生まれると思うんですよね。
平山(ファシリテーター):石丸さんありがとうございます。ここでラストの質問になってしまいますが、最後に九州府庁に立候補するとしたら「私はこんなことがしたい」とか、聞いてくださっている方へのメッセージをいただきたいです。
佐々木(グルーヴノーツ):今はまだまだ「子どもの将来を考えると、いずれは都市部に出なければならない」という価値観が九州には残っていますよね。でもそうじゃなくて、子どもたちが九州から出ていかなくても済むような、バランスのとれたグランドデザインを描きたいなと思っています。でも、立候補はしないですけどね(笑)。
石丸(副会長):僕も立候補する側ではなくて、今日登壇されていたような素晴らしい方々が立候補されたときの原稿を書く担当になれれば(笑)。今日お会いした素敵な方々と理想の九州をつくっていけたらと思っています。
平山(ファシリテーター):今回のセッションは打ち合わせなしでお話いただきました。無茶振りに答えていただきありがとうございました!
Editor's Note
九州を一つの州として考える。そんな大胆で新しい考え方を知ることができた本セッション。自分の県のためだけでなく、九州全体として良くするためにどうすればいいのか。そのことを今一度考えるタイミングが来ているのではと思いました。
YURIKA YOSHIMURA
芳村 百里香