OKINAWA
沖縄
熱狂、喜び、一体感。
スポーツは計り知れない感動をもたらし、人々の原動力となります。
一方で、プロスポーツチームの経営には「公共性」と「経済性」の両立が求められていることを知っていますか。特に地元企業のスポンサー収入が大半を占めるプロサッカーチームでは、活躍することだけではなく、地域に根ざす取り組みも鍵を握ります。
地域をどう巻き込み、持続可能な経営にしていくのか?
この問いは、ローカルで新しい価値を生み出そうとするすべての取り組みに通じるものがあるはずです。そんなローカルでの「経営力」を学べる、特別1DAY講座を開講します。
【特別1DAY講座】スポーツ経営から学ぶまちづくり!?ローカルビジネスの経営力をUP
講師を務めるのは、面白法人カヤック代表取締役の柳澤大輔氏。
Jリーグクラブ「FC琉球OKINAWA(以下、FC琉球)」を運営する琉球フットボールクラブ株式会社の代表取締役でもある柳澤氏が、実際の事業運営の視点から「ローカルビジネス総合力強化」のノウハウをお伝えします。
本記事では、柳澤氏がこれまで鎌倉を中心におこなってきたまちづくりを土台に、どう「スポーツ×まちづくり」へと広げているのか、対談形式で迫ります。
平林 和樹(モデレーター):はじめに、面白法人カヤック(以下、カヤック)とFC琉球の活動をお話していただけますか。
柳澤 大輔氏(以下、敬称略) :1998年にカヤックを立ち上げました。ウェブやゲーム、「うんこミュージアム」などのクリエイティブ事業やまちづくり事業など幅広く展開しています。ずっと「何をしている会社かわからない」と言われていましたが、昨年、創業25周年の企画で動画を作り、ようやく説明できる状態になりました。
柳澤:FC琉球には2024年2月に資本参加をし、同年5月から代表に就任しました。現在は2025年シーズンが開幕し、指揮をとっています。
平林:カヤックはクリエイティブに強いイメージがあるので、何をしている会社かわからないと言われているのは意外でした。
柳澤:クリエイティブが中心ですが、鎌倉では不動産や葬儀会社、まちの社員食堂などもやっています。どこでカヤックと出会うかで、知られている側面が変わります。
平林:クリエイティブ事業が伸びていく一方で、鎌倉に根ざし、多様な事業を生み出されていますよね。地域に密着する事業を展開されるようになった、その経緯をお聞きしてもいいですか。
柳澤:最初は「面白法人」というキーワードで、面白く働こう、面白いものをつくろうとスタートしました。面白くするためにこだわったのは、「何をするかより誰とするか」。クリエイターを中心に揃えたところ、ゲーム事業がヒット。2014年に上場しました。
徐々にグループ会社が増え、理念に共感して働く人も増えてきました。
並行して、「どこで働くか」の視点から、鎌倉が好きで働きたい人を集めて地域活動を始めたところ、地域の事業が生まれていきました。
クリエイターが地域に関わり、よりよくしていくのは面白いと感じ、そこから「地域資本主義*」が生まれました。
*地域資本主義…面白法人カヤックが提唱する、地域を中心とした新しい資本主義のかたち。以下、3つの資本をバランスよく増やしていくことが人の幸せにつながると考え、いわゆる短期的な経済合理性だけを追い求めるのではない、持続可能な資本主義を指す。
・地域経済資本― 財源や生産性
・地域社会資本― 人のつながり
・地域環境資本― 自然や文化
平林:柳澤さんから見て、企業や人が地域に根ざす価値はどのようなことだと思われますか。
柳澤:地域に密着する事業をしていれば、地域との関係性が生まれて、新たな事業にもつながります。
企業の税金の納め先はその地域になりますし、近くに社員が暮らすことにもなります。
自分たちが暮らす地域に会社が貢献していることは、社員の誇りになりますし、次第に会社とまちや地域が一体化していくと思っています。
例えば、サッカーチームでは地元のスポンサー企業で働く人のお子さんがサッカーをやっていることがあります。お子さんから見ると、親の会社が地域のチームを応援してることは誇りになりますよね。
柳澤:社員自身が地域と関わりを持つと、会社に対しても地域に対してもより愛着が出てきます。
だから理念やビジョンにこだわりがある会社は、どこに本社を構えるかもこだわりがあると思います。地域の持つ文化や雰囲気、資産と相性が良くて本社を構えるので、地域の価値にもなり、会社にも還元があることは「地域資本主義」そのものですね。
平林:おっしゃるとおりですね。
カヤックでは地域と密に関わり、多様な事業を生み出されていますよね。事業の発想は、社員からの提案やブレスト(ブレインストーミング / 集団でアイデアを出す手法)から生まれるのでしょうか。
柳澤:そうですね。「御成カプセル」は社員の提案からはじまりましたし、「鎌倉自宅葬儀社」は「カヤックのブランドでやりたい」という持ち込み企画からはじまりました。
平林:ただ、まちにとっては必要だけど、予算の面で事業化がむずかしいこともあると思います。そういった際は、発想を変えるかタイミングを見定めるかなど、どう考えているのでしょうか。
柳澤:会社全体の売上規模に応じて、先に「貢献予算」を確保しておくことが一つです。地域に根ざした企業は、神社やお祭りの協賛など地域への「貢献予算」があります。
あとは、地域のための取り組みか、事業拡大のための取り組みか、しっかり分けて管理することですね。例えば、鎌倉の「まちの社員食堂」は地域のためでもあるので、厳しさに多少のゆとりをもたせた事業計画になっています。
結果、地域に貢献するための活動を繰り返すことで、安定的に地域に貢献する体質になると思います。
平林:事業ポートフォリオにグラデーションがあるんですね。
平林:鎌倉に根ざした事業のほか、移住プラットフォーム「SMOUT(スマウト)*」も非常に有名です。「SMOUT」は、鎌倉での活動を通して生まれたのでしょうか。
*SMOUT(スマウト)…地域の人と地域に関わりたい人をオンライン上でつなぐマッチングサービス。移住や二拠点・多拠点生活、ワーケーションなど、さまざまな形で地域と関わりたい・地域で暮らしたい方が利用する。
柳澤:鎌倉での活動が、他の地域のニーズを発見することにつながり、サービス設計に活きています。
地域のニーズを知るためにまずは、鎌倉が抱えている問題を知ることから始めました。移住者が増えている鎌倉での問題は、多種多様なことをやっている人々がまとまっていないことでした。
そこで、ブレストを通して楽しみながらまちを活性化する活動である「KAMAKON(カマコン)」を始めました。結果、人々がまとまりやすくなり、この仕組みは全国各地に広がっていきました。
柳澤:「KAMAKON」を通して、各地域には鎌倉と異なる課題があることが見えてきました。多くの地域での最大の課題は、人を増やすことです。
鎌倉の活動を通して、コミュニティがあると人が地域に定着しやすく、人と人を繋げることでより安心して地域に入っていけると分かっていました。そこで、繋がりを生み出すためのサービス「SMOUT」を作りました。
平林:そして、次は沖縄へ。
なぜ、第二本社を沖縄に置くことにしたのでしょうか。
柳澤:地域に根ざして貢献することを、鎌倉で実践してきました。鎌倉出身ではない私たちが移住して、しっかりとじっくりと20数年やってきました。
そんな中で沖縄とご縁をいただき、鎌倉で得た知見を沖縄でも活かしていこうとスタートしました。地域資本主義を謳うカヤックにおいて、地域に根ざしたスポーツチームとは親和性があることや沖縄にはカヤックの子会社があること、そして、創業者の一人が沖縄出身ということもあり決断しました。
すべての拠点を「本社」と位置づけることで、地域に深く関わる姿勢を示したいと思い、「第二本社」と表現しました。
「SMOUT」を見ていると、人は多様な地域に移り変わる時代だと実感します。
その地域に滞在する期間は、しっかりとまちにコミットすることが地域にとっていいこと。
また、そうした関わりを地域側から働きかけることで、人々の定着につながると思います。
平林:深く関わる姿勢を表現する、「第二本社」なんですね。
現在、FC琉球に参画されていますが、スポーツとビジネスはまた違う挑戦だと思います。違う挑戦だからこそのリスクもリターンもあると思いますが、やると決めた背景をお伺いしてもいいですか。
柳澤:スポーツチームは通常のビジネスと違い、地域のためでもあるのでより公共性が強く、一民間企業の論理でやるのは良くないと思っています。
それでもビジネスとして見たとき、スポーツは「好きな人を熱狂的に応援するファンビジネス」とも言えます。これまでカヤックで培ってきた、コミュニティビジネスのノウハウを活かせると思いました。
より良いチームをつくり、地域に根ざしていけば、そこから生まれる地域のビジネスにもシナジーが生まれると思っています。沖縄でもいくつか事業展開をしていかないと、第二本社を置いた本来の狙いにはならないですね。
平林:沖縄でもサッカー以外に進めているんですね。
柳澤:常に模索しています。自社のブランディングのためにサッカーチームを持つ企業もあると思いますが、地域のチームでありその地域にサポーターやスポンサーが多いので、地域との親和性がないと噛み合わせが悪い気がします。
だからこそ、思い切って本社を移す覚悟が必要なビジネスだと思います。
平林:FC琉球から相談がきたときは、経営参画を即決されたのでしょうか。
柳澤:いえ、何度も議論しました。沖縄で他にも事業展開をすることがセットでなければ、投資の意思決定はできません。
平林:「誰とやるか」の中で、地域の人々も大事にされていますね。
例えば、子どもたちを試合に招待したり花火を打ち上げたり、単に人を呼ぶだけではない。こういった企画はどう生み出していくのでしょうか。
柳澤:まず、人から面白いと思ってもらって、「行ってみたい」「シェアしたい」と思えるようにすることです。その中でも、サッカーに興味のない人も行きたいと思える企画であることを大切にしています。
サッカーは他のスポーツに比べて、スポンサー収入の割合が高いです。地元企業は自社の宣伝のためだけではなく、地域貢献のために支援をします。サッカーで勝つだけではなく、サッカーを通していろいろなイベントをやるからこそ、応援しようと思ってもらえるんです。
平林:スポーツ以外の要素も入ってきて、企画の幅が広がりそうですね。
柳澤:今年は沖縄の子どもたちに雪を見せたいと思い、雪まつりを構想しています。こうした企画を生み出すことで、地域の方々の関心や参加意欲が変わりますよね。
平林:また、すでにカヤックからFC琉球へ社員さんが出向されているとお聞きしました。FC琉球の経営参画は、カヤック社員の能力開発や機会提供にもつながっているのでしょうか。
柳澤:もちろんです。いわゆる「推し活」の中心にいるサポーターに触れて、人がどうコミュニティに入っていくか、熱狂していくかは、面白い企画を考える上でも勉強になると思います。
サッカーチームが提供できる価値に「働く場所としての魅力」もあると思いました。
「面白レンタル移籍(他社留学)*」プログラムは成長の場としての価値を提供し、企業に支援してもらう一環でもあります。
*面白レンタル移籍(他社留学)…スポーツの「レンタル移籍(期限付き移籍)」のように、企業に所属する社員が一定期間、面白法人カヤックおよびFC琉球に出向して働くプログラム。
平林:一面だけでなく多様な側面に焦点を当てて価値にすることが、柳澤さんたちが手がける事業の特徴だなと思います。
平林:地域で活躍することを考えたとき、柳澤さんは地域との関わり方やスタイルなど、どういう要素が必要だと思われますか。
柳澤:地域を好きになることですね。その地域について勉強することも必要だと思います。
例えば、地域の歴史を学ぶと、その地域がより好きになるし、歴史を好きな人たちとも話せる。
また、時には「郷に入れば郷に従う」ことも必要だと思います。自分の経験や他の地域での活動を良かれと思って伝えることは、その地域を否定することにも繋がりかねない。
そこも含めて、地域を愛する気持ちが必要だと思いますね。
平林:今のお話は、カヤック流まちづくりの真髄につながりそうですね。
平林:最後に、この講座を受けようと考えてくださっている方々に、メッセージをお願いします。
柳澤:今回参加をされる方は、地域やスポーツビジネス、またはカヤックそのものに興味がある方もいらっしゃると思います。
「スポーツまちづくりから学ぶ、ローカルプロデューサー養成講座 / 特別1DAY講座」(詳細はこちら)では、FC琉球のリアルな経営の現状や、地域活性と経済性を担保した事業のあり方など、全体像をお話します。
参加者一人ひとりが、将来どういう立場で地域と関わりたいかをお聞きして、具体的な提案をお伝えできればと思います。
単純に聞いて学ぶというより、より実践的なアドバイスが得られる、お得な講座になるのではないでしょうか。
平林:ぜひ、一緒にローカルでの経営力を磨きましょう。
スポーツまちづくりから学ぶ、ローカルプロデューサー養成講座 / 特別1DAY講座
■ プログラム概要
受講概要:
・オンライン講義(全2回)+超実践講義(1DAY)
・事前課題「メタ認知ワーク」(所要時間 約1時間)
・300名以上が参加するACADEMYコミュニティへ加入
・前夜祭 2025年3月22日(土)19:00~ (任意参加)
当日スケジュール(3月23日):
9:00 集合
9:30~11:15 講義「スポーツ×まちづくり経営論」
11:30~12:15 ワークショップ「カヤック流ブレスト」
12:30~14:00 視察・試合観戦
16:00頃 解散
対 象:
こんな方におすすめ
・ 地域活性と経済性を両立した活動をしたい方
・ 地域資源や文化を活かした事業を生み出したい方
・ 地域活性をボランティアだけじゃなく仕事に結びつけたい方
■ 受講料
50,000円(税込55,000円)※先着20名
・受講料に試合観戦チケットを含みます。
・現地フィールドワークでの交通費・宿泊費・食事代は参加者実費となります。
Editor's Note
わたしが好きな高校野球とまちづくりには、「情熱」と「チームプレー」という共通点があることに気づきました。ジンベーニョの年俸がパイナップル100個になりますように!
Mei Fushimi
mei fushimi