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LOCAL LETTER

北海道地震で被災した経営者が「ゲストハウス基金」を通じて本当に伝えたいこと

OCT. 31

HOKKAIDO

  • 色んな旅人とルームシェアして比較的安く泊まれる宿といったイメージが先行しているけど、僕は北海道のゲストハウス「WAYA」のように、沢山の優しさの循環が生まれる宿がゲストハウスと言われるものだと思っている。
    松本 幸市
    広島県大崎上島町 島のおかん

前略、困っている人を助けたいアナタへ

9月6日午前3時8分、北海道胆振東部地震は突然起きた。全道で合わせて約94万件が停電、交通機関もほとんどがストップした数日間、生活者および観光客は被災生活を強いられた。自然災害の恐ろしさを改めて肌で感じたキッカケとなっただろう。

その地震から1ヶ月後、筆者のSNSにとても気になる投稿が流れた。発信主は札幌で複数のゲストハウスを運営する合同会社Staylink 共同代表・柴田涼平。被災体験を踏まえ、「ゲストハウス基金」という新しい防災基金の形をスタートさせるという内容だった。

投稿にはサービス概要とともに、このような思いが綴られていた。

“震災時、目の前にいる被災者に手を差し伸べる、場と人が増える社会を創りたい。震災時に備えて今からできることはなんだろう?2018年9月6日の北海道で起きた大地震が、このことを本気で考えるきっかけになりました。僕自身が被災者になり震災時の大変さを痛感したのと同時に、目の前にいる行き場所のない日本人・海外の方を見ていると、胸が張り裂けそうになりました”

人と人の繋がりを常に大切にしてきた彼が、今回の被災で目の当たりにしたのはどのような光景をだったのか。そして体験を踏まえ、わずか1ヶ月で「ゲストハウス基金」というサービスのリリースに至った背景とはなんなのか、本人に直接聞いてみた。

【柴田 涼平】
北海道稚内市出身。1992年生まれ。 合同会社Staylink共同代表。 2014年6月、大学卒業後友人とともに合同会社Staylinkを創業。現在北海道札幌市にて、Guest House waya、雪結(yuyu)、waya Annexの3店舗のゲストハウスを経営。ゲストハウス経営以外には、雪結にて学童保育を運営、不登校向けの居場所づくりプロジェクトメンバー、北海道移住ドラフト会議2018実行委員会、震災時場を持つ人が被災者に手を差し伸べるためのゲストハウス基金を設立。創業時から一貫して、共に働く人を大切にし、価値ある場所を生み出し続けている。

「できることをやろう」、被災直後からゲストに寄り添う中で生まれた”無料開放”というアイデア

札幌で2つのゲストハウスを運営するStaylinkは、大学の同級生3人でスタートした会社。「人と人の繋がり」を常に中心に置く彼らから生まれるサービスと空間は、泊まった人を心の虜にする。全国各地にファンがおり、同業者からも一目置かれる存在だ。

そんな彼らの人を大切にする姿勢は、地震発生した直後の対応にも現れていた。地震が発生した深夜3時、スタッフがすぐさま担当のゲストハウスに向かい宿泊者の安否確認を行うと、そこには困惑の色を浮かべる人々の顔が。この日は6割が海外からの旅行客だったこともあり、地震に慣れておらず困っている人々がたくさんいた。スタッフは寝る間を惜しんでできる対策を行い始めたという。

「とにかくできることからやろう、ということでスタッフ同士でコミュニケーションを取り合いながら、対策を進めていきました。断水に備えお風呂の水を貯めたり、近くのスーパーで食材を買ったりなど、近所の方やゲストにも協力してもらいながら進めていきました。」(柴田)

しかし朝になると、ゲストハウスのチェックアウトを迎えた利用者は戸惑いの色を見せていた。インターネットも一部遮断されている中、交通情報や他の宿泊場所の情報はまとまっておらず、多言語対応できていないサイトも多数ある中で、海外旅行者たちは行き場に戸惑っていたという。

「目の前の困っている人々に僕たちは何ができるか」

staylinkのメンバーが決断したのは、憩いの場としてゲストハウスを無料開放することだった。

「ゲストハウスの強みとして、日頃から色々な国から人が来ていることもあり多言語対応体制が整っています。僕らの場所にいた方が確実に安全安心だと思い、無料開放をしました。SNSでそのことを発信すると、ぞろぞろと人が集まり、ゲストハウスのスペースはあっという間にいっぱいになりました」(柴田)

無料開放の決断はアイデアが出てから30分で、それぞれの現場責任者が判断した。経営数字も大事だが、とにかく目の前の困っている人を助けることが最優先。創業時から「人」を大切にする姿勢は、この対応にも現れていた。

「被災をポジティブに変える場」は旅行者だけでなく地域の人の拠り所に

無料開放に集まってきたのは旅行客だけではなかった。近くに住む地元民も無料開放に合わせて、ぞろぞろ集まり始めたという。

「1人でいるのは不安だけど、ここにいれば信頼できる人もいるから安心だろう」

彼らに圧倒的な信頼を寄せる常連客がぞろぞろ集まり、自然と交流が生まれ場にどんどん活気が生まれたという。

 

「ネットなどが栄える前、地元住民の間では『何かあったら、ここに集まる』みたいな暗黙の集合場所があったと思いますが、僕らのゲストハウスはまさにその場所を担ったのではないかなと思います。日常から安心できるコミュニケーション、そしてなにより『ただいま、と言える場』であるということを、日頃伝え続けていた結果なのかなと。『被災者を助けたい』と思っている周りのレストランの方々も余った食材で作った料理を提供してくださり、被災者をサポートするプラットフォームとしても機能してました」(柴田)

そして、彼の中で一番印象に残っているのが初日の夜。もともとこの日はロックミュージックに合わせてうどんを作る「うどんパフォーマンス」というイベントを予定していたが、被災により決行するか悩んでいた。しかし、パフォーマーの方は「こういう時だからこそイベントで楽明るくなれる場を作りましょう」と言ってくれたといい、実行に至った。

「被災によって暗いイメージがつきまとった中でみんなでわいわいしながら作って食べたうどんは本当に美味しくて参加者も『避難所がこんな盛り上がってていいのかな?』と笑ってました」(柴田)

イベントの時は誰もが被災中であることを忘れていた。つらい体験をポジティブに変えられる場を作れたことが、何より彼にとって嬉しかったという。創業期から大切にしている「ただいま」と利用者が言えるようになるためのキッカケが、ここでも生まれた。

こうしてstaylinkのゲストハウスでは4日間の無料開放の間に約200人が訪れた。被災時における人々の心を支える大きな役割を果たしていた。

心の底から言えなかった「大丈夫だよ」、その悔しさをバネに基金の立ち上げを3ヶ月前倒し

多言語対応、人々が明るく集まれる避難所、情報交換ができるプラットフォーム。被災体験を踏まえ、彼らのゲストハウスが被災時に果たした役割はとても大きかった。

しかしその一方で、今回の被災を通じて彼らが感じたのは防災における準備不足だった。地震が起きた際、防災準備に100%の確信がなかった彼らは戸惑っている目の前のゲストに対して「大丈夫だよ」と心の底から言えなかった。「ただいま」と言える場所を日頃から作ることを心がけていた彼にとって、この体験はとても悔しかったという。

「災害を通じて感じたことは自身の防災不足でもあり、国としての防災不足。特に、インバウンド観光客に対して情報発信場所が特定されてなかったり、発信内容が言語対応されていなかったり。『おもてなし』を掲げる国家の一員として、災害があったときにこそ、誇れる対応をできる自分たちでありたいと思いました」(柴田)

この悔しさを、どう次に活かすか。その中でたどり着いた結論が「ゲストハウス基金」の立ち上げだった。この基金は全国のゲストハウスオーナー、ゲストハウス以外の場を持つオーナー、そして場を持たないすべての個人も含めて、お金を積み立て、被災が発生した場合において被災者支援を行うゲストハウスに対してかかった費用を補うという仕組み。月額100円〜700円の計5つのプランで、誰でも基金できる仕組みだが、この資金的サポートがあるかどうかでゲストハウス側にとって余裕が生まれるという。

「ゲストハウスオーナーは1人でやっているケースが多いのですが、その場合はベッド数も限られていてスモールビジネスでやっている場合が多く、無料開放の決断をするにはかなりの勇気が必要です。仮に震災で数日営業ストップとなると経営ダメージは大きく、加えて無料開放の実行は光熱費や食料費など、通常よりはるかにコストがかかります。でも、ゲストハウスオーナーは困っている人たち助けたい人が多い。基金をあらかじめ用意することによって、被災した地域のゲストハウスの優しい想いを支えられるような仕組みを作ろうと思いました」(柴田)

そして、立ち上げを決断してからの彼の実行は早かった。

「本当は全国のゲストハウスオーナーが一同に集まるサミットが行われる2月にて発表しようと進めていたのですが、まさかの自分が被災をして基金の重要性をとても感じまして。隔週で行うサミットのコアメンバーMTGにて、自身の悔しさの矛先としてもこの基金立ち上げを宣言しました」(柴田)

大きい構想はすでにあった中で、値段設定、理想の利用方法などの仕様はつながりのあるオーナー達にヒアリングしながら進めた。一番悩んだのがどのプラットフォームを使うかだったが、基金コミュニティのサービスを展開する「Gojo」に出会い、アポ取り。創業メンバーの一人に構想をプレゼンすると意気投合し、プラットフォーム開発が一気に加速。被災からわずか1ヶ月にてサービスがスタートに至った。

GOJO-https://gojo.life/

悔しさをバネに、とはまさにこのことである。

「周りからはすごいスピード感と言われますが、自分としては情熱に従って行動し続けただけでした。ただ、この経験を通じて思ったのは、今回のように優しいサービスや仕組みを作るのに、一定の憤りは大事だなと。憤りを正しい方向に向けることで、優しい社会作りに一歩近づけると思いました」(柴田)

被災で気づいた「人情表現の場」。ゲストハウス基金は誰もが優しさを表現できる場に

柴田は札幌での被災時に、地域でとても話題になった人の話をしてくれた。被災があった場所に現れるという彼は60才前後の元パティシエで、すごい量のご飯やお味噌汁を作る。(その方はメディア露出は一切NGらしい)

そんな彼は今回の震災でも、Staylinkのゲストハウスを無料開放するというのを聞きつけて炊き出しを提供してくれた。その際に柴田は「ありがとうございます」とお礼を伝えたが、そこでもらった返事におもわず目から鱗がこぼれたという。

「避難所として解放してくれたことが、本当にありがたかった、俺がご飯を持っていける場所を作ってくれてありがとう」

何かが起きた時に誰かの為に何かをしたい人は、確実に世の中に居る。だが、彼ら彼女らが具体的にアクションができる場は意外と少ない。今回の被災を通じて、柴田が気づいたのはこのことだった。

この経験は、柴田のゲストハウス基金作りに大きく影響を与えている。

「助けたい人が助けを提供できる場所を作ることも、場づくりなんだなと。そういう意味で、このゲストハウス基金は、日本各地で困っている人たちをゲストハウスを通じて支援する、一つの『優しさの表現の場』にできればと。この基金が人々の防災の意識をあげるきっかけになればいいし、『防災』というキーワードを通じて、もっとゲストハウス同士が連携しあえるきっかけになればと思う。」(柴田)

「すべての人が、ただいまと言える居場所をつくる」。彼らは日頃のコミュニケーション、サービスの中で常に体現をしてきたが、今回の被災を通じて「優しさの表現には準備が必要」ということを深く学んだ。その準備を通じてハードルさえ低くできれば、もっと多くの人々が優しくなれる。柴田はこのゲストハウス基金を通じて、場を通じて優しさを表現できる人をもっともっと増やしていきたいと、熱く語ってくれた。

サービスリリースし3週間、まだまだ少ないが利用者は着実に伸びている。あなたも、「ゲストハウス基金」を通じて未来の誰かのために、優しくなりませんか?

Editor's Note

編集後記

都内に住む私は、被災が起きた時に「何かしたいけど、何ができるだろう」と悩みました。その時はメディアを運営する1人として、何かしたいと思っている人たちがアクションができるための情報をまとめて配信しました。今回、「ゲストハウス基金」というプラットフォームを通じて、アクションが実行できるハードルが低くなることを望んでいます。

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