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LOCAL LETTER

令和6年能登半島地震。民宿あおまさの女将が語る氷見の危機とホンネ

MAR. 13

TOYAMA

拝啓、被災地応援の仕方が分からず、もどかしい想いを抱えるアナタへ

元日に起きた令和6年能登半島地震の発生から2ヶ月近くが経過しました。震災直後に比べると、SNSやニュースでは取り上げられることも少なくなり、少しずつ日常を取り戻しつつあるように表向きは見えているように思えます。

一方で、今もなお、避難生活を余儀なくされている地域や復興支援を必要としている
地域があることも紛れもない事実であります。加えて、断水や倒壊といった目にみえる被害ではないところで震災の影響を受けている地域もあります。

富山県氷見市も目には見えづらい地震の影響を受けている地域のひとつでした。

今回、民宿あおまさの女将である青木さんから伺った、当時の状況、そして現在の氷見の様子やこれからの取り組みのお話を皆さんにお届けします。

2月9日(金)に民宿あおまさにて行われたチャリティーイベントの翌日にインスタライブを開催。左から株式会社WHERE代表平林、民宿おあまさ女将青木さん、LOCALLETTERディレクター兼ライターを務める田村の3名での鼎談。
2月9日(金)に民宿あおまさにて行われたチャリティーイベントの翌日にインスタライブを開催。左から株式会社WHERE代表平林、民宿おあまさ女将青木さん、LOCALLETTERディレクター兼ライターを務める田村の3名での鼎談。

被災したからこそ分かる自分たちの役割

平林:僕自身は3〜4年ほど前から氷見市ビジネスサポートセンターが開催する「アントレプレナー道場」の講師として氷見に関わらせてもらっています。

あおまささんを知ったのは、そこの運営をされている方に紹介していただいたのがきっかけでした。それからSNSでフォローさせてもらっていたのですが、今回の震災が起きた時、震災直後から炊き出しを行ったり、お風呂の受け入れをされている様子をSNSを通じて拝見していて。

被災している状況の中でも出来ることに取り組まれている姿に衝撃と感銘を受けて、LOCAL LETTERとしても何かできないかと思っていたんです。

田村:まずは地震が起きた時の状況を教えてもらえればと思っているんですが、いかがですか?

青木さん(以下敬称略):地震があった時、氷見は震度5強を観測していました。普段は、割と地震が少ない地域と言われていて、ほとんどの方が初めて震度5の揺れを体験したんじゃないかと思います。

私も、海岸から1kmぐらい離れた自宅にいたんですが、その時は本当にもう死んでしまうんじゃないかと思ってパニックになりました。その日は一晩高台で過ごし、翌日に民宿の建物の無事を確認しました。

その後、おにぎりとお味噌汁の提供とお風呂を開放したのですが、 氷見よりも被害の大きかった石川県の七尾や穴水などからいらした方もいて、450人以上の方が来てくださっていました。

富山県氷見市にある民宿あおまさの女将、青木栄美子氏。氷見市生まれ氷見市育ち。昨年の4月にご実家である民宿を継承。写真は前日のチャリティーイベントで提供した寒鰤の船盛りを抱える様子。 生後3ヶ月の赤ちゃんのママとしても奮闘しながら、今年1月の地震による風評被害を受けた仲間たちと共に人生初めてのクラウドファンディングに挑戦中。
富山県氷見市にある民宿あおまさの女将、青木栄美子氏。氷見市生まれ氷見市育ち。昨年の4月にご実家である民宿を継承。写真は前日のチャリティーイベントで提供した寒鰤の船盛りを抱える様子。
生後3ヶ月の赤ちゃんのママとしても奮闘しながら、今年1月の地震による風評被害を受けた仲間たちと共に人生初めてのクラウドファンディングに挑戦中。

田村:炊き出しをされていた時、皆さんどういった様子だったんでしょうか?

青木:そうですね。2日、3日ご飯を食べていない方や、「5日ぶりのお風呂です」と涙を流されていた方もいて。体が温まったことをとても喜んでいました。

平林:お風呂に入ることって、やっぱりとても大事ですよね。僕の周りからも温まることが心の健康にも繋がっているという話を聞いていました。

青木:おっしゃる通りでお風呂が束の間のほっとする時間になっていたんだと思います。震災直後は本当にみんな困っていて。当たり前なんですけど、水道が止まれば、料理はできない。そして、トイレも出来ないし、手も洗えないという状況で。実際に経験してみたことで、水道が出ないことがこんなにも大変であることを身を持って知りました。

田村:私はまだ想像がつかない部分もあって。もし自分が当事者だった時にどう動くのかなと想像するんですが、青木さんたちはどんな想いで翌日から炊き出しをされていたのでしょうか。

青木:私も1日だけですが高台で過ごしてみて、やっぱり食べ物がない状態というのが凄く心細かったんです。けれどみんな同じ状況の中で、「ご飯をください」とも言いにくくて。被災したという経験があったからこそ、みんなが必要としていることも分かっていたし、宿の状況が確認できた時に、これはみんなに使ってもらおうと思ったんです。

1月の氷見といえば、観光のハイシーズン真っ只中。しかし、「地震が起きたところに行くのが怖い。地震が起きたばかりなのに宴会をして楽しんでいていいのか分からない。といった方がたくさんいらっしゃって、キャンセルが相次いでしまった」と、当時の状況を振り返る青木さん。
1月の氷見といえば、観光のハイシーズン真っ只中。しかし、「地震が起きたところに行くのが怖い。地震が起きたばかりなのに宴会をして楽しんでいていいのか分からない。といった方がたくさんいらっしゃって、キャンセルが相次いでしまった」と、当時の状況を振り返る青木さん。

人と人がいる場だから見えてくるリアル

平林:当時、目の前の必要なことを瞬時に感じ取って動かれてきたと思うんです。お話を伺っていると、氷見は断水からの復旧なども他地域と比べて早い方だったのかなと思っていて。どのくらいから、支援のフェーズが変わっていったのでしょうか。

青木:どこまで水道が復旧して、ここはまだ復旧していないという情報はお客さんの話から得ることができていたんです。炊き出しをしてる間にも、だんだんと水道が通るところが増えていったりして、支援を必要としている人が少なくなっているのは体感していた部分もありますね。

平林:なるほど。人が集まるからこそ、そこで生まれる会話が結構大事だったんですね。

青木:そうですね。この地域では水が出るとか、地下水を配っているところがあるといったことを、皆さんそれぞれ情報交換されていました。私たちの炊き出しも、噂で広がっていったのですが、中には、「きっと困っている人たちがあおまささんのところに来るだろうから」と、近所の方がおかずなんかを持ってきてくださったりして。ちょっとした物資の拠点にもなっていました。

平林:当時、ネットに流れてくる情報も本当なのかどうか分からず、情報が錯綜しているような印象があったんです。こうして目の前にいる人と直接話して得られる情報ほど信じられるものはないですよね。

青木:そうだと思います。わざとじゃなくてもネットの情報は誤って伝わってしまうこともあるので、顔をお互いに見合わせて情報のやり取りが出来るというのは、皆さん安心だったのだと思います。

お客様を迎えられることが一番のやりがい

民宿4店舗が集まりチャリティーイベントを開催。それぞれの宿が自慢の食材を持ち寄って料理を振る舞い、その参加費全額を氷見市に寄付しようという企画。あおまささんも氷見のブリ13kgを仕入れてお造りを提供。(左から移り住みたくなる宿 イミグレ、湯の里いけもり、民宿あおまさ、浜辺の宿 あさひや)
民宿4店舗が集まりチャリティーイベントを開催。それぞれの宿が自慢の食材を持ち寄って料理を振る舞い、その参加費全額を氷見市に寄付しようという企画。あおまささんも氷見のブリ13kgを仕入れてお造りを提供。(左から移り住みたくなる宿 イミグレ、湯の里いけもり、民宿あおまさ、浜辺の宿 あさひや)

平林:実は、僕たちは昨日から氷見に入り、チャリティーイベントにも参加させてもらっていたんです。当日は、子ども大人含め40人以上がいらっしゃっていてすごい盛り上がりでしたよね。

田村:正直、氷見にくる前は現地がどういう状況なのか全く分からず。まちの雰囲気はどんよりしているのかなと思っていたんです。

それこそ、笑顔になっていいのかなとも思ったりしていて。けれど実際に現地に来てみると、そんな風に思っていたことも忘れてしまうくらい、自然と笑顔になれている自分がいました。

青木:今回のチャリティーイベントも、民宿4店舗で集まって何ができるかを考えて企画したんです。イベントを通じて自分たちもまちも元気になるといいなと思っていました。本当に多くの方に来ていただいて、皆さんが楽しそうにしていたり、賑やかな様子や笑顔をみることが出来たのは凄く嬉しかったです。

平林:一緒にイベントをされていたイミグレの店主の方も、「僕らはこうやって お客様を出迎え、美味しい料理を振る舞い、そこで笑顔になってくれるのが一番のやりがい」とお話されていましたよね。とても喜ばれていたのが伝わり、僕も印象に残っています。

足を運ぶことが地域の復興に繋がる

立山連峰による絶景をみながら入ることができるサウナ空間に、水風呂は「地下水」と「温泉」の2種を用意。大のサウナ好きである大将がつくったサウナは初心者の方にも優しい設計に。この日は立山連峰も綺麗に見え、地元の方からも幸運と言われたほどの絶景。
立山連峰による絶景をみながら入ることができるサウナ空間に、水風呂は「地下水」と「温泉」の2種を用意。大のサウナ好きである大将がつくったサウナは初心者の方にも優しい設計に。この日は立山連峰も綺麗に見え、地元の方からも幸運と言われたほどの絶景。

平林:今回きてみて、宿の機能としては完全に復活していると感じました。実際、震災ではどのような影響を受けられたんですか?

青木:1月中は本当にキャンセルが相次ぎました。「今、宴会をやっていいのか」「楽しんでいいのか分からない」と言った理由から、閑散期の半分ぐらいまでにお客さんが減ってしまったんです。宿としては、元気にお客さんをお迎えできる状態なのにお客さんが少ないというのは、ほとんどの民宿で同じような状況でした。

田村:実は、先ほど少しまち中を案内してもらって、道路がひび割れている様子とかも見せてもらったんです。建物にも危険という張り紙があったりもしますが、現地にいる方から「安心してもらって大丈夫。どんどん来て欲しい」と直接聞けたのは良かったです。

青木:他の地域を支援するためにも、まずは自分たちが元気にならなきゃいけないと思っているんです。ただ、やっぱり人がいなくなってしまうとまち全体が元気を失ってしまう。ですので、もし行くことを迷われている方がいたら、是非、足を運んでもらえたら嬉しいです。

余震のリスクもある中で無理に来てくださいというのもなかなか言えず複雑な思いもあったのだとか。実際には、もう安心して皆さんに来ていただける段階に入っていることを自分たちからも発信したいと話す青木さん。
余震のリスクもある中で無理に来てくださいというのもなかなか言えず複雑な思いもあったのだとか。実際には、もう安心して皆さんに来ていただける段階に入っていることを自分たちからも発信したいと話す青木さん。

応援の気持ちをクラウドファンディングで応えたい

平林:氷見には魅力的な宿が沢山ありますよね。何度か氷見を訪れていて、毎回異なる宿に泊まっているんですけど、それぞれ個性があって。どのお宿もオーナーさんだったりスタッフの方の顔が見える対応でとても温かみを感じます。

青木さん:そうなんです。お宿それぞれで料理のこだわりも違いますし、泉質も違ったりするので、温泉巡りとしても楽しんでいただけると思います。

ただ、やっぱりまだ来るのが怖いお客様もいらっしゃる中で、どんなことができるのかを平林さんにも相談をさせてもらったんですよね。

平林:僕たちも読者の方々から「どういう風に関わったらいいか分からないです」というお声をいただいてたんです。今行くのって不謹慎なんじゃないかとか、実際のところ楽しめるんだろうかとか、現地のことを思っている人ほど地域に対して遠慮してしまっている様子にもどかしさを感じていたんです。

そこをクラウドファンディングというカタチでお互いを繋ぐやり方もあるのではないかなとお話をしたら、すぐに、青木さんの方でページの原稿をつくってくれましたよね。

青木さん:ちょうど文章を書いていた時は、予約の8〜9割がキャンセルとなった状況だったので、気持ちとしても切羽詰まっていたんですよね。一方で、ありがたいことに「応援したいです」というお声もすごく沢山いただいたんです。その気持ちをしっかり受け取ろうと、落ち着いた時に来られるチケットをリターンとしてご用意することにしました。

未来に会う約束をすることで相思相愛に

民宿おおまさでは「五感を味わう」という宿のコンセプトから、テレビはあえて置いていないのだとか。部屋にまで届く波の音が心地よい眠りを誘う。
民宿おおまさでは「五感を味わう」という宿のコンセプトから、テレビはあえて置いていないのだとか。部屋にまで届く波の音が心地よい眠りを誘う。

平林:今回のクラウドファンディング、あおまささんの他に3つの民宿さんと一緒に取り組まれていますよね。

青木:そうなんです。私たちの宿からも近く、海岸沿いにある「浜辺の宿 あさひや」さんに、漁港の近くで、船が出ていく様子も見られる「移り住みたくなる宿 イミグレ」さん。「湯の里いけもり」さんは山の方にあるんですが、緑の中にあって森のさわさわした音が聞こえるんですよね。露天風呂はもちろん併設されたサウナも楽しめるんです。

平林:最高ですね…!もう少し落ち着いてから行きたいという方も、今のうちに調べたりしながら、お気に入りの宿をぜひ見つけてほしいですね。

青木:はい。あと、「一緒に二次会行こうよ!チケット」も用意しているんです。サービスを提供していると、どうしてもゆっくりお話できないこともあるので、私たちも一緒に皆さんと楽しみたいなと(笑)。

田村:皆さんから直接、氷見の魅力などを聞けるのは贅沢ですね!とっても楽しそうです。

青木:皆さんそれぞれのペースがあると思いますし、チケットは1年間有効になっているので、ご自身のタイミングでお越しいただけたらなと思っています。

氷見で待っておりますので、ぜひ多くの方に応援をしてもらえたら嬉しいです。

インスタライブ配信終了後に撮影したスリーショット。
インスタライブ配信終了後に撮影したスリーショット。

氷見の魅力はもちろん、震災の状況や現地の皆さんが何を求めているのかを知る機会となった今回の鼎談。クラウドファンディングのページでは、積極的に活動について発信し私たちに最新の情報を届けてくれています。

青木さんたちが挑戦するクラウドファンディングのプロジェクトは3月31日まで。
ぜひ、青木さんたちの熱い想いを感じてもらえればと思います。

Editor's Note

編集後記

今回驚いたのが、近隣の県も見えないところで影響を大きく受けているということ。どうしても被害の多かった地域の情報が入ってきやすかったので、青木さんからお話を伺ったことで、直接的な被害がなくても、目に見えない経済的な被害があるということに改めて気づきました。また、日々、目の前のことに追われてしまうことがある中で、 氷見で過ごした時間は、うんと肩の力が抜けた感覚があり、目の前にいる人との時間や景色を大切にできる豊かさに触れることが出来ました。

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