WAKAYAMA・SHIMANE
和歌山・島根
「この人の人生が気になる!」そんな旬なゲストと、LOCAL LETTERプロデューサー平林和樹が対談する企画『生き方 ‐ 人生に刺激を与える対談 ‐ 』。
第14回目のゲストは、株式会社YeeY共同創業者・代表取締役の島田由香さんです。
島田さんは、ユニリーバ・ジャパンで先進的な人事制度を数多く実現してきました。2022年に退職後、自身の「やりたい」想いを原動力として、さまざまな人材育成プログラムを展開しています。
そんな島田さんが語ったのは、「真の人材育成」の極意について。
自分自身の人生を精一杯生き続けているアナタに注ぐ、一匙の刺激をお届けします。
平林:「生き方」の対談企画は、「自分なりの考え方に沿って進んできたら “今” にたどり着いていた」という起業家の方にお声がけさせていただいています。今回、島田さんにお話を伺えるのを楽しみにしていました。
島田:その候補のなかに私を含んでくださってとても嬉しいです。ありがとうございます。改めまして、島田由香と申します。私は今、4つのことだけに時間とエネルギーを使うと決めて生きています。その生き方を貫くために、企業を辞めて雇われない働き方を選びました。
その4つというのは「働き方」「真の人材育成」「地域活性」「ウェルビーイング」です。この4つはすべて掛け合わせで、今はこれらに関わることだけに集中できているので、すごくハッピーです。
企業に勤めている時もハッピーではあったのだけど、やっぱり役職が上がるにつれて責任を負う場面も増えてきて。自分があまりやりたいと思わないことに時間とエネルギーを使うことがもったいなく感じはじめて、退職を決めました。
平林:起業前は何年ぐらい勤めていたんですか。
島田:実はYeeYを起業したのは2018年なんです。新卒でパソナに入社し4年働いて、2年ほど留学した後、日本GEで6年勤めた経験を経て、ユニリーバ・ジャパン(以下、ユニリーバ)で14年ほど仕事をしました。
平林:ユニリーバに14年いて役員もされていたなら、辞め時を決めるのは大変だったんじゃないですか。
島田:これは私だからってことじゃなくて、きっと誰でもそうだと思うんだけど、辞め時なんかないんですよ。ベストなタイミングなんかない。ということは、いつ辞めてもいいんですよ。ただ、「辞める」と決めて実際に退職するまでに1年かかりましたけどね。
平林:やっぱり、それぐらいはかかるんですね。
島田:別に「もう嫌だ!」って感じで辞めるわけじゃなかったし、次があるわけでもない。だから、自分のチームが私の退職後にも安心して働ける体制をつくりたかったし、快く送り出してもらえる形にしたかったんです。
でも、そうなると次々にやるべきことが出てくるし、周りから引き留めていただくことも続いてしまって。なので、これは永遠に「あともうちょっと」が続いてしまうなと思い、あるところで「ごめんなさい。もうここで終わりにします」と伝えました。
平林:先ほど、4つのことを大切にして生きていると伺ったなかの「真の人材育成」というところを詳しくお聞きしたいです。由香さんにとって “真の” とは、どういう意味合いなのでしょうか。
島田:前職でも起業した会社でも、私はずっと人事を担当していて、人材育成や組織開発が専門分野なんです。人を育むことに最も興味があるんですよね。
大学2年生の頃に受けた授業がきっかけで、「これが私のやりたいことだ」と気付かせてもらえました。今でもあの授業にはすごく感謝しています。
「“真の”人材育成とは何か」ということですが、まず1つは、「人って変わるんですよ」ということ。それを心の底から信じているので、対象者が変わる瞬間をいかにその場でつくれるかを大切にしています。時間でいえば最短、インパクトでいえば最大、影響力でいえば最強。
ちょっと大袈裟な言葉を使っているかもしれないけど、何度もトライしたり、ものすごい時間やエネルギーを使わなくても、何かがピタッとはまれば人は変われる。その力を最大限に引き出すのが、私にとっての真の人材育成です。
今、自分が関わっている人材育成プログラムの中で、これは確実に真の人材育成につながると感じているのは、大きく3つあります。「来てくれれば、1回で確実に変わるから!」と言い切れるくらい。
プログラムをつくった私がそれを言うと、「売っている」みたいに聞こえちゃうかもしれないんだけど、そうじゃなくて。お金云々ではなく、真の人材育成に取り組むことが自分の生きるパーパス(大いなる目的)につながると思っているので、とにかく全身全霊でやりたいんですよ。
先ほどお話した3つのプログラムに参加してくれた人たちに対する感想は、「変わる」より「取り戻す」に近いかな。
平林:「取り戻す」とは、具体的にどのような変化なのでしょうか。
島田: “本来のその人” を取り戻している感じです。どのプログラムにも共通していえるのは、「場所を変えること」「自然豊かな場所で行うこと」。この2つが大事。だから地域でやることに大きな意味があると思っています。
平林:環境を丸ごと変えるようなプログラムなんですか。
島田:そうです。1泊2日、もしくは2泊3日で場を展開しています。そこに来てくれれば、私が言っている意味がわかると思います。
平林:プログラムの内容は、それぞれ地域ごとに違うんですか。
島田:そうですね。例えば、島根県の隠岐諸島で行っているリーダーシップ研修プログラムでは、2泊3日もしくは3泊4日で「島流し」をするんです。
これは、隠岐諸島にある海士町(あまちょう)の「風と土と」という会社が地元の方と信頼関係を培うなかでつくられたプログラムに、早稲田大学教授の入山先生のさまざまな理論と、私のマインドフルネスやウェルビーイングの観点を入れて、皆さんでつくり上げたものになります。
平林:「島流し」って、めちゃくちゃいいですね!
島田:現地は実際に後鳥羽上皇が島流しにあった場所ですからね。天皇が島流しにあった場所って、基本的に豊かなんですよ。ちゃんとお米が採れるし、お水もある。
飛行機に乗るだけじゃなく、船に乗らないとたどり着けない土地だから、そこまで行くと人は無意識に「もう戻れない」って思うんですよね。「完全に違うところに来た」という感覚が、スイッチを入れるんです。
平林:由香さんのお話を聞いていると、心と体の一致感が半端じゃないなといつも思うんですよね。それをある種のプログラムで体現することにより、来てくれた方が元気になって本来の自分を取り戻す場をつくっているんでしょうか。
島田:ありがとう!「心と体の一致感が半端ない」と言ってもらえたのがすごく嬉しいです。そうありたいと思って生きているし、そのほうが本当に楽で楽しい。でも、そうじゃない人が多いなと昔から思っていました。
おっしゃる通り、心と体って1つなんです。でも、心の部分を見ないようにしたり、どこかに置き去りにしたりしないとやっていけないような体験が多い日々だと、結局その違和感が体に出ますよね。要するに、病気になってしまう。
なので、そうならないように、実際に体験して感じたことを考える。1泊2日、もしくは2泊3日のプログラムでこの順番に戻していくと、本当の自分の声、自分の心に気付くんです。ただ、気付きやすい人とそうじゃない人がいるのは事実ですね。
平林:キャッチアップが早く、自分の感覚に気付ける方と、そうではない方がいるということですね。
島田:そう。でもそれがいいとか悪いとかの話ではないので、そこで評価・判断しなくていいし、する必要もないんです。その人にとって必要なことしか起きないから。実際に2泊3日、島にいたら、全員本来の自分を取り戻して帰っていきます。本当にめっちゃいいプログラムだから、つべこべ言わずに来て!(笑)
「人が変わるには体験しかない」というのが、私が今至っている結論に近いです。「腑に落ちる」って言葉があるでしょ。「腑」って「体」じゃないですか。だから、深く染み入る体験は、心だけではなく体と共にある身体反応が必要不可欠なんです。それがあるのとないのとでは、学びの質が違う。先ほどお話した「真の」人材育成とは、そういう意味です。
島田:今、和歌山県の白浜町でホースコーチングを展開しているんです。アドベンチャーワールド、日本ウェルビーイングホースセラピー&ホースコーチング協会、GIVENESS&Co.株式会社と共同でプログラムをつくりました。
平林:ホースコーチングって、馬と触れ合ってコミュニケーションを取るみたいな感じですか。
島田:そう。馬にコーチしてもらうの。コーチって言うと最初はみんな「え?」と思うし、「ホースセラピーでしょ」って言うんだけど、セラピーではなくてコーチングなんですよ。
つまり導いてもらい、気付きを与えられる。癒される側面もあるけれど、本来の目的はコーチであり、馬との対話です。
平林:ちょうど先日、長野県の信濃町で馬と一緒に生活されている方とお話をする機会があって。その人もまさに、「馬に対してセラピーという言葉を使いたくない」とおっしゃっていました。馬はすごく臆病で、コミュニケーション能力の高い生き物だから、人の感情がそのまま映し出されるんだ、と。
島田:本当にそうなんです。ミラーリングっていうんだけど、馬の前に立つと、言葉通り自分が全部映し出されるんですよ。だから、自分のなかにある恐れ、不安、光など、気付いていない内面が全部出る。それで最初は戸惑うの。何これ?って。でも、コミュニケーションを重ねながら馬との関係を築いていくなかで、自分が変わると馬も変わるんです。
人間にも素晴らしいコーチはたくさんいます。私自身もコーチングやりますしね。でも言葉があるから良いところと、言葉があることによってわかった気になってしまう部分がある。実際には腹落ちしていなくても、「はい、わかりました」とか言えちゃうじゃないですか。馬は言葉がないから良いんです。
平林:言葉があることによって、コミュニケーションの純度が少し下がる側面があるんですね。
島田:そう。でも馬はそのまんまだから。わかっていないのに「わかりました」って言っても、「わかっていない」が写るから手も足も出ない。私は2016年にスイスではじめてホースコーチングを受けたんだけど、もうね、号泣ですよ。
平林:何があったんですか。
島田:ユニリーバに勤めていた時、社長の勧めでスイスのビジネススクール・IMD(正式名称:国際経営開発研究所)に研修に行ったんです。参加した研修プログラムは全工程が1週間で、「女性だけ」の場だったんですよ。参加者も教授もコーチも全員女性。
平林:徹底していますね。
島田:はじめは「どうして “女性だけ” と括るんだろう」と違和感を抱いていたんですけど、行ってすぐに意味がわかりました。女性だけの場だとすごく安心するんです。「何なんだろう、この安心感」って。それを体で感じたんですよ。そしたら、「闘わなくていいんだ」って思えて、「あ、私これまで闘っていたんだ」と気付いた。これは衝撃でしたね。
平林:今、お話を聞いていて鳥肌が立ちました。
島田:私は無意識のうちに鎧を着て、盾を持って剣を持って闘っていたんだと気付かされましたね。そんな環境下で受けたホースコーチングで、生涯忘れられない体験をしたんです。
「真の人材育成」を目指して奮闘されている島田さんの後編記事では、自然と触れ合うなかで育まれる感覚から構想を得てつくられた「TUNAGUプロジェクト」の詳細に迫ります。
Editor's Note
私自身、心と体の乖離が大きい人間であり、「見ないふり」でその場をどうにか凌ごうとしてしまうところがあるため、島田さんのお話が深く刺さりました。「違和感が体に出る」という言葉にも頷くよりほかなく、この気質を変えるためにも、まず自分の心の声にちゃんと耳を傾けようと強く思いました。
MINORI YACHIYO
八千代 みのり