CHIBA
千葉
「日本一、生産者と地域に貢献する食品会社になる」
そう掲げるのは、創業79年の石井食品株式会社。
「イシイのおべんとクン ミートボール」でおなじみの老舗食品メーカーです。これまで石井食品は、社会課題の解決とビジネスをどう繋げるか、さまざまな実験と挑戦を続けてきました。
「古き良きは残し、変えるべきは変える」
こうした信念のもと、石井食品は時代に合わせたアップデートを進めています。
そして今回、代表の石井智康氏は、地域プロデュースを担う2名の社員に「ローカルプロデューサー養成講座*」への参加を推薦。地域資本を活かした事業創出を学ぶこの講座は、企業の成長にどのような影響を与えるのでしょうか。
*ローカルプロデューサー養成講座…LOCAL LETTERを運営する株式会社WHEREが開講しているアカデミーのひとつ。「地域資本を活かして事業を生み出し、継続する力」を目指して、第一線で活躍するプロデューサーから学び、経験を積む超実践型カリキュラム。現在、第2期を開講中(2024年9〜11月)。(講座詳細はこちら)
「企業×講座」を活かす石井食品の人材育成の取り組みを、社員と代表の声を通じて前編・後編でお届けしています。前編では、講座を受講するに至った企業としての想いや、講座がどのように活かされたのかを紐解きました。
後編では、企業が描く未来と講座での学びをどう掛け合わせるのか、「こんな人に参加をおすすめしたい」など、受講検討中のアナタへのメッセージをお伝えします。
石井食品は設立から79年の変遷を、それぞれの時期に軸として取り組んできた大きなテーマごとに捉え、第1〜4期創業期に分けています。
第1期(1946〜1960年代)佃煮・煮豆、第2期(1970〜1980年代)チルド、第3期(1990〜2010年代)無添加調理(※)、そして現在の第4期は「地域と旬」です。(※)石井食品の製造工程において食品添加物は使用していません。
これまで約20年ごとに大きく方針を見直し、そのつど時代と未来を見据えながら歩みを続けてきた石井食品。実際に方針を変更し、企業全体として実行していくことは容易ではないはず。
企業理念や方針など、経営者の本質的な想いを含め、現場の社員にどう届けているのか。そのアプローチを石井さんに伺いました。
「現在、石井食品は社員388名(2024年3月31日時点)、加えてパートの方がいます。さらに工場も千葉県の八千代工場・京都府の京丹波工場・佐賀県の唐津工場と3カ所が物理的にも離れているなかで、企業としての方向性や想いをどう現場の方まで届けるかは、わたしも常に悩んでいます。
直接会って伝える機会を設けたり、ZoomなどのITツールを利用して発信したりもしています。また、一方的に私から伝えるだけでなく、部署内でディスカッションをし、それを各部門の目標に落とし込んでもらうようにしています。
そのほか、社内研修やイベントを行うなど、さまざまな方法でアプローチし、想いを知ってもらう機会を増やしていますが、まだまだ試行錯誤の段階です。
第4創業期で刷新して企業理念を「真(ほんとう)においしいものをつくる」としたのですが、この理念は突如生まれたわけではなく、すでに社員の根底に共通する想いとして定着していたものです。
その土台があるうえで、さらに発展させて地域と組む、ということを打ち出しているので、それぞれの社員のなかに理念に共通する想いは元からあるんじゃないかと思っています」(石井さん)
企業理念やミッションを「自分ごと化」していく機会として、言葉にする・体験することは大事だと行政(ゆきまさ)さんは言葉を続けます。
「石井食品は、私のような現場の人間が会社紹介をする機会がすごく多いんです。たとえば、地元企業や生産者の方にむけ、資料を見せながら会社の商品や企業理念などを含めて紹介する機会が度々あります。会社が今取り組んでいることを話せる・話したことがある社員はすごく多いと思います」(行政さん)
自社のことを「食の実験企業」だという石井食品は、小さい失敗を歓迎し、評論家になるのではなく挑戦し続けることを重視する文化が根付いています。その「実践」を大事にする姿勢が、ローカルプロデューサー養成講座への受講にもつながっているようです。
「われわれが掲げている『地域プロデューサー』という言葉は『単なる食品メーカーから脱却するんだ』という企業としての決意の表れでもあります。
ここでいう『単なる食品メーカー』とは、商品を製造して販売するだけの状態。その枠からいかにしてはみ出るか、が企業のビジョンにもつながっており、現在掲げている『日本一、生産者と地域に貢献する食品会社になる』という目標にも通じています」(石井さん)
「そういう意味で、イベントを企画することも、弊社では十分理にかなっています。ただ一般に、単なる食品メーカー・食品製造業では地域でのイベントの企画・運営はやらないし、やれない部分だと思うんですよね。なので今後もこんなふうにどんどん枠にとらわれないことをやっていきたいなと思っています」(石井さん)
第1期のローカルプロデューサー養成講座は、2024年2〜6月にかけて行われ、佐賀県唐津市で開催された音楽フェス「Karatsu Seaside Camp 2024 FESTIVAL」(通称カラフェス)を題材に学びを深めていきました。
その音楽フェスが開催された2024年5月25日〜26日の二日間、フェス会場で協賛ブースを出店した石井食品。協賛の流れは受講中に生まれたというので驚きです。その当時の様子を夛田(ただ)さんに伺いました。
「協賛ブースの出店のキッカケは、第1期の講師を務められた橋村さん(株式会社VILLAGE INC 代表取締役社長 橋村和徳さん)からのお声掛けでした。橋村さんからのご提案を受け、行政さんと協力しながら準備を進め、実際にフェス会場でブースを出店するところまで、社内協力を得ながらやりきることができました。
その際大事にしたことは、講座内で学んだ『ビジョン・ミッションをしっかり描き、プロジェクトに落とし込んでいく』こと。
今回のカラフェスにおいては、九州の佐賀県唐津エリアで、われわれの工場とも縁が深い地域でした。地域をどう巻き込んでいくかは、会社にとっても大きな課題であり、今後ファンになっていただくためにも、地域の企業さんやお客さまとの交流をもっと深めていけるように目的をもって取り組みました」(夛田さん)
「実施した結果、ボートレースからつさんなどの地元企業や市役所と新たに関わりが生まれたり、佐賀新聞で記事が掲載されたり、横のつながりが広がっていくのを感じました。
また、講座の受講生にいらっしゃった佐賀新聞の方が積極的に協力してくれるなど、受講生同士のつながりができたことも嬉しく思いました。
唐津工場の工場長からも『やって良かった』とフードバックをいただき、周囲にもそう感じてもらえたことで、さらに喜びを実感しました」(夛田さん)
型にハマった講座とは違い、「地域資本を活かして事業を生み出し、継続する力」を目指して、経験を積む超実践型カリキュラムの講座だからこそ実現した学びだと感じます。
ローカルプロデューサー養成講座には、地域おこし協力隊で自身のプロジェクトを抱えている方、企業に勤めながらも地元で新たにプロジェクトを立ち上げた方、フリーランスで働きながらも地域活性に興味がある方など、さまざまな職種の方が、多岐にわたる目的をもって受講されます。
企業内の業務で活用する知識を得ようと受講した夛田さん、行政さんのお二人にローカルプロデューサー養成講座をどんな方におすすめするのか最後に伺いました。
「この講座の一番の特徴であり、良かった点は『実践ベース』であったことです。実際に現地に受講生が集まり、対面で手をとりあいながら実践できたことでお互いに協力し合え、つながりが強くなったんだと思うんです。
私たちのような食品業界は珍しかったかもしれませんが、企業としてだけでなく、いわゆる地方創生だったり、地域と関わりをもってプロジェクトを進めていきたい方にはおすすめの講座だと思います」(夛田さん)
「講師の方も含め、いろんなタイプの方が講座内にいらっしゃったので、はじめは夛田さんが戸惑ってしまうのではないかと心配していたんですが、さすが夛田さん。全然問題なかったようで安心しました。
というのも普段企業の中にいると、仕事で関わる方が企業内の人間に限定されることが多く、この講座で出会ったようなさまざまな職種や思考をもった方と新たに接点をもつ機会はなかなかないからです。
今回、受講していろいろな職種や視点を持っている方、学びをつかみ実践しようとするような『ベンチャー志向』を持った方たちと出会い、話す機会を得るだけで、いい刺激を受けたな、と感じています。
個人で受ける方はもちろん、企業の方でも、それこそウチの会社のように老舗なんだけどベンチャー志向が必要な会社や社員の方には、すごく良い機会になると思いますね」(行政さん)
老舗企業として培ってきた技術や実績があるなかでも、社会背景の変化に応じて、企業のビジョン・ミッションを見直し、ビジネスと社会課題を掛け合わせながら、社員一丸となって変化をつづける石井食品。
この「老舗ベンチャー」の考え方は、石井食品に限らず、ほかの老舗企業に対しても、未来に多くの可能性があることを示唆しているように感じています。
ローカルプロデューサー養成講座は現在(2024年9〜11月)第2期を開講中。(講座詳細はこちら)第3期の開講は、2025年2〜3月ころを予定。受講を検討される方は、講座の最新情報が届く、LOCAL LETTER公式LINEの友達登録がおすすめです。
Editor's Note
小さな失敗を歓迎し挑戦を続ける姿勢をつらぬくことは、言うは易く行うは難し。個人単位でも失敗が怖いのに会社として実践していくことが、どれだけ大変なことか想像もつきません。そんななか講座としてある程度安全な環境で「実験と実践」ができるのは、企業にとってもプラスなのだと今回のお話を聞いて感じました。そして取材の後、すっかりファンになった私はイシイのミートボールをスーパーに買いに行きましたとさ。
MISHIRI MATSUMOTO
松元みしり