前略、100年先のふるさとを思ふメディアです。

LOCAL LETTER

起業家を志した漁師の息子が、魅了された「家業」とは?

FEB. 24

SUSAKI,KOCHI

前略、自分が好きになれる仕事を探しているアナタへ

突然ですが、“キャリアの成功” ってなんだと思いますか?

高い給料をもらうこと? 有名な企業に入ること? 若くして役職につくこと?

“キャリアの成功” と一言にいっても、その形は人それぞれ。最近では「好きな仕事をしていること」を “キャリアの成功” と捉える人も増えてきました。

ですが同時に、そもそも「自分にとって好きな仕事が何かわからない」という声も耳にします。

そこで今回、LOCAL LETTERが全3回の記事を通じて特集するのは「やりたくなかった “家業(仕事)” に “好き” を見つけた」若手3名。

本編では、九石大敷組合で現在広報担当として活動する笹岡祐貴さんをご紹介します。

九石大敷組合広報担当 笹岡祐貴さん
九石大敷組合広報担当 笹岡祐貴さん

学生時代から漠然と憧れていた「起業」と「社会貢献」をするために、笹岡さんが新卒で入社したのは、一般企業の営業職。その後、友人と一緒に起業を目指し、会社を退職。当時流行り始めだったフラッシュモブのサービスに目をつけ、営業に奮闘していたという。

「営業が辛くても、起業に大失敗しても、家業に関わるつもりは全くなかった」と笑いながら話す笹岡さんが今、家業に挑戦している理由をお聞きしました。

漁師に関わるきっかけは、父親からの「気楽な誘い」だった

笹岡さんが家業に関わるきっかけをつくったのは、笹岡さんのお父さん。

起業に大失敗し次の起業を考え始めたタイミングで、「ちょっとの間だけ家の仕事を手伝ってほしい」というお願いを承諾したら、いつの間にか話が「骨を埋める覚悟でやるに変わっていた」というのだ。

「最初は驚きましたが、今は父に感謝しています。僕は心の底から、九石大敷組合で働いているみんなを尊敬しているし、大好きなんです」(笹岡さん)

全くぶれずに、真っ直ぐ仲間への愛を語る笹岡さんの熱量は、一体どこからやってきているのだろうか。

「漁師が、全身全霊をかけて魚を獲っている姿勢を最初に見た時、心を奪われました。魚が獲れなければ、漁師は生活することができませんそれが漁師にとっての当たり前なんです」(笹岡さん)

九石大敷組合の魚を捕る様子

普段、魚屋や食卓に並ぶ魚も、漁師が魚を獲らなければ何も始まらない一方で「魚を食べられることは当たり前」と考えている方も多い。ましてや「漁師」という仕事に、力仕事・大変・クリエイティブではないといったマイナスイメージを抱いている方も少なくない。

自然を相手に一人一人が命をかけて魚を獲っていても、なかなか漁師の仕事が日の目を見ることはないのが今の現実なのだ。

漁師が仕事に誇りを持つことが「社会貢献」への第一歩

だからこそ、笹岡さんが九石大敷組合で目指しているのは「世界基準で通用する魚を提供する漁師」。

「日本一になったら、間違いなく自分たちの仕事を誇れるじゃないですか。そうしたら、漁師一人一人により “責任感” が生まれてくると思うんです。僕は、自分の仕事に自分自身が誇りを持って、楽しんで働くことが何よりも大事だと思っています」(笹岡さん)

さらに、笹岡さんには目指している世界がある。

「小さなまちの漁業組合が日本一になったという成功事例ができれば、他の漁業組合にも良い刺激になると思うんです。正直魚は、個体差はありますが、一定の処理さえしていれば、どこの魚でも美味いんです。僕たちは魚を扱うもの同士、敵ではありません」(笹岡さん)

漁師がお互いに良い影響を与え合いながら、自分たちの仕事に誇りを持ったり、お客様に提供する魚の質を上げていったりすることが、一つの社会貢献だと笹岡さんは話す。

漁師が仕事に誇りを持つためには?

そして、漁師が命をかけて獲ってきた魚をお客様にも大切に味わってほしいからこそ、笹岡さんは「一定の処理」にもこだわりを持つ。中でも一番のこだわりは、日本の漁業組合ではほとんど行われていない「神経〆*1 」という技法。自らそのやり方を調べるばかりでなく、その技法を知るプロの元へ足を運ぶなど、日々試行錯誤を繰り返しながら、新しいことへの挑戦も厭わない。

九石大敷組合の神経〆の様子
神経〆の様子。船の上で、魚が獲れた瞬間に漁師がしめる

他にも、魚を郵送する際には、魚を入れるケースや、氷の量なども笹岡さん自身が研究を重ね、お客様の手元に最適な状況で魚が届く工夫を行う徹底ぶり。

*1 神経〆
魚を漁獲した後の処理方法。死後硬直を遅らせ、身の引き締まったおいしい魚を長持ちさせることができる。ただし、一匹ずつ手作業で処理をしなければならない。

嬉しいことも辛いことも共有できる仲間といるから、生きた心地がする

「家業に関わるつもりはなかった」という笹岡さんをここまで突き動かす原動力は、なんなのだろうか。

たまに2つの自分の未来を想像することがあるんです。1つ目は、起業して、たくさんのお金を稼いで、綺麗な服を着ている未来。2つ目は、泥臭くても仲間と一緒に円陣を組んで、熱い話をかわしながら進んでいく未来。僕は、2つ目の未来の方が絶対幸せなんです」(笹岡さん)

九石大敷組合広報担当 笹岡祐貴さんの目指している姿

きっと、人生には正解も不正解もない。笹岡さんのように2つ目の未来を幸せだと感じる人もいれば、1つ目の未来を幸せに感じる人もいるだろうし、どちらの未来も幸せとは感じない人もいるかもれない。

ただ間違いなく言えるのは、笹岡さんにとって九石大敷組合は、「職場」や「家業」である以前に、嬉しいことも辛いことも共有できる仲間のいる「大好きで守りたい場所」であり、仲間を日本一の漁師にするために奮闘する今の仕事が、笹岡さんにとっての「好きなこと」であるということ。

あなたにとっての「好きなこと」とは、なんだろうか。

これからも高知県須崎市の応援をお願いします。

これからも高知県須崎市の応援をお願いします。

これからも高知県須崎市の応援をお願いします。

LOCAL LETTER Selection

LOCAL LETTER Selection

ローカルレターがセレクトした記事