協働
地域には素晴らしい技術や製品コンセプトを持つ企業が数多くありますが、人手不足や外部環境の変化の激しさに対応しきれず、じわりと衰退する中小企業や伝統産業があるのも事実。
一方で、地域の企業にとって追い風といえるのは企業が副業解禁をし始めていること。2018年の副業解禁以降、副業・兼業への関心が高まり、優秀な人材が自分の仕事をマネジメントしつつ、志や想い、意欲に基づいてパラレルに働けるようになってきました。
そんな動きの中で、「協働を通じて、地域の活性化と働く人の活性化を実現する」という理念を掲げ、意欲あるプロフェッショナルたちと企業をマッチングし、協働を通じて地域の会社の事業課題の解決へと導く事業を展開する、株式会社協働日本。
今回は、協働日本の代表取締役社長の村松知幸さんに、「協働によって人や企業にもたらす価値」や「地域の企業の可能性」をお聞きしました。
数々の地域の事業者や団体と意見交換をしてきたという村松さん。リアルな声を聞く中でよく耳にしたのは、「副業人材とのマッチングがうまくいかない」という声でした。
「多くの場合、企業側の『何のために副業人材を受け入れたいのか』を言語化する必要があります」と村松さんは、企業側の課題を挙げます。
大きな変革や事業づくりを自社内のメンバーのみでやりきるのは難しいと感じている企業の声を多く聞きます。だからこそ、経営に伴走してくれる外部人材を求めることも大切です。村松 知幸 株式会社協働日本
地域の事業者に寄り添って目的に応じて人材やチームを提案する、それが協働日本のスタイルであり、村松さんのこだわり。
「副業人材のマッチングにおいて、協働日本では企業の人材不足を埋めるような “穴埋め型” のマッチングは行っていません。確かに、企業にとってリソース不足を正社員ではなく、副業人材で補えば人件費を抑えられるかもしれません。しかし、協働日本では社名にある通り『協働』することを最も大切にして事業者のビジネス支援をしています」(村松さん)
協働日本の最大の特徴は、協働プロと言われる約140人のプロ人材がチームを組み、企業側の社員とともにひとつのチームとなって「社長や会社の成し遂げたいことを実現するプロジェクト」を推進していること。会社の変革や挑戦したい事業に対して、うまく外部人材とチームを形成し、1年間かけて実現をしていきます。
「チームを形成する際には、まず最初に僕自身が経営者にヒアリングをし、課題や成し遂げたいことを明らかにしていきます。そこから、優先順位をつけ1年間のテーマを決定して目標を定めます。そのテーマに基づいて、協働日本にいる約140名のプロ人材から、企業のテーマや目的にフィットする最適なチームを組みます」(村松さん)
協働日本にいる約140名のプロ人材。本業は正社員であったり、役職者だったり、現役のスタートアップの経営層だったり。企業の中にいる人たちが「協働プロ」として所属しています。
業界も異なり、企業によって取り組むテーマも違うため、これまで一組として同じメンバーで構成されたチームはないのだそう。
「たとえば、事業づくりに長けた事業開発のプロ、Webも含むマーケティングのプロ、開発や分析のできるエンジニアの3名など、テーマ毎に個々の強みを活かしたチームを構成します」(村松さん)
『何のために副業人材を受け入れたいのか』『何を成し遂げたいのか』を言語化した上で、1年間という区切りある期間で目標を定めていることで、悩める地域企業にとっても、協働プロのメンバーにとっても、オーダーメイドで最強のプロジェクトチームをつくりあげることができるのです。
ここからは実際に協働日本が携わった「協働」の事例も交えて、より具体的に協働日本の活動をみていきます。
「奄美大島にある『はじめ商事』という会社と共に、日本の伝統工芸品・大島紬の価値を周知するためのプロジェクトに取り組んでいます。最盛期は250億円規模の市場とされた大島紬は、今や2億円程度の市場となり産業の縮小が続いています。その中で新しいコンセプトや商品力を持って、大島紬の価値をアップデートしていこうと取り組む事業者との協働事例です」(村松さん)
村松さんが総責任者として参加し、マーケティング、事業開発のプロそして「協働サポーター」が1名入り、4名のプロフェッショナルによる事業支援チームを組んだという。
このプロジェクトで着目したのが「奄美布」という生地。古くなった生地を1度全て裂いて、糸レベルにしたあとに再び織り直す「裂き織り」という技法を使って、着られなくなった着物を新たに小物や服に蘇らせた生地である「奄美布」を、サステナビリティの取り組みとして発信を行いました。
「奄美布について、これまでBtoC中心だった取引がBtoBでも展開できる道が開けました。冠婚葬祭事業者との業務連携や、人脈を繋ぐことでサンロッカーズ渋谷というプロバスケットボールチームとのコラボに発展。
試合会場で、古くなったユニフォームを裂き織りの技術で小物に織り直すというパフォーマンスをしました。奄美布はもちろん会社や大島紬という伝統工芸品の認知度が上がっただけでなく、他のスポーツチームへの展開を含めて今後もさまざまな連携が予定されています」(村松さん)
協働日本が企業に伴走する際は、構造改革や新規事業の立ち上げなど時間がかかるプロジェクトが多数なので、アドバイザーのような関わり方では物事がうまく進捗していきづらい。
「難易度が高いことにチャレンジするので、戦略づくりやプロトタイプづくりに約半年、そこから実践の中で成果を出していくのを約半年という形で、まずは1年間取り組みます。短期間のプロジェクトもありますが、1年間伴走する形が最も多いですね」(村松さん)
協働日本に相談する会社の約8割は、年商1億から5億円規模の中小企業が中心。こうした企業の事業に自分の能力を寄与、貢献したいと考えるプロフェッショナル人材が、経営者と実践的な事業づくりや経営支援の観点で伴走してくれるので、企業にとっては心強いパートナーをチームに受け入れられるのです。
「毎週、必ず戦略ミーティングをするので、企業側にとってはかなり大変だと思いますが、顧客に対する手を打ち、そのうえでミーティングに臨むというのがベースになっていきます。顧客動向をつかむ力がついていくし、勝ち筋を見極める確度も高くなっていくんです」(村松さん)
協働日本には、大企業に勤める人や企業の経営層、スタートアップの経営者など今まさにビジネスの最前線で働く人たちが「協働プロ」として副業をしています。本業の仕事が多忙な中で、地域の企業と協働することにどのような価値を見出しているのでしょうか。
「会社の規模が大きくなると業務も細分化されていき、手触り感のあること、つまり顧客の反応をダイレクトに知る機会が減っていきます。副業人材として携わることで、そうした商売や事業の意義、達成感があると感じているプロたちが多いですね」(村松さん)
1度の人生だからこそ、地域や日本という『故郷』の活性化につながることに貢献したいという志が高く、『みんなのために』という想いを持ちながら参加しているプロフェッショナルが、仕事の面白さを感じているのだと、村松さんは楽しそうに話します。
「協働プロ」たちにとっても、自身の経験値を活かし、貢献する手腕が試される場になり、プロジェクトの伴走を通して商売の面白さを見出せる機会を提供している協働日本。
村松さんは、そんな協働日本で活躍するプロ人材について「自分が『何のために副業し、何のために経営者と対峙して伴走するのか』ということを言語化できている人たちです」と話します。
「プロ人材にももちろん相性はあります。リードをするのが得意な人や、専門性を発揮するのが得意な人といったようにさまざま。企業とのミスマッチにならないためにも、プロ人材の想いを受け取る機会をつくり、チームメンバーになるプロ同士のマッチングも大切にしています」(村松さん)
面談で個々の強みや意欲、志といったところを、村松さん自ら丁寧にヒアリング・把握して、「協働プロ」として参画してもらうのだそう。
「どういうチーム編成をすれば活性化させられるか、社長や企業の特色、業種との相性を見極めてチームにアサインします。メンバー一人ひとりの想いを受け取り、関わる人の “やりがい” や “さらなる成長” にも繋がることを意識したチームづくりですね。“協働” をとことん追求しているからこそ、協働プロたちも本気で企業と取り組みすることができるのです」(村松さん)
また、チームには必ず1名の「協働サポーター」というメンバーを入れているのも協働日本の特徴。これは、協働プロとして1人でも経営者と対峙できるように、すでにいるプロたちと一緒に1年間のプロジェクトを経験して、資料づくりや場の回し方などを実践的に学ぶ仕組みです。
「チームの過半数を経験豊富なメンバーにして、協働サポーターを1名入れることで次なる協働プロの育成に繋げています。僕自身が人事や組織開発を担ってきた経験もあり、協働プロの育成にも活かしています」(村松さん)
プロフェッショナルと地域の企業をマッチングし、企業のやりたいことを実現していく、協働日本。
受注・発注の関係は嫌なんです。ワンチームであることが大事。村松 知幸 株式会社協働日本
副業人材側もチームメンバーとして一緒に企業のやりたいことを実現していくので、「地域をよりよくしたい」という強い想いが、企業側の人材の成長や組織の活性化に繋がっています。
「企業側には幹部などの人材育成に悩みを抱えていることも多く、協働のプロセスの中でプロからいろんなやり方を学びながら実践を重ねることで、考え方やスキルが少しずつ移管され、企業側の若手や幹部候補者の成長にも繋がるんですよ」と嬉しそうに話す村松さん。「協働」することによってもたらされる効果や拡がり方に、地域の企業を未来につなげる可能性を感じます。
プロジェクト実施後の企業から、「協働」がリピートされる依頼は9割を超えるのだそう。目標達成と同時に組織活性化の効果を感じて、また別のプロジェクト、チームで協働したいと依頼が舞い込みます。
「経営者との協働経験が長い人材は、やりたいことや課題感を把握する能力を磨いてきています。副業人材というと、経験や資格の有無などで、きること・やるべきことが注目されがちですが、彼らは理念の体現者。そんな人たちが集まるからこそ、チームを組んだ際のミスマッチが起こりにくくなっているんです」(村松さん)
顧客変化が激しい中で、マーケティングや事業開発のプロフェッショナルと一緒に取り組むことで、地域の事業者が自社の商品やサービスの価値を改めて実感し、能動的に人や組織に働きかけるようになっていく。
組織力を高める上でも地域の企業にとって、協働日本のような副業人材の活用の仕方は大きな戦力になるのではないでしょうか。
僕らがすごいからできるんじゃないんです。事業者自身が受注・発注の関係を超えてやる気スイッチが入るというのが『協働』することの価値だと思います。村松 知幸 株式会社協働日本
協働日本が大切にしているのは、チームで一緒に行うこと。人を育て、組織を強くしていく「協働」の姿勢は、さまざまな挑戦をしようとしている企業、今会社の未来に悩みを抱えている地域の企業にとって、外部人材を活用する上で大切な考え方になってくるでしょう。
Editor's Note
スポーツ界で「優秀なプレーヤーがよい指導者になれるとは限らない」と言う人がいるように、ビジネスパーソンもさまざまな功績があっても別の企業や組織で同じように成果を出せるとは言い切れないと思います。協働日本にはプロたちの経験や知見を本気で活かし、人も組織もよい方向に導く仕組みがあります。「協働」はこれからの副業・兼業においてキーワードになっていきそうです。
ASUKA KUSANO
草野 明日香