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LOCAL LETTER

「自分のまち」に還元したい。地域の未来を咲かせるコラボの種

OCT. 03

JAPAN

拝啓、業界を跨いだコラボレーションで地域を盛り上げたいアナタへ

※本レポートは「地域経済サミットSHARE by WHERE in 東海 – 結ぶ東海 –」内のトークセッション「共創x新規事業|越境して興す事業創造」を記事にしています。

事業の規模もジャンルも様々な4名の登壇者による、新規事業と共創(コラボレーション)をテーマにした今回のトークセッション。

前編ではコミュニケーションを軸に作られていく協業の形と、登壇者の方が実際に取り組まれている活動についてお話いただきました。

後編では、より「ローカル」に繋がっていくための新規事業と共創に必要なことをお届けします。

「自分のまち」に繋げることが、共創の本当のゴール

高嶋氏(モデレーター、以下敬称略):事業共創を成功させる上で大切なのは、コラボレーションのゴールを双方で合わせておくことというお話がありました。非常に重要なポイントかと思うので、「ゴール」についてさらに深くお伺いできますか。

高嶋 舞(たかしま まい)氏 岡崎ビジネスサポートセンターセンター長 / 大岡崎ビジネスサポートセンター「オカビズ」は、10年間で相談件数が2万5千件、約1,000の新事業・新サービスの立ち上げをサポートする行列が絶えない中小企業のビジネス相談所。著書『怒らなくても「自分からやる子」が育つ親の言動○△×』(サンマーク出版)
高嶋 舞(たかしま まい)氏 岡崎ビジネスサポートセンターセンター長 / 大岡崎ビジネスサポートセンター「オカビズ」は、10年間で相談件数が2万5千件、約1,000の新事業・新サービスの立ち上げをサポートする行列が絶えない中小企業のビジネス相談所。著書『怒らなくても「自分からやる子」が育つ親の言動○△×』(サンマーク出版)

新美氏(以下敬称略):僕の場合は、最終的にできるビールの色やレシピ、スタイルといった細かな部分についてはしっかり打ち合わせを行います。

ただ、ビールとしてのゴールも当然決めるんですけど、コラボしたあとにその「ゴール」が僕の想像している以上に広がっていくことがあります。

新美 泰樹氏(にいみ たいき)氏 株式会社PLUS OKD代表取締役 / 愛知県知多市で竹新製菓㈱の長男として生まれる。34歳で新たな挑戦を求めて東京へ飛び出し、クラフトビールに出会う。徳島や鳥取で醸造の知識を深めたのち、地元・知多市岡田で2019年にOKD KOMINKA BREWINGを立ち上げ、2021年には株式会社PLUS OKDを設立。2022年には古民家複合施設「SoN」をオープン。
新美 泰樹氏(にいみ たいき)氏 株式会社PLUS OKD代表取締役 / 愛知県知多市で竹新製菓㈱の長男として生まれる。34歳で新たな挑戦を求めて東京へ飛び出し、クラフトビールに出会う。徳島や鳥取で醸造の知識を深めたのち、地元・知多市岡田で2019年にOKD KOMINKA BREWINGを立ち上げ、2021年には株式会社PLUS OKDを設立。2022年には古民家複合施設「SoN」をオープン。

例えば友人のヘアサロンでコラボしたときの話ですが、彼のサロンではパーマやカラーリングで生まれる待ち時間にビールを提供しているんです。普通ならお茶やお水が出てくるところで、ビールを飲んでる人がいる。それを知ったとき「これはすごいな」と思いましたね。

後日、サロンでビールを飲んだお客様が「この前美容室で飲んだビールが美味しかった」と岡田にあるOKDの店まで訪れてくれるようになって。僕は僕で「ビールが飲める美容室があるよ」と、友人のサロンを宣伝する機会が増えました。

ビールを発信して終わりではなく、ビールをきっかけに 岡田というまちに人が来てくれる。ゴールとしてビールは作るんですけど、本当のゴールはまちに来てくれることだと僕は考えてます。

はじまりは好奇心。コラボレーションの種はあらゆる場所に

細井 広康氏(ほそい ひろやす)氏 株式会社アイシンVC事業センター 新事業創生ラボ 新事業創出部部長 / 1972年愛知県生まれ。1996年に(株)アイシンに入社し、デザイン部にて工業デザインに従事。2015年に新事業創出部に異動。パーソナルモビリティILY-Aiの企画、開発に従事。2023年新事業創出部部長に就任、現在に至る。
細井 広康氏(ほそい ひろやす)氏 株式会社アイシンVC事業センター 新事業創生ラボ新事業創出部部長 / 1972年愛知県生まれ。1996年に(株)アイシンに入社し、デザイン部にて工業デザインに従事。2015年に新事業創出部に異動。パーソナルモビリティILY-Aiの企画、開発に従事。2023年新事業創出部部長に就任、現在に至る。

高嶋:コラボレーションの発想はどこから生まれるのでしょうか?

細井氏(以下敬称略):私の場合は、ほとんどが好奇心から来ていると思います。どれだけ事業の範囲以外の様々な情報を持っているか、が大事です。

そうした情報が頭の中に残っていて、何か困っていることがあったときにアイディアとして湧いてきます。

例えば何かの材料を燃やす必要が出たときに「ただ燃やすのではなくて、花火になったら面白いのでは」とか。そこから花火屋さんに連絡して、といった流れが多いですね。

高嶋:コラボを考えるときに、頭の中の情報から「これとこれを組み合わせたら面白いかな」という仮説が生まれるのですね。

細井:そうです。異業種の方々とお話をさせてもらうのも、本当に楽しくて。知らない世界ばかりで新しい発見がたくさんあります。仕事に繋がるかどうかは別としても、面白いと思ったものは深堀りするようにしていますね。

水野 智路氏(みずの ともろ)氏 練り込み陶芸家 / 2008年から作陶を始め、練り込み技法を駆使して作品を制作。全国各地の百貨店やギャラリーで個展を開催し、愛知県瀬戸市の魅力と練り込み技法を伝える。SNSを活用した情報発信にも注力し、インスタグラムのフォロワー数は17万人を超える。
水野 智路氏(みずの ともろ)氏 練り込み陶芸家 / 2008年から作陶を始め、練り込み技法を駆使して作品を制作。全国各地の百貨店やギャラリーで個展を開催し、愛知県瀬戸市の魅力と練り込み技法を伝える。SNSを活用した情報発信にも注力し、インスタグラムのフォロワー数は17万人を超える。

高嶋:水野さんも、他の分野の物事が自分の仕事に活きた経験はありますか?

水野氏(以下敬称略):たくさんありますね。こちらが「え!」と驚くような技術を持った方と出会い、その方と話すことで新しい展開が生まれることが多々あります。また、陶芸ではない趣味の延長で作ったものが仕事に繋がることもあります。僕の場合は相手とのコラボも多いですが、自分自身とのコラボ、つまり一人コラボも多いです。

例えば3年前からゴルフを始めたのですが、ゴルフ用のマーカーを自分で作って販売しました。その他にも、スケートボードの道具を作ってみたり。これらは自分の趣味とのコラボレーションに過ぎませんが、やってみた結果、意外にも多くの人が欲しいと言ってくれたこともありました。

高嶋趣味含めて自分の事業と全く違うところを深掘りしてみることで、新しいビジネスが生まれていくのですね。そして実際に売ってみることで、それまで気づかなかった需要に繋がることがわかりました。

「まち」と「文化」を安売りしない価格設定

高嶋:普段私が中小企業を支援するうえで、適正な価格で物を売ることは非常に重要だと思っています。せとものというと、比較的安価で市場に出回っているイメージがあるのですが、水野さんは作品を適正な価格で販売することを実現されていますよね。この点について、どのようなお考えをお持ちですか?

水野:そうですね。僕は陶芸家として活動して約16年になりますが、5年ほど前まではアルバイトをしながら作品を作っていました。

当時から価格が変わらないものもありますが、最近ではやはり適正な価格を設定することが必要だと感じています。お皿であれば1週間で10枚から20枚しか作れないため、現在は5,000円から6,000円で販売しています。これは当時からの価格ですが、新作についてはもう少し値段を上げようと考えています。

以前企業とコラボする際に、最初に提示した価格から約4割も販売価格を下げられてしまったことがありました。日本では海外よりも、作家が軽視されるという傾向はまだまだあります。

作家として偉ぶるつもりはありませんが、適正な価格を守ることは大切だと思っています。

高嶋コラボレーションの場合にも価格を下げず、適正な価格を維持することが重要だということですね。

水野:そうです。せとものは一般的に安価なものが多いですが、作家の中でも最近では適正な価格を設定し、それを維持しようという意識が広がっています。

これまではいわゆる「作家もの」でも数百円の商品もゴロゴロありました。でもそれを2,000円、3,000円で作って売っていく。

現在でも、瀬戸では小さな販売会やクラフトギャラリーで、多くの作家が作家業とは別にアルバイトをしながら作品を販売しています。自分を安売りしない価格をつけて、自分の器を人に手に取ってもらったときの喜びなどを、みなさん感じながら販売されているんだろうなと思います。

高嶋:新美さんはどうお考えですか?

新美:そうですね。クラフトビールは名古屋ではまだそれほど高価格ではありませんが、関東や関西ではしっかりした価格で販売されています。

僕がビールを始めた頃はまちの人や知り合いから「こんな価格では成り立たない」と言われ続け、2年間は苦労しました。しかし、最近では逆に値上げができるようになってきたと思います。

ビール作りを始めたのも、生まれ育った岡田で何か面白いことをしたいという思いからでした。実家も商売をやっているのですが、当時僕が家業を継ごうと思ったタイミングでは大手企業が根強く、これでは面白くないなと思ったんです。

34歳の時に家を出て「ちゃんとしたものを作って、ちゃんとした値段で売りたい」と考えるようになりました。そこからクラフトビールで世界に注目されるような話題を提供したいと思い始めたんです。

岡田は知多木綿という織物で栄えた場所で、「トヨタが今あるのは岡田のおかげだ」と言われるほどの歴史があります。そんな岡田で様々な取り組みが進んでいることを、非常に面白く感じています。

地域で新しい事業を生み出すには。新規事業までのステップ

高嶋:そろそろお時間が近づいてきましたが、今日は「共創と新事業」をテーマに、コラボレーションを通じてどうすれば新しい事業が生まれるのかについてお話を伺ってきました。

改めて、協業を進める際に皆さんが大切にされていることは何か、次の展開に繋がるためのポイントを最後にお話しいただけますでしょうか。

それでは、新美さんからお願いします。

新美:そうですね。これは非常に難しいテーマだと感じています。コラボレーションに至るまでには時間がかかるものです。まず新規事業を立ち上げた後、やっとコラボが実現するのかなと思っています。僕もそうでしたが、コラボレーションに至るまでには本当に時間がかかりました。

僕の新規事業を進めるときの考え方として、とにかく行動を起こすことが大事だと思っています。スタートラインに立つ前にもうスタートを切ってしまう、欲しいものがなければ作ってしまうという考え方です。

例えば、岡田の町ではパン屋がなかったのでパン屋を作り、ビール屋がなかったらビールを作り、コーヒー屋がなかったのでコーヒー屋をオープンしました。

これらを実現した後に、コラボレーションの相手が見つかってくるのだと思います。無理してコラボを進める必要はないと感じていますが、新規事業が軌道に乗ってきた時に、大手企業から提案があったり、コラボの機会が生まれることもあります。

コラボレーションすることで、自分の技術や考え方のレベルも上がるので、常に課題を持ち続け、無理のない範囲で挑戦を続けたいと思っています。

高嶋:ありがとうございます。水野さん、いかがでしょうか。

水野:新美さんのお話が正解だと思います(笑)。僕からの答えを言うと、コラボの提案を自分からすることはあまりありません。

相手が僕を知らなければうまくいかないと思うので、基本的には自分からは売り込まないです。その代わりにSNS上でいろいろな情報を発信し、声をかけてもらったところでお互いに興味が持てればコラボを進めてきました。

作り手として相手から声をかけてもらえるようにする、という方向で努力をしてきました。SNSの力を借りて自分に声がかかるようになれば、それが次のステップに繋がると思っています。

高嶋:ありがとうございます。では、最後に細井さんお願いします。

細井:みなさんが仰った「やってみよう」という言葉がキーワードだと思います。

私も最初にゴールを設定することが大事だと思っていますが、そのゴールが高すぎると「やってみよう」となりません。やれる範囲でゴールを設定することは、その後のリスクヘッジにもなります。

失敗しても良いというゴールを最初に決めておくことが、一番大事なポイントだと思いますそうすることで、まずはスタートを切ることができ、そこから共創が始まっていくからです。

高嶋:ありがとうございます。今日の話の中で、たくさんのキーワードが出てきました。「共創と新事業」に関するお話を伺いながら、事業によって地域のことまで繋がっていく様子が非常に面白いと感じました。

大企業も中小企業も事業を生み出すための考え方やチャレンジの姿勢には共通点が多くあり、非常に学ぶところが多くありました。これからも皆さんの姿勢を学びながら、地域で新しいことを生み出していければと思います。本日はありがとうございました。

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Editor's Note

編集後記

企業のコラボ、素材のコラボ、地域のコラボ…コラボレーションと一口に言っても多層的です。登壇されている方の会話の中で新しいコラボレーションが次々に生み出されていく、まさに人と人の化学反応を目の当たりにしました。

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