SHIZUOKA
静岡
まちを盛り上げようとイベントを開催。
イベント当日はたくさん人が集まるが、翌日以降は賑わいは消えてしまう…
「果たしてこのイベントはまちの盛り上げに役に立てているのだろうか?」
そのように感じたことがある人もいるかもしれません。
では、この状況を変えるにはどうすればよいのでしょうか。
この問いへのヒントになる取り組みを続けているのが、一般社団法人lanescapeです。
公共空間の活用や遊休不動産の再生を通して、まちの風景を少しずつ変えていく活動を行っています。
まちの風景を変えるとはどういうことか、そしてなぜそのようなことができるのか、lanescape代表の小松浩二さんにお話を伺いました。

「もったいないな」
カナダやフランスなど、様々な国で自然やまちなみの活用方法を見てきた小松浩二さんは、ふるさとの沼津にUターンした際、こんなことを思いました。
JR沼津駅南口に降りると、駅からまっすぐ延びる商店街が見えます。また、路地に入って15mほど進むと、駿河湾に注ぐ一級河川・狩野川と沼津アルプスを望む雄大な景色に出会えます。それは港町である沼津の、もう一つのシンボルとも言えるような景色です。しかし、狩野川にも商店街にも人がいない現状がありました。

狩野川で昼寝をしたり、商店街を歩いたりするうちに、小松さんは思うようになりました。活かせそうな場所がいくつもあるのに、それが使われていないままになっている、と。
「Uターンした時、まちなかに若者がいないって言われてたんですよね。狩野川の河川敷を眺めてみて、例えば京都の鴨川にはあれだけ人がいるのになんでここにはいないんだろうと思いました。
また、海沿いの素敵な公園では遊泳も禁止、登れそうな岩へのロッククライミングも禁止、と禁止されていることが多いことに気づきました。
私はカナダで、地域資源でどう遊ぶのか、どう活用して楽しむのかを学んできたので、地方に可能性があると思っていたんです。
もちろん、安全性を担保することなど難しい面があることも理解してはいたのですが、禁止だらけの現状を見てやはりもったいないなと感じました」
そこで、あげつち商店街の広い歩道の活用の仕方を模索したこともあったそうです。しかし、安全管理や既存のルールとの兼ね合いなどから、実現への道筋を見出すのは容易ではありませんでした。
また、地域のなかでの会話にも引っかかりを感じていました。
「地域の皆さんは、『この地域には山もあって、海もあって、川もあって、まちもあっていいよね』と話されています。それは素敵なことだし、私も共感するんですが、可能性だけを語って終わってしまうのは、もどかしい気持ちもありました」
その中で、自ら動くことの必要性を感じるようになります。
「『誰かがやってくれないから』と立ち止まるのではなく、自分だったら何ができるだろうと動いていくことが必要だと感じました」

小松さんがそう考える背景には、過去に、カナダで人が集まる場を生み出した経験がありました。滞在していたバンフというまちはカナディアンロッキーに囲まれたアウトドアを思いっきり楽しめるまちです。
小松さんはmixiで「バンフの部屋」というページをつくり、まちの楽しさを発信、そして人の集まる場をつくりました。
「楽しいことを発信してると、日本の友達が「バンフの部屋」に遊びに来てくれるようになりました。その友達がバンフに来た時に地元の人と仲良くなって、登山やトレッキングに一緒にいくような繋がりが生まれました。
バンフの活性化を目指していたわけでなくて、自分たちが自分たちらしく楽しめる場をつくっていたイメージなんです」
そのような経験もあり、自ら動く決意をした小松さんは、2009年に沼津のあげつち商店街で八百屋「REFS」をオープン。八百屋に来るお客さんの困りごとを解決することから地域課題の解決に取り組んでいくことになります。
八百屋を構えてしばらく経った後、東日本大震災後が起こります。まちなかの雰囲気が暗い、若者の姿が見えない——そんな声に応え、まちに賑わいを取り戻そうと小松さんが企画したのが「沼津ナイトマーケット」でした。

あげつち商店街の沼津田丸屋を巻き込み、『わさび漬けを美味しくする会』を開くなど、地域の人が自然に関われる場を模索します。
小松さんが大切にしたのは、単なる「イベント」で終わらせないこと。若者だけが盛り上がっているような場にしないことを意識したといいます。
「最初は8人ぐらいで始めて、そこに年配の方が1人いるだけで、‟若者だけで勝手に楽しんでいる感”がなくなったんです。次の月にやったら8人が20人になって、そこにも若者だけじゃなく年配の方もいてくれて」(小松さん)
その後、小松さんは商店街の仲間や行政職員らと出会い、複数の社会実験(かのがわ風テラス、NUMAZU OPEN AIR PROJECTなど)に携わりながら経験を重ねていきます。
そうした積み重ねの中で生まれた長期プロジェクトの一つが「週末の沼津」でした。
公園を一時的な賑わいの場ではなく、人と人の関係性が育つ場にー。
「週末の沼津」は、コロナ禍でまちなかの「第三の場所」が失われたことをきっかけに、行政からの委託事業として運営を担ってきた社会実験です。
目指したのはイベントではなく日常の風景を変えること。
毎回マーケットに「世界とローカルがボーダレス」などのテーマを設定し、それに沿った設営・出店を展開し、地域オーガナイザーやファシリテーターによるトーク、ワークショップ、子どもの遊び場などを組み合わせ、ゆったり過ごせる風景を生み出し続けました。
当初は月1回の開催を企画していましたが、「イベント的に人が集中するのを避け、人出を分散させたい」という意向から頻度を増やし、毎週木金土の開催となりました。
毎週開催にしたことで、どのような変化があったのでしょうか。
「初めはお金をかけてチラシを7000枚作り、近隣のオフィスや住宅へ配っていましたし、メディアにも取り上げてもらっていました。ですが、続けていくうちにInstagramに情報をアップするだけで人が来てくれるようになって、しかもすごく心地いい集客人数になりました」
週末の沼津は、沼津中央公園の再整備工事に伴い、2025年8月をもって一旦終了となりましたが、この催しを5年間も続けてきたことに非常に驚きます。

運営においては毎回のテーマ考案、出店者の開拓や依頼、周辺店舗や企業との調整など、想像するだけでも気の遠くなる準備や段取りが伴います。
仲間と役割を分担しながら進めていたとはいえ、それらを毎週実施し、かつ、他の事業と並行して続けてきたと聞くと、その重みを想像せずにはいられませんでした。
実際、当時の小松さんのブログにも「体力がもつか心配……」と記されていました。単発のイベントという形を取らないという選択は、乗り越えるべき課題に終わりがないことを意味します。
小松さんにそのときのことについて、どのように感じられていたのか率直に尋ねてみると、こんな反応が返ってきました。
「大変でしたよ〜〜〜!」
そう語る表情は、笑顔でした。

大変だったと穏やかな表情で振り返る小松さん。
変えたかった日常の景色を、実際見ることはできたのでしょうか。
「コロナ禍、緊急事態宣言が出そうな時、『週末のシエスタ』というテーマで、公園にハンモックを置いてみました。そこで子どもが遊び、その横でお母さんとおばあちゃんが楽しそうに話していて。
何気ない風景なんですが、すごくいいなと思ったんです。もともと自分がやっていたことをパブリックな場で形にできて、見たかった景色が見られたような気がして嬉しかったですね」
このような景色が積み重なる中で、公園には少しずつ変化が生まれてきました。
「特に予定を決めなくても、そこに来れば知り合いに会えるだろうという雰囲気が生まれましたね」
小松さんが苦労を笑顔で語っていた理由や、「週末の沼津」を5年間続けてこられた背景。
それはきっと、「育んできた景色をもっと広げていきたい――」そんな思いがあったからこそ、大変なことや煩わしさも乗り越えてこられたのではないでしょうか。
また、「社会実験」という言葉には、イベントのように一時的な賑わいを生むのではなく、空間の使い方によって人と人の関係を育てる意味が含まれているのかもしれません。
その場として川や公園、商店街の歩道といったまちの風景を捉え、見たい景色を思い描きながら催しの中で関係の構築を試みている印象も感じられます。
そしてその捉え方は一貫して他の事業にも反映されています。
lanescapeは家守会社として、狩野川沿いの遊休不動産を活用する事業にも取り組んでいます。空き家を自らの借入資金でリノベーションし、利用希望者の意向を聞きながら改修。そのうえで事業者を誘致し、転貸や運営までを担っています。
lanescapeが手がけた物件に入居した事業者の一つが、「沼津蒸留所」です。

2000年代頃まで木造住居だったその場所には、大家さんから「ここを沼津のシンボルとなるような場所にしてほしい」という要望があったといいます。
事業者を探す時、lanescapeでは活用したい遊休不動産周辺をどのような景色に変えたいのかをより具現化しています。
「活用したいと考える不動産の周辺も含めて、目指している風景をイラストレーターさんに伝え、イラストにしてもらっています。イラストは、遊休不動産の活用を考える事業者さんにも共有し、構想に共感してくれる方に利用してもらいたいと考えています」
かつて木造住宅だったその不動産については、建物の目の前に広がる階段状堤防エリアである「かのがわ風のテラス」まで含めて、景色をイラストにしました。

その後、「地元の特産品を使い、静岡で最初のクラフトジンの蒸留をしたい」と考えていた小笹智靖さんから想いを聞き、lanescapeは小笹さんにこの場所を託します。現在は「沼津蒸留所」として、松崎産レモングラスや御殿場産ワサビを使ったクラフトジンを販売し、隣接するカフェで味わえる場へと生まれ変わりました。
小笹さんは「好きなことをやれているから、難しい場面があっても困難とは思わない」と話します。
このように、lanescapeは、不動産をハブとしてオーナーと事業者の思いをつなぎ、挑戦したい人の背中を押す役割を担っています。
人と人の思いをつなぐという行為は非常に利他的なものに感じます。
なぜそこまで人をつなぐことに力を注げるのでしょうか。
「結局、自分たちが楽しいと思ってやっていることが、人を楽しませることにつながると思っています。
『まちづくり』や『活性』という言葉が使われがちですが、“まちのために”と思いすぎると、見返りがないときにしんどくなってしまう。
だから僕らは、まちを使わせてもらいながら好きなことをして、結果、まちがおもしろくなっておもしろい人も集まってくるんじゃないかなと思っています
そんな場に笑顔が溢れているのを見ると、まちが喜んでいる、と思うんです。」

もし、地域のためにと思ってイベントを続けているけれど、本当にまちの役に立っているのか、正直よくわからないと思っているなら、まずは「望む景色」を描くことから始めてみませんか。
どんな場所であってほしいのか、
そこにどんな人が集まっていてほしいのか、
そこでどんな時間が生まれていてほしいのか——
「望む景色」を具体的に思い描き、仲間と共有してみるのはいかがでしょうか。
催しを続けていくことも、頻度を上げていくことも、決して簡単ではなく、課題や壁にぶつかる場面もきっとあるはずです。
それでも歩みを重ねていけるのは、自分が本当に見たい景色が、その先にあると信じられるから。そうして進んだ先で、その景色は少しずつ形になっていくのかもしれません。
本記事はインタビューライター養成講座受講生が執筆いたしました。
Editor's Note
取材前日、小松さんが経営する「REFS 熱海」を訪れた際、偶然ご本人にお会いしました。店内では誰よりもよく動き、率先して接客をしながら、合間には仲間と楽しそうに言葉を交わしている姿が印象に残っています。まず自ら動く、この姿勢が沼津のまちの風景を変えてきたのだなと感じました。