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LOCAL LETTER

“関わりたい”が増え続けるまちに。企業と行政が育む、ちょうどいい距離感

AUG. 21

ZENKOKU

拝啓、不動産を通じて、まちづくりに貢献したいアナタへ

※本レポートは、株式会社WHEREが主催するトークセッション『地域経済サミットSHARE by WHERE in 東海』のSession3「売買だけじゃなく育てる不動産開発とは?」を前後編で記事にしています。

地域の“不動産”は、単なる建物や土地ではなく、人と人、そして人とまちをつなぐ“関わりしろ”でもあります。

地域で実践を続ける4人のプレイヤーが登壇した今回のトークセッション。


前編では、それぞれの取り組みやまちへの向き合い方から、「暮らし」を起点にまちが変わっていくプロセスをご紹介しました。

後編では、行政と民間がそれぞれの立場から地域にどう関わるのか、そのバランスや仕組みに注目したトークが繰り広げられました。

まちに眠る価値を引き出し、関わる人を増やしていく「育てる不動産開発」のヒントをお届けします。

前編はこちら

前例がなければ、つくればいい。行動できる場所から始め、未来のまちを育てていく

矢ヶ部氏(モデレーター / 以下、敬称略):行政との関わりや求める役割について、もう少し聞いていきたいと思います。民間の瀬川さんは、行政とはどんな距離感ですか?

矢ヶ部 慎一氏 公共R不動産 RD事業部マネージャー 国際PPP研究所 リサーチパートナー Public Pivot 代表 / 1976年生。東京在住、埼玉県小川町出身。1998年より再開発コンサルティング会社にて事業コーディネートや経営企画部門に従事。現在は独立し、公共R不動産/アフタヌーンソサエティ/東洋大学 国際PPP研究所/Public Pivotなど、多軸的に「まち」に関わる。主に「公民連携で『まち』を変える」—ビジョン・プロジェクト・プログラムづくり、リサーチ、軽やかな政策提言など。

瀬川氏(以下、敬称略)たとえばウエディング事業だと、「公園を使ってウエディングをやってみたい」「ストリートをバージンロードにしたい」といった新しいアイディアが出てきます。

まちの方々からも、「バスロータリーが空いてる時間に、こんなことが出来ないかな」とか、新しい話をもらったりするんですよ。でも、それを計算して整えてくれる“お母さん”みたいな存在がいるかどうかで、実現するかどうかが、全然違うんですよね。

正直、この地域にはまだそういう人があまりいなくて。実は、東京って意外とまちづくりが進んでいないと思うんです。あまり必要がないから。むしろ地方の方が進んでいて、うらやましいです。だからもっと、サポートしてもらえたら嬉しいなと思います。

瀬川 翠氏 Studio Tokyo West inc. 代表取締役、建築家 / 平成元年生まれ。2014年Studio Tokyo West設立。設計やブランディングの他、自社事業として、ファミリー型シェアハウス「アンモナイツ」、まちなかウェディング事業「吉祥寺 de WEDDING」、飲食店「SOROR」「photon」等。事業経験を生かし20地域以上のブランディングに携わり、領域横断的な建築家の職能を探求している。2015年〜リノベーションスクール講師、2021年〜日本女子大学建築学部非常勤講師。

瀬川:せっかく新しいことをやろうとしているのに、「前例はありますか?」ってよく言われちゃうんですよね。

矢ヶ部・中川・小口:あぁ〜(一同うなずく)

中川氏(以下、敬称略):めちゃくちゃありますよね。行政側の構造として、前例がないと「うん」と言いづらいんですよ。これまで自分たちが直接やったことがないことは、庁内で説明も難しいですし、了承するのが怖いんですよね。

中川 健太氏 岡崎市役所 都市政策部まちづくり推進課QURUWA戦略係 係長 / 1981年三重県伊勢市生まれ。大学終了後、岡崎市役所に土木技師として入庁。現在、QURUWA戦略推進を担当し、立ち上げから12年間関わり続けている唯一の職員。2023年4月、民間の仲間とともに㈱南康生家守舎を立ち上げ、サポーターとしてQURUWA戦略を民間の立場でも推進。

瀬川:「公園で結婚式?!前例は?」って。「もちろんないですよ」みたいな(笑)。

矢ヶ部:そういう時は、どうしてたんですか?

瀬川:私は他の地域で実績を積んで逆輸入する方法を取っていました。 

広島でも事業をしていますが、地方都市の方が行政もすごく協力的で、3日ぐらいで話が通っちゃったこともありました。新しいチャレンジが起こりやすい土壌づくりは重要ですね。

矢ヶ部:チャレンジする民間企業を募集する行政も増えていますよね。そういうところで実績ができると、他の地域にも展開しやすいですね。

瀬川:本当にそうですね。行政側も実績を作りたいタイミングだと、一緒に進めやすいと思います。そういうマッチングができるといいですよね。

矢ヶ部:民間の敷地内でできる話だと、不動産オーナーと話ができれば使えるケースもありますよね。ただ、空いていても使わせてくれないというケースも多いです。そういった時に行政の人と一緒に相談に行ったら、使わせてもらえたという話も聞きます。

一方で、行政が管理している道路・公園・河川や公共不動産は、行政に「うん」と言ってもらわないといけないんですよね。そこで先ほどのような「前例主義」があると、他での実績が鍵になりますよね。

実際、そういう実績を持って交渉することがありますし、公共空間を使いたいという人は増えています。使い方が変わればまちも変わりますから、重要ですよね。

小口氏(以下、敬称略):そうですね。多治見市は比較的、チャレンジを応援してくれる行政だと思っています。まちの協議会で出たアイディアも「来年やっちゃおう」といった感じで、行政の関与ですぐに出来たこともあります。

小口 英二氏 たじみDMO(一般社団法人多治見市観光協会)COO / 長野県岡谷市生まれ。大学進学のために金沢市へ移住後、まちづくりを行う金沢商業活性化センターに入社。2009年から多治見市に移住し、多治見まちづくり会社(現たじみDMO)に入社。2020年にCOOへ就任。ながせ商店街内のビルをリノベーションした、ヒラクビルをオープンさせた。

小口:成果が必要なタイミングで、変えていく見極めができる行政担当者がいるかどうかが大事ですね。

矢ヶ部:そういった人がいない状態で、たとえば「公園を使ってくれる企業いませんか?」という感じで進めてしまうと、地域のことを知らない外の企業が来て、きれいにはなるけど地域への波及が起こらない…ということもありがちですよね。

一方で、地域に根ざした人が関わるとネットワークが活きてよくなるという話もあると思います。多治見市はどうですか?

小口:良い事例を見てきていたら、それを真似ようとするんですよね。行政がただ管理したいだけの空間ではなくて、民間がうまく使ってる広場を見に行くように促すとか、日常的に良い事例を行政にささやくのは、すごく大事だなと思います。

中川:行政の中には「デザイン」という言葉ひとつ取っても、紙面のデザインしか想像できない人も中にはいて。仕組みのデザインなど、幅広い意味に触れてもらって、リテラシーを上げていくことが、地味だけど大切だと思います。

企業と行政の異なる基準。まちの価値を見つめ直す、新しい評価指標を

矢ヶ部:瀬川さんは、広島ではどんな関わりをしているんですか?

瀬川:現地でまちづくり会社を立ち上げて、広島県の福山市にある中央公園の図書館と公民館に隣接するエリアにパークレストランを建てて運営しています。

これは本当に、行政の方の協力がなければ実現しなかったと思っています。公民連携という意味でも、行政の力を最大限に発揮していただいたと感じています。

矢ヶ部:うまくいっているかどうかの評価って、行政と運営側で見方が違いますよね。求めるものも違うから、指標も変わってくる。そのあたり、今どんなふうに感じていますか?

瀬川:まさに今日、皆さんとお話ししたかったテーマです!

行政側は「公園の緑の管理費がレストランの収益で賄えているか」などが指標になっていると思います。たとえば隣接している図書館の来館者が増えているとか、そういったことは評価してもらえないんです。一方で民間側は、お店の売上やイベント時の集客で測っていて、指標が違うんですよね。

今回のテーマでもある“育てる不動産開発”と考えたときに、何を持って“育っている”と評価するか、指標が曖昧だと感じています。

観光地と住宅地と公共空間でも、評価すべきポイントは違うと思うんですよ。だからこそ、そういう評価指標をつくっていくだけでも、不動産の価値はけっこう簡単に変わっていくんじゃないかと思います。

“観光”の視点ではそういったことってありますか?

小口:観光では、我々DMOと連携して地域観光を持続させようとする話もよく聞かれます。でも結局、地元の人たちがうれしいのって、観光客が来てインスタに写真をアップしてくれたり、地元の情報が広がったりすることなんですよね。

地元の人たちが楽しそうにやっている様子が外に出回って、「多治見市って楽しそうだよね」っていうイメージにしていけると良いと思います。

瀬川:よく「数字で測れない」って言うじゃないですか。でも、すっごく楽しそうな写真が沢山撮られていることも、指標のひとつだと思うんですよね。

観光地の評価を来訪者数だけで測ることにも、もやもやしています。たとえば、中国人観光客が急増してるエリアもありますけど、おそらく、そうなりたいと思ってはいないんですよね。この指標の設定の仕方が、気になっています。

矢ヶ部:僕は数字にすること自体は、大事だと思っています。けど、数字にした瞬間に「なぜそれを測ろうとしたのか」が忘れ去られてしまうことも多いんですよね。

矢ヶ部:たとえば、まちの動きを見るために、やむを得ず“歩行者量”を指標としているのに「歩行者量が増えた!」と評価してしまう。

それとまちがよくなったかどうかは、違うんですよね。金銭価値に置き換えすぎるのも違う気がしますし、数字の捉え方次第で、結構変わるのではないかと思っています。

中川:岡崎市役所の場合は、庁内で理解されやすいものとしては、短期的でわかりやすい数字なんです。たとえば出店数などは、自分としてはあまり本質的ではないと考えていますが、すごく喜ばれます。

なので財政当局に予算をかけ合うときは、そういう数字を出します。ただ外にはあまり言わずに、使い分けて対応しています。

「関わりたい」が集まるまちに。継続的に人を巻き込む仕掛けとは

瀬川:地元でお店をやっていると、たとえば地域の野菜を使ったり、地元の人たちが「このまちって素敵だな」と思えるような活動を、できるだけ意識しています。

それで人口が増えるわけではないですが、うちのお店がきっかけで出店してくれたお客さんもいますし、「このまち、いいよね」と思ってくれる人は増えている実感があります。そうやって次の人を呼び込んで、まちの魅力を伝えていけたらいいなと思っています。

矢ヶ部:別のセッションで「関与人口」という言い方が出ていて、めっちゃいいなと思いました。ただ「いいな」と思う人が増えるだけじゃなくて、そこから「本当にこのまちに関わりたくなっちゃって来ちゃった」みたいな人が増える流れって、影響力が大きいと思います。

瀬川:いいですね、関与人口!不動産を“育てる”というテーマに、密接に関係しているような気がします。

矢ヶ部:先ほど多治見市では、関わりたい人が増えてくる中で、そういった人たちを受け入れる不動産を準備したいというお話をしていただきました。

これから進めていくにあたって、今見えていることや、注意したいこと、誰に何を求めたいかなど、そのあたりはいかがでしょうか?

小口:物件を使う事例を増やすことで、「ここで店を出したい」とか「何かを始めたい」というイメージが強くなっていくと思っています。毎年ビジネスマンコンテストをやっているのですが、その応募件数の多さからプレーヤーが集まってきていると感じています。

一方で、物件の情報はまだ少ないんです。物件オーナーが入居者を選ぶ「さかさま不動産」で物件の掘り起こしをするといった取り組みを行っています。

物件側とチャレンジャー側の両方が増えることで、動きが生まれやすくなると思いますし、自分たちでデザインしていけるように、自社で物件を持って活用の拠点にしていこうという構想もあります。

そういったチャレンジの拠点をつくることで、点在しているプレーヤーたちが求心力を持って集まってくるんじゃないかなとイメージしています。 

矢ヶ部:「どんなまちにしていきたい」といったビジョンについてはどうですか?

小口:そうですね。観光地というほどではない地域なので、「地域の店を楽しんでもらう」とか「地域の風景や人と出会ってもらう」という姿を、どんどん外に発信していきたいと思っています。

地元に拠点のようなものを増やして、夜な夜なみんなで集まってワーワー言いながら飲んでるとか、それをビジョンと言っていいかはわからないですが、目指している風景です。

矢ヶ部:そういう姿に共感する不動産オーナーが、「うちの物件も使っていいよ」って言ってくれるようになったら、どんどん広がっていきますよね。

それを、QURUWA戦略として取り組まれているのが岡崎市なのかなと思います。 実は私も一緒に取り組ませて頂いているのですが、巻き込むことを継続的に仕掛けていく仕組みや、その時に巻き込まれた人がエリアとどう関わるか、最終的に不動産オーナーとどう接点を持つのかなど、今QURUWAで取り組まれていることを、お話しいただけますか?

中川:まず、いろんな方に関わっていただいています。自治会だったり、小さな事業者さんだったり、企業さんだったり。それぞれカルチャーも違って関係性もさまざまです。

その中でまず大事なのは、関わりたいと思ってもまちにアクセスできない状況では、まちとしての継続性が難しいです。

継続性を考えると、いろんなチャネル(窓口)があるとよりよいのではと思っています。行政のチャネルとして僕らがいて、市民活動団体、多様な民間もいて、まち宿など人が集まる場もあります。

中川:QURUWAのエリア外の企業にもまちに関わってもらいたくて、企業向けのリノベーションスクールをやっています。今年で4年目で、毎年10社くらい参加しています。

たとえば、飲食の卸をしている「マルサ」さんは、もともとはホテルや旅館に卸していたのですが、コロナで収益が大幅に減少してしまいました。けれど愛知県の農家さんとつながっていたこともあり、その野菜や果物を使ったジェラートを作るなど、BtoBだけだったのを、BtoCも始めて事業拡大してまちに関わり始めました。

自治会とも密に連携していて、そこから生の空き家情報が入ってくるんです。不動産市場に出てこない情報ですね。課題感も含めて地域のことがわかるので、自治会を軽視せずにしっかり向き合うことで、とてもメリットがあります。自治会の方々も喜んでくれますしね。

地域の“面白い”を見つけて、まちを育てる。関係をつないで、理想のまちへ

矢ヶ部:スケールの大きい話に聞こえるようで、要件をひとつずつ見ていくと、まちの大事な骨格が見えてくる話だなと思いました。

行政の動きが前提というわけではないけれど、やっぱりどこかで関与していたり、人が関わって行く中で“まち”の話になったときに、大きな影響を持ちますよね。

なぜ不動産の話をしているときに、まちの話にも繋がっていくかというと、その敷地の中だけの話には収まらないからなんですよね。

「こんなふうに暮らしたい」と思った瞬間に、まちの中に出ていかざるを得ない。そうなると、いろんな人と関わることになって、その関わり方を考えることが必要になるんですよね。

結局「どう暮らしたいか」を自分で形にしていくのが、一番強いなって感じました。そのあたり、瀬川さんはいかがですか?

瀬川:自分たちだけのことを考えてやっていても広がらないっていうのは、その通りだと思っています。

最初は単純に、不動産とか土地の価値って、不思議だなぁと思っていました。だって、土と空気しかないのに何千万もするじゃないですか。でも、それってその環境に住める権利へ価値がついているんですよね。

なので当然、周りの環境をよくしていくのが、土地や物件の価値をあげる一番の近道ですが、まちって、いきなりガラッとは変えられません。

でも「今ある良さを探して伝える」ということなら、比較的簡単にできると思うんです。

“まちづくり”って言うと大袈裟だけど、そのまちに潜在している、“面白い文化”や“面白い人”を表に引っ張り出してくるだけで、「この地域、面白いんじゃない?」って注目してもらえます。それをやり続けていくのも、“まちを育てる”ということなのかなと思います。

気になっているのは、どのまちにも良いところがたくさんあるのに、それがまだうまく表現できていないケースが多いのではということです。面白い人がたくさんいるのに!

ブランディングというか、見せ方も大切だと思っています。たとえば、“QURUWA”ってネーミングからして興味をそそられるじゃないですか。多治見市も、昔からあるものを、今の世代にもしっかり刺さるように、ブランディングしていると思うんです。

そういった見せ方の工夫や世界観のつくり方も、不動産の価値を高めることにつながってくると感じています。

矢ヶ部:めっちゃいいまとめをありがとうございます。

今日は“育てる”というテーマで、あっち行ったりこっち行ったりだったかもしれませんが、やっぱり事業そのものだけを考えていても、なかなか育っていかないなと感じます。

その敷地だけの話ではなく、“まちの目線”で考えることや、「こうしていきたい」という強い想いを、伝わるように表現することが、大切です。最初にひとつ伝わる事例ができると、それが次につながっていったりしますし、継続的に“関わりしろ”を用意していくことが大事なんだなというのも、今日は改めて感じました。

最後に「売買だけじゃない」という話についてですが、もちろん売買も大事なことで、自分ではうまくいかないなと感じたときには、人に譲るというのも大切だと思います。もっと良くしてくれる人に引き継ぐようなイメージが持てたらいいですよね。

そうして関係性をつないでいくことで、“育てる不動産”が、より実現に近づくのではないかと思っています。そんなキーワードが、今日の話から見えてきたように感じました。

 

Editor's Note

編集後記

行政と民間、それぞれの立場で“ちょうどいい距離感”を築いていく姿に、まちづくりのリアルが詰まっていました。まちの面白さや魅力は、そこに関わる人たちの手によって引き出されていくものだと感じました。


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