ミドル人材
一定のキャリアを積んだミドル人材(35〜50歳)が、副業や社内起業を通じて、人生後半のキャリアやライフシフトについて考える機会が増えてきました。
本セッションは、会社に依存しない “個” の働き方の多様な出口戦略と、変身資産の構築をローカル視座を交えて議論していく計5回の連続企画。『時代はLocal to Localへ〜地域(大山町)✕ 地域(新庄村)をツナゲル』と題して、「人生を豊かにする」ためにライフとワークの融合を考えます。
前編では、ローカルで生まれるゼロイチの可能性や、人との出会い、環境を変化させることの重要性について紹介しました。
後編となる本記事では、都市部と地方の二項対立の脱却、「Local to Local」の可能性について触れていきます。
安川氏(以下敬称略、モデレーター):それでは、次のテーマに移ります。2つ目は、「Local to Local」について。
以前から、私は「都市部と地方の二項対立からの脱却が必要」と話しているのですが、これに関してはどう思いますか。
貝本氏(以下敬称略):都会から地方に来ることを「移住」と言っているけれど、ローカル間の行き来も「移住」だと思うんですよね。都会と地方だけで括ってしまうと、ワンパターンなスタイルしか生まれない。これは発信する側のメディアも、「移住にはいろんな形がある」ことを見せていくべきです。
貝本:基本的に、「ローカル」は極めてノスタルジーな描かれ方をしています。 先進的なことをやっていたり、チャレンジ精神が旺盛な地方の様子は、実はあまり紹介されない。
安川:移住者のイメージって、ローカル地域に行って「一次産業やってます」とか「パン屋さんやってます」みたいな人が多いですもんね。私のように、大手企業から県庁へ、その後法人成り(法人化)してプロデュース業へ、というパターンはあまり見かけない。もっといろんな移住歴をリアルで出した方が、移住へのハードルが下がるんじゃないかな。
安川:前回のトークセッションで出た、「地域に来てもらうんじゃなく出て行こう」という発想の転換も面白かったですね。
貝本:そうですね。地方創生に関していうと、ローカル側に問題があるケースも否めないんですよ。自分たちの要求だけを都会の人に求めるのではなく、自分たちも一緒に取り組む姿勢が大事ですよね。持ちつ持たれず、みたいな。
「Local to Local」は、取り組む側からすると経済的メリットがそんなにないんです。物流や集客率から見ても、それは明らかで。ただ、精神性や革新性を満たすものを生み出すには、「Local to Local」 は可能性を持つフィールドです。そこを「儲かるか、儲からないか」だけで切り取ってしまうと、違う話になってしまう。
千葉氏(以下敬称略):「Local to Local」は、人的交流のメリットが大きいですよね。東京都の人口はおよそ1,000万人、新庄村の人口は850人です。人数が少ないからこそ、密度の濃いやり取りが生まれる。特にローカル同士は、似たようなことで悩んでいたりもするので、人的交流がのちのち大きなプロジェクトにつながっていくこともあります。
安川:鳥取県大山町と岡山県新庄村の違いを見ても、「Local to Local」には可能性があるなと感じます。
千葉:そうですね。どちらもローカルだけど、近場から見ると違いがよくわかるので、面白いなあと思います。
貝本:「人と人がつながれば学びは生まれる」みたいな話はよくあるけど、これはけっこう本質を突いていて。知らない土地の人と話したら、異なる文化を知る機会につながる。そこには必ず学びがありますよね。
安川:やはり、ローカル同士の往来を増やしていく必要がありますよね。月に1回でも2回でも。新庄村の半分、400人ぐらいが大山町に1週間住んでみるとか、面白いと思うんですけどね。
貝本:学校同士の交換交流とかもありですよね。既存の仕組みの中に、往来の仕組みを作る。そうすれば、子どもたちを受け入れる側、出す側、どちらも相違点が見える文化圏で学べます。若い世代の人たちが、もっと違う文化圏の人と交流する機会は大事だと思います。
安川:「移住」以外にも「ローカル2拠点居住者」が増えてきていますよね。
貝本:私自身、鳥取県大山町と鳥取市の2拠点生活を送っています。子どもたちの学校の関係があるので、大山町では単身赴任に近い生活ですね。
安川:どれくらいの頻度で行き来しているんですか。
貝本:鳥取に週1回帰る感じですね。2拠点生活をはじめたら、夫婦喧嘩がなくなったんですよ。ほどほどの距離感が保てるようになったことで、お互いにいい状態で会えているからだと思います。
これはローカルでも都内でも変わらないと思うけど、同じような人間関係の中で一生やっていくのは窮屈なんですよね。なので、もう一つ居場所があるだけでも安心できるし、息抜きできますよ。
千葉:いろんなコミュニティに属していると、コミュニティごとに「できること」があったりして、仕事における安心感にもつながりますよね。もう一つ、ローカル2拠点居住が、先週お話した「ローカルで人材の能力をシェアする」話とも繋がるんじゃないかなと思っていて。
貝本:たしかに、ありますね。隣から放射線上に広げていく仕事のやり方もあるとは思うけど、ローカル同士で飛び地でやったほうが面白い。新しいイノベーションが生まれそうな予感がします。
安川:近くより遠くに打った方が、イノベーションが起きると言いますからね。
千葉:岡山県新庄村は850人の村なので、大きいことをやろうとしても可能な範囲には限界があって。だからといって、隣の市の仕事を受けてしまうと、お互い顔が見える範囲で食い合いになってしまう。
でもローカル間でポーンと飛んで新しい仕事を受けられたら、その分スタッフにお給料を還元できたり、事業を拡大できたりするのになとずっと思っていました。
貝本:僕はコワーキングスペースを運営しているんですけど、事業としてはそんなに儲からないんですよ。ただそこに人の流動性があって、それが価値になっている。お金自体はぐるぐる回っているだけなんだけど、人の流れと共に回っていること自体が大事なんです。
安川:では最後のテーマ「地域で仕事をツクル」 政策についてお話していきましょう。「地域で仕事をツクル」話は、ミドル人材の話につながっていきますよね。「地域におけるプロデュース型人材の必要性」、要するにマッチングできる人材がいない、というところですね。
貝本:そうですね。新しいものを生み出すには、提案型プロジェクトができる人間がどうしても必要です。起業もそうですし、いろんなプロジェクトの取り組みや仕掛けも含めて。そういう人たちをどうやってローカルに呼び込んでくるかという点は、重要な課題ですね。
千葉:「いなければ自分がなるしかない」という考えには、限界がありますからね。そればっかりじゃ、結局回らなくなる。だからこそ、そういった人材とつながりたいし、そのような人が「来たい」と言った時にフォローできたらいいなと思いますね。
安川:私自身、今その分野で食べていますからね。前職の経験を活かして、産・官・学・金の4つを回していく仕事をやっているので。意外とこの4つをつなぐ人がいないんですよ。
貝本:たしかにそうだね。面白い奇抜なアイディアを出してくれるタイプのプロデューサーもいれば、人同士をつないでくれる人もいる。
安川:専門人材は多いんだけど、プロデュース人材がいないんですよね。
安川:「Local Work Design Lab」の大きなテーマである「複数のナリワイで生きていく」ことは、精神的にもすごくいいんですよ。一つの仕事で追い込まれても、もう一つ仕事があると逃げ道があるので。
貝本:僕は未知のことをやるのが好きなので、新しい地域で受けた頼まれごとに応えていくうちに、それが生業になっていくことが多いですね。
都会にいる時は、「会社から放り出されたら俺死ぬかもな」みたいな不安がありましたけど、今は全然なくて。「なんとかなる」と思えるようになったのは、やっぱり複数の生業を持っているからかもしれない。たしかに、そういう意味では精神的に良好ですね。
千葉:生業をいくつか持っていると、それがまた次につながって新たな展開を生むという部分もありますよね。
貝本:生業が複数あると、組織名ではなく名前で呼ばれるってところも大きいですよね。「アマゾンラテルナに」じゃなくて、ほとんどの人が「貝本さんに」お願いしたいって言ってくれる。
「すごい戦闘力の高い人じゃないと地方では戦えない」と思っている人もいるけど、そうじゃない。一人でゼロからイチを生み出せる重戦車みたいな人を呼び込もうとするんじゃなくて、もっとみんなが集まって一つの事業をやっていく形が作れたらいいよね。
安川:「求められる地域のミドル人材」というテーマにもつながる話ですね。どのようにして、そのような人材を獲得していくのかが課題ですが。
貝本:これは、やっぱりオープンにしていくしかないなと思っています。「うちの町はいいですよ」じゃなくて、「もうやばい」とSOSを出しまくる。そうすると、「なんとかしたい」という人たちが集まってくる。
「課題をいかに “見える化” して、他地域の人が関わりを持ちやすい仕組みを作っていくか」が大事なんです。
千葉:とにかく情報は生々しく出した方がいい。よすぎてもダメ。卑下しすぎてもダメ。なるべくストレートに、場合によっては変化球も使って。
あとは新たに入ってくる人には、企画のステップを細かく見せるのが大事です。地方やライフシフトに興味のある人たちが、個々のスキルを活かせるような分かりやすいステップがあればいいよね。
安川:最後に、今後の大山町と新庄村をつなげる企画について、「新庄村でやりたいこと」を貝本さんからお話ししていただければと思います。
貝本:やっぱり1対1の関係で作戦会議をするよりも、グループでもう少し関わりの幅を広げてみると、何か生まれてきそうだなと思っています。何か一本仕事を走らせつつ、その間に緩やかなつながりを育んでいくのが一番いいかなあ、と。
繋がりだけを育んでいく話にしちゃうと、どうしても仕事が二の次になってしまうので。やるからには、仕事も一緒にやりたい。まずは、レッドリストみたいなのを作りたいなと思っていて。
安川:レッドリストとは?
貝本:天然記念物とか絶滅危惧種とかですね。例えば、「なくなりそうな飲食店」みたいな。いろんな地方の人たちで集まって、課題の見える化をしていきたいです。
安川:「このままではなくなってしまう」ところにフォーカスするんですね。
貝本:そうですね。だから、「新庄村と大山町」じゃなくて、「僕と千葉さん」で何かやろう、みたいな考え方も必要かなと思います。地域と地域をつなげるだけだと、自治体や行政が関わってこないと大きな流れにはならない。でも、個々がもっとつながれたら面白いことができる気がします。
千葉:僕は、「求められる地域のミドル人材」の生々しい動画を貝本さんに撮ってほしいですね。やりたいなあと思っていたら、プロフェッショナルな人がこんなにそばにいたんだ、と気付いて。
安川:ドキュメンタリー撮影ですね。
貝本:移住のリアルを本人の口から語らせるんじゃなくて、僕みたいな客観性を持った人間が千葉さんを描くことで、よりリアリティが出てくると思います。
安川:それでは、時間になりました。「地方移住型ライフシフトの魅力」というテーマでお送りしました。皆さま、ありがとうございました。
自己実現のために独立起業を考えている方、地方でキャリアやスキルを活かしたい方にとって、刺激的な内容だった今回のトークセッション。固定概念に囚われず、自身が望む生き方へとライフシフトする足がかりとして、まずは各種イベントに足を運んでみるのもいいかもしれません。
Editor's Note
「都会からローカルへ」という流れこそが移住であり、地方創生につながるとの固定概念が私の中にもありました。本セッションを通して、「Local to Local」の可能性を知り、とてもわくわくしています。また、前編記事で登場する「何かを変えたいなら意識ではなく環境を変える」という言葉は、ちょうど先月引越しをしたばかりの自分にとって、深く共感できるものでした。
もっと自由に、「自分なりの」ライフシフトを楽しもう!と、本対談を通して背中を押してもらえました。
MINORI YACHIYO
八千代 みのり