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※本レポートは、2025年3月に株式会社WHERE主催で開催された、地域で働きたい人と地域の企業・自治体が繋がるイベント「ローカルしごとフェス」内のトークセッション「観光まちづくり最前線」を記事にしています。
今、観光とまちづくりの在り方が、変化しつつあります。
観光とまちづくりの両方の視点をもち、業界を超えて協業し、地域で事業に取り組む。いわゆる「総力戦」が鍵となっています。
このトークセッションでは、「観光まちづくり最前線」をテーマに、自然や文化、人など、地域にある資源を活かし観光事業に取り組むトップランナーが登壇。
なにを軸に、どのように行動しているのか。
ローカルでの新たな担い手を育むため、今、私たちにできることは何なのか。
最前線の取り組みに迫る、特別セッションの様子を一部お届けします。
長瀬 欣子氏(モデレーター、以下敬称略):みなさん、こんにちは。まずはどのような活動をしているか、自己紹介を兼ねてお話いただけたらと思います。
石田 遼氏(以下敬称略):株式会社NEWLOCALの石田と申します。
我々は「まちづくりスタートアップ」と言っていますが、日本のいろいろな地域で「地域リーダー」と一緒に合同で会社をつくって、まちづくりを仕掛けています。
石田:その中で観光は、一つの重要な要素としてあって。観光だけでなく、宿泊や飲食業なども、地域の流れを変える「起爆剤」として位置づけています。実例に基づくお話を、今日はできたらなと思います。
橋村 和徳氏(以下敬称略):株式会社VILLAGE INC代表の橋村と申します。
全国10カ所ほどの場所で、地域の遊休資産と言われる辺境の地をアウトドアフィールドやキャンプ場、グランピング場に変えるという活動を10年ほどしてきました。
橋村:本社は静岡県の伊豆ですが、群馬県、福井県、福岡県、佐賀県などに拠点があります。スタッフも各地方に散らばって、多拠点で事業を展開しています。
長瀬:本セッションのモデレーターを務めます、株式会社CoLCの長瀬と申します。岐阜県の飛騨高山に本社があります。
観光は地域にとっていいことなんですが、裏ではいろいろな課題が起きていたりもする。その課題にどう向き合うかという点に、地域ブランディングと合わせて取り組んでいます。
長瀬:この3名でお話を進めたいと思います。
これまで、観光とまちづくりは少し離れたような使い分けをされていましたが、今は「一緒だよね」という捉え方をされています。ここはどのようにお考えでしょうか。
石田:観光は元々、「光を観る」「地域の一番いいものを観る」からはじまっている言葉です。
結論を先に言うと、関係人口化のカスタマージャーニーの入口として観光を位置づけています。
観光客がたくさん来て、いくらお金を落としてもらうか、ということが目的ではない。リピートで来てもらう、ファンになってもらう、移住してもらう。観光をその入口として捉えています。
橋村:実は、入口を観光と思ってはじめてはいないんです。
自然が好きで、好きなことを仕事にしたら、たまたまローカルに関わっていた。結果的に地域に貢献していければいいなという流れでした。
僕ら1社だけだと、まちは元気にならない。そうすると、エリアプロデュースの概念が必要になって、まちの廃ホテルも復活しようとか、空き家を宿にしようとか。そうして仕事の領域が広がってきました。
だから、結論としては観光に取り組んでいるけど、入口として観光から入ったわけではない。
石田:順番が逆ですよね。たぶん、目的と手段。
橋村:そうです。
長瀬:私も観光に20年ほど携わっていて、観光が目的になってはいけないと感じています。目的ではなく、あくまで手段の一つだなと。
長瀬:地域を盛り上げたり、活性化したりする。その手段の一つが観光という切り口だと思っています。
石田:観光は、地域の人から見たときには外から人が来ること。人口が減っている地域でよく聞く台詞は、「うちの地域はもう未来ないから」。子どもにも「東京に行って」という人がいる地域がたくさんあります。この悪い未来図を書きかえたい。
石田:でも、地域の人たちの生活を変えるのは時間がかかる。
だからこそ、分かりやすい変化の起こし方として、よそ者を呼んできて、観光客と接することで地域の見方を変えたりするのが早い。
即効性のあることと、じわじわ変えることの両方に取り組んでいる。そんな感じです。
橋村:地域を変えるという考え自体が、おこがましいですよね。そもそも無理です。いろいろなしがらみや、積み重ねてきた歴史、人が入り組んでいるので、変えようとするとハレーション(悪い影響)が起きてしまう。
でもそこに、よそ者は傍若無人に突っ込んでいきやすい。もちろん、ハートは強くないといけないんですが。
橋村:そうして活動していると、地元を変えたいという「変態」が出てくる。ただ、その人たちは「出る杭」ではないけど、いろんなしがらみによって抑えられてるんですよね。
だから僕らが仲間になって、「代弁者」としてしがらみを破壊しながら、その後はかれらにならしてもらう。
うまくオフェンスとディフェンスをしだすと、協業が生まれて、地域と一つになっていく。そんなやり方をしてきた感じです。
石田:しがらみは、「楽しい」「儲かる」には勝てないですよね。
長瀬:名言ですね。
石田:どれだけプライドがあっても、横で楽しそうにしていたら見てしまう。「うちもやりたい」という声が出てくる。それをどうつくるかですかね。
長瀬:地域の中だと視野も狭いし、新しいことに拒否反応が起きたりする。外から来た人たちと地域がつながって、新しい一歩を踏み出すことが大切だなと思います。
長瀬:観光は裾野が広いですよね。お客さんを呼ぶだけ、宿だけが観光ではない。生産者さんだったり、道を掃除してくれるボランティアの人だったり、あらゆる人たちが含まれる。
先ほどハレーションという言葉もありました。地域に関わる中で、ハレーションを越えていくためのポイントや、大事にしてきたことをお聞かせいただきたいです。
石田:地元でずっと活動してる人たちがいるから、活動を続けられているんです。
その人たちは「地元で新しいことをしようとすると、なにか言う人たちはいるよ」と。「裏でなにか言われても、言わせておけばいい」という感じの姿勢でいます。
そういう人たちがいることが、ありがたいことですね。
橋村:破壊と創造。歴史や伝統は残さないといけない。
一方で、変えてもいいしがらみ、しきたりもある。でも、地域の中の人は壊せないから。代わりに、外から入った僕らが壊していくという感じです。
石田:地域に入るとき、その地域の歴史を調べることもします。
たとえば、野沢温泉。今はスキー客が多く訪れる場所ですが、昔はスキー場は無かった。さらにさかのぼると、大名が湯治に訪れていた場所です。
歴史ある温泉地なので、スキー場をつくるときもハレーションはあったはず。
歴史上、常になにかによって外からアイデンティティが再定義され、生まれ変わってきた。歴史に紐づけると、多少は「0→1」の話ではなくなりますよね。
長瀬:今回、観光まちづくりというテーマですが、活動する中で軸として大切にしていることなどがあれば、お話いただきたいです。
橋村:「誇り高き3H」の価値観を大事にしています。「辺境」「廃墟」「変態」の「3H」です。
「変態」はいわゆる、変革者。新しいことにチャレンジして、変化をいとわない人たちがその場所にいるかどうかです。
橋村:たとえば、コロナ禍でグランピングが流行りました。「儲かる」と考えて取り組んで、たくさんの人が失敗してるんですよね。短絡的に「グランピングをしたら儲かる」と飛びついてしまった。
だからこそ、魂をもって一緒に伴走してくれる変革者がいるかを一番大事にしています。
地域でキャンプ場をつくるとき、100%成功するとは限らない。
誰かのせいにして終わるのではなくて、失敗しようと、あの手この手で何回もリトライする。お金や人も含めて、力がある限りはリトライしていこうとする人がいるか。
石田:一緒です。変革者かつ、その地域の未来を担っていると自他ともに認める人で、覚悟がある人。そんな「地域リーダー」がいることが、活動するうえでの最大要件です。
「ニューローカル」は、「新しい地元民」という意味。僕らも「新しい地元民」という姿勢で、地域にコミットしている人たちの共同創業者として活動していきます。
事業は10年、20年と続くので、その人を心底信頼できて、一緒に楽しめる。そこを一番大事にしています。
長瀬:これは取り組んでよかったと思えたことがあれば、教えていただきたいです。
石田:地域の仲間と一緒に、他の地域に行ったりもするんですね。そうすると「同世代の人がこんなに頑張ってるのか」と、その地域の方の目が開けていくような感じになることがあります。
僕らは日本中に面白い人がいると知っていますが、そうではない人も地域の中にはたくさんいる。誰かと出会うことで、その人たちの目が開けて、自分の地域のことも見直したり。それが嬉しいですね。
長瀬:地域に感じる共通点はあったりしますか。
石田:本当の意味での危機感を持っている人は少ない。だから危機感を煽っても、効かないです。
『北風と太陽』の話でたとえられるように、危機感を煽ることより、「面白い」や「楽しい」を軸にする方がいいのかなと思う点は、共通項としてありますね。
橋村:「面白い」や「楽しい」に加えて、若い人たちのロールモデルになるような、選択肢の一つとして「こういう仕事や働き方があるんだ」ということを見せたいんです。
橋村:どうしても地域は、ステレオタイプ的な就職の仕方になって、多様性がない。だから、都市部の引力にみんな引き寄せられる。
その引力に、外から来た僕らだけが抗っても駄目。
夢を持ってもらえるようにとか、活躍している人たちを見せるとか、選択肢がたくさんあることを伝えるとか。もっと地域の人たちに知ってもらいたいし、そうしていかないと、人も入ってこないんですよね。
自分のアイデンティティを明確にして、社会の役に立ちたい。
地域にはそれがありそう。
そう思って、この場に来ていただいている人もいるんじゃないかな。
橋村:でも、地域にはその仕事がなかったりもする。
「仕事がないから」という諦めも、地域の共通点かもしれない。
だからみなさんも、今ある仕事に就くということではなく、プラットフォームや会社を活かしながら、「新しい仕事をつくる」という姿勢で来てほしい。
その姿を見て、地元の若い人たちも憧れるので。
「私だってできる」と。
地域にはそれが必要だと思っています。
LOCAL LETTERでは、「ローカルしごとフェス」内の他トークセッションの様子もお届け予定!
Editor's Note
会場からは、キャリアについての質問も。最終地点は「好きなこと」。でも「ずっと迷い続けて、ようやく」「仲間がいないと辛いから」というお話が印象的でした。よそ者だって、地域住民。ローカルで活動するうえでのリアルな葛藤と勇気がそこにはありました。
Mayumi Yanai
柳井 麻友美