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最近眼にすることが増えた「パラレルキャリア」「ポートフォリオワーカー」といった言葉たち。
価値観の多様化に呼応するように企業の副業解禁が進み、コロナ禍によってリモートワークの拡大が拍車をかける一方で、地域「地域企業と副業人材のマッチングがうまくいかない」「採用した副業人材をうまく活用できない」といった声も。
そんななか、総合人材サービスを手掛けるパーソルグループのパーソルイノベーション株式会社が、地方特化型副業マッチングプラットフォーム『 Loino 』を開始した。『 Loino 』は、地域の中小企業の経営課題と都市部の人材をマッチングするサービスだ。
そこで今回は、『 Loino 』で金融機関や内閣府プロフェッショナル人材戦略拠点との連携を担当しながら、長野県塩尻市の「地域おこし協力隊」で副業者として活躍する横山暁一氏に話を聞いた。
地域が求めている副業人材とは。副業する側のメリットとは。そして、地域で副業を始める方法は──。
──横山さんが塩尻市で副業を開始されたのは2019年4月とのことですが、現在はどんな働き方をしておられるのでしょうか?
横山氏(以下、敬称略):本業を週3日、塩尻市の仕事を週2日という割合で仕事をしています。『Loino』の拠点は東京ですが、基本的にリモートワークなので、普段は塩尻市で仕事をしていて、時折、東京や他の地域に出張しています。
──塩尻市では「地域おこし協力隊」の隊員として、商工会議所に所属しておられるのですよね?
横山:はい、商工会議所の大きなミッションの一つである、「中小企業の人材不足・人材課題の解決」に携わっています。具体的には、副業者を地域の中小企業や地方自治体で活用する事業を進めてきました。
実は着任当初は、塩尻市に移住して正社員として働く人を増やすというミッションもあったんですが、地域の中小企業の規模では、経営に近い人材をフルタイムで雇用するのは難易度が高くリスクも大きいんですよね。それで、正社員よりも、もっと柔軟な働き方を地域全体として受け入れていくことが必要だと考え、2年前に、副業として活躍してもらう道筋を整え始めました。
その中で僕の主な役割は、地域が抱えている課題をきちんと棚卸して言語化し、人材要件に落とし込むこと。地域の論理やそこで起きていること、地域の中小企業や自治体もしくはこの地域で暮らしている人たちがどんな課題を抱えているのかを、現地側でリアルに感じ取りながら、「関わりしろ」を作り、関係人口を増やしていくことに、取り組んでいます。
──塩尻市で副業を始められる前から、地域で働くことに関心を持っておられたのでしょうか?
横山:そうですね。以前、会社の研修として、鳥取県で地域課題解決の研修に関わった時に、地域ならではの「豊かさ」をすごく感じたんですよね。自然環境的な豊かさだけでなく、家と仕事以外に地域の仲間がいるサードプレイスがあることや、自分たちが食べたり身の回りで使ったりするものを作っている人が身近にいて顔が見える安心感。そういうものを「豊かさ」と感じました。
その経験から、「その地域が持っている豊かさの持続可能性って、どんなものなのだろう」というテーマが自分の中に芽生えたんです。
──そのテーマを追求するために、塩尻市の「地域おこし協力隊」に応募されたのですね。
横山:きっかけは、2018年4月に塩尻市が運営している「スナバ」というコワーキングスペースのコミュニティマネージャー募集記事を目にしたことで。「スナバ」にはコワーキングスペースだけでなく、伴走型のアクセラレータ機能と「リビングラボ」という塩尻市を舞台とした実証実験への接続の場という機能があります。
『塩尻市で起きている社会課題を「スナバ」を通じて、ビジネスの力で継続的に解決をしていく。』その理念が自分の中の課題感と合致しました。それに加えて、行政が自ら取り組み、民間のプレイヤーを育てていくところに大きな可能性を感じて、この人たちと働いてみたいと思ったんです。
横山:居ても立ってもいられず、まず応募をしてしまったんですが、翌月から現地に入れる人でないと難しいという話で。会社も家族のこともあるので、その時は泣く泣く諦めました。その後も塩尻市の人たちと連絡をとる中で、中小企業の人材課題解決というミッションで、再び協力隊の募集が始まることを知りました。僕自身がそれまで本業で中小企業の採用に関わってきたので、これは応募するしかない!と再び挑戦を決めました。
実は私も最近知ったんですが、もともとこのミッションで協力隊の採用を考えていたわけではなく、「横山を引っ張ってくるためにミッションをつくりました」みたいな話だったんですよね(笑)関わって欲しい人材と地域の課題をうまく結びつけて仲間を増やしていける、柔軟な自治体の姿も含めて、本当に塩尻市は素敵だと思っています。
──「地域おこし協力隊」で副業隊員は珍しいのではありませんか?
横山:そうですね、僕の場合も最初から「副業で」というオファーだったわけではありません。地域おこし協力隊は3年間という期間が決められているので、自分個人でどこまでのことができるかを考えた時、「本業を続けながら携わった方がいいのではないか」と思い始めました。人材サービス企業にいることのメリットも活用しつつ塩尻市の活動ができますし、会社としても、地域・自治体にどっぷり入った人材がいることが何かしらメリットになるんじゃないかと。
幸いにも、塩尻市の地域おこし協力隊は雇用ではなく、業務委託での関わり方でしたし、会社にも副業を認めてもらえたので、2019年4月に副業者として塩尻市の地域おこし協力隊に着任することができました。
──副業でのご経験を活かして、4月からは本業で「地方特化型副業マッチングプラットフォーム」のご担当になられたということですね。どんなサービスか聞かせてください。
横山:文字通り、地域×副業がテーマで、地域の中小企業の副業人材活用を支援するサービスです。地域企業にとって新しい切り口からの事業成長を促すサービスを目指すという想いから、「Local Innovation」を略して『 Loino(ロイノ)』と名付けています。
『 Loino 』の特徴は、副業という形でエリアを超えた人材活用を支援し、ひとつの企業だけではなく、地域としての課題解決に繋げること。特に都市圏の人材が仕事を通じて地域に関わるきっかけづくりを担っていこうとしています。
──『 Loino 』の特徴として、都市部の人材と各地域とのマッチングにフォーカスしていることに加えて、「中長期の副業案件中心であること」と「リモート準委任契約の案件に特化していること」を謳っておられます。この2点に焦点を当てている理由をお聞かせいただけますか。
横山:まず、中長期の副業案件に向き合うことについてですが、副業の求人では、ロゴやパッケージデザイン制作といった単発案件も多くありますが、『 Loino 』で扱っているのは、企業の中長期の経営課題や業務課題に、3ヶ月、6ヶ月といった、ある程度の期間をかけて向き合うことを大切にしている案件です。
仕事の完成が目的で制作物に対して報酬を支払うタイプの仕事は請負契約ですが、企業の業務課題に寄り添う形で業務を遂行していく場合は準委任契約になるので、現段階では準委任契約にフォーカスしています。
横山:リモートワーク案件に絞っている理由は、雇用のあり方として、1社のみの雇用に限らない副業という形だけではなく、場所にとらわれない働き方を進めていくことも私たちのミッションだと考えていて。僕自身がリモートワークで塩尻と東京の仕事をしており、こういった働き方が今後どんどん広がっていくと思っています。『 Loino 』を通じて、働く個人の方にも場所を選ばずに働ける価値を提供したいので、基本的にはリモートの案件を扱っています。
──横山さんは塩尻市に移住しておられるので、仕事以外でも地域との繋がりがつくれていると思います。都市に住んでリモートワークで副業する場合、地域との繋がりはどう広げていけるのでしょうか?
横山:リモートワークの場合、移住することに比べると、仕事相手の人以外との接点が持ちづらく感じることもあるかもしれません。
でも、それは最初だけだと思います。一緒に仕事をする地域の人から信頼されることでできた繋がりが接点となって、色々な人を紹介してくれたり、色々なところに連れて行ってくれたりと、そこから繋がりがどんどん広がっていきます。僕も中小企業さんに人材のコーディネートを地域側として進めているんですが、一つ成功事例が生まれると、自分たちの場でもやってほしいという話が出てくることがあります。
仕事は地域の人からの信頼を得るためのツールになるんです。一緒に仕事をすることで、観光やお店のお客さんという形では得られない、繋がりのつくり方ができると思っています。一緒に仕事をする目の前のその一人から自分自身が信頼される。そこから広がる地域との接点とか、繋がりというものがある。そう信じています。
──地域の副業人材として求められているのは、どういう人ですか?
横山:地域の方からよく言われるのは、「コンサルではなくて、パートナーであってほしい」ということです。何か教えてくれるとか、こういう風にやったら良いですよと言うだけではなく、想いを共にして、共に考えて共に悩んで共に喜べる、そんな関係性が持てる人たちがすごく求めてられていますね。
地域の中小企業の課題は、地域と密接に関わっていることが多く、複雑性も高いです。経理業務の効率化ひとつとっても、システムを導入すれば解決するというものではありません。例えば、伝統産業に関係する企業で考えると、1つでも企業がダメになったら地域産業全体が傾くというケースもあります。一社だけの問題でもないんです。
単純な正解がなく、外から答えを持って来ようとして見つかるものではない。そこに一緒に向き合って共に悩み、現場の論理で一緒に考えられる人が必要なんだと思います。
──都市圏で働く人にとって、地域で副業することがキャリアパスやスキルアップ面にもたらすメリットは、どういうところにあるとお考えですか?
横山:大企業ではなかなか経験できない事業の立ち上げフェーズや、普段は担当しない業務も含めて、全部関われる「関わりしろ」があるということが、すごくチャレンジングだと思っています。
例えば、大企業で新規事業をやろうとしても、超特大ホームランを打てる見込みがないと、なかなか始められないですよね。スタートアップは、始めることはできても、めちゃめちゃ競争が激しくてすぐに行き詰ってしまうこともあります。それに対して地域では、スモールスタートがしやすく、周りの人も応援してくれます。
都会で暮らして仕事をしながら芽生えた課題意識に基づいて、地域を実践の場として自分で何か始めてみる。そこから生まれる経験には価値がありますし、そこから自分のキャリアに影響を受けることもたくさんあります。
横山:少し話が大きくなりますが、僕のこの2年間を俯瞰して考えると、日本はアジアでは最先端に超高齢化社会に向けて進んでおり、世界でも最先端な事象が起きている中で生じている地域課題には、本当に答えがないんだと思います。正解がない中で課題解決に関われるのはすごくチャレンジングですし、そこに携わることで自分自身のスキルアップに繋がる可能性も感じています。未曾有の課題の解決、かつ幅広い業務に自分が関われるチャンスのある、とてもチャレンジングな場所として地域を捉えてもらいたいと思っています。
ゼブラ企業*1 のように社会課題を持続可能な形で解決していくことも素晴らしいという価値観が社会により浸透していく中で、一般的には「地方には就きたい仕事がない」と捉えられがちですが、地域は「手助けする対象」ではなく、「自己実現ができる場所」と捉えられる社会を実現していきたいですね。
*1 ゼブラ企業
成長ではなく、持続可能性や共存性を大切にする企業のこと。 「利益」と「社会貢献」という相反する2つを両立することから白黒模様の「ゼブラ(シマウマ)」にたとえられた。
──最後に、「地域に関わりたい」「地域の副業に興味がある」という人は、どんなアクションをとればいいでしょうか?
横山:先ずは、ぜひ『 Loino 』に登録してください!手前味噌ですが、僕自身のこれまでの経験や自社が培ってきた「副業ノウハウ」の提供や、副業人材と一緒に頑張りたいという多種多様な分野の地域企業が登録しているので、初めて副業をされる方や、地域という分野での経験がない方でも、負担なくスタートすることができます。
無料の会員登録をしていただければ、希望の条件から募集中の案件を見ることができるので、興味がある方はまずどんな案件が募集されているのかを見てみるだけでもいいかもしれません。
金銭的な報酬だけではなく、経験やつながりなどの「意味報酬」を目的として、地方副業でしか得られないものを掴むきっかけとしていただければ嬉しいです。地域というこれまでと全く違ったフィールドで、かつ中小企業の経営者と現場の課題にともに向き合うパートナーとして、ぜひご自身らしいキャリアの第一歩を踏み出していただければと思います。
Editor's Note
副業の目的のひとつに、本業に良いフィードバックを生むことがあります。横山さんは副業と本業の相乗効果を存分に生んでおられると感じました。「地域をチャレンジングな場と捉えてほしい」という言葉にも、ご自身の実践から得られた実感が込められています。
「地域×副業」の経験と熱い想いを持った横山さんが、『 Loino 』を通じてどんな価値を提供していかれるのか。今後の展開が楽しみです。
FUSAKO HIRABAYASHI
ひらばやし ふさこ