前略、100年先のふるさとを思ふメディアです。

LOCAL LETTER

考え抜いて、展開を楽しむ。「しらす日本一」の旗を掲げて、老舗商店が見据える未来

APR. 13

AICHI

拝啓、「自分のまちがこうなったらいいな」と思う未来はあるけれど、行動に移せないでいるアナタへ

少子高齢化が進む現代、『地域活性化』について考える人が増えています。

自分のまちの未来について考えるのが好きで、地域活性化に向けた活動をしたい。
でも、もし思い描いた未来が実現しなかったらどうしよう。
途中で壁にぶつかったとき、うまく対応できるだろうか。
失敗が不安で、なかなか一歩踏み出せない。

そんな思いを抱える人もいるのではないでしょうか。

今回伺ったのは、愛知県知多半島に位置する知多郡、南知多町。
ここもまた、人口が減少しつつあるまちのひとつです。

南知多町にあるマル伊商店は、明治41年から続く老舗商店。
特産品である「生炊きしらす」を製造しているお店です。

お話を聞かせていただいたのは、マル伊商店の取締役であり、南知多町の議会議員でもある木藤創大さん。まちの未来図を明確に描き、周囲を巻き込んで動いています。

木藤さんは、南知多のまちをどのように盛り上げようとしているのでしょうか。

木藤 創大(きとう そうだい)氏 マル伊商店株式会社 取締役・南知多町議員 / 1990年南知多町生まれ。マル伊商店を一度退職し南知多町を離れる。7年後にマル伊商店へ再度入社し、2022年に取締役に就任。現在は、南知多町議会議員としても活躍している。

今の自分があるのは、考え抜いて事前に決断していたから

伊勢湾、三河湾に囲まれている知多半島では、水産業が盛んで、タコ、フグ、しらすなど、多くの海産物が獲れます。

そのなかでも、南知多町におけるしらすの漁獲量は全国2位(2020年時点)、市町村別で見ると全国1位(2018年時点)を誇っています*。

*愛知県動向調査資料「水産業の動き2022」知多郡南知多町「漁業の概要令和2年版」(https://www.town.minamichita.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/002/233/r02gyogyou.pdf.pdf)

マル伊商店は南知多町で、しらす干しや生炊きしらす、干物などを製造、販売する水産加工会社です。三河湾・伊勢湾・太平洋で獲れた新鮮な海産物を加工し、直売所やオンラインショップを通じて全国の食卓に届けています。

木藤さんは、大学卒業後にマル伊商店に入社した当時から幅広い業務を担っていました。取締役に就任した頃には、ふるさと納税の返礼品の開発や生炊きしらすの製造、市場でしらすを買い付ける競りなど、業務のうち8割に関わるようになっていました。

ただ、入社して3年ほどで一度退職をしています。

「働いていくうちに、このまま同じところで働いていていいのかと思うようになりました。小説家になりたいという夢に挑戦したいと思ったんです」

退職してから愛知を離れ、仕事を転々としながら7年かけて小説を書き上げた木藤さんですが、そこで「小説家になりたい」という気持ちを自分の中で消化してしまったといいます。

そのタイミングで、マル伊商店のことを思い出し、愛知に帰ることを決意しました。当時から親しかった社員の坂下史朗さんは、社長になっていました。

「愛知に帰ったその日に、『マル伊商店で働かせてくれ』と電話して、3日後には再度入社していました。マル伊商店に戻ってきたときには、ずっと働いていく覚悟ができていましたね」

2022年に、マル伊商店内海店の店長を補佐することになりましたが、店長が辞めてしまい、急遽店を任されるように。そこで、木藤さんは社長に、取締役に就任したいと話し承諾を得ます。社員が少なく、社長の右腕として多くの仕事を担っていたことや、会社を何とかしたいという気持ちが大きな理由でした。

さらに、2025年に、「議員選に出てみないか」と誘われて選挙に出馬し、当選した木藤さん。

「もともと、政治の動画を見ていて、自分だったらどうするかな、ということを想像していました。でも、『自分になにができるか』はやってみないと分からないだから、議員選に出る誘いがあったら、『出ます』と即答しようと決めていました」

取締役への就任、議員選に出馬すること……。どちらも大きな出来事ですが、なぜ、すんなりと決断できたのでしょうか。

「人生のターニングポイントは、急に訪れる気がするんですよね。だから、『こうなったらこうしよう』と事前に考え、決めるようにしています。

考えることは無駄にはならない。たとえ想定していた道に行かなかったとしても、その経験は無駄ではないと考えています。

もちろん、その通りにならなかったことのほうが多いです。でも、事前に心の準備をしていたおかげで、今の取締役という立場、議員にもなれたのではないかと思っています」

自分だったらどうするだろう。その想定が、木藤さんの中には常にあるようです。

「しらすといえば愛知」と言われる未来をつくる

マル伊商店内海店で食べられる、生炊きしらす味のジェラート

現在は南知多町の特産品として、ふるさと納税の返礼品にもなっている生炊きしらす。
マル伊商店の内海店では、生炊きしらすのひつまぶし風、生炊きしらす味のジェラートなど、さまざまなメニューを展開しています。

生炊きしらすは、生の状態のしらすを佃煮にするため、食感がやわらかいのが特徴です。開発されたのは、1996年ごろ。きっかけは現在専務である坂下直也さんが青森県で生炊きしらすに出会い、その技術を南知多町に持ち帰ってきたことでした。

「しらすの佃煮というと、ちりめん山椒が有名ですよね。ちりめん山椒はしらすを干したものを炊いているから、食感がかたい。

生で炊くための第一の条件は、魚の鮮度です。当時は、鮮度を保ったまま炊く技術がありませんでした。もともと、しらす干しや釜揚げしらすが主流で、売れていたから、他のものを作る理由がなかったというのもあります。

今でこそ、付加価値が重要と言われていますが、当時はその認識を持つ人が少なかったんです。マル伊商店では、生炊きしらすを作るために積極的な設備投資を行いました。

今考えると、うちの会社は、未来を見据える力があったのだと思います」

とはいえ、生炊きしらすを製造するのは簡単なことではなく、何年も失敗してきました。しらすはイワシの稚魚。魚へんに弱いと書くほど、鮮度の落ちが早いのが特徴で、鮮度の見極めが難しいといいます。また、やわらかいため炊くときに身がぼろぼろになりやすく、紆余曲折があったといいます。それでも諦めず挑戦しつづけた結果、1匹1匹に筋が通った、綺麗な黄金色の生炊きしらすが完成しました。

未来への先行投資があったからこそ、今の私たちがあるのではないでしょうか」

現在も未来への投資は続いています。漁業は天候による影響が大きく、しらすの漁獲量が常に安定しているとは限りません。

「しらすが獲れるかどうかは、海の問題なのでどうしようもない。

でも、そのリスクに備えて、愛知県以外から生のしらすを取り寄せることもあります。鮮度を保ったまま輸送する技術があるんです。現在は、獲れないリスクに対応できるよう、試行錯誤を続けている状態です」

生炊きしらすは、2009年には農林水産大臣賞を受賞しました。現在は、認知度が上がり、他の地域にも広まっています。最近では、海外の市場にも参入するようになりました。

「今は、しらすといえば湘南や静岡を思い浮かべる人が多いと思います。

マル伊商店は、しらすといえば愛知、南知多と言われることを夢に掲げて、事業を行っています。南知多町のしらすを日本全国に、さらには海外にも広めたいです」

木藤さんは、そのビジョンに向かって進む社長の思いを実現しようという一心で仕事をしています。

がむしゃらに働いていても、自分が楽しんでやっていれば、辛くないんです。やらされていると思うと辛くなる。

目の前の答えに向かって、自分は何ができるのだろうか。自分の能力は、どのように使えばいいのか。それを考えながら動いています」

「やりたいことをやる」熱意が、中学生も巻き込んだ

日本一しらすが獲れるまち、南知多。

「今では南知多町に住んでいるほとんどの人が知っているのではないでしょうか」

しかし以前は、地域住民にそのことが知られていませんでした。そこで木藤さんは、地域住民に広めようと考え、『しらす漁獲量日本一の町』という旗を店の前に掲げました。

「近くに小中学校があり、必ず地域に広まると思ったんです」

すると数年後、「しらすが日本一獲れるまちだということを広めたい」という中学生のグループが2組現れました。

南知多町では、中学生が地域の企業に話を聞き、地域のために自分たちにどのようなことができるかを考え、発表する取り組みがあります。その中に、南知多がしらすのまちであることを広めるために、「しらすおにぎり」を作りたいという中学生がいました。

「中学生たちが直接僕のところに来てくれたんです。その子たちの話を聞いて、私は『この子たちのやりたいことを実現させてあげたい』と思いました。中学生たちだけではなく、ほかにもまちの人たちを巻き込んで実現させようと動いています」

仕事以外にも、こうした活動や、ゴミ拾いなどを積極的に行う木藤さん。

「ボランティアをやっているという感覚はないんです。『参加してみない?』と言われて、嫌でなければやる。やらないことには関係性は生まれないと思っています。

まちのためというよりは自分のためですね。やりたいことをやっているだけです」

木藤さんは、南知多町で、観光業をもっと伸ばしたいと考えています。地域住民の多くは南知多町の魅力に気づいていない人が多いといいます。

「南知多町では、朝日も夕日も水平線上に見えるんです。それは知多半島が海に向かって縦長に突き出している地形をしているから。

また、伊勢湾と三河湾の両方に囲まれている半島は珍しく、大学で研究されるほどです。

でも、地域住民の多くは、海が近いのが当たり前になっているから、それがかけがえのないことだと気づいていません」

南知多町には多くの魅力がある一方、もちろん課題もあります。

多くの自治体と同じように少子高齢化が進み、どこも人手不足だということ。日々の業務が忙しすぎて、南知多の発展のために動ける事業者が少ないのだといいます。

「私たちと一緒に地域活性化に取り組んでくれる仲間を募りたいと思っています。まずはそこからですね。今、内海地区を活性化させようという思いを持つ有志が集まり、ミーティングを重ねています」

木藤さん自身は現在は町議会議員のため、その有志の団体に直接関わってはいませんが、陰から活動を見守っています。

「内海駅は利用客が少なく、駅の周辺がシャッター街になっているんですよね。まずはそこを盛り上げようとしています。駅の職員と話し合い、まずは2026年の毎週日曜日にイベントを行うことを決めました。このイベントでは、中学生が考案したしらすおにぎりを買うこともできるんですよ」

このミーティングに参加しているのは、若い世代が多いといいます。

この人を誘ったら面白くなるのではないかと、どんどん人を誘って今の状態になりました。面白い人が集まっているから、話し合いは楽しい時間になっています」

木藤さんはインタビューの最後に、「日本に、世界に、南知多のしらすが日本一だということを知ってもらいたいそして、その美味しさを味わってもらいたい」と熱く語ってくれました。

南知多のしらすを多くの人に伝えるため、まちを盛り上げるため、日々活動している木藤さん。
その源泉は、未来について思いを巡らせ、それに向かって走るひたむきさにあるのかもしれません。

思い描いたとおりの未来になるとは限りません。
けれど、考え抜き、行動した経験は決して無駄にはならない。
木藤さんの歩みは、そんなことを教えてくれているようでした。

「こうなったらいいな」と思う未来があるアナタへ。
その思いを信じて、まずは一歩、踏み出してみませんか。

本記事はインタビューライター養成講座受講生が執筆いたしました。

Editor's Note

編集後記

取材の翌日、中学生たちが考案したしらすおにぎりを内海駅で食べられると知り、伺いました。「波乗りしらすおにぎり」「日焼けしちゃったおにぎり」と、名前がチャーミング。小魚の骨などを混ぜ込んだ塩「皆満塩(みなみちソルト)」をふりかけて食べると味わいが変わり、とてもおいしかったです!生炊きしらすも購入し、自宅でご飯と一緒にいただきました。甘辛くてやわらかい生炊きしらすはご飯のおともにぴったりで、思わず毎日食べたくなるおいしさです。

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