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LOCAL LETTER

自然との共生を目指して。サウナから始めた地域活性の7年間

OCT. 14

MIYAGI

拝啓、自然と共生しながら自分の力を試してみたいアナタへ

宮城県の最南端にある人口11,780人の小さなまち、丸森町(まるもりまち)。まちの北部には阿武隈川が流れ、豊かな自然が魅力です。そんな丸森町ですが、宮城県で人口減少率1位の「消滅可能性自治体」とも言われています。

消滅可能性自治体とは2050年までに、子どもを産む中心となる年齢層(20歳~39歳の若年女性人口)の減少率が50%を超えると予想される自治体のこと。

自分を育ててくれた「まち」から人が、活気が、少しずつ失われていく…。
もう一度まちに人を取り戻すことはできないのか?

丸森町の豊かな自然を「人」と「まち」をつなぐ資源に変えていく、そんな取り組みが今始まっています。

今回お話をお聞きしたのは、生まれも育ちも丸森町の阿部秀一(あべ ひでかず)さん。フィンランドサウナ施設「MARUMORI-SAUNA」を運営されている阿部さんに、これまでの歩みについて詳しく語っていただきました。

本場フィンランドで体感した「自然を五感で感じる喜び」

丸森町の大自然を感じられる不動尊公園キャンプ場内にある「MARUMORI-SAUNA」。森の中にある一棟貸切型のログハウスで自分だけのサウナ時間を満喫したあとは、サウナのすぐ側を流れる川へダイブ。自然を全身で感じながら「ととのう」体験ができる施設です。

2018年にオープンしたMARUMORI-SAUNAですが、創業メンバーの一人である阿部さんはそれまでサウナが特に好きではなかったと言います。

阿部 秀一(あべ ひでかず)氏 MARUMORI-SAUNA株式会社・株式会社伊具緑化 代表取締役 / 1980年生まれ、宮城県丸森町出身。日本大学建築学科卒業後、仙台で施工管理に従事。2005年に家業の有限会社伊具緑化にUターンし、2017年にMARUMORI-SAUNA株式会社を設立。2019年、伊具緑化の代表取締役に就任。「地域の魅力を引き出し、自然と共に豊かに暮らす価値を提供する」を理念に活動中。
阿部 秀一(あべ ひでかず)氏 MARUMORI-SAUNA株式会社・株式会社伊具緑化 代表取締役 / 1980年生まれ、宮城県丸森町出身。日本大学建築学科卒業後、仙台で施工管理に従事。2005年に家業の有限会社伊具緑化にUターンし、2017年にMARUMORI-SAUNA株式会社を設立。2019年、伊具緑化の代表取締役に就任。「地域の魅力を引き出し、自然と共に豊かに暮らす価値を提供する」を理念に活動中。

「MARUMORI-SAUNAを始めるためにフィンランドへ視察に行くまでは、サウナはどちらかというと苦手でした(笑)

サウナが好きだから始めたというより『地域事業者として丸森町で新しいビジネスを起こしたい』と考えたときに出会ったのがサウナだったんです」(阿部さん)

家業である造園業を継ぐために仙台市から丸森町へとUターンした阿部さん。もの作りが好きだった阿部さんは造園の仕事に魅力は感じつつも、同時に将来に不安も抱えていたと言います。

「父の会社を手伝うために丸森に戻ったのはいいものの、家を建てる人や庭を造る人も少なくなり、仕事が減少していく状況でした。東京や仙台で活躍している友人たちと比べ、田舎の片隅で衰退していく業界に携わる自分に、漠然とした焦りがあったんです」(阿部さん)

そこで阿部さんは、さらに経営を学ぶために丸森町が主催するビジネススクールに参加することに決めました。そこで1枚の写真と出会ったことが、サウナ事業をスタートさせるきっかけになります。

創業メンバーと、MARUMORI−SAUNA開店を記念しての一枚。写真一番右が阿部さん
創業メンバーと、MARUMORI−SAUNA開店を記念しての一枚。写真一番右が阿部さん

「きっかけは、『サウナトースター』という移動式サウナを糸井重里さんが気仙沼市で体験している写真でした。漁船が停まる海辺でサウナをして、そのまま海へ飛び込んでいる写真です。それを見た本多(後のMARUMORI-SAUNAの共同メンバー)が『これを丸森の川でやったら面白いのでは』と提案してくれたことで始まったんです」(阿部さん)

最初は正直「勢い」だったと阿部さんは当時を振り返ります。しかし、サウナ嫌いのまま半信半疑で訪問したフィンランド視察が、結果としてサウナ事業への確信を強めることになりました。

「フィンランドのサウナは日本でイメージするサウナとは違い、あくまで自然と溶け込む場所として存在していたんです。単なる公衆浴場ではなく、自然と一体化する感覚がとても強く印象に残りました。このとき学んだサウナの概念、特に自然との距離感やリラックスの感覚はMARUMORI-SAUNAでも大切にしていますね」(阿部さん)

「自然のなかで五感を開放する体験を1人でも多くの人にしてもらいたい」という思いがMARUMORI-SAUNAを形にしていきました。

それでも、自然は美しい。台風被害からの復興

フィンランド視察を経て、2018年にグランドオープンしたMARUMORI-SAUNA。広まりつつあったサウナブームの流れにも後押しされ、県外からも人が訪れる人気施設になりました。

しかし、2019年に大きな転機が訪れます。それは丸森町に甚大な被害を引き起こした台風19号でした。丸森町の歴史上最悪と言われるほどの被害で、阿部さんの自宅も全壊。MARUMORI-SAUNAも壊滅的な状況が予想されましたが、奇跡的に床上浸水のみで建物部分は残りました。

「営業は一時停止せざるをえませんでしたが、MARUMORI-SAUNAのファンの方々が中心となって復興のためのクラウドファウンディングを募ってくれたんです。209名の方から約100万円の支援をいただきました。

地域の外にいる方だけではなく地元の方からも支援があり、このときの体験はその後の活動の大きな転換期となりました」(阿部さん)

秋の「不動尊キャンプ場」にて行ったサウナイベントの様子
秋の「不動尊キャンプ場」にて行ったサウナイベントの様子

MARUMORI-SAUNAと造園業、それぞれバラバラに見える2つの事業に共通するのは「自然とともに」という想いです。東日本台風の経験でもう一つ、阿部さんには強く印象に残る出来事があります。

「ちょうど10月のことだったので、土砂に埋もれた紅葉がものすごく綺麗だったんです。忙しい日々の中でふとした瞬間にこもれびのような自然の美しさに触れると、ほんの一瞬でも安らぎを感じることがありますよね。

あのときも、自然の美しさと土砂に埋まっている様子とのギャップが非常に強烈で、何か本能的に『もっと謙虚に生きるべきではないか』と考えさせられました。

もしあと数メートル川辺にサウナを建てていたら、土砂に巻き込まれていたかもしれない。自然はときに美しさと安らぎを与えてくれる一方で、圧倒的な力を見せることもあります。

やはり、自然とともに暮らすということは、ただ気持ちの良い体験や美しい風景を楽しむだけではない。その力強さや厳しさも含めて伝えていくことが必要ではないかと感じました」(阿部さん)

MARUMORI-SAUNAではできるだけ「そのままの自然」を感じてほしい、と話す阿部さん。虫や泥など、自然に慣れていないゲストには、まずは半日のバーベキューや川遊びなどから慣れていってほしいと言います。

「自然とともに」をキーワードに広がる活動。日常の中の自然も感じて

阿部さんにとってサウナはゴールではなく、自然と人、まちを繋げるためのツールの1つ。阿部さんが目指すのは「MARUMORI-ENGINE」という丸森町の自然を中心に地域全体が活性化していく形です。

「私たちが掲げるビジネスモデル『MARUMORI-ENGINE』の『エンジン』には人と人の縁を繋げていくイメージと、チャレンジを“エンジン”として走り出していこう、という意味をかけています

私たちにとってサウナはあくまで自然の魅力を引き出すためのきっかけに過ぎません。私たちがサウナで頑張る一方で、飲食やホテル業など他の分野でチャレンジする人たちも増えていけば、地域全体が動き出し、良い方向へ進んでいけて面白いのではと思ったんです」(阿部さん)

阿部さんのチャレンジもサウナにとどまりません。その1つが今年の9月にオープンした一棟貸切型の宿泊施設「MARUMORI-STAY 風土」です。

9月にオープンしたばかりの「MARUMORI-STAY 風土」の客室。窓からは丸森町の自然豊かな景色が広がる
9月にオープンしたばかりの「MARUMORI-STAY 風土」の客室。窓からは丸森町の自然豊かな景色が広がる

丸森に当たり前にある地域や場所が、実は非常に価値のある場所だと思うんです。そこに日常的に浸ってもらえるような場所を作りたくて。サウナはもちろんですが、お庭と繋がるアウトドアリビングのような空間を作ることで、屋内外が自然に溶け合い、人と自然が一体となるような体験ができるのではないかと思っています。

ただのおしゃれな施設というだけではなく、丸森の日常に触れることで、普段何気なく見ている景色が違って見える、そんな新たな発見や感動がここの魅力だと感じています」(阿部さん)

自然との調和を大切にした空間で、焚き火を楽しむこともできる
自然との調和を大切にした空間で、焚き火を楽しむこともできる

地方だからこそ1人1人が手応えを感じるチャレンジができる

自分たちが住むまちをより良い方向にしていくためには「自分たちの頭で考え、自分たちの手で活動していくこと」が何より大切だと阿部さんは言います。阿部さんは都市よりもローカルのほうが、挑戦しやすい環境にあると考えています。

「東京のような大都市では、何かで“1番”を目指すことが非常に難しい環境であるように思います。才能やスキルを持った人たちが集まる競争が激しい場所では、どうしてもそのハードルが高くなるからです。

その点、地方では自分がやっていることが誰かに直接喜んでもらえたり、周囲から褒めてもらえたりする機会が多く、そのフィードバックが目に見える形で返ってくる。これは地方ならではの魅力であり、大きな強みです。地方だからこそ発揮できるオリジナリティや、個人の強みがあると感じています」(阿部さん)

「地方だからチャンスがない」のではなく「地方だからこそのチャンスがある」と語る阿部さん。自分で考え生み出したものが、成果としてダイレクトに返ってくる喜び。その実感は巡り巡って自分の人生を生きている実感につながるのでは、と言います。

「自分で手を動かして何かを作り上げていくことは本来、ものすごく面白いことなはず。

自分の手で物事を動かす実感を得やすいローカルな環境だからこそ挑戦しやすいし、自分の人生に対するオーナーシップも持ちやすくなるのではないでしょうか」(阿部さん)

Editor's Note

編集後記

自分の人生の舵をとるには、都会の海は広すぎるのかもしれない。
自分が幼い頃から関わってきた、向こう三軒両隣誰が住んでるかよくわかる「地方」だからこそできるチャレンジが、人生の軸を自分に取り戻してくれるのかもしれません。

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