Entrepreneurial Mind
起業家マインド
「起業」という言葉に、アナタは壁を感じますか。
僕の中での「起業」とは、自分で会社や事業を作り、自分の力で規模を拡大させていく、そんなカリスマ的イメージ。ですが、調べてみると、起業とは会社をつくることではなく、「仕事」をつくり運営する人のこと。いち企業や団体に属していても、仕事を生み出し運営している人は「起業家」と呼ばれます。
さらに、世の中には「起業をすること」が重要なのではなく、「起業家マインドをもつこと」が重要だと語るのが、宮崎県新富町で一般財団法人こゆ地域づくり推進機構(通称:こゆ財団)の代表理事を務める齋藤潤一さん。
今回は齋藤さんと、弊社(株式会社WHERE)代表の平林和樹が、LOCAL LETTER MEMBERSHIP 会員限定コンテンツとして実施した「LOCAL偏愛トークライブ」第0弾*1 の様子をお届け。
齋藤さんと平林が語る、「起業ではなく、 “起業家マインド” の重要性」とはーー。
*1 LOCAL偏愛トークライブ
LOCAL LETTER が運営する地域共創コミュニティ「LOCAL LETTER MEMBERSHIP」内で提供されるコンテンツ。第0弾は正式リリース前に、モニター体験として実施した。詳細はこちら> https://localletter.jp/membership/
平林:これからは「終身雇用がない時代」と言われています。安定安心がなくなっていく中で、事を興す動きが自分自身の人生を変えていく上ですごく大事になってくると思いますが、齋藤さんが起業家マインドを大事にしようと思ったきっかけはありますか?
齋藤氏(以下、敬称略):結論から言うと、“怒り” とか “これっておかしいよね” っていう気持ちかな、と思います。2011年に東日本大震災が起こり、「自分が培ったスキルや経験を、地域貢献に活かしたい」と思いましたし、復興するにはかなりの時間がかかるので、「持続可能なものにしていくためには、ビジネスの仕組みが必要だろう」と思ったんです。
そんな課題を抱えている中で、自分だけぬくぬくと暮らしているのはおかしいよなと。この課題を解決したいというのが、僕の起業家マインドの発端です。
平林:以前、齋藤さんが代表を務められている「株式会社AGRIST」のオフィスにお邪魔したとき、飾ってあるトロフィーの数がすごく多かったので、優れたビジネスプランをたくさん考えられたんだなと思いました。
齋藤:ビジネスプランが優れているというより、農業課題が全国的な危機だからだと思うんです。僕自身は、あまり「自分がバリバリとビジネスをやってやるぞ!」とは思っていなくて。本当は、「誰かやってや・・・」と思っています。でも、目の前で倒れてる人を見てしまったら、素通りできないじゃないですか。
平林:農業の中でも、「収穫」にアプローチされていることが印象的でした。植える・生育する・収穫するというアプローチがある中で、収穫を選ばれたところに齋藤さんの起業家のセンスがあると感じていますが、いかがでしょうか?
齋藤:僕自身に起業家センスがあるとは思っていなくて、収穫を選んだのは「お客さんの声を聞け」という教えを愚直にやっているだけの話なんです。僕自身は、基本的には、早く終わらせて(解決して)静かに暮らしたいと思っているので(笑)。
ですが、どうしたら解決できるのか僕はわからなかったので、「農家さんが “収穫に課題がある” と言ってたから、収穫だ」と思って、アプローチ先を決めました。
平林:現場の声を聞くからこそ、市場を選択できているんですね。
齋藤:そうですね。1粒1,000円のライチは、そもそも2,000箱しか育てられないので、そこを考慮した価格にしているし、農業ロボットが1台150万円という価格設定も、農家さんにヒアリングをした上で決めています。極めてシンプルなんです。
平林:何か事を興すときって、リスクも考えると思います。例えば、転職するとしても、次の職場で能力活かせるかどうかは、やってみなくてはわからないですし、移住も、いくら事前に移住先へ通い詰めたとしても、そこで幸せに暮らせるかどうかは、やはり実際に移住してみてからでないとわかりません。
齋藤さんはリスクについてどのように考えますか?
齋藤:リスクは背負う必要がなかったら、背負わないほうがいいです(笑)ただ、背負うべきリスクと、背負わなくても良いリスクがあるとも思っています。
齋藤:リスクには、2種類の考え方があると思っていて。1つ目は「セーフティーネットがあった方が思いっきりやれるパターン」で、これは言い換えると、今の所属を持ったままできる事業づくり。
2つ目は「とるべきリスクをとってやるパターン」で、これは言い換えると、ある程度お金払わないとリターンがないような事業づくり。
「セーフティーネット」って絶対的にあっていいものだと思っていて。僕はわざわざ会社を辞めて起業しなくても、会社で働きながら事業を作っていくことだっていいと思います。
齋藤:今までの話をまとめると、要するに起業するか否かはどちらも良くて、考え方こそが起業家マインドだと思います。
起業家マインドにはリフレーミング力*2 が大事。基本的に、起業は大変なことしか起きないんですよ。誰もやったことがないことをやるから起業なわけで、みんながやってることをやっても既に市場ができちゃってるから、意味ないんですよね。
だから失敗を失敗として捉えるのか、失敗を成功への過程としてとらえるのか、物事の捉え方が起業家マインドにおいて重要だと思います。
*2 リフレーミング
ある出来事や物事を、今の見方とは違った見方をすることで、それらの意味を変化させて、気分や感情を変えること
齋藤:例えば僕らは今、芋焼酎を販売しようとしてるんですけど、「本当に芋焼酎が好きな人」にしか飲んでほしくない商品を販売しようとしてます。
こうやって誰も作ってないものや市場にチャレンジすることが重要なポイントかなと思います。「売れなかった失敗だ!」と思うより、「この失敗が次の大ヒットにつながる」という捉え方・考え方が大事ですね。
平林:僕もトライ&エラーの大切さは身に染みて感じています。起業する前に、語学力のないままワーホリに1年間行ったことがあったんですが、ほとんど会話ができないにも関わらず、1年間海外で生きることができた時に、「何をしてても死ぬことはないな」と思って、パッと気持ちが晴れて、自信がついた感覚がありました。
平林:齋藤さんのリフレーミング力は、どうやって身につけられたんですか?
齋藤:僕は今でも不安を感じていますよ!(笑)僕は逆に「いつ死ぬかわからない」と思っていて、常に不安と隣り合わせに生きています。
平林:それでも失敗を学びに変えて、トライ&エラーができるのは、訓練をされたからでしょうか?
齋藤:僕は昔から、「社会的にこれっておかしいよな」と思ったときに正義感が生まれるんです。不安を楽しさに変えるなんて無理なんですけど、不安があるからこそ行動しようと思いますね。
平林:不安は行動を止める要素ではないんですね。
齋藤:そうですね。不安だから前に進むしかない。止まったら死ぬと思ってるんで(笑)。あとは、僕の周りにいる人たちが優秀だったんです。みんなに助けられてるからこそ、不安な僕でも前に進めるのかもしれません。
平林:それって昔からですか? 若いころ「俺が全部解決してやるぜ!」みたいなのはなかったんですか?
齋藤:シリコンバレーにいた時は自分を天才だと思ってました(笑)。でも日本に帰ってきて起業したら、全然うまくいかなかったんです。その体験がすごく大きかった。
起業する前には仕事がたくさんあると思っていたんですが、箱を開けてみたら全然なかったんです。お金もなくなり、家賃も払えなくなる寸前で恐怖でした。当時は食材に半額のシールが貼られる寸前まで、スーパーの前で立って待っていたりもしましたね(笑)。
そこからはもうプライドを捨てて1個ずつ仕事をしていくしかないと思い、バナーを1個つくるような単発的な仕事からとにかくやりました。必死に頑張って1個ずつ仕事していったら、ようやく仕事が増えていって。だから不安があっても、謙虚さをもって、信頼や人のつながりを大切にして、一歩一歩、行動していくことが必要だと思っています。
起業家マインドを持ちながらも、僕らが驚くほど不安を感じている齋藤さん。いろんな人に助けられながら、行動していく齋藤さんに今後も目が離せません。
起業に失敗はつきもの。だからこそリフレーミング力を大切に、まずは一歩、行動を興していくことから。
貴重なお話をありがとうございました!
Editor's Note
僕は就職を機に兵庫県から北海道に移住した社会人2年目の会社員。起業やフリーランスには憧れはあるけど、ごく普通の社会人です。でも、あえて知り合いのいない北海道で働くことを決めたり、こうして記事を書かせてもらったり。仕事は決してうまくいってないけど、でも今日の齋藤さんの話を聞いて、次の成功につながる。と前向きに捉えられました。
終身雇用がなくなる時代。会社に属しても、起業しても、新しいことに挑戦する人が増えてわくわくする社会になることを願って、ペンを置きたいと思います。
Masato Sasaki
佐々木 将人