前略、100年先のふるさとを思ふメディアです。

LOCAL LETTER

1687年創業の、まちの家庭用品店。一人ひとりの「暮らしのかたち」に寄り添う

NOV. 20

SHIZUOKA

拝啓、ひとやまちに寄り添う働き方をしたいアナタへ

創業1687年。家庭用品の専門店で300年以上続くお店があります。

外観はどこか懐かしさを感じる店構え。お店の入り口には傘やスリッパが並び、さらに奥にはキッチン用品が並んでいました。

お店の入り口には雨傘や日傘が並びます。

夏に取材した店内にはBGMに混ざって風鈴がときおり鳴り、お客さんを迎え入れます。

ここは静岡市の呉服町商店街に店舗を構える三保原屋(みほはらや)本店。

そんな店舗を案内してくださったのは、9代目社長である堀高輔さん。様々な商品を紹介しながら、「インターネットで3時間探すよりも、お店で商品を手に持てば3秒で商品が分かる」と話します。

オンラインでも買い物が当たり前にできるこの頃。それでも三保原屋に訪れるお客さんは後を絶ちません。まちやお客さんにとって三保原屋はどのような存在になっているのでしょうか。

「行き当たりばっちり」から「火中の栗を拾う」人生転換

堀 高輔(Hori Kosuke)氏 株式会社三保原屋代表取締役社長 / 1986年静岡生まれ。以前は会計士、経理担当として東京、奈良にて勤務。2017年より三保原屋の跡継ぎとして静岡へUターン。2024年には9代目社長へ就任。家庭用品の専門店として、取扱う商品や事業継承について、noteで情報発信を行う。

現在は、三保原屋の9代目である堀高輔さん。大学を卒業後、東京で会計士として3年勤務。その後奈良に移住し、生活雑貨を扱う中川政七商店にて経理の仕事を3年経験しました。家業を継ぐために静岡に帰ってきたのが2017年のことです。

ここまでの経歴をみると、家業をするための下準備としてキャリアを選択してきたようにみえます。

「家業を継ぐつもりはまったくなく、好き勝手に生きようと思っていました。好きに生きていれば結果的にうまくいくだろうっていう、行き当たりばっちりみたいな感じの考え方で。でも、結婚して子どもが生まれて、家族が増えていく中で、『こんな曖昧な人生設計ではまずい』と静岡に戻ってきたんです」

生き方の大きな方向転換をした堀さん。幼い頃から家業を継ぐことを真剣に考えていたら多分息が詰まっていた、「行き当たりばっちり」な選択が自分の性格に合っていたと語ります。

では、堀さんが事業承継を決めた背景にはどのような思いがあったのでしょうか。

「どれだけ家業を継ぐことを否定しても、自分のバックボーンというのは存在していて、なんとなく経営というものに興味があったのだと思います。経営が自分にできるかわからないけれど、このまま誰も継がないのだったら、じゃあ自分がやろうと」

継いだことに対して8代目であった父親からは「火中の栗を拾ったのはお前だからな」と声をかけられたといいます。静岡という地方都市にある中小企業で、まだ戦略がなかった三保原屋を継ぐことを「火中の栗を拾う」と例えられたようです。

けれども堀さんとしては、「どの仕事でも大変なことはある。自分よりも大変な人は絶対にいるのも事実。継いで以降、三保原屋だからこその特別な大変さは感じなかった」と語ります。

堀さんが継いでから取り組まれたことの一つに「いいものを安く」思考の切り替えがありました。事業を継いだ当時は、セールの頻度が多かったのだそう。せっかく良い商品を扱っているにもかかわらず、セールの売上がお店の基盤になっていることを、当時の堀さんは「まずい」と危惧されたといいます。

家業に帰ってきた当時は、500円で販売せざるを得なかった傘もありましたが、現在はスタッフやメーカーの協力もあり7000円近い高品質な傘の販売もできるお店へと変化を遂げました。では状況はどのように変わっていったのでしょうか。

「最初はすごい自己矛盾の連続ですよ。誰かから選ばれたわけでもないのに、突然息子が戻ってくる。そんな状態で、自分が偉そうに会社の指揮をとるのはおかしいと思ったんです。

既に回ってる組織に入るわけですから、組織における『異端』は間違いなく私なんですよね。だからまずは、この組織にしっかり染まってみるところから始めました。いいところも、改善が必要なところも、ちゃんと自分の目で確かめたくて。お客様にも真剣にヒアリングをして三保原屋の良さを伺い、結果的にセール方針を変えていくこととなりました

まずは組織に溶け込んでから、改善が必要な部分は変えていく。堀さんの組織改革は少しずつはじまりました。

大切にしたのは、スタッフが楽しむ気持ち

三保原屋には、社長自身もゆるくて、大変で、面白いと話すルールがありました。

三保原屋では、スタッフごとに担当の売場が決まっています。信頼を得たスタッフは希望すれば商品の仕入れとして出張に行くことができます。一方で、一人のスタッフが30万、50万という仕入れを自分の判断ですることはとても勇気のいることだと思いませんか。

そんな不安を取り払うように、三保原屋では「仕入れのリスクテイク*は会社がする」というルールが脈々と続いています。スタッフは自分の裁量で仕入れができ、責任は会社が取るスタイルです。スタッフも「会社から任せてもらえている」という感覚で力を発揮することができています。

*リスクテイク…利益を得るために不確実性や損失を受け入れること。

各売り場の担当者がディスプレイの仕方も決める。

元会計士の堀さんは、この仕入れスタイルをどう捉えているのでしょうか。

「これまで数字を扱う仕事をしていたので、最初は“リスクを取る仕入れ”はどうなんだろう、と正直思いました。売上・利益だけで考えれば、非効率な場面もある。

でも、『なんでうちで働いてくれるの』と従業員に聞くと『仕入れが面白い』と。パートとして長く働いてくれてるスタッフも『楽しいじゃないですか』と笑うんですよね。

スタッフの面白い、楽しいという気持ちは大事にした方が、お客さまにも気持ちが伝わるかなと思って。スタッフが楽しいと感じる仕組みに、私が乗っかっていく方が事業がうまく回るのではと感じたんです。協調性がある、人にも商品にも興味があり、上昇志向がある方が楽しんでくれればいいなと

お茶処静岡ならではの、急須の品揃えの豊富さ。写真は堀さんが紹介してくださるところ。

商品の説明をしながら、店内を紹介してくれる堀さんの姿は楽しそうに見えました。

とはいえ、楽しく働いても、在庫が残ってしまうリスクは無視できません。今まで陳列していなかった生活用品を新しく取り扱うときのリスクはどう考えているのでしょうか。

「在庫に慎重になりすぎて仕入れを控えてしまうと、今度は未来に向けて変化することができません。なので在庫が残ることもある程度は受け入れることにしています。いろんなリスクを考えて新しく制度を作っても、最後は売ることに集中するしかない、とはここ数年感じているところですね」

「最後はみんなで頑張って売るしかない」と少し控えめに笑いながら想いを語ってくれました。

仕入れには不確かさがつきもの。それでも、立ち止まるのではなく、挑戦を続ける──堀さんの言葉からは、そんなしなやかな覚悟がにじんでいました。変化を恐れず、日々の商品と向き合い続ける姿勢。そして三保原屋に並ぶ商品への自信がお話の中から伝わってきました。

接客の前に。店に訪れる人の「生活」に耳を傾ける

堀さんに、店内を案内していただいた時に感じたこと。

フライパン、蒸篭、タオル、どの商品に対しても知識量がすごく、商品の良し悪しをしっかり伝え、「売る」よりも選ぶための情報を「説明する」という言葉がマッチするような接客のスタイルでした。だからこそ「最後は売るしかない」と語られた堀さんの言葉にほんの少しの意外さを覚えました。

「自信が持てる説明で接客をすれば、自然とまた来てもらえる。ときには、別のお店で商品を見ていただいて、もし取り扱いがあればそこで購入してもらってもいい。

一見『お人好し』に見えるかもしれませんが、お客さまとのやり取りを通じて生まれる気づきやニーズをお店に還元していけば、結果的に売上にもつながると考えています。

今はオンラインショッピングの普及もあり、商品の情報に溢れて、傘1本買うにも鉄瓶1個買うにも、何を選んだらいいかがわかりづらい時代になっているのではないでしょうか。生活者さんそれぞれの「最適解」があるはずなのに、「絶対的な正解」をネットに求めるのも不思議な感覚はあります。だからこそ、お店に訪れてくれたお客さまには、どんな商品が自分に合っているのかを1回整える方が大事だと思うんです

フライパンの厚さや重さについて実物を用いて紹介する堀さん。

フライパン売場では、こんなお話も伺いました。

鉄フライパンを長年使っていたご家庭の話です。お父さんは医師に油を控えるように言われ、お母さんは手首を痛めて重いものを持つのが難しくなったといいます。

個人的にも鉄フライパンは好きです。一方で、今回のお客様には『重くて・油を使う』という側面は適さないと思いました。

フッ素樹脂加工されたフライパンは、軽くて油を使う量が少量です。正しく使えば表面加工を傷めにくく使うこともできます。どんな道具にも、必ず二面性があります」

商品それぞれの良し悪しをお伝えし、そのご家庭にはフッ素樹脂加工フライパンやセラミック加工フライパンをおすすめしたそうです。メリットやデメリットはその人のライフステージやライフスタンスによっても変わってくる。これほど1人の顧客に向き合ってくれるお店だからこそ、多くのファンがいることにも納得です。

三保原屋には接客の決まった型はありませんが、顧客のニーズに寄り添った接客を大切にしていると堀さんは教えてくれました。

フライパン売り場の一角

そんな三保原屋本店のレジの横には、店内を見渡す限りで唯一の食品であろう、鰹節が並んでいました。削り節と、削る前の鰹節。これも最初は削り器だけを置いていたところ、「鰹節も置いてほしい」と何人かのお客さんから要望を受けたのだそうです。

近くの乾物屋がちょうど店仕舞をするタイミングだったこともあり、三保原屋で鰹節も扱うようになりました。

ニーズが出ちゃうと辞められないと笑いながら堀さんは語ります。これもまた三保原屋のお人好しな一面がそうさせたのでしょうか。

「八百屋だったり、乾物屋だったり、和菓子屋だったり、まちに必要とされる機能がなくなってきているように思います。

コンビニで集約されようとしているけど、それも違うようね、と消費者も分かってきている。だからこそ、まちに必要な機能を担うようなものも店では扱うようにしています」

三保原屋の商品選びの眼、ニーズの聞き出しと寄り添う接客スタイルは、まちの商店街だけでなく、静岡全域、また他県のお客さんもファンにさせてしまう魅力がありました。

インタビューの最後に、これからどんな店舗を目指していくのかを伺いました。

「一人で描ける未来って、どうしても限りがあると思うんです。いろんな人の力が重なった先に、想像を超える景色が見えてくる。小売はとくに変化の早い世界なので、数年後にはまた別の挑戦をしているかもしれません。でも、変わっていく流れが来たときに、ちゃんと乗っていけるように準備しておきたい。その積み重ねが、結果的に堅実な成長につながるはずだと思っています」

創業300年を超える家庭用品店は、今もなお次の流れに備えて小さな変化を続けています。

Editor's Note

編集後記

「インターネットで3時間探すよりも、お店で持てば3秒で商品が分かる」、この言葉にお店に足を運ぶ本質があるように感じました。
堀さんの商品に関する知識は、フライパンだけに留まらず、タオルや陶器に対しても同様。思わず「へー」と声に出してしまう家庭用品のお話が盛り沢山です。
堀さんのお話を聞いて思わず三保原屋さんのファンになってしまいました。

シェアして堀 高輔さんを応援!

シェアして堀 高輔さんを応援!

シェアして堀 高輔さんを応援!

LOCAL LETTER Selection

LOCAL LETTER Selection

ローカルレターがセレクトした記事