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※本レポートは、シェアリングエコノミー協会が実施するシェアの祭典「SHARE WEEK 2023」内のトークセッション「共助資本主義 〜セクターを越えた持続可能な共生社会のグランドデザイン〜」を記事にしています。
「共助」とは、自身や公的支援だけでは問題解決できない際に、他の領域からの支えを得て助けてもらうことです。経済同友会が2023年に掲げた「共助資本主義」では、共助をすることによって経済的・社会的の双方にメリットが生まれるとあります。具体的に共助をどのように考えていけばいいのか、身近で実践するにはどうすればいいのかを登壇者に語っていただきます。
髙島氏(以下敬称略):本業は八百屋ですが、それを背景としたいくつかの非営利団体を運営しています。企業・スポーツ・アート・復興などを支援しています。
運営している主なものとして、2000年に立ち上げたOisixは、その後らでぃっしゅぼーやや大地を守る会と合流しています。PURPLE CARROTは植物由来などの食材でつくられた食品を提供していて、とくし丸は買い物難民の方に食事をお届けする会社です。
非営利団体ですと東の食の会は東北の食品業界を、JWRFはパラスポーツの車いすラグビーを、TABLE FOR TWOはアフリカや開発途上国の子供たちへ食事を届けることを支援しています。
今回のテーマである「共助資本主義」は、僕が副代表幹事を務める経済同友会が掲げています。
社会課題を解決するために自助・公助・共助という3つのレイヤーがあります。自分でできることは自助としてやりますが、政府や自治体といった公助による解決には限界があります。自助と公助の間を埋めるのが共助です。
非営利団体と営利団体が手を組むことによって、非営利団体単独でやるよりも社会課題の解決が加速し、営利団体も社会課題の解決に寄与することで新たなビジネスチャンス、イノベーションチャンスが見つかり、さらに魅力的な人材も集まりやすくなります。非営利団体と営利団体のどちらかが犠牲を払うのではなく、win-winの関係になるのです。
石山氏(以下敬称略):2023年は共助資本主義のビジョンが掲げられたと同時に、コロナ禍終息後の社会情勢や経済について世界的に大きな変化があった年でした。中東の衝突もあり、世界的なイデオロギーの対立が顕在化していました。NPOやソーシャルセクターの役割が注目されているようにも思います。
髙島さんは2023年の「今」をどのように総括しますか。まずは経済の視点からお聞かせください。
髙島:これまでは、強者に優しく弱者に厳しいアメリカ的資本主義がうまくいきすぎていました。その結果格差が生まれ、人に優しくない社会が主流となり、アメリカ中心の経済が世界を牽引していました。
社会に優しくない経済が行き過ぎると、格差のせいで資本主義で得していた人も損をします。そこにSDGsのようなコンセプトが生まれたことにより、新しい資本主義の形、サステナブルな資本主義を探す動きが世界的にも広がっています。
日本は経済的に潤った時代もありましたが、そうでなくなった今も未だにアメリカを後追いしています。ガバナンスだけが発達し過ぎているのが日本の資本主義です。
そして世界的な動きに、日本はいつも若干遅れています。世界が一気に動くときに日本はいつも小回りをしていますが、その間にSDGsのように「三方よし」的なコンセプトが出てきました。日本にとっては経済的に馴染みやすい環境になってきていると思うんですね。
石山:東洋思想みたいで、重なる点がありますね。
髙島:資本主義はアメリカ型資本主義の方向でいいのかと逡巡している間に、経済的になじみやすい環境ができてきました。そして「行き過ぎた資本主義」について再考する必要性を、日本企業の経営者も徐々に感じてくれるようになりました。今は社会と向き合う企業でないと、若い人が就職してくれないんですね。
石山:2020年のオリンピック前までは、日本は再生できるかもしれないというある種の期待感がありましたが、コロナのためオリンピックが残念なことになってしまいました。コロナ以降の3年間は、髙島さんは日本企業についてどう捉えていらっしゃいますか。
髙島:海外出張に行けなかったので、国内で話す機会が増えました。日本の場合はあらゆる業界が縦割りなので、経済界の中でさえベンチャー企業と大企業の経営者では会話する機会がなかったんですが、その意味では相互理解が進んでリスペクトも生まれました。それが今回共助のコンセプトを出す背景となっています。議論するいいタイミングではないでしょうか。
石山:次に、社会全体の傾向や変化について、現在注目している視点があればお聞かせください。
髙島:日本では、社会課題を政治的に解決しようとすると非常に時間がかかります。
例えばLGBTQの話題にしても以前から社会課題になっていて、企業もNPOと連携した取り組みが始まっていたところに、遅ればせながら政治が「やらないよりやったほうがまし」くらいのスタンスで課題にした結果、非常にスッキリしない状況です。
政治的に問題を解決しようと思うとかなり遅れるし、解決法も鮮やかではなく部分的にしかできません。
石山:利権主義が政治や経済にも及んでいるからなのでしょうか。
髙島:政治そのものが原因ではなく、問題が多すぎて多様化していることが原因なので、解決の速さについては政治への期待値を過剰に持たなくてもいいと考えています。
多様化した問題を解くことは、政治はあまり得意ではありません。1つ1つの問題に寄り添うこと自体、政治は苦手なのです。だから経済団体や非営利団体の方が小回りが利くしスピードも早いのです。政治がやれることの限界を認識した上で民間が穴を埋めていく方が、社会が手っ取り早くよくなると思います。
石山:公助をつくっている領域は行政だけではなく、ソーシャルセクターや有権者、果ては地域活動も入ります。公助の役割が肥大化している現在、NGOやNPO、そして企業からの視点も交えて協力し、巻き込んでいくのが共助主義ではないでしょうか。そこでなぜ企業がセクターを巻き込んで一緒にやっていく必要があるのかをお伺いします。
髙島:日本が大きく影響を受けた出来事は、コロナ以前の直近ですと東日本大震災でした。
僕らは食の仕事をしているので、生産者のおかげでビジネスが成り立っています。震災で困っている東北の生産者のために何かしようということで一般社団法人 東の食の会をつくったところ、大企業やNPO、地元からも多くの協力をいただきました。
政治や地方自治、株式会社、非営利団体の仕事には今まで境界線があったような気がしていましたが、非常時にはその環境を飛び越え、それぞれができることを持ち寄れば、物事が進むということを、その時は個人的に感じました。それが今に至って共助への活動につながっています。
特に東日本大震災になんらかの形で関わったソーシャルセクターの方々は、株式会社と組んでその力を活用した体験をしたことで、そう感じたのではないでしょうか。そこで得た成功体験を持つ人たちが、共助資本主義の土台としての人材になっています。
経済同友会は、2023年7月に「インパクトスタートアップ協会、新公益連盟及び経済同友会の協働に関する連携協定」を締結しました。これは経済同友会単体ではなく、3つの団体としての活動として共助を発動しています。
連携するときに、同友会の委員会内で内輪で議論することをやめました。初期段階から新公益連盟、インパクトスタートアップ協会の経営者が一緒に体制を組んでいます。始動から約3ヶ月ですが既に5つほどの分科会ができていて、政策提言をしたり、企業と自治体とNPOが一緒になってふるさと納税をやったりしています。先日もイベントを実施しまして、300名ほど参加がありました。
石山:企業からすると、どういったプレイヤーがいるかがあまり知られていないため、ファーストステージとしては啓発することが重要なのでしょうか。
髙島:団体間で、互いに抵抗感を持っている場合があると思うんです。NPOは綺麗事すぎると思っている経済人もいるし、経済界の人は金儲け主義だから嫌だと思っている非営利団体の人もいます。相互不理解というか、「出会ったことがない人」は悪く見えることもありますから、双方の出会いの場をつくることがとても大事です。
石山:出会いの場、認知を広めていくこととありましたが、今は寄付税制やふるさと納税のように、ソーシャルや寄付に企業がアクションを起こしていける選択肢が少しずつ増えています。経済同友会の中で提言されている制度の改正・政策という視点ではいかがでしょうか。
髙島:寄付税制やふるさと納税、財団の在り方についても改善の余地がありますので、提言しようと思います。一方企業として大事なのは「見える化」です。自分たちがどれだけ社会課題を解決したのかを定常的に見ることは難しいですが、それを見える化していく。逆に見えてこないものはあまりよくなりません。これは非営利団体でも同じだと思います。
見える化したものは、企業でいえば統合報告書のような、株主に対して出すレポートに記載します。環境領域に関しては見え方・見せ方は少しずつできてきていると思います。企業が取り組む社会課題についてはどんな見え方・見せ方をしていけばいいのか、その企業活動を業界としてもしっかり取り組みたいですね。
前編記事では、共助とはどんなものなのか、共助の重要な視点である協同とは何かについて語っていただきました。
後編では、シェアリングエコノミーについての具体的な例、身近でもできる動きについてお話しいただきます。
Editor's Note
共助資本主義の基本は一般的な人付き合いと同じで、相互不理解がないようにすること、異なる領域をつなぐ役割が非常に大事であることがわかります。境界線をなくして一丸となって社会問題解決に取り組む団体が増えてくれば、社会も活気づいてくる。共助はその役割も担っているのでしょう。
KAYOKO KAWASE
河瀬 佳代子