SHIZUOKA
静岡
自分が住むまちに、誇れる場所をつくりたい。
新しい何かが始まる予感に満ちた場所をつくりたい。
けれど、長く愛された場所を、懐かしめるその場所を、無くすわけにはいかない。
その場所を活かした場所づくりって、どうすれば?と、もやもやを抱えてはいませんか。
今、沼津のまちがリニューアルされようとしています。沼津中央公園、そして駅前エリア。それらの開発に携わるのが、沼津エリアマネジメント株式会社です。
今回は代表である柴崎さんに、雨の沼津を案内してもらいました。
どのような思いで沼津と向き合い、その思いがどうまちに反映されていくのか。単なるリニューアル計画ではない、変わりゆくまちの様子を語ってもらいます。

沼津中央公園は1970年に開設した歴史の長い公園です。長い歴史の中で老朽化が進み、また南北で分断された構造や、トイレの位置に関しても不便さがあり、この度リニューアルされることになりました。
公園は行政の管理区画ですが、今回この区画では民間企業が飲食店舗を運営できる「設置管理許可制度」が使われています。つまり、行政と民間企業の協力のもと、公園の開発が進んでいくということです。
約2年前、その公募に手を挙げたのが、柴崎さんの所属する加和太建設株式会社と株式会社 REFS 代表取締役/一般社団法人 lanescape 代表理事の小松 浩二さんの共同事業者でした。

「公園って全国どこでもあって、いろんな世代の人たちが行き交う場所じゃないですか。まちの中でこんなにたくさんの世代の人たちが交差する場所って結構レアだなと。その公園の価値が上がれば、まちに対してのインパクトがあるんじゃないかと考えました。
公園が良くなればまちも良くなるんだと僕らが見せることで、全国の公園に対してポジティブなインパクトを与えることができるのではないか。とても面白いチャレンジになると思いました」
ただ単純に、今ある場所を新しくするだけではない。どう使われれば公園やまちがより良くなるのか、と挑戦を進めてきた柴崎さん。実証実験やワークショプも交えながら、“より良い公園のありかた”を組み上げてきました。リニューアル自体はまたまだ続きますが、2026年5月末には公園に飲食店舗が出来上がる予定です。
また、リニューアルに向けて市民の声も集められました。
「歴史も長く、とても愛されている公園なんです。
例えば『朝、掃除をしてラジオ体操する方たちにとって、心地のいい公園にしてほしい』、『スケートボードがしやすい公園が良い』、『公園は沼津城の跡地があるから、新しく沼津城を建ててほしい』など、本当にたくさんの意見がありました。
ワークショップを重ね、最終的には『静かでライフスタイルが豊かになるような公園にしよう』と落ち着きました。多様な人が集う場所なので、様々な過ごし方ができることが大事なんだと感じました」
飲食店やイベントスペースも設け、新しい活動や商いをしていきたい人たちも集えるようにも設計されています。中央公園に行けばなにか新しいことが出来るかもしれない、と期待を感じられる場所にもなっていきます。
柴崎さんがもう一つ、公園に持たせたいと考えているのが、まちの「ハブ」としての機能です。
沼津中央公園の周りには多くの企業が建ち並んでいますが、これまでまちづくりのシーンにプレーヤーとして参加する機会はなかなか生まれにくい状況もありました。
「企業として地域に対してなにか貢献できないかと考えるものの、何をしていけばよいのかわからないという声がありました。ですので公園をハブにして、地域貢献したい企業同士をつなげたり、企業で働く人同士の、出会いや活動のきっかけをつくったりと新しいムーブメントを生み出していけるような場所にもしていきたいです」

これまで接点がなかった人たちが、公園という開かれた場所を通じて、まちを面白くする『プレーヤー』として混ざり合っていく。まだまだ模索中ですが、と前置きしつつ、柴崎さんは言葉を続けます。
「僕らは飲食業をしたいというよりは、飲食を通じて新しい広がりや取り組みが起こっていく景色を作っていきたいです。飲食店はそこの手段の一つでしかありません。
まちの人には、イベントの運営側として絡んでもらったり、自分の取り組みを話してもらったり、自分の思いを語るスピーカーになってもらったり。そういった活動を通じて、いろんな人を巻き込んでいきたいです」
続いて柴崎さんが案内してくれたのは駅前エリア。近年は人気アニメの聖地としても賑わった、沼津の顔ともいえる場所です。実は沼津の西武百貨店は地方出店第一号。また、日本で初めてのアーケード商店街が建ったのも沼津ということで、先進的な地域でもありました。
ですが、かつては賑わいを見せていた駅前も、電車や新幹線、車などの交通インフラが整ってきたことで徐々に鳴りを潜めていきます。
「駅前は基本的に車中心の空間構成になっているので、人が滞留する場所が少ないという課題がありました。それを解決する事業者を募集します、というのが今回の公募でした」
東京の企業と、沼津を知る柴崎さんたちと共同で建設中なのが「NUMAZU JAMS(ヌマヅ ジャムズ)」です。飲食や物販のテナントだけでなく、行政にて管理する公共トイレや「地域貢献部」など、市内外の人達が集う場所を作っています。

「公園の方はその地域で暮らす人や働く人に対して価値を提供していく場所。NUMAZU JAMSはどちらかというと、まちを訪れる人に対して価値を提供していく場所を目指します」
まちを訪れる人には観光客も含まれます。沼津の一番の観光スポットと言えば沼津港。駅から車で約10分で行けるその場所を直接目指す人が多く、駅周辺はあくまでも通過地点となりがちです。
「今は、沼津港以外にもユニークなお店があるんだと少しだけ見えにくい側面もあるかもしれませんが、観光客の方にまずここに来てもらって、まちもブラブラ歩いてみようかと思ってもらえるようにしていきたいです。ここから新しい人の流れができたらいいと思います」
先進的だった沼津の歴史を紐解くと、「無からの復興」がキーワードとして上がります。大正時代、2回の大火事で何もなくなり、空襲でも丸焼けに。なにもないところからの復興を何度も遂げてきたのが沼津でした。
更に歴史をさかのぼると、中央公園があるところには沼津城が建っていました。ですが今は堀すら埋められており、その気配すらありません。これは沼津市民独自の気質があるからではないかと柴崎さんは語ります。
「本当に大胆に変えていくことに抵抗がない市民性だと感じます。それこそ、人気アニメの聖地として有名になったときも、まち全体で盛り上げました。変化を恐れず、新しいものを柔軟に取り入れる寛容さがあるんです。最近だと、行政主導で商店街のリノベーション活動も行っており、その結果、遊休不動産を活用したユニークな店がたくさん増えました」

その気質は、行政にも引き継がれています。リノベーション活動や今回の公園の開発も、ただのリニューアル計画で終わらせません。
「一方的に『こういう公園にします』とすることもできる中で、ワークショップを開いたり、市民の声を拾ったり、行政の方がかなり前向きなのも魅力です。
これまでの慣習で、行政で何でもしてくれるんだと染み付いている方もいると思います。ですが、こういうパブリックな場所やまちのことは、行政だけに頼らずまちの人たちの意見が反映されていくのが良いですよね」
沼津駅の高架化事業、駅前や市街地の再開発など、沼津のまちはむこう20年にかけてガラッと変わっていきます。
「ここからの20年、まちが大きく変わっていく中で、沼津らしさや魅力をもう一回自分たちで捉え直していく必要があると思っています。どんなまちにしていきたいか、どんなまちを作っていくか、地域の人たちと僕らも一緒に考えていきたいです」
「沼津は、沼津港や人気アニメの聖地など、地域の魅力がすでにあります。そういうベースがある中で、このような場づくりにトライできることはすごくありがたいです」
だからこそ、まちの再開発を経て「地域のブランド力」を上げていきたいと語る柴崎さん。その核は『感動』にあります。
「最近、感動ってなんだろう? どうすれば生まれるんだろう?とすごく考えています。というのも、豊かな暮らしとは、『感動』があることだと考えたからです。
例えば、スーパーや24時間営業のコンビニがあって、いつでも買い物ができる。交通インフラが整っている。NetflixやYouTubeでエンタメを楽しめる。たしかに豊かですが、そこに感動は少ないかもしれないと思うんです。
いいまちというのは『感動体験』が生まれるまちではないでしょうか。これがおいしいとか、このお店素敵とか、心が動く瞬間がたくさんあると自分のライフスタイルの充実感や満足度が上がってきます。そうすると、まちをより好きになる」

『感動体験』には、ストーリーも大事だと言います。
「あそこは老舗クリーニング屋が改装されて作られた場所で、もともとはおじいさんが営んでいて、孫が引き継いで……というようなストーリーを知ることによって、そこに足を運ぶ価値を生み出せると思うんです」
まだ解像度が低いので説明が難しいんですけど、と一つひとつ言葉を確かめるように、柴崎さんは続けます。
「僕たちは感動体験を作っていくのではなく、感動体験が生まれる仕組みを作ったり、再現性を確立したりしていきたいと考えています。
大事なのはその日常の中の感動です。沼津に住む人たちが、どういったときに感動するのか、そしてまちを愛してくれるのか。アプローチを続けていきたいです」
柴崎さんが目指すのは、‟整えられた”まちではありません。人の想いや営みが感じられ、そこに住む人々によってまちそのものが育ち、更新され続ける。そんな、沼津のしなやかな未来を見据えています。
柴崎さんの『感動』を生み出す場づくりはまだまだ続きます。
Editor's Note
『豊かなまち』の定義、私はとても共感しました。地元の大分県に移住してから、何度も何度も感動することがあったんです。東京には面白い場所や新しいモノはたくさんあったけど、感動はあったかな、って。
アナタは最近、何に感動しましたか?
Natsuki Mukai
向 夏紀