FUKUSHIMA
福島
福島県南相馬市小高区。
このまちは東日本大震災の原発事故の影響で避難指示が発出されました。住民避難を余儀なくされたこのまちは、誰一人として存在しない「住民 ‘ 0 ’ のまち」となった過去を持ちます。
しかし、震災から12年が経過した今、全国各地の若者たちがこのまちに集まってきている光景が。
ここに集まる若者たちは、何を考え、何に惹かれてこのまち・南相馬市小高区に辿り着いたのでしょうか。
今回は「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」をミッションに掲げ、起業支援やコミュニティづくりをしている株式会社小高ワーカーズベースの和田智行さんに「小高の魅力について」お話しを伺いました。
ーー今、小高には全国から若者たちが集まっていると伺いました。どんな人たちが小高を目指してくるのでしょうか。
和田氏(以下、敬称略):「やりたいこと」を明確に持っている人たちです。その上で、自己実現のフィールドとして小高に魅力を感じ、「自分のやりたいことが、ここなら一番実現できそうだ」と思って来る人が多い様に感じます。
ーー若者たちを惹きつける「小高」というフィールドの魅力は何でしょうか。
和田:震災によって住民が一度 ‘ 0 ’ になったことです。0になってしまったことで、地域としてもまちづくりを0からスタートしなければならない状況になりました。
自己実現を果たしたい人たちからすると、この様なフィールドで活動することで、「自分の実現したい世界観により広さと深みが出せそうだ」とか、「自分自身の取り組みが新たに始まるまちづくりのプロセスに組み込まれていくことに価値を感じる」とか、一般的には得られない魅力が小高にはあるんだと思います。
ーー自己実現…例えば移住先で起業するとなれば、物凄くハードルが高い様に感じてしまうのですが。
和田:ここ数年の小高を見ていて感じているのは、「起業する」ことは決して特別なことではなく、自己表現の一つに過ぎないということです。
自分が実現したい世界観や世の中に伝えたい価値観を、歌や絵などを通して発するメッセージと同じように、表現の一つとして「起業」という選択肢があるのだと思います。
ですので、被災地の課題解決を目的とした起業というよりは、この小高というフィールドで実現したい世界観や価値観を世間に発信するために起業する人が増えています。
ーー小高はそうした方たちへのサポートも充実しているのですか。
和田:私たちが活動する小高ワーカーズベースは「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」ことをミッションに掲げ、震災後の無人の町に食堂をつくったり、スーパーをつくったり、地域課題をビジネスという手段で解決する活動をしてきました。
震災の経験を通して、1つの事業を大きく成長させ、それに依存するよりも、小さくても多様な事業者がたくさんいる方が地域として安定するし持続的ではないのかな、と考えるようになったからです。
当初は自分たちで100のビジネスをつくろうとしましたが、自分たちだけで 100の事業をつくるのは大変だよねということで、仲間を増やしていく考えにシフトしていきました。
そうした経緯から、小高パイオニアヴィレッジや地域おこし協力隊事業を活用した「Next Commons Lab 南相馬」を中心に創業支援もするようになっています。
ーー仲間たちを迎え入れる際に、工夫している点はありますか。
和田:例えば、Next Commons Lab 南相馬では、地域の課題や資源を可視化して提示する様に心がけています。
さらに、そこから踏み込んで「こういう事業をやってほしい」とか「こういう可能性がある」というところまで提示することで、地域に飛び込みやすくなりますよね。
ーーそうすることでニーズの掛け違いも起こらない様に感じます。実際に小高に来た人たちをサポートする上で、大切にしていることは何でしょう。
和田:「熱量を絶やさない様なコミュニケーションを取る」ことですね。物事を起こすには熱量が一番大事なので。
それと「まずは動かす」ということです。例えば、最終形をいきなり実現しようとしても難易度が高ければ準備段階で膠着(こうちゃく)してしまう場合があります。そんな時は、最終形を分解しスモールスタートで動かしていく、そんな伴走の仕方を意識していますね。
和田:地方での自己実現において、最も重要なのは「コミュニティの質」です。コミュニティの質において重要なのは「創業支援に長けた人たちがたくさんいるか」ではなく、「一緒に暮らしを楽しんで、切磋琢磨できる仲間がどれだけいるか」ということ。
ハードルが高いように感じる起業も、身の回りに起業していく仲間たちがたくさんいれば不思議と自分もできる様な気になるんです(笑)。
ーー価値観の近い仲間がいることやコミュニティに属せることは、移住者にとっても心強いことですよね。
和田:そうですね。小高ワーカーズベースも起業者たちのコミュニティの一つとして機能しています。
ですが、一つのコミュニティにベタベタしすぎないというか、ここが唯一のコミュニティであってはならないと思っています。一つのコミュニティだけに所属してると、地域との繋がりが弱くなりますし、ここしか頼れるところがないといずれ行き詰まってしまいますから。
だからこそ、コミュニティの中で固着させてしまうのではなくて、ちゃんと地域との接点をつくってあげて、外のコミュニティとも広がっていけるようなサポートを意識しています。
ーー移住者も含め小高に人が戻ってきています。コミュニティが醸成され地域としても変わってきたと思いますが。
和田:当時は起業しようにも、応援してくれる人も、サービスを受け取る人もいなかったのですが、ある程度人が増えてきたので起業しやすい環境にはなってきていると思います。
加えて、自己実現を果たそうとする人たちの影響で、地域には良いサイクルが生まれていると感じています。
例えば、移住者の方々は今までにない発想とか、やりたいことを持ち込んできてくれます。まずはそれ自体に価値があるなと思っていて。そして、地元の人たちは、その移住者のやりたいことに共感して、関わることでイキイキしていく。
最終的に、お店やサービスという形で具現化した時に、自分たちの生活の質が上がっていき、この地域に入ってくる人をますます応援したくなる、そんなポジティブなサイクルが生まれています。
ーー起業や移住、自己実現を思い描いていても、日々の暮らしに追われてなかなか実行できない人もいると思います。
和田:日本みたいな成熟した社会で生活してると、効率性とか合理性を優先的に意識してしまい「合理的ではない部分」から目を逸らしてしまう傾向にあります。ですが、実は「合理的ではない部分」に価値や可能性、人生をかけて取り組む意義があったりするのではないか、と思うんです。
「合理的ではない部分」に気持ちが動いた時に、その思いを無視しないで「なぜそこに気持ちが動いたのか」とか「どんなアクションを起こしたいのか」ということをしっかりと内省することが大切なのだと思います。
そして、その内省のプロセスであったり、それを実現するフィールドを選択する時に小高や地方が面白そうだと思えたら、思い切って飛び込んでみる!そういう風に考えてもらえたら良いと思います。
自己実現を地方で果たすーー。
その可能性を高める要素が小高にはありました。数多ある魅力的なフィールドにおいても、小高が特別な場所である事には間違いないでしょう。
全国各地のローカルで様々なヒト・モノ・コトが日々産ぶ声をあげています。そんなローカルの世界をメルマガ登録で覗いてみてはいかがでしょうか。あなたにぴったりな情報が見つかるはずですーー。
Editor's Note
今回のインタビューで特に印象的だった言葉を紹介します。
『移住も起業も転職も長い人生の中の1つの変化でしかない。自分がじっとしていたって、世の中はどんどん変化するし、予測不能なことが起きたりもする。そんな未来に怯えながら暮らすよりも、自ら率先して変化することで欲しい未来や欲しい暮らしをつくっていくー』
まさに、一度 ‘ 0 ’ になってしまった小高で生きる和田さんだからこそ伝えられる言葉であり、説得力を持つ言葉です。そしてまた、そのマインドこそが自己実現を果たしたい若者たちを惹きつける要素でもあると感じました。
Kosuke Muramatsu
村松 浩介