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LOCAL LETTER

唐辛子を一味に加工。質も、仕入れも、売上も妥協しない代表の考え方

OCT. 20

FUKUSHIMA

拝啓、自分のこだわりで誰かを幸せにしたいアナタへ

2016年、福島県南相馬市小高区。避難指示区域が解除され、復興へと動き始めたこの地でスタートした「小高とうがらしプロジェクト」をご存知でしょうか。

今回は小高の新たな特産品を作るべく奮闘する、小高工房の廣畑裕子(ひろはたゆうこ)さんにお話をお聞きしました。

なぜ唐辛子を選んだのか。何が廣畑さんを突き動かすのか。それら全てが繋がってゆく「幸せ」のお話です。

読み終わる頃には、廣畑さんのつくる商品を食べてみたくなることでしょう。ぜひ最後までお楽しみください。

廣畑 裕子(Yuko Hirohata)さん 小高工房・​​おだかぷらっとほーむ代表「小高とうがらしプロジェクト」発起人 / 震災をきっかけに、生まれ育った小高で2015年7月に住民交流スペース「おだかぷらっとほーむ」を立上げる。2017年には「小高工房」をスタートさせ、「小高とうがらしプロジェクト」をはじめとする地域再生のため様々な活動を続けている。photo by Ryosuke SAKAI(LON)
廣畑 裕子(Yuko Hirohata)さん 小高工房・​​おだかぷらっとほーむ代表「小高とうがらしプロジェクト」発起人 / 震災をきっかけに、生まれ育った小高で2015年7月に住民交流スペース「おだかぷらっとほーむ」を立上げる。2017年には「小高工房」をスタートさせ、「小高とうがらしプロジェクト」をはじめとする地域再生のため様々な活動を続けている。photo by Ryosuke SAKAI(LON)

目に止まったのは『野生動物が食べない野菜』

2016年7月。福島第一原子力発電所事故に伴い設定されていた避難指示区域が解除され、廣畑さんは生まれ育った南相馬市小高区へ戻ることができるようになりました。

「小高の保健センターに行った帰り道に後ろを振り返ったらね、 20匹ぐらいの猿が私のこと見てんのよ。私たちが小高から避難していた5年半の間に、野生動物の世界になってたの」(廣畑さん)

農家さんが手塩をかけて育てた野菜たちは、猿やハクビシンたちによって「美味しいものから順番に食べられていった」といいます。しかし、その動物たちも手を付けなかった野菜が、廣畑さんの目に止まります。

「唐辛子はやられずに残ってたんです。動物たちは嫌いだったか、と思いました。私は辛いもの好きなんだけどね(笑)。

唐辛子は動物に食べられないんだったら、これ使って『小高とうがらしプロジェクト』をやろうと考えた。それで、まずは友達と3人で始めました」(廣畑さん)

「何もしなくてもエラーしかない地域になっちゃったんだから、トライ&エラーでいいじゃん」photo by Ryosuke SAKAI(LON)
「何もしなくてもエラーしかない地域になっちゃったんだから、トライ&エラーでいいじゃん」photo by Ryosuke SAKAI(LON)

3人で育てた唐辛子は動物たちに食べられることもなく、心配されていた放射線も検出されなかったそうです。そして廣畑さんらの手によって『小高一味』に生まれ変わり、復興マルシェでお披露目されることになります。

「育てた15本の唐辛子から、一味が200本もつくれちゃってね。一味ってたくさん使うものじゃないし、普通は1年に1本買うくらいでしょ。200本もあって売れるのかなって話してました。

そしたらね、『小高の唐辛子なら友達にも買っていく』って1人で5本も6本も買ってくれる人がいて、1日で200本売り切ったんです。たくさんつくってよかったなぁと思いました。

次の年の春に、『一緒に唐辛子をつくりませんか』って広報で呼びかけてみたのよ。小高に戻ってくる人も増えていたし、農家さんは野菜を育てても動物に食べられちゃうし。そんな時期だったのもあって、64人の方が参加してくれて。できた唐辛子は1,300本以上になりました。

正直当時は、こんなにつくってどうすんだ私、って思いましたね」(廣畑さん)

取材中も「とりあえず食べてみて」と勧めてくださる廣畑さん photo by Ryosuke SAKAI(LON)
取材中も「とりあえず食べてみて」と勧めてくださる廣畑さん photo by Ryosuke SAKAI(LON)

小高一味のアイデンティティは『誰もやらないオンリーワン』

こうしてスタートした『小高とうがらしプロジェクト』ですが、廣畑さんは「ただ小高の唐辛子で一味をつくっても意味がない」といいます。

「復興マルシェで一味を200本売ったその当時、サービスエリアで福島県の野菜が捨てられる事件がありました。安くても高くても、自分で働いたお金を出して買ったものでしょ。それをサービスエリアに捨てていくって、なんなんだと思いました。そんなの全然意味がないし、買ってもらっても捨てられたら傷付く。だったら最初から買わなきゃいいのにと。だから、うちまで持って帰ってもらえる商品は何かと考えました。

一味を作るために、全国の唐辛子や一味を取り寄せて研究して。九州唐辛子や香川本鷹は本当に美味しくて、小高の唐辛子で勝てるわけないと思いましたよ。だから加工方法を変えることにしました」(廣畑さん)

小高一味は、唐辛子を『皮(果肉)』『種』『胎座』の3つに分け、それぞれ味わいや辛みが異なる3種類が販売されています。「このつくり方をしているメーカーはほとんど無いはずだ」と廣畑さん。

部位ごとに仕分けられた唐辛子。左から『胎座』『種』『皮(果肉)』。photo by Ryosuke SAKAI(LON)
部位ごとに仕分けられた唐辛子。左から『胎座』『種』『皮(果肉)』。photo by Ryosuke SAKAI(LON)

「部位ごとに分ける作業は全部手作業。とりあえずゴム手袋とゴーグルをしてるんだけど、作業した手で顔を触っちゃたりして、もう大変。 取り寄せた一味は全部、唐辛子の部位が混ざったやつだったんですが、その理由がわかりました。大変だからです。

でも、誰もやらないってことは、オンリーワンじゃね?って気付いちゃった。

実際にやってみて、たぶん私たちぐらいしかやる人いないなと思いました。誰かやってくれんなら、私も頼みたい。大変なことをはじめてしまったなと思いましたね」(廣畑さん)

そもそも、唐辛子を部位ごとに分ける発想はどこから来たのでしょうか。そのキッカケは「辛くて食べれない」というお客様からの声だったそう。

「『おめの一味は辛くて食えね』って言われて、どうしたら甘くなんだ?って考えたのが始まりです。それで辛いのは種と胎座だって分かったから、皮だけで一味をつくって。そしたら種と胎座のやつもつくってみっかって」(廣畑さん)

緑の「よけいなことをしてしまった」は『胎座』を使った最も辛い一味。photo by Ryosuke SAKAI(LON)
緑の「よけいなことをしてしまった」は『胎座』を使った最も辛い一味。photo by Ryosuke SAKAI(LON)

こうして『小高一味』のアイデンティティとも言える、3種類の一味が誕生しました。さらに廣畑さんは、一味以外の商品開発も進めていきます。

「ドライタイプの柚子胡椒『ゆずのきもち』は、南相馬名産の柚子を使っています。震災の後、南相馬の柚子は販売禁止になりました。放射線が出るから、売るために収穫しては駄目になったんです。

それでもいつか売れるようになるかもしれないと、私たちは毎年放射線量を測っていました。2019年ごろから放射線が出ない柚子が増えてきて、2021年にはほとんど全ての柚子で検出されなかったんです。

でも、長い間販売禁止になってたから、柚子を育てていた南相馬の人たちにも『柚子は食べられない』ってイメージが刷り込まれちゃった。収穫されない柚子がたくさん地面に落ちていて、その子たちが『もう放射線出ないから食べて』って言ってるような気がしたんですよ。だからこそ、うちの商品を通じて『もう柚子を食べても平気だ』ってことを知って欲しかった。柚子の気持ちを伝えたかった。

だから『ゆずのきもち』って名前にしました」(廣畑さん)

売上はもちろん、まずは『身近な人の幸せ』を大切にしたい

『ゆずのきもち』『大蛇のわるだくみ』など、一風変わった商品名が印象的な小高工房さん。それらの商品名にも、廣畑さんの想いが込められています。

「普通の商品名でもいいんだけどね、面白くないでしょ。ちょっとクスッと笑えたらいいなと思って名前を付けてます。

『大蛇のわるだくみ』は、辛くないマスタードなんです。マスタードなのに辛くないし、そもそも唐辛子を使ってないし、食べた人が『アレ?辛くないの?』ってなる。あとは、ロット毎に味も少しずつ変わってたりする。だから『わるだくみ』なんです」(廣畑さん)

爽やかな風味と、プチプチの食感がたまらないっ…!photo by Ryosuke SAKAI(LON)
爽やかな風味と、プチプチの食感がたまらないっ…!photo by Ryosuke SAKAI(LON)

また廣畑さんは、震災をきっかけに様変わりした小高を見て『まちが続いていくこと』や『笑顔』を意識するようになったと言います。

「震災があって、たくさんの人が気を遣って1回や2回は来てくれるんです。でも、それだけじゃまちは続いていきません。小高出身の若い人たちだって、お願いしただけじゃ戻りたい気持ちにならないと思う。

でもね、『あそこに行ったら、面白い人たちがいる』とか『帰りにあそこのラーメン屋行ってみたら色んな話が聞けて楽しかった』みたいに、ちょっとでも立ち寄れる場所があって、そこに行けば笑顔になれる。そんなまちになったら、まちは続いていくんじゃないかなと思うんですね。やっぱり笑顔がないと。だから小高工房のロゴにも『笑』の文字を入れさせてもらいました」(廣畑さん)

小高に伝わる大蛇伝説と『笑』の文字をあしらったロゴ。photo by Ryosuke SAKAI(LON)
小高に伝わる大蛇伝説と『笑』の文字をあしらったロゴ。photo by Ryosuke SAKAI(LON)

最後に、「少しでも笑顔があればまちが続いていくのではないだろうか」と考える廣畑さんが、一番大切にしていることをお聞きしました。

「自分の1番、皆さんの1番小さな最初のコミュニティってのは、家族ですから。 そこをきちっと大切にしたら、その次が出てくるだけです。最初がきちっとしていないと、その次もできないし、当然次の次もできない。だから、家族や身の回りに心配事がある限り、120%の仕事はできないって気が付いたんです。仕事のクオリティも上がらない。

私がくたくたで家に帰って、子どもとの会話が『風呂入ったら寝な』だけだったら、なんだか寂しいですよね?その寂しさは仕事にも現れる。だから私は、私の家族を一番に『幸せ』にしたいし、その次にまちの人やお客さんを笑顔にしたり、幸せにしたり。そうやってこのまちに少しでも恩返しができればと思っています」(廣畑さん)

「まずは自分や大切な人が笑顔でいないと」photo by Ryosuke SAKAI(LON)
「まずは自分や大切な人が笑顔でいないと」photo by Ryosuke SAKAI(LON)

家族や小高に住む皆さんなど、とにかく身近な人を笑顔にしたい。小高工房の商品には、唐辛子の刺激とは正反対な廣畑さんの優しい想いが詰まっていました。

廣畑さん、ありがとうございました。

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Editor's Note

編集後記

唐辛子との出会い、商品へのこだわり、小高への想い。
ここには書ききれないほど、たくさんのお話をしてくださった廣畑さん。正直なところ、廣畑さんの想いや魅力を伝えきれていない気がしています。少しでも興味を持ってもらえたのなら、会って、聴いて、味わって、肌で感じてください。きっと廣畑さんならニコニコの笑顔で話してくれると思います。
私自身、またお会いできる日が楽しみです。

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