KYUSHU
九州
※本レポートは、『ONE KYUSHUサミット』のSession4「地域の可能性を見つけ、育て、広げる共創の力」を記事にしています。
地域の魅力は、地元の人にとっては当たり前すぎて、見えにくいことがあります。
外からの視点や移住者のまなざし、さらには国際的なつながり。そういった外部のフィルターを通し、言葉やプロダクトとして形を変えることで、初めて地域内外に価値として伝わっていきます。
前半では、外部から地域への入り込み方や関わり方について話を聞いてきました。
後編は台湾の地方活性の話題も交え、地域の魅力の見つけ方と、広げ方、そして共創へと広げる道筋を探ります。
>前編はこちらから<
日野氏(モデレーター、以下敬称略):台湾も地方活性が必要な状況にあると聞きました。日本で「地方創生」という言葉が出てきたのは、2014年。そこから5年後に台湾でも地域を再生するための政策が出たと。
蔡氏(以下敬称略):日野さんの認識の通り、台湾は2019年に地方活性の政策を定めました。その政策は日本の政策を参考にして作ったものです。
なぜそのような政策ができたかというと、台湾でも日本と同じような課題があったからです。人口減少、少子高齢化、あとは東京の一極集中ほどでもないものの、台北、台中、高雄など都市に7割もの人口が集中していました。
それを変えていきたいとの思いで、台湾版の地方活性の政策が出されました。2019年は台湾の「地方創生の元年」だと言われています。

日野:今台湾の状況はどうですか? 台湾視点から、日本との接点を探したいなと。
蔡:以前このイベントと主催者と知り合った時に「いつかONE KYUSHUサミットを台湾でできたら」という話がありました。「ONE KYUSHU」というイベント名なのに、九州でない場所で開催して大丈夫なのだろうか?と最初は思いました。
ですがここまでの話を聞いて、地域に関わるのならば一度現地に足を運んだほうが良いと感じました。例えば、日本人が当たり前だと思っている雪や桜は、台湾人にとって珍しい風景です。
私が今までに日本で開催してきたツアーは、風景や食べ物などの観光の側面もありますが、基本的に地域のプレーヤー、人を紹介するスタディツアーになります。ツアーで地域の人と会うことで、また日本に行きたいだとか、次は地域の人に台湾へ来てほしい、という繋がりも生まれていると感じています。
逆も然りで、日本の方が台湾のツアーに参加した際、台湾人から見ると普通の風景や産業に対して「とても面白い」という感想をもらいました。外からの視点や観点から、地域について学べることや気づくことがあると思います。
日野:その土地の人と会うと、その土地ならではのことを知れますね。
僕、五島に着いたときにカフェ「te to ba(テトバ)」の村野麻梨絵さんに迎えに来ていただいたのですが、そのとき壊れた僕のジーンズのファスナーを修理してもらったんです(笑)村野さんが昔アパレルで働いていたと聞いて、ダメ元でお願いしたら「できますよ」と。すぐに動いてくれました。
普通なら突然やってきた僕に、そこまでしてくれないと思うんです。そのあたたかさに五島の人柄を感じましたね。

日野:五島では、村野さんが運営している美術館にも連れて行ってもらいました。古民家を改修した美術館には、まだ無名のアーティストの絵が飾られています。
SNSなどで素敵な絵を作っている方を見つけ、その人たちに五島に来てもらい、描いてもらい、その作品を美術館で販売するんです。アイディアや行動力がすごいと思って。五島にこんな素敵な取り組みをしている人がいるのかと感動しました。
蔡さんの話を聞いて、このエピソードを思い出しました。現地に行って感じることはとても大事だと思います。
九州と台湾は同じぐらいの大きさです。台湾は地方活性が始まって6年程経っていますが、日本に住む自分たちと違う価値観もあると思います。でも同じように困っていることもあるかもしれない。それを感じるというのは、とても良い体験になるかもしれません。
『ONE KYUSHUサミット』は今まで宮崎や、五島というように、九州で実施していました。今後は台湾、それこそ台北以外の地域で実施すれば、普段行く機会のない地域にも足を運ぶきっかけになります。台湾で『ONE KYUSHUサミット』を開催するという話は、とても良いと思います。
日野:4年の間で自分の足で立ち、手を動かし、多くの人がジンを飲んでくれるようになった。その過程で門田さんに起こったことや、ジン作りの思いなどを伺いたいです。

門田氏(以下敬称略):本当に幸せに働いているという感覚が一番です。キリンにいた時は大量生産で、安心安全で美味しくて、リーズナブルなものをたくさん作ってたくさん売ってきました。それはそれで今でも誇りに思っていますし、社会的インフラの役割も果たせたという思いも大きかったです。
しかし、土地に根差したお酒を作っていると、お客さんの顔もすごく見えるようになりました。僕たちのジンを飲んで、気に入ったから蒸溜所を見に来たという方が日本中からたくさん来てくれます。それがとてもやりがいで、本当に楽しく仕事ができています。
日野:キリンのような大手メーカーであれば、飲んでいる人の姿を見る機会もありそうですよね?

門田:あるにはあります。僕はキリンのときに「一番搾り」というブランドのマネージャーをしていました。一番搾りって 1ヶ月で約600 万人に飲まれているんです。なので、飲んでいる人をたくさん見かけます。でも実感があまりないというか。もちろん調査やデプスインタビュー(ユーザーの本音を深掘りする個別インタビュー)もしますが、消費者の数が多すぎてどこかリアリティーがないんです。
ですが今のように、月に何千本ぐらいしか作っていないと、飲んでくださっている一人一人とつながっているように思えて幸せです。作ったら売れるからもっと作ったらいいのに、と東京から来た記者の方が言っていましたが、大量生産をするつもりは全くありません。むしろ今のお客さんがもっと満足できるようなかたちで作っていきたいです。

数字の目標は本当にありません。僕が運営する「五島つばき蒸溜所」のポリシーが「Happy People Make Happy Liquor」なのですが、社員もみんな楽しく働いて、そのうえでお客さんが幸せになってくれる酒を造れたらなと思っています。人の幸せを起点にお酒を造り続ける会社でありたいです。
日野:具体的な売上の目標などはありますか?
門田:唯一目標として挙げているのはふるさと納税の売上です。去年ふるさと納税を1億円集めたのですが、次は3億円を目標にしています。去年、北海道の厚岸蒸溜所にお邪魔した時に、代表の方に「うちは厚岸町にふるさと納税を2億円集めています」と言われて「負けた」と思いました。悔しい、負けない、と。
そこだけは唯一目標の数字がありますけど、他の目標数値はなく、みんなが本当に幸せで、人を幸せにというお酒を造れたらと考えています。

日野:このイベントの前夜祭で「幸せとは何なのか」という話をしていました。ハーバード大学の有名な研究で、人が幸せになるために最も重要な要素についての調査があります。10代の時から死ぬまでの間、定期的に幸福度のヒアリングを行っているんです。
年齢を重ねた人に、「あなたは幸せでしたか?」と聞くと、幸せでしたと答える人と、幸せではありませんでしたと答える人がいる。調査では、 その人たちの若い時の生き方もさかのぼって知ることができます。
80年以上研究してきた結論は、一番幸せに影響する要素は、良い人間関係なのだそうです。
この研究は、2年前に『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』という書籍になっています。僕はこの本のプロモーションを担当したので当時読んだのですが、研究結果に驚いたと同時に、納得もしました。
面白いと思ったので、東京の飲み会で「人間の幸せにとって一番大事なものはなんだ思う?」と聞いたら「お金かな」とか、様々な答えが返ってきました。けど「良い人間関係」という答えは出てこなかったのです。
でも、ローカルの人は「人間関係じゃないの?」って当たり前のように返ってくることも多いんです。五島の人に聞いたらそう返してくる人も多いかも。
門田:質問の答えは聞いてみないとわかりませんが、五島の人は本当に幸せに日々を暮らしているように見えます。その姿も勉強になりますね。
うちの蒸留所は4ヶ月開業が遅れました。モノも人も忙しない都市部であれば、4ヶ月も遅れていたら残業して少しでも納期に間に合わせようとしますよね。
ですが、五島の大工さんは絶対に残業をしないんです。8時から17時まで、5分も残業をしませんでした。でも仕事は丁寧で、一切手を抜かない。むしろ、そんなスケジュールを立てた人が悪いんだという感じで、いい意味で仕事で自分の人生を犠牲にせずに、自分の生活も大切にするという雰囲気があるんです。
仕事が終わったらみんなソフトボールをしたり、釣りに行ったり、お酒を飲んでカラオケしたり。東京では「ワークライフバランス」なんてあえて言葉にして掲げていますが、五島の人はそれが普通で、みんな幸せに「よかよか~」と生活しています。その姿がとても勉強になりました。
サラリーマン時代、ものすごく働いていたのも楽しかったですが、島民の方から幸せな時間の過ごし方を教わって、今のほうがより幸せに生きられていると思います。
日野:生きづらいという言葉をよく耳にしますが、これからは人の幸せのバランスを見直さなければいけない時代だと思います。五島の人たちは、自分のペースで、自分を大切にする生き方を実現して幸せに過ごしているように感じます。
地方では「うちのエリアには何もないんですよ」とか「これといったものはないです」と口にされる方も多いですが、形あるものとはまた別の、自分らしい生き方というものが確かにそこにある。
五島出身の大学の後輩から、「五島は最高なところなので、絶対日野さん来てください」と言われたことをとても覚えています。五島の人たちには、いい人間関係、地域を愛する心や誇りがあると感じました。

日野:最後に、テーマである「地域の可能性を見つけ、育て、広げる共創の力」に沿ってそれぞれ一言お願いします。
門田:僕は東京では何十年もマーケティングを担当してきました。よく地方は未来がないと言われますが、五島に4年間住んで「そんなこと全然ない」と思っています。
ただ、視点は変えないといけないと思います。 マーケティングの視点で考えると、人口減少が課題だと言われていますが、五島に住んでいるとあまり気になりません。
ビジネスではなく、むしろ愛をもって地方を見てみたら独自の仕事が根付いていたり、文化があったり、自然が豊かだったりします。これらは宝だと思うので、もっと活かしていきたい。そうすれば、もっと地方は元気になりますし、みんなでつくり出せるような地域の未来を描けるのではと思いました。
池田:八丈島に移住し、8月に会社を立ち上げ、焼酎蔵の手伝いをし、と地域で挑戦を続けていくことが自分にとっての心の豊かさにつながっていると感じています。あと、地域に入り込むのではなく「溶け込むこと」が重要だと思っています。地域に関わっていきたい方々は、一緒に共感しながら共創していくことを意識してもらえればと思います。
蔡:可能性を見つけて広げていく方法として今までやってきたことは、違う目線を持っている人や、違う出身地の人と触れ合うことです。それが可能性を見出すスタートだと思います。
Editor's Note
ONE KYUSHUサミット参加のため私も五島に足を運んだのですが、現地に行くことで知ることがたくさんありました。門田さんが語っていた、五島の方は幸せだという言葉。それを私もまち中で多々感じたので、ぜひみなさんも五島へ!
Natsuki Mukai
向 夏紀