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LOCAL LETTER

【前編】「ローカルゼブラ的ビジネス」とは。経済成長だけでないビジネスのかたち

DEC. 16

SAGA・FUKUOKA・OOITA・NAGASAKI・KUMAMOTO・MIYAZAKI・KAGOSHIMA

拝啓、社会に貢献できるビジネスをしたいという思いを抱えながら日々働くアナタへ

※本レポートは、『ONE KYUSHUサミット』のSession2「九州のこれからに必要なローカルゼブラ的ビジネスとは?」を記事にしています。セッションの様子を前後編に分けてお届けします。

ローカルゼブラ的ビジネスと聞いて、どのようなビジネスかイメージできますか?

短期間での経済的成長を軸にしている企業を「ユニコーン企業」といいますが、対して経済成長と社会課題解決を両立させる企業を「ゼブラ企業」といいます。そしてそこに「ローカル」を足したものが「ローカルゼブラ」。つまり、地域活性にも取り組みつつ、経済成長も目指すのが「ローカルゼブラ的ビジネス」です

人口が減少していく今、地域の活力を保つためには「経済性」と「社会性」を兼ね備えた新しい事業モデルが欠かせません。地域課題をビジネスの機会と捉え、持続的に挑むローカルゼブラ的ビジネスはまさにその答えの一つです。

平林氏(モデレーター、以下敬称略):これまでの経済成長だけではない、幸福度や社会貢献なども見据えた「ローカルゼブラ的ビジネス」。本セッションでは、官民連携、クラウドファンディング、新規事業開発といった多様な角度から、九州の未来に必要なビジネスのかたちを探ります。

それでは自己紹介と、なにかローカルゼブラ的なエピソードを紹介いただけますか。

平林 和樹 氏 株式会社WHERE 代表取締役 / ヤフー株式会社、カナダ留学、株式会社 CRAZY を経て、株式会社WHERE創業。地域コミュニティメディア 「LOCAL LETTER」、地域経済サミット 「SHARE by WHERE」、ローカル×キャリア開発の「ACADEMY」 事業など地域、業界を超えた共創による人づくりに邁進中。

三好氏(以下敬称略)株式会社タイミーの三好です。「社長室地方創生グループ」という部署に所属しています。ご存じの方も多いかと思いますが、タイミーは働きたい人と働いてほしい人をマッチングする、スマートフォンのアプリです。

タイミーには「『はたらく』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる」というミッションがあります。インフラと聞くと、ガス、水、電気など、全国津々浦々どこでも使えるサービスをイメージされると思います。働き手と企業をつなぐだけでは十分なインフラにはなれないので、社会貢献を目指し、私の部署では行政の方に向けて連携協定や事業の提案をさせていただいています。

ローカルゼブラ的なエピソードですが、先日佐世保市の鹿町で稲刈りをしてきました。佐世保市はタイミーと連携協定を結んでいます。稲刈りは仕事なのか社会貢献なのか、はたまた関係人口としてなのか。どのくくりでの活動なのか曖昧ですが、農業で働くことを皆さんにお話することも社会貢献につながると思ったのでご紹介しました。

三好 幸恵 氏 株式会社タイミー 社長室地方創生グループ 自治体チーム 地域共創ディレクター / 2016年、大学卒業後、商業ディベロッパー、株式会社リクルートを経て、2022年1月に株式会社タイミーに九州エリアのカスタマーサクセスとして入社。2023年より現部署に異動。農業分野の立ち上げやタイミー初の自治体連携に携わり、現在は中四国九州沖縄を担当。

小松氏(以下敬称略):株式会社ボーダレス・ジャパンの、ソーシャルグッドに特化したクラウドファンディング「For Good(フォーグッド)」の代表をしております、小松です。

ボーダレス・ジャパンはソーシャルビジネスを世界13カ国で行っているグループ企業です。事業領域はバラバラですが、そのどれもが社会問題の解決や社会をより良くしていくことを最重要としています。

For Good4年前に創業し、社会をより良くするプロジェクトを国内外で2000以上支援しています。ローカルゼブラという切り口ではないものの、僕たち自身が社会性と経済性をどう両立させていくかという観点で普段からトライしています。サポートしている地域プレイヤーの方々はまさにローカルゼブラ的な挑み方をされている方も多いと思います。

小松 航大 氏 株式会社ボーダレス・ジャパン 「For Good」事業代表 / WASSHAでのインターンを経て、2022年に株式会社ボーダレス・ジャパンに参画。クラウドファンディングサービス「For Good」の立ち上げに携わり、2023年より事業代表に就任。中東・アフリカ・南米を中心に26カ国を旅した現役バックパッカー。

小川氏(以下敬称略):西部ガスホールディングスの小川です。弊社は都市ガス事業と、電力事業、不動産、介護施設、飲食に加えてレジャー施設なども運営する、約90社から構成された企業グループです。私自身は営業や人事を経て、現在は新規事業開発をしています。

ローカルゼブラ的な話だと、9月より福岡で九州初の民間産後ケアホテルの実証実験をしています。

現在、産後の母親の10%から15%の方が産後うつになってしまう現実があります。関東や関西では産後ケアに民間企業が入り込んでおり、様々な選択肢がありますが、九州は行政サービス以外に選択肢がありませんでした。ですので、西部ガスグループとして入り込んでいこうとチャレンジしています。

小川 周太郎 氏 西部ガスホールディングス株式会社 新規事業開発担当 / 2014年、西部ガス株式会社(現西部ガスホールディングス株式会社)に入社。長崎地区でガス機器のセールスプロモーション業務に従事した後、本社人事部門にて主に人材育成やキャリア開発施策、グループ初の社内大学の立ち上げを担当。
2023年4月から事業開発部にてスタートアップとの共創をはじめとする新規事業開発を担当。

ローカルゼブラ的ビジネスを持続していく秘訣は「よりそい」と「共感」

平林:今回プラットフォームやインフラを提供している企業の方々に登壇いただいています。そこで地域にどう向き合っているのかをお伺いしたいです。恐らく多くの方にとってプラットフォームは「サービスを提供します。あとは自由に使ってください」というものだとイメージされていると思うんです。

小松:実際プラットフォームを作っているのが誰なのか、どういう人が関わっているのか、見えづらい側面はあると思います。例えば、地域のお店であれば運営者が誰かは目に見えてわかります。一方でFor Goodのプラットフォームの裏側は誰が作っているのかは、見えづらいのではないかと思っています。

だからこそ僕たちは地域に限らず、挑戦を起こしたいと思っている一人一人に対して、人対人で向き合うことをとても意識しています

具体的には、For Goodでクラウドファンディングを立ち上げたい方々全員に対し、最初にオンラインのミーティングを行うようにしています。思いや企画を聞いてしっかりとよりそい、終わった後の感想もヒアリングします。徹底してユーザーに寄り添うことで、プラットフォームを改善していけるかを考えます。

この設計を保ち続けた上で、急激なサービス拡大による「人が見えない状態」をできるだけ阻止する。ビジネスを持続可能な範囲で広げていくことはとても大事だと思っています。

三好:伴走はどのくらいの期間でされているんですか?

小松:For Goodにはプロジェクトの領域ごとに、その分野を得意とするキュレーターが多数在籍しています。例えば環境問題に関することが得意な方や、動物についての社会課題に精通する方などです。そこをマッチングさせて、プロジェクトによって適した伴走期間をできるだけ担保できるような仕組みにしています。

平林:九州でのプロジェクトをなにか紹介していただけますか。

小松:12年前ぐらいに福岡の女子高生たちが立ち上げたプロジェクトがあります。「起立性調節障害」というなかなか朝起きれない病気の当事者と、その友人たちが企画したものです。この病気は全国で同じような悩みを持たれている方がいるにも関わらず、「サボっているのでは」「怠けているのでは」などと言われ病気への理解が進んでいないという背景がありました。

より多くの方々に病気のことを知ってもらうため、映画を作成しました。結果、たくさんの人たちに届き、その映画を上映したいというプロジェクトが他の地域で立ち上がり、ハリウッドにまで広がりました。

このように、一つの取り組みから他の地域で同様のプロジェクトが立ち上がったり、寄付や支援を経て「自分もやってみよう」と次のアクションにつながったりすることがあります。

共感を次につなげられる企画をどう作っていくかが、持続可能なビジネスを作る上でとても大事だと思っています。

インフラとのシナジーが、経済性と社会性を両立させるカギ

平林:小川さんは今インフラを提供する企業で働きつつ、新規事業という領域で様々な地域に向き合っているかと思います。それこそローカルゼブラ的な事業も作り出していると思いますが、いかがでしょう。

小川:「ローカルゼブラ的」という表現が非常に良いなと。「ローカルゼブラビジネスとは」と言われても、どのようなビジネスなのかは答えづらいと思います。ですので「経済性と社会性を両立させようとしている」という概念が大事だと思っています。

地域のインフラ企業としての使命は、ガスや電気を24時間365日途絶えさせることなく送り続けることです。ですが、「地域貢献」という経営理念に基づき、エネルギー事業以外でも地域貢献する必要があると考えています。

一例として、コミュニティナースという取り組みをご紹介します。コミュニティナースは簡単に言うと「おせっかいする人」です。看護師の資格は必ずしも必要ありません。人とつながり、まちを元気にするのがコミュニティナースの役割です。

小川:これをビジネスとして展開しようとすると、人件費の問題などもあり成立しにくい。そのため、私たちはまちづくりの一環として取り組んでいます。まちを良くしていけば、そこで使われるエネルギーが西部ガスのガスや電気事業につながるからです。将来的なメリットを得るためにまちづくりという事業をしており、その付加価値としてコミュニティナースを導入しています。

コミュニティナースがまちに入り込むことで住民の本音が拾いやすくなり、新しいビジネスを創出する仕組みの一つになると考えています。ただまだ採算が取れていないので、将来的にどうやって経済性と社会性を両立させていくかが課題です。持続していくために、どこからキャッシュを得て、どこから人を呼ぶかを日々、試行錯誤しています。

平林:メイン事業とのシナジーも含めた事業を展開しているんですね。

小川:はい。新たな事業領域としてはドローン事業があります。既存事業とはあまり関連がありませんが、新しい収益の一つとして展開しています。

今後はコミュニティナースのような、社会性は高くとも収益性が低い取り組みを、どう会社の経営戦略に紐付けるかが難問です。ただ単にやりたい気持ちだけでは絶対に事業化できないので、そこに向けた理由づけをしていくことが重要です。

連携協定から目指す、持続可能な地域とビジネス

平林:続いてタイミーの三好さんにもお伺いします。自己紹介にて地域行政との連携の話がありました。地域との連携協定は、取り組みの設計まで踏み込まないと「署名だけ」で終わってしまうケースもありますよね。具体的にはどのように地域と連携しているのでしょうか。

三好:おっしゃるとおり、連携協定を結ぶことがゴールになってしまうことがあると思っています。

現在タイミーは全国60自治体*と連携協定を結んでいます。先程お伝えしたように、タイミーは社会のインフラになることを目指している会社です。どうすれば「社会にとって欠かせない存在になれるか」と考えた結果、地域の暮らしの基盤を担う自治体と力を合わせる道を選びました。
(*2025年10月18日時点)

自治体の方々が今感じていることや、事業者や住民の方からの困りごとなどを聞きながら、タイミーが伴走できる方法をともに探っています。またタイミーも成長中の会社ですので、サービスやアプリ、人材の要望を聞いて、それを具体的に事業に落とし込んでいます。

官民連携の際、実は初期段階でしっかりと事業計画まで作っているケースは多くありません。まずは協定を結び、自治体から「タイミーは安心して利用できるサービスだ」と発信してもらうところから始める必要があるからです。タイミーのことを理解いただいた後に、具体的な利用事例を作っていきます。

三好:タイミーでは企業と働き手がマッチングした場合、企業側は無料で長期採用ができるようになっています。地域では、人を採用したいと言ってもすぐに直接雇用に踏み切れるわけではありません。

ですがタイミーでならお試しで働いてもらい、相性が良ければそのまま本採用できるんです。お互いにどんな人物か、どんな職場環境か、分かった上で受け入れる方がミスマッチも減りますし、定着率にもつながります。ですので、長期雇用のツールとしてぜひ使ってくださいと利用を促しています。

日本は確実に人口が減少します。高齢化もします。そうなると採用もさらに難しくなってくると思います。

ただ採用するだけでなく、それぞれの得意分野のスキルを上手に循環させ、みんなが手伝い合えれば、持続可能な社会や地域を作っていけるのではないかと考えています。それができるのが、タイミーのようなスポットワーク事業だと思います。

ですので、一緒に組んでくれる自治体を見つけて、ゴールに向かっていけるような絵を描きながら連携協定を結んでいます。

Editor's Note

編集後記

やっている事業はバラバラでも、社会性と経済性を両立させようとする思いは同じで、みなさん日々挑戦を続けているんだと感じさせるお話ばかりでした。「ローカルゼブラ的ビジネス」の考え方、私ももっと広めていきたいと思います。

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