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LOCAL LETTER

【後編】苦悩を経て見つけた、経済性と社会性を両立させるヒント

DEC. 18

SAGA・FUKUOKA・OOITA・NAGASAKI・KUMAMOTO・MIYAZAKI・KAGOSHIMA

拝啓、事業の成長と社会貢献の両立に悩むアナタへ

本レポートは、『ONE KYUSHUサミット』のSession2「九州のこれからに必要なローカルゼブラ的ビジネスとは?」を記事にしています。

地域活性にも取り組みつつ、経済成長も目指す「ローカルゼブラ的ビジネス」。人口が減少しゆく今、地域の活力を保つためには経済性と社会性を兼ね備えた「ローカルゼブラ的ビジネス」が必要です。

前半はどのようにローカルゼブラ的ビジネスを成立させているか、どのように地域と向き合っているのか、それぞれにお話を聞いてきました。後半は、事業やプロジェクトを推進する中での難しさを語っていただきます。


前編はこちらから

1人の100万円より、1000人の100円。人を呼ぶ「共感」の力

平林氏(モデレーター、以下敬称略):みなさんのお話を聞いていると、ビジョンも想いもひしひしと伝わってきます。そして経済性と社会的価値をどう両立させていくのかと向き合っていると感じました。

ここで失敗談や難しかったことなど、お伺いしても良いでしょうか。

平林 和樹 氏 株式会社WHERE 代表取締役 / ヤフー株式会社、カナダ留学、株式会社 CRAZY を経て、株式会社WHERE創業。地域コミュニティメディア 「LOCAL LETTER」、地域経済サミット 「SHARE by WHERE」、ローカル×キャリア開発の「ACADEMY」 事業など地域、業界を超えた共創による人づくりに邁進中。

小松氏(以下敬称略):クラウドファンディングで目標金額に達しなかったとしても、事業の学びとして次の一歩につなげられる方も多くいらっしゃいます。目標達成ができないことが、必ずしも失敗ではありません。

「For Good(フォーグッド)」の特徴は、掲載手数料0円でプロジェクトを立ち上げられるビジネスモデルにあります。

小松 航大 氏 株式会社ボーダレス・ジャパン 「For Good」事業代表 / WASSHAでのインターンを経て、2022年に株式会社ボーダレス・ジャパンに参画。クラウドファンディングサービス「For Good」の立ち上げに携わり、2023年より事業代表に就任。中東・アフリカ・南米を中心に26カ国を旅した現役バックパッカー。

小松氏:従来のクラウドファンディングでは、企画の掲載のために9パーセントから17パーセント程度の手数料が必要でした。これでは、ただでさえ社会を良くするアクションを起こすのは大変なのに、チャレンジする側に金銭的な負担が発生することになります。費用面が原因となってプロジェクト化することが難しかったり、無事に立ち上げられても手元に残るお金が少ないという状況でした。

社会をより良くしたいと思ってはいても踏み出せずにいた人が、一歩踏み出せるような仕組みを作りたい。これが僕たちのやりたいことでした。挑戦するための負担もできるだけ減らしたいという想いからサービスが始まっています。

平林:新しいことを始める時に、経済的な負担は障壁になりやすいですよね。

小松:そうなんです。For Goodはプロジェクトの実行者をみんなで応援していこうというコンセプトで、実行者ではなく応援してくれる人に小さな負担をお願いする仕組みで運営しています。具体的には、支援時に一人当たり200円のプラットフォーム利用料をお支払いいただいています。プロジェクトに寄付する金額が500円でも100万円でも、For Goodに入ってくるお金は200円です。

小松:一人が100万円を支払うのと、1000人が1000円を支払うのと、金額的には同じ100万円かもしれませんが、関わっている人数が変わってきます。

持続可能なビジネスをしていくには、関わり続ける人を増やすこともとても大事だと思っています。僕たちの思いが現れたビジネスモデルになっています。

明らかに薄利多売のモデルなので、ビジネスを立ち上げた時は「本当に黒字になるのか、継続できるのか」と不安でした。

僕たちは専属のキュレーターが伴走するプロジェクトプランだったとしても、手数料は7%しかいただいていません。クラウドファンディングのサービスは、掲載だけでも一定の手数料が発生することが一般的です。しかし、For Goodでは「挑戦者がまず動ける状態」を優先し、支援体制込みで利用しやすい水準にしています。

平林:それはすごいですね。ユーザーの利用しやすさと事業の成長はどのように両立されていますか。

小松:For Goodはサービスをスタートしてから4年間で、毎年200%、300%成長という形で事業を継続できています。実は今まで1円も広告費をかけたことがないんです。それにも関わらず利用が広がっているのは、本当にありがたいことに口コミで周囲にどんどん広げてくださっているからだと感じています

利用者だけではなく、サービスを使ったことがない方でも、弊社のビジネスモデルや思いを知って周りに紹介してくださいます。

多くの方にコンセプトを共感いただいているというところが、うまくいっている要因だと思っています。

「ローカルゼブラ的ビジネス」を進めるために必要な「自分たちがやる理由」

平林:西部ガスの小川さんからもお話を伺えればと思います。

小川氏(以下敬称略):はい。弊社では以前ソーシャルスタートアップ企業と手を組み、100%植物由来の素材でできたヴィーガンレザーを活用した新規事業に挑戦したことがあります。男性向けの商品を開発し、販売するプロジェクトを立ち上げたんです。クラウドファンディングも行い、そこで最低限の目標は達成しました。ですがその後、西部ガスグループとして事業の位置付けをどうするかが議論になりました。

小川 周太郎 氏 西部ガスホールディングス株式会社 新規事業開発担当 / 2014年、西部ガス株式会社(現西部ガスホールディングス株式会社)に入社。長崎地区でガス機器のセールスプロモーション業務に従事した後、本社人事部門にて主に人材育成やキャリア開発施策、グループ初の社内大学の立ち上げを担当。
2023年4月から事業開発部にてスタートアップとの共創をはじめとする新規事業開発を担当。

小川:今振り返ると「人のライフスタイルや生活に関わる事業だからやってみよう」といった大まかな定義づけになっていたのだと思います。自社のどの立ち位置で、どの戦略と紐付けるかまでは結局明確にできず、事業化には至りませんでした。

ヴィーガンレザーで地球への環境負荷を下げ、社会的価値を創造する、という理由だけでは事業化できない。西部ガスがやる理由を作れないとダメなんだということが改めて分かりました。

この反省を活かし、今は九州初の民間産後ケアホテルに取り組んでいます。これは産後うつという社会課題解決の側面もありますが、顧客接点の創出も目的です。

西部ガスの客層は40代~60代が多く、20~30代とはあまり接点を持てていません。そこで産前・産後のケアサービスによって西部ガスグループのファンになってもらい、最終的にガスや電気、住宅といった他のサービスに繋がっていければと考えています。

自社のビジネスにつながるストーリーを描ければ、社内で事業化がしやすくなります。産後ケアサービスは今実証中ですが、今後どのように事業化していくか議論するフェーズまで進めていけそうです。

「社会にとって良い」ということだけだと、絶対に事業化できません。会社としてやる意義を明確にする必要があると、学びました。

様々なチャレンジの中にある、未来の成功のタネ

三好氏(以下敬称略):タイミーは以前タイミートラベルという事業をしていました。タイミーのサービスリリース直後は福岡、長崎も求人が少ない状態でした。どうやって地域に人を呼ぶかと考えた結果、地域に興味がある若者に一週間程お試し移住をしてもらおうと、タイミートラベルが生まれました。

この取り組みを通じて、地域と若者をつなぐ可能性は確かに感じられました。しかしその後、タイミー自体の業績が伸びていくと、「メイン事業とは別軸で取り組むことが、全体の戦略の中でどう融合していくのか」という疑問が生まれました。事業の原点に立ち返って考える必要が出てきたのです。議論の結果、タイミートラベルは役割を終えることになりました。

三好 幸恵 氏 株式会社タイミー 社長室地方創生グループ 自治体チーム 地域共創ディレクター / 2016年、大学卒業後、商業ディベロッパー、株式会社リクルートを経て、2022年1月に株式会社タイミーに九州エリアのカスタマーサクセスとして入社。2023年より現部署に異動。農業分野の立ち上げやタイミー初の自治体連携に携わり、現在は中四国九州沖縄を担当。

三好氏:ただ社会貢献性が高い事業はしていきたい。そこで、タイミー自体で関係人口の創出を試みていくことになりました。

平林:当初の思いはそのままに、事業の形が変化していったわけですね。

三好:そうです。その後は、東京に住む長野県佐久市出身の学生に対して、地元に働きに来てもらうための取り組みを行いました。長期休みを使って佐久市で働いてもらい、そのまま地元就職につなげることが目的です。タイミーでは地域外から働きに来る人もいるため、うまくマッチングさせられるのではないかと考えていました。

ですが、この取り組みはタイミーのワーカーの特性とは必ずしも一致しませんでした。タイミーの働き手は働く時間や場所を自分で決めたい志向の方が多く、想定したユーザー層とは距離があったんです。

なにか新しいことを始めるときは、一つの出来事で失敗と取らずに「場所や組み合わせが変わればうまくいくかもしれない」と切り替えながらチャレンジするようにしています。

一度の結果だけで結論を出すのではなく、組み合わせによっては成立する場面もあると思うからです。

別の地域との掛け合わせや、他のプレイヤーが利用した場合、あるいは国の補助金制度と組み合わせた場合など、可能性はあると感じています。

企業やプラットフォームを活用し、「ローカルゼブラ的ビジネス」でより良い地域を目指す

平林:最後に「九州」をキーワードに、どのような形でローカルゼブラ的なビジネスが生まれてくると良いのか、メッセージをいただけますか。

小川:ポジショントークになってしまいますが、僕らのような事業会社をうまく使ってほしいです事業会社にはノウハウや人材、資金など多様な資源があります。活用しないともったいない状況です。

起業してイチから始める選択肢もありますが、すでにある程度成長している会社のアセットを使うことで、地域に人やアイデアが降りる機会はさらに増えると思っています。企業の中にいる人間としても、もっと自社の資源をうまく使っていきたいですね。特に九州の地場にいる企業の力をうまく活かしていくのがポイントだと思います。

西部ガスのホームページに「TOMOSHIBI」というオープンイノベーションプラットフォームがあります。一緒に課題解決や新規事業の創出など行っていきたいのでぜひ問い合わせください。

小松:ローカルゼブラやソーシャルビジネスなど、様々なワードが生まれてきています。ただ改めて考えてみると、社会性と経済性の両立はある意味ビジネスの当たり前というか、ビジネスの起点になっていたのではと考えています。

一人でできないことをみんなでするために会社が生まれ、事業によって自分一人だけでなく多くの人を幸せにする。そういう考えのもと、結果的に自分たちの利益にもなるのが企業のそもそもの発端なのではないでしょうか。

小松:「ローカルゼブラ的ビジネス」は新しい概念のように感じますが、ビジネスの根本を改めて見つめ直すだけで良いのかもしれません。

自分の地域を良くしたい、誰かのために何か挑戦したいという思いこそが「ローカルゼブラ」で、社会をより良くするアクションにつながっていくと思います。ぜひ何か一緒にできることがあればと思います。

三好:地域貢献が高いことと経済成長につながることを、事業にどう落とし込むかを日々考えています。本当に難しいです。

タイミーとしては、皆さんのスキルや能力がプラットフォームを通じて地域の方々に役立つ未来をつくっていきたいと考えています。

助けてほしいと思っている事業者はたくさんいます。地域に関わるきっかけを、ぜひタイミーで体験してみてください。それが転じてたくさんの人の働く環境が増え、活躍できる場が増えれば、持続可能な地域を作ることができると思います。

地域で仕事を頑張ろう、地域の貢献をしようとすると、なかなかお金になりづらいこともあると思います。そういう社会の常識を少しずつ崩していきながら、対価をもらって地域の中に貢献できる社会を作っていきたいです。

ぜひ皆さんにはスポットワークを上手に活用いただけたら嬉しいですね。

Editor's Note

編集後記

語りづらいであろう話もしっかりと語ってくださる姿に勇気づけられます。ビジネスはみんなでやるもの。その「みんな」の中の一人として、私は何が出来るのだろう。模索する日々が続いていきます。

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