MIYAZAKI-FUKUOKA
宮崎・福岡
※本レポートは「2030年の九州を語ろう!ONE KYUSHU サミット 宮崎 2024」内のトークセッション「オープンシティとは?宮崎の視点から九州を考えるー2030年の九州」を記事にしています。
地域には多様な背景を持つ人々が暮らしています。その土地で代々家業を承継している人や移住して起業する人、Uターンで故郷へ戻ってきた人など。そういった様々な立場の人々が交流することで、まちづくりの新しいアイディアやビジネスが生まれる社会、それがオープンシティです。
前編では、登壇者がそれぞれの立場で考えるオープンシティのビジョンについて語られました。
後編は、それぞれが抱えているリアルな悩みが打ち明けられ、登壇者同士でさまざまなアドバイスが飛び交います。
石丸修平氏(モデレーター、以下敬称略):宮崎市の宮崎オープンシティ推進協議会(以下、MOC)の取り組みについてお話を聞いてきましたが、北九州市はいかがでしょうか、山本さん。
山本遼太郎氏(以下敬称略):北九州市は政策の1丁目1番地を「経済成長」と決め切りました。人口減少数も福岡県の自治体でトップで、毎年7,000人ずつ減っています。経済が活性化し、市民の経済活動が活発になってこそ人が住めると考えていて。経済成長と人口成長は間違いなくリンクしています。
現在の北九州市内のGDPは3.6〜3.7兆円を行ったり来たりしていますが「4兆円を超える」を目標に、そこに至るまでの道筋をつくっています。第一歩は空港のテコ入れです。北九州市をとりまく関門経済圏をターゲットに、スタートアップから大企業までみんなの目線を合わせようとしています。
清山知憲氏(以下敬称略):先ほど山本さんが、予算会議から参加されているとお話されていました。経済政策について、立案段階に関わっているのでしょうか。それとも具体的にディレクターとして、個別の事業や政策に関わっていらっしゃるんですか。
山本:公約段階では、いろいろな要素をまんべんなく盛り込みますよね。でも、いざ実行に移す時にリソースや投資経費が確保できないとなると、捻出した予算の中で優先順位をつけることが大切になります。
最初は、我々より職員の方が状況を分かっていると思ったので、副市長3人と教育長と局長級以上の50人全員と1on1をやりました。彼らのパーソナルストーリーから、北九州市の何を伸び筋だと考えているのかなど、全員に同じ質問をぶつけました。
その中で、彼らの視座感や成長を期待している分野が少しずつ見えてきました。みんなの気持ちが乗った事業をしたいじゃないですか。やらなきゃいけないことが100、200あったとしても、実際に取り組めることは3つくらいです。
取り組む3つが限りなくセンターピンであり、ドミノ倒しのように効果が波及していくものであるためには、何から手をつけるのかを半年ほどかけてつくりましたね。そうしたものを市長には、前に立って発表できる機会に発言してもらうようにしています。
石丸:最近、北九州市長の記事をよくみますね。表に出られていますね。
山本:経済成長のステップを「知ってもらう、始めてもらう、定着してもらう」という3段階に設定しています。まずは市の露出を増やしていく予定です。企業誘致につなげたいので、できる限り九州の中のメディアではなく、東京に届くメディアを狙っています。
現状は弾が少ないので、劇的な選挙を勝ち抜いた市長を推している段階です。来年からは少しずつほかの取り組みなどにフォーカスしていきたいです。まずは、市を知ってもらうことをファーストステップとして大事にしています。
石丸:行政としてのステップとしては、良い取り組みをされていると思います。一方で、民間企業や地域の人たちとの関係性はいかがでしょうか。
山本:北九州市にはいろんな人たちがいます。様々な背景をもった人たちがいろんなところで紐づいているんです。まちづくりプロジェクトの方たちと、民間企業の方たち同士のこれまでの人間関係もあったりして複雑です。
石丸:立場によって色々とありますよね。山本さんは、特別職ですが公務員の立場なので、より大変な気がします。私は民間側にいるので、柔軟に動きやすいのですが。
山本:福岡市と違う点としては、北九州の大きな企業となると安川電気とTOTOです。「弊社の九州での売上って全体の1%なんです」と言われてしまう。地域マーケットに根差す福岡市の大手企業との違いを感じます。
一方で北九州高専や九州工業大学があり、理系の院から高専までフルスペックで揃っている都市はほかにない。毎年3,000人ほどの新卒ハードウェアエンジニアが卒業しているんです。でも、2,000人は市外に出て行ってしまいます。
せっかく新しい市長になったので、新しいビジョンの元にみんなを結集させていきたいと考えています。
清山:北九州市の民間のプレイヤーがたくさんいるというのは羨ましい悩みだなと思いました。我々も、民間に色々投げかけてはいますが市内の企業からの反応はあまり良くない印象です。もう少し地元で一緒に組む相手を掘り起こしたいと考えています。
公民連携には、ソフト的な取り組みとハード的な取り組みがあります。ハードとしては、福岡市の中央児童館をパークPFIで建てたりなどがあります。宮崎市も都市公園と児童館のセットで何かできないかと考えています。単純に我々が建て替えるのではなく、公民連携をハードで取り組めないかなと。
公立公民館の建替えや市内の温泉施設についても譲渡するにあたってサウンディング調査をしていますが、問いかけに応じてくれる企業が出てこないことが悩みです。私たちから積極的に営業に行く必要を感じ、営業力やそのノウハウも役所側が身につけなければいけない力だと思っています。
市内の動物園では、これまで市役所OBが社長をしていました。現在はフェニックスリゾートの片桐社長に協力してもらい、社長となる人材を送っていただいています。そうすると、動物園が見違えるように変わり面白くなったんです。このように民間の活力を公のフィールドに導入していくことをもっと推進していきたいです。
石丸:清山市長が仰ったように公共事業を民間に移すことは効果があると思います。ただ、行政と民間が合意した大きな方向性の中でそれぞれ活動できる環境がつくれると、もっといいなと思っています。
FDCはそういった環境づくりを意識しています。FDCはアメリカのシアトルが立ち上げた国際地域ベンチマーク協議会(以下、IRBC)の参加をきっかけとしてつくられた組織です。IRBCに参加したことで、世界には官民連携で社会課題を解決している事例がたくさんあることを知りました。
「世界と同じことが福岡市でもできるかもしれない」という大きなストーリーを行政、財界、民間で共有することで、地域の人たちが可能性を感じることができました。みんながそれぞれの立場で挑戦することがオープンシティとしてのまちの在り方だと思います。
清山:「財界も一緒に」とありました。しかし、福岡市は初めから財界と協力できたのでしょうか。高島市長もかなり苦労されていた気がします。
石丸:初めはいろいろありました。ただ、任期を重ねていくと、お互いに理解が進みましたね。首長として活動を続け経済成長も様々な形で可視化できています。結果が見えることは大事ですね。次第に「こういうことがやりたいんです」と、民間から提案をいただけるようになりました。
もう1つ、実はFDCが大きな役割を果たしたと思うのは、行政だけで民間との関係を密につくる必要がないところです。FDCという組織があれば、民間とのつながりを我々がしっかりとカバーできます。
そうすると行政はなすべき市政方針を打ち出すことに集中できます。地域で取り組むべきプロジェクトは、FDCが座組みをつくり、行政との話し合いの場をつくることでバランスを取れました。オープンシティを目指す初期の段階では必要なことだったと思います。
髙田理世氏(以下敬称略):オープンシティを宮崎市が目指しているということを、市民が自覚できるのかということは気になりました。私は福岡市民ですが、住んでいるだけで福岡市がどういうことを目指しているか、いつの間にかわかるようになっています。
まちの目指すビジョンが明確になってくると「自分も福岡で暮らしているし、こういうこともできるかもしれない」と考えられるのではないでしょうか。
宮崎も「こういう挑戦をしている人がいる」という、オープンシティの一部を担う具体的な動きが周知できれば、「実現するとこんなふうに世界が、生活が変わるんだ」と、オープンシティのビジョンが具体的に共有される。そうすると「自分もこんなことできるんじゃないか」というアイディアももっと生まれてくると思っています。
山本:個人的には地域企業から市役所へ出向いただくこともおすすめです。例えば、市の農政課にアグリテック企業の若者を複数人出向させます。プロジェクトが「アグリテックのショールームをつくる」とした場合、行政でケアしなくてはならない農家がどれだけいるかも、彼らに理解してもらえます。
そうすると元々の市職員も少しずつ感化されていきますし、民間の方との接点が生まれます。MOCのような組織があるのであれば、こういった手法をおすすめします。
清山:確かにいろいろな立場の人が混ざることは大事ですよね。
高田:私も今回のONE KYUSYUサミットで、さまざまな立場の人と協力してきました。私も、市役所のみなさんと仕事をするのは不安でした。言語や感覚が違うのではないかと感じたこともあります。
しかし、お互いに理解し合うことができて、まさに今息を揃えてイベントが一緒にできています。ここまでの話の中で「役所が変わる」といったニュアンスの話が多かったかなと思いますが、自分たちが変わるだけではなく、周りの人を頼ることで官民の連携が進んでいくのかなと感じました。
清山:そうですね。宮崎市としても民間と市役所の壁を取り払らい、混ざっていきたいです。九州内の地域の壁も超えて混ざっていけたらと思っています。
高田さんが仰っているように、福岡のように10年以上取り組み続けていると、福岡市のイメージができてきますよね。イノベーションやスタートアップなど、新しいことを応援するまちというのは、福岡市のようにシティブランディングが確立していると思いました。
石丸:そうですね。企業誘致に関しても、どのエリアにどんな業界の人たちが集まることが、まち全体のためになるかといった軸が必要ですよね。計画もなく国際的な金融機関を誘致しても、市に金融街をつくりたいわけではないですよね。
「自分たちのまちをどうしたいのか、どう関わっていきたいのか」と考える時に、まち全体でひとつの軸が共有できていると、それぞれの立場で判断しやすいですよね。軸と異なればやらなくて済みますし「自分たちがどう関われるか」を考えやすくなります。
宮崎市の公民連携の仕組みづくりということは、世間に旗を立てるという意味でも大事だと思っています。今回の場合は、MOCの指針としてローカルスタートアップや食産業の分脈を盛り上げることで、いろんな人たちと連携する意思があることを宣言したことが大事だと思います。
このONE KYUSYUサミットもいろんな人たちが混ざり、それぞれが「自分にとって九州とは何か」を表明して、仲間をつくり自己実現するひとつのプラットフォームになると思っています。みなさんの活動をもっと発信することがより大事だと思いました。
Editor's Note
「行政がやらなきゃいけない」や「民間の方が簡単でしょ」ではなく、同じ未来をめざしてそれぞれが自由に動くことができるまち。実現できたらとても楽しいまちになりそうです。個人の挑戦も応援してくれる仕組み、羨ましいなあと感じます。
DAIKI ODAGIRI
小田切 大輝