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LOCAL LETTER

【前編】1500人の村に年間200万人。世界遺産・白川郷が抱える光と影

FEB. 02

ZENKOKU

拝啓、観光に頼らない、持続可能な地域づくりに関わりたいアナタへ

※本レポートは株式会社WHEREが主催するイベント、ひと・ちいきEXPOでのトークセッション「世界遺産・白川郷のオーバーツーリズムと地域活性化のための新たな酒蔵建設の挑戦」を記事にしています。

地域に根ざし、社会性と経済性の両輪を回す成長企業・変革していく地方自治体と、地域活性を仕事にしたいビジネスパーソンが繋がる場、ひと・ちいきEXPO。 

「人」「事業」「地域」で繋がることを目指すイベントで行われた、「世界遺産・白川郷のオーバーツーリズムと地域活性化のための新たな酒蔵建設の挑戦」というテーマのトークセッションをお届け

トークセッションでは、世界遺産として有名な白川郷が直面している具体的な課題が率直に語られました。

行政資料や表向きの情報だけではなかなか見えてこない、地域の内側にいるからこそ語れる現実や葛藤、そして試行錯誤のプロセス。普段はなかなか聞くことのできない、現場のリアルな声が聞かれる時間となりました。

まずは乾杯から。お酒がつないだ、偶然とは思えない白川村のご縁

新谷氏(モデレーター、以下敬称略):今日進行を務めさせていただきます。パラドックスの新谷でございます。 

世界遺産のイメージが強い白川村ですが、今日はあえて、普段あまり語られない現場のリアルな内情も含めてお話しします。ぜひ最後まで、よろしくお願いいたします。

まず最初に、自己紹介からしていければと思います。

新谷 建人氏 株式会社パラドックス ブランディングディレクター /ブランディングディレクターとして、企業・地域の価値観や「志」を言語化し、ブランド戦略の設計・実践に携わる専門家。理念や未来ビジョンを軸にしたブランディング支援を提供。

渡邉氏(以下敬称略) 私は岐阜県飛騨市から来ました。 有限会社渡辺酒造店の代表を務めております、渡邉と申します。当社は明治創業で、今年で155年目になる酒蔵です。銘柄は「蓬莱(ほうらい)」といいます。

今回、さまざまなご縁がありまして、 飛騨市の隣の自治体である白川村と共同で、白川郷から徒歩3分の場所に新しい酒蔵を建設するプロジェクトをスタートさせました。

実は、 私どものお酒を持ってきております。まずはぜひ、味を知っていただきたく、皆さんと一緒に乾杯から始めさせてください。お持ちしたのは、秘蔵の純米大吟醸です。飛騨の美しい水で仕込んだ一本で、パイナップル系のフルーティーな香りが特徴です。

乾杯の音頭をお願いしていいですか?

渡邉 久憲氏 有限会社渡辺酒造店・代表取締役社長 /岐阜県飛騨市の老舗酒蔵・有限会社渡辺酒造店代表取締役社長。伝統ある日本酒造りを継承しつつ、白川村との酒蔵建築プロジェクトなど地域活性化にも取り組む。

成原氏(以下敬称略)はい。まずは日本酒の匂いを嗅いでみてください。本当にいい香りがするでしょう?僕は渡邉さんのお酒が本当に大好きで。

実際に飲んでみると、この価格でこのクオリティは本当にすごい。正直、最初はボディービルダーみたいで少し怖かったんですが(笑)必死に口説いて、ようやく白川村に蔵を作っていただけることになりました。

それでは自己紹介の前に、皆さんで乾杯したいと思います。

成原 茂氏 岐阜県白川村・村長 /白川村役場入庁後、農林課長・産業課長・教育長などを歴任し、2011年に村長初当選。以降4期にわたり白川村の地域振興と観光・人口対策に取り組む。

会場乾杯!

成原美味しいですね。私は若い頃から日本酒が大好きで。多くの銘柄を飲み比べる中で思ったのは、本当に美味しいお酒や、希少性の高いお酒は、とにかく高いということです。その点、渡邉さんのお酒は、山田錦やいろいろな酒米を使っていて、どれも美味しい。しかも価格が抑えられている。一升4,000円前後で買える有名酒って、全国でもそう多くないと思います。

いきなり本題に入りましたが、まずは自己紹介ですね。私は白川村役場で農林課長、産業課長、教育長を経て、現在村長4期目です。「日本酒は、ワインを超える日が来る」と本気で思っています。最近、日本酒を飲む女性が増えているのも本当に嬉しいですね。

新谷株式会社パラドックスで、ブランディングディレクターをしています新谷です。ブランド戦略やネーミング、コミュニケーション設計を担当しています。

現在は東京で仕事をしていますが、あるとき渡邉さんから偶然お問い合わせをいただきました。僕は飛騨出身で、「白川村に酒蔵を建てる予定がある」というお話を伺った際に、曾祖父が白川村の出身であることをお伝えしました。本当に不思議なご縁だと驚きました。

渡邉このプロジェクトを始めたとき、「酒蔵を造ること自体が目的になってはいけない」と強く思っていました。酒蔵も酒造りもあくまで手段で、本当の目的を明確にしたうえで、白川村の新しいブランディングを始めたいと考えたんです。

そこで外部のブランディング会社を探し、その候補の一社がパラドックスさんでした。提案がとてもユニークで数も多く、「これは渡辺酒造店に合う」と感じてお願いすることに。その後、新谷さんが飛騨出身だと知って驚きました。

世界遺産に選ばれたのは「景色が美しいから」だけではない。村人たちが守り続けてきた「暮らしの村」

新谷:トークセッションの本題の方に入っていければと思います。まず、白川村がどんな場所なのかをお伝えしていきたいと思います。みなさん、三角屋根のビジュアルを見たことがあると思いますが、1995年に「白川郷・五箇山(ごかやま)の合掌造り集落」はユネスコ世界文化遺産に登録をされました。

昔話みたいな風景が未だに残っている場所なのですが、「その景色が美しいから世界遺産なんだ」ということではなくて、それを何百年も前から、村人たちが守り続けてきたことにすごく価値があると。

また、村の大事にされている考え方で結(ゆい)というものがあります。お互いに助け合って、いろんなことを共有しながら生きていく文化がすごく根付いていて、今も続いている。これってすごいことだなと思っていて。このあたりを村長の口から紹介いただけたら。

成原:明治8年に廃藩置県によって白川村が誕生して、今年で150周年です。全国の伝統的な建造物に指定されて50周年、世界文化遺産に登録され30周年。人口はおよそ1,450人、世帯数611という、本当に小さな村です

世界文化遺産として評価された一番の理由は、今も人が暮らし、その生活の中で培われてきた文化があるという点だと思っています。

もう一つは、「結」という仕組みです。合掌造りの屋根替えでは、茅を運ぶ人も含めて、総勢300人くらいが集まる。結というのは、昔は労働力の貸し借りでした田植えも稲刈りも屋根替えも、一軒だけではできないことを、みんなで支え合ってやってきた。合掌造りの家は茅場を持ち、茅も含めて貸し借りしながら生活を成り立たせてきました。

今はその形も少なくなりましたが、そうした暮らしの積み重ねが評価され、白川村は世界遺産に登録されたんだと思っています。

新谷:今回、地域で働くことがこのEXPOのテーマになっています。「助け合わなきゃ生きていけないよね」って言われると、綺麗ごとに聞こえる気がするんですが、労働力の貸し借りをやらないと生きていけないよねっていうのが地域のリアルかなと感じています

それをもうずっと文化としてやり続けてきた村なので、その文脈からも他の地域でも参考にしてもらえることがあるのではと思います。

観光消費額は年間100億円超え。それでも、村は豊かにならない。問い直す“地域の稼ぎ方”

成原:村を語る上でかかせないもう一つは、オーバーツーリズム*のことです。

世界遺産に登録されてから徐々に観光客の数が右肩上がりになっています。コロナで少し減少しましたけど、去年でいうと年間205万人。その半分以上が外国人の方です。

大型バスが一日に100台以上入る日もあって大渋滞しますから、集落の人はコンビニに行けない、病院に行けない、道路という道路が塞がってしまうような状態です。

(*オーバーツーリズム…特定の観光地において、訪問客の著しい増加等が、地域住民の生活や自然環境、景観等に対して受忍限度を超える負の影響をもたらしたり、観光客の満足度を著しく低下させるような状況のこと

 新谷:有名な合掌造りがあって、人もたくさん来ている……数字だけ見ると潤っていそうにも見えますが。

成原:年間200万人の人が来て、観光消費で使っていただくお金は約114億円を超えます。しかし、その大半のお金は県外に流れてしまうのです。

渡邉:白川村にお土産屋さんは多数あるのですが、村独自のお土産がないんですよね。パッケージは合掌造りだけど、中身のクッキーやおせんべいは全て県外産。白川村の名前で胸を張れる名産品が、ほとんどないんですここには課題があると感じました。

新谷:以前、白川村で実施した村民アンケートで、子どもたちに「いつか村に戻ってきたいですか?」と尋ねたことがありました。すると、「戻ってきたい」と答えた子どもは半数以下数字を見たときには、正直、かなり驚かされました。

成原:国勢調査でわかったのが、白川村は三次産業の比率が75パーセント、一次産業と二次産業を合わせても25パーセントに満たない、歪な産業構造です。観光業は土日祝日に休めないため、子どもが休みの日に親が家にいない。親子で過ごす時間を持ちにくい現実があります。

本当は子どもと同じ時間を過ごしながら、白川村の自然や文化、暮らしの良さを伝えていくことが一番大切なんじゃないかと思うんです。ただ、現実にはそれがなかなかできていない。その積み重ねが、「将来、村に戻りたい」と思う子どもが40%にとどまっている理由の一つなのかもしれません。

さらにオーバーツーリズムによる渋滞で、村の日常生活は制限され、子どもたちは外で遊ぶことさえ難しい状況です。だからこそ産業構造を変え、土日祝日に家族で過ごせる働き方をつくり、世界遺産だけではない白川村の魅力を伝えていきたいと考えています。

観光依存からの脱却。白川村の現状を打破するための新たな挑戦

新谷:これまでオーバーツーリズムの話や、将来戻ってきたいと思っている子どもたちが少ないという話で、今の白川村の現状をお伝えしてきました。恐らく白川村だけの話じゃなくて、日本のいろいろな地域が抱えている課題の縮図みたいな感じなのかなと

でも逆に言えば、これだけ観光客が来て、お金が動く可能性があるので、白川村が今までの現状をひっくり返すことができたら、すごく面白いモデルケースになりうるんじゃないかと思っています。

しかも、それを酒蔵がやったとしたら、一つ象徴的な形になるのではないかなという気がしています。

渡邉:なぜ渡辺商店が白川村に酒蔵をつくるのか。その先にあるのは、この村に多様性を受け入れる土壌をつくり、新しい挑戦が生まれる空気をつくることです。そして、女性が活躍できる仕事が増えていく。それをビジョンとしています。

Editor's Note

編集後記

地域活性化の成功例として見ていた白川郷。しかし地域の声を聞くと、観光の裏にある課題や葛藤が見えてきました。外からのイメージだけでなく、暮らしのリアルを丁寧に届けることの大切さを実感しています。

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