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LOCAL LETTER

【後編】白川郷、観光地のその先へ。新たな酒蔵建設の挑戦

FEB. 03

ZENKOKU

拝啓、「ただ見る」だけではなく「関わる」一歩を選択したいアナタへ

※本レポートは株式会社WHEREが主催するイベント、ひと・ちいきEXPOでのトークセッション「世界遺産・白川郷のオーバーツーリズムと地域活性化のための新たな酒蔵建設の挑戦」を記事にしています。

地域に根ざし、社会性と経済性の両輪を回す成長企業・変革していく地方自治体と、地域活性を仕事にしたいビジネスパーソンが繋がる場、ひと・ちいきEXPO。

「人」「事業」「地域」で繋がることを目指すイベントで行われた、「世界遺産・白川郷のオーバーツーリズムと地域活性化のための新たな酒蔵建設の挑戦」をテーマにしたトークセッションをお届けします。

セッションでは、表に出にくい課題や葛藤、そして未来に向けた具体的な選択が、白川郷の現場に根ざした視点から率直に語られました。

ただ訪れる場所としてではなく、「関わり続ける地域」として白川郷を捉え直す視点は、これからの働き方や地域との関わり方を考える人にとって、ひとつの現実的な選択肢として上がってきます。

前編記事では、世界遺産・白川郷のオーバーツーリズムと産業再構築のリアルをお届けしました。後編記事では、「観光に頼らない地域づくり」の白川郷の挑戦と酒蔵についてお伝えしていきます。

なぜ、白川郷に酒蔵を?

新谷氏(以下敬称略):2027年4月に白川村で酒蔵「白川村の蔵」が完成する予定です。改めて、白川村の課題解決への起爆剤として、なぜ酒蔵をつくることになったのでしょうか。

新谷 建人氏 株式会社パラドックス ブランディングディレクター /ブランディングディレクターとして、企業・地域の価値観や「志」を言語化し、ブランド戦略の設計・実践に携わる専門家。理念や未来ビジョンを軸にしたブランディング支援を提供。

渡邉氏(以下敬称略):不均一な観光産業を是正し、多様な仕事を生み出すことが目的です。農業、製造、販売につながる6次産業*をつくり、Iターン・Uターンで村に戻ってくる人たちの職業選択の自由を増やしていきたい考えがあります。

(*6次産業…農林漁業者が生産から加工、販売までを一体的に行うことで、地域資源の付加価値を高め、所得向上と地域活性化を目指す取り組み)

渡邉 久憲氏 有限会社渡辺酒造店・代表取締役社長 /岐阜県飛騨市の老舗酒蔵・有限会社渡辺酒造店代表取締役社長。伝統ある日本酒造りを継承しつつ、白川村との酒蔵建築プロジェクトなど地域活性化にも取り組む。

新谷渡邉社長の中で、こう手応えというか、うまくいきそうなイメージはどれくらいお持ちなのか、伺ってもよろしいでしょうか。

渡邉正直今の時点で、うまくいくという確かなイメージがあるわけではないんです。ですが、白川村に多様化を受け入れる土壌を作ること、新しいチャレンジができる空気は作れると思います

お話をもらったとき、正直迷いました。新しい酒蔵の建設は投資額が大きく、当初10億円を想定していた予算も、結果的には1.5倍以上に膨らむ見込みだったからです。でも、村長の言葉が心に残ったんですよね。

観光は“光を観る”と書く。ところが、白川村はその光を見せきれていない。あなたが白川村の光になってほしいそう言われて、一杯飲まされて(笑)それで、私たちは岐阜県を代表する酒蔵であるという自負もありますし、岐阜県のため、白川村のために尽くす新しい使命というふうに捉えて、このプロジェクトにチャレンジすることになりました。

酒蔵を作ることは目的ではなく、手段

成原氏(以下敬称略)酒蔵を造ること自体が目的になってはいけないと思っています。では目的は何かというと、白川村の新しいブランディングをスタートさせていくことです。

村で生産・加工を行い、マーケットに提供していく。一次・二次・三次産業が絡み合った製品をつくることで、白川村の経済が潤って村の中で循環していく形につなげていきたい。

もう一つ大事にしたいのは、子どもたちへの影響です。酒蔵ができることで、目的を持って学ぶことができる。今は「なんとなく高校へ行って、なんとなく大学へ行って、なんとなく就職する」子も多いですが、酒蔵という存在があれば、学び直しや、別の道に進むきっかけにもなる。

一つのことを学ぶことで、将来の選択肢が増える。それを子どもたちに知ってほしいんです。

この酒蔵は、もちろん事業として必要なものですが、子どもたちにとっては起業や進学、いろんな可能性を考えるための「きっかけ」にもなる。そんな思いもあって、取り組んでいます。

成原 茂氏 岐阜県白川村・村長 /白川村役場入庁後、農林課長・産業課長・教育長などを歴任し、2011年に村長初当選。以降4期にわたり白川村の地域振興と観光・人口対策に取り組む。

新谷キーワードとして出てきた「6次産業化」は、お米をつくり、それを製造して日本酒にし、商品として売っていく、その一連の流れを指しています。

先ほどの「観光業は土日が休めない」という話にもつながりますが、働き方には多様性があって、土日休みたい人もいれば、働きたい人もいる。ただ、今の白川村では、その選択肢が限られてしまっていることが大きな課題だと感じています。

酒蔵という視点で考えると、農業や製造、販売だけでなく、商品企画やグッズづくり、デザインなどの仕事も生まれてくる。実際に、今まさにそうしたことを仕込み始めているところです。

それを村の中で、村にいる人たちで回していけたら、酒蔵は働き方の選択肢を広げる存在になれる個人的には、すごく面白い可能性があると思っています。

白川村からたくさんの乾杯を世界に

渡邉:渡辺酒造店では『Sake is Entertainment!!』というのをビジョンに掲げて、日本酒を“面白く、楽しく”届けることを大切にしています。お客様が喜ぶか、驚くか。そこを徹底的に追求する酒蔵です。

お客様をファンに変えていく取り組みに力を入れています。イベントはその象徴で、毎年3月に開催している蔵まつりでは、吉本さんから芸人さんをお呼びして、お笑いを楽しみながら日本酒を味わっていただいています。ほかにも、酒酵母に感謝して供養する「酵母祭り」という地元の方だけのイベントや、陶芸とお酒の試飲会など、リアルなイベントを数多く行っています。

そして何より、ユニークな商品づくりにも注力しています。名前もユニークで、たとえば一番売れているのが「蔵元の隠し酒」という非売品のお酒。非売品なのに、どうして売っているのかと必ず聞かれますし、「超ドS」という名前のお酒もあります。

ただ、品質への妥協は一切ありません。2012年には世界酒類ランキング第1位を受賞しています。年間では国内外でおよそ58のタイトルを獲得しています。

白川村に新しくつくる酒蔵では、これまでの『蓬莱』を、さらに進化させたお酒をつくるつもりです。正直、今までの倍くらい美味しいものを目指しています。

新谷:このセッションの前半にはシリアスな話も出てきましたが、一方で、渡邉さんご自身や渡辺酒造店のキャラクターはそれとはまったく違う印象がありますよね。そのギャップというか、複数の要素が重なっているところが、とても面白い組み合わせだと感じています。

ブランディングの観点ではどう伝えていくかバランスが難しい部分もありますが、閉鎖的になりがちな村に、見るからに新しい風を吹かせてくれそうな人たちがやってくる。その点はすごく大きいと思います。

渡邉:最初は、世界遺産・白川というブランドを大切にして、少しおとなしめなブランディングがいいのかなと思っていました。でも周りから、「渡邉さんはそうじゃない」「エンタメ性こそ、今の白川村に必要だ」という声をたくさん聞いて、なるほどなと。そこから、ある程度エンタメの要素も注入しています。

成原:「超ドS」という名前を聞いたとき、そんな酒があるのかと驚きました。でも飲むと本当に美味しい。なぜ超ドSかというと、社長から杜氏まで、これほどいじめられた酒はないから。「名前はドSしかない」って決まったそうです。

名前もラベルも面白いし、何より蔵に行くと、蔵人のみなさんが本当に楽しそう。全員が元気に声をかけてくれて、縮こまった感じが全くない。「楽しい蔵だな、ここで造られた酒は美味しいだろうなと思わせてくれる。本当に美味しい日本酒なので、ぜひ一度飲んでほしいです。

新谷酒蔵というと、昔ながらの働き方を想像しがちですが、実は働き方の工夫もかなり進んでいます。最新の機器を使って、力の弱い人でも作業できるようにしたり。そうした知恵の積み重ねが、最終的に味にもつながっていると感じています。

今回のプロジェクトでは白川村から、たくさんの乾杯を世界にという言葉をビジョンとして掲げています。乾杯は、お祝いのときや、何かが始まるときに交わされるもの。そんな乾杯を、白川村から一つずつ増やしていきたい。

その思いを、村民の方や蔵人、議員の方などと、膝を突き合わせるような「本音サミット」で話し合ってきました。その中で出てきたのが、働き方の多様性です。酒蔵ができることで、職種の選択肢が増え、季節によって「農業をする」「酒蔵で働く」といった関わり方ができたりするかもしれない。

今回のプロジェクトのビジョンマップ。白川村の蔵が「楽しさを、醸す」という使命を果たし続けた先の、少し先の未来のビジョンのストーリーを、白川村で暮らす人々や職員、渡辺酒造店の蔵人たちとの対話を通して描いたもの。

また、場所をつくるだけでなく、人の流れを生む起点になることも大切だと考えています。例えば、白水湖のように、驚くほど美しいのにほとんど知られていない場所が村にはたくさんあります。

世界遺産集落だけに人が集中するのではなく、村の中を回遊する流れを生みたい。酒蔵が、その起点になれたら嬉しいですね。また「酒蔵×カフェ」など、地域の方と一緒に新しいビジネスが生まれていく可能性もあると思っています。

また、村には集まりごとが多く、最後はお酒の席になることも少なくないと聞きます。その時間がただの習慣ではなく、美味しいお酒を囲みながら、少し気持ちが前向きになる場になったら、何かが変わるかもしれない。そんな話も出てきました。

いつもの酒の席に、白川村の酒が置かれている光景を思い浮かべると、それだけで少し嬉しくなる。そんな未来を描きながら、今日はここまで、普段あまり外に出していないリアルな話も含めてお伝えしました。開業まではまだ1年以上ありますが、試行錯誤しながら、今まさに取り組んでいる最中です。

「白川村で育った杜氏は、ピカイチの酒を造る」杜氏を育てる酒造り学校の夢

新谷あと少しお時間あるのですが、質問がある方はいらっしゃいますか?

来場者今回、酒蔵で一緒に働く仲間も募集されると伺いました。どのくらいの人数で、どんな体制で運営していく予定なのか、伺ってもよろしいでしょうか。

渡邉酒蔵は2027年4月に開業予定です。酒蔵の中には、酒造りを行う製造部門と、売店があります。

製造スタッフは7名を想定しています。それから、売店・庶務・いわゆるPR担当で2名。この9名を基本のスタッフチームとして考えています。加えて、白川村役場では、酒米の生産や米のブランド化を一緒に考えてくれる地域おこし協力隊を2名募集しています。

地域の文化や観光を大切にしてきた村づくりを考えると、大規模に人を呼ぶやり方は、どうしても合わない。だから小さくても、3人、5人、10人と、少しずつ雇用を生み出していくことが大事だと思っています。

来場者今後、酒蔵を起点にした次の展開についても、何か考えられていますか。

渡邉将来的には、酒造り学校を白川村につくりたいとも考えています。酒造り学校を卒業して、渡辺酒造店で白川村に勤めるのもいいし、全国の酒蔵で杜氏として働くのもいい。

「白川村で育った杜氏は、ピカイチの酒を造る」そんな杜氏を輩出する村にしたいんです。

 

<株式会社パラドックス・プロフィール>

「志の実現に貢献する」をミッションに、企業や人が大事にする価値観やあり方を深く洞察し、世の中に提供している使命(=志)を言語化・視覚化。その企業や人にしか語ることのできない“独自のストーリー”を軸にしたブランディングを行い、あらゆる人々がもっと誇りを持って生きられる社会の実現を目指す。HP:https://prdx.co.jp/

Editor's Note

編集後記

白川郷で働きながら、新しい未来をつくっていく担い手が、募集されています。「知る」「見る」だけで終わらせず、「関わる」「実際に働いてみる」という選択肢へ。
この場所で生きる未来が少しでもリアルに感じられたなら、ぜひ一歩踏み出してみてください。





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