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【公務員特集】奈良県庁・福野博昭氏が語る、公務員として働き続ける理由とは

SEP. 13

NARA

前略
新しい挑戦をするための「勇気」が欲しいあなたへ

1960年生まれの58歳。奈良県奈良市に生まれた福野博昭さんは、高校卒業後奈良県職員として就職。県の職員であるにも関わらず、常に様々な地域へ足を運び動きまわり、人と人を繋いでいる。

取材を始めるとすぐに「自分のことする時間なくて、昨日久しぶりに時間ができたから家の塀作ろう思ってめっちゃ頑張ったんよ。今度見に来てやあ。」と話す彼。今回は、平日も休日も関係なくアグレッシブルに走り続ける生き方を取材しました。

写真左:福野博昭さん
写真左:福野博昭さん

プロフィール
福野 博昭(Fukuno Hiroaki)
奈良県 地域振興部 次長
奈良市出身。奈良県職員。「ならの魅力創造課」「南部東部振興課」などを経て、現在は奈良県地域振興部次長として、奈良県の南部と東部に広がる自然環境の豊かなエリアである「奥大和(おくやまと)」地域の振興に取り組んでいる。他に類を見ない活動をする公務員として、常にあちこち動き回りながら人と人をつないでいる。面白い!と思ったことは、すぐに実現させるスピードとプロデュース力を発揮。

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大学に通いたくて就職をした

サッカー 一筋の高校生。高校卒業後は多くの人が大学に進学していたこともあり、自分も大学に進学するものだと思ってた。大学行って、サッカーのクラブに入って、自分なりには計画していたつもり。この計画が崩れたのは父親の一言だった。

「働き、就職や。」

驚いた。が、仕方ない。それならばと中学生の頃からバイトをしていた魚屋に就職しようと思った。すぐにこの計画も崩れる。親父に勧められたのは、親父の異母兄弟がやっていた大きな薬屋。心配した母親に勧められたのは、知り合いがやっていた服屋。

「自分の将来くらい自分で決めさせてくれ!」

それが本心だった。「大学に行きたい」これも本心だったと思う。それでも大学に行けないのなら、高校に行く意味もないかも。そう少し諦めていた時、たまたま新聞で警察と県庁で仕事を募集している記事を見た。早速、近くの交番にいる知り合いのお巡りさんに話を聞いてみると、警察官になったら早引きして大学に行くことができることを知った。

「警察官しかない!」そんな想いで、警察官を受けるために奈良県庁に資料をもらいに行くと、たまたま隣に奈良県庁の資料もあったから、一緒に持って帰ってきて試験を受けた。どちらも一次の筆記試験を通過し、二次の面接の時に聞かれた「なぜ希望したのか?」という質問に「大学に行きたいからです。行けますか?」と答えると、警察官でも県庁職員でも大学に通えることを教えてもらった。

見事奈良県庁に合格し、一番家から近くて、一番学費が安い大学の夜間に通った。県庁を16:00過ぎに帰らせてもらって、18:00から授業を受けるといった生活。大変ではなかったといえば嘘になるが、とにかく大学生活は楽しかった。

一番面白かった仕事は「ゴミ拾い」と「トイレ掃除」

楽しかったのは決して大学生活だけではない。当初県庁の仕事は、大学生活が終了する4年で辞めようと思っていた。でも、県庁の仕事もとにかく面白かった。最初に就いたのは税金関係の仕事で不動産の金融トラブル対応をやっていた。まだ19歳の自分がバリバリにビジネスをやっているおじさんたち相手に仕事をする環境はとにかく刺激的で面白かった。

その次に就いたのは、奈良公園の管理の仕事。ゴミ拾いやトイレ掃除がメインの誰もやりたがらない仕事だった。最初は「飛ばされた」と思ったが、今振り返ってもこの時の仕事が一番面白かったかもしれない。

仕事に就いて最初の月曜日、朝一番で電話が鳴る。奈良公園にゴミが散乱しているからなんとかしてくれという電話だった。奈良公園には計220本のゴミ箱があり、観光客が捨てたゴミを鹿が引っ張り出し、ばら撒くために公園にゴミが散乱するという構図。

それぞれゴミ拾いの担当エリアが決まっており、彼も担当エリアのゴミを拾う。毎週かかってくる電話。3回目のゴミ拾いに行った時、ゴミが散乱しない方法を考えていた彼は思い切った行動に出る。なんと(内緒で)自分の担当エリアのゴミ箱を3本抜いて帰ったのだ。

次の月曜日、いつものように奈良公園に訪れる。驚いた。自分の担当エリアには、ほとんどゴミが落ちていないのだ。「これはいけるかもしれない」そう思った彼は、次は50本のゴミ箱を抜いて帰る。すると、次の月曜日公園はますます綺麗になっていた。

「よし!」と思い、220本あったゴミ箱のうち200本のゴミ箱を抜いて帰る。この奈良公園でゴミ箱を設置しないことをメディアが報道したことにより、全国の公園がゴミ箱設置について考え直す動きが生まれていった。

ゴミのあとは、公園のトイレを綺麗にしたくなった。当時(今から30年以上前)の公園のトイレといえば、微妙な水洗であることに加えて、紙も常時設置されていないから変なものを流されてすぐに詰まるという、とにかく汚い場所だった。

奈良公園にある14箇所のトイレ改修に関わり、どうやったらトイレ掃除や管理がしやすいトイレになるかを考えた。公衆トイレは寸法等が国の法律で決まっていて、当時は「内開き、開口幅90cm」が基本。

だが、県の職員の中にウエスト110cmの人がいる。開口幅90cmでは、ウエスト110cmの人はトイレに入ることができない。だから開口幅はもっと広くなくてはならない。洋式トイレやウォシュレットを設置したら汚れにくいし、掃除も簡単なのではと思って、こちらも提案し、全国の公衆トイレが見直されるきっかけをつくった。

他にも大規模開発の仕事では、150億円プロジェクトのジャッジをした。ビルメンテナンスの仕事では、1割でも難しいと言われていたゴミ削減を飲み屋で知り合ったおじちゃんに、再生紙として買い取ってもらえることになり、6割削減するどころか収益まで生み出した。

奈良県庁としてではなく、もっと大きな視点で良いことが何でもできることが本当に楽しかった。まだ誰もやったことのない取り組みをやることはとても楽しかったし、いろんなことに挑戦できたのは、いつだって彼を信じて応援してくれる上司や先輩がいたからだった。

いつまでも「素人」でいる

何を見ても「なんで?」って疑問を持つこと、感覚を大事にしている。「これってほんまにみんな楽しいの?」「おもろいの?」意識しないとだんだん感覚がわからなくなってきてしまう。

3歳の子どもと1日関わってみるのがいい。きっと3歳の子どもはあなたにたくさん「なんで?」をぶつけてくるから。いつまでも「素人」で居続けることが、疑問を持ち続けるコツなのかもしれない。

そもそも細かいことが気になる性格でもある。だから公衆トイレの時だって、内開きで開口幅は何センチとか、ペーパーフォルダーの位置を気にかけていた。だってたまに変なところにペーパーフォルダーが設置されている場所あるやん。(笑)「何も試さずに決めたやろ!」みたいなね。

なんでもやってみて感じることがある。ブレストしながら、喋らなきゃわからないこともたくさんある。もしかしたら中には、言いにくいこともあるかもしれないけど、言わなきゃ前には進まない。

黙っておくことが美しいわけでもないし、白黒はっきりさせることが必ずしも正しいわけでもない。どっちも大切なことだと思う。だからこそ筋道だけは大切にして、後の基本的な考えは荒くても大丈夫だと思っている。筋道さえしっかりしておけば、多少ブレても大丈夫。

仕事で10割の成功を求めるのはしんどい。プロ野球で10割求められたらやばいし、イチローだって4割。10割を出そうとするからみんな辛くなってくる。とにかくやってみて、みんなに批判を受けて、失敗したなと思う時もあるけれど、人間は勝手な生き物だから、最後には自分の成功しか覚えてないもの。

サッカーは失敗のスポーツとも言われていて、一試合に多くの失敗をするスポーツなんだけど、今や成功体験しか覚えてないからね。失敗を気にしてはいけないんだよ。

「遠山の金さん」みたいになりたい

まだ誰も成し遂げていないことを成し遂げることが、楽しい。誰もやってないことをやったら、歴史を塗り替えたようでかっこいいと思うから。

彼の原動力は「遠山の金さん」。金さんは、奉行所で公務員として働いている傍ら、普段は庶民として暮らしていて、その中で見つけた悪い奴らをやっつける正義の味方。そんな金さんみたいにはなれないけれど、でもなりたいと思っている。

何事も楽しくやっていきたい。「あれやりたい」「これやりたい」と言いながら、中にはやっていないこともある。あまり「これをやる!」と決めてやるのではなく、やっていく中でダメならやらないこともある。まずは自分が一番に楽しんでやっていくことが大切。

無駄なことはやめたらいい。合理的なことだけをやるのは違うけれど、シンプルにみんなの喜ぶことを追求すればいい。バブルの時は、正直なんでこんなに給料が安いんだろうと思った時期もあった。でも途中で気づいたのは、県庁の利益はお金じゃなくて、みんなが喜んでもらえるかどうかだということ。

村のおばあちゃんが喜んでくれたら嬉しい。自分のオカンには照れくさくて優しくできなくても、よそのオカンにだったら優しくできる。県庁の目的は利益ではなく、誰かに喜んでもらうこと。民間の目的は利益を追求して、かつ喜んでもらうこと。だからこそ両者の境目がもっと曖昧に重なり合って、一緒にやることが増えていったら面白いとも思っている。

県庁と民間がお互いのことを理解して、歩み寄らなければいいものはできないと思う。例えば、地域で旅行サービスの特集を作る時、彼は企画のブレストから話に参加する。写真やテキスト一つ一つにこだわりを持つ。これがものすごく面白い。

頭や手足を動かしながら、実験する中で進めていくことが大切。だからこそ、何かを決めてから発注するのではなく、一緒に最適な案を模索しながら進めていくことが大切なんだと思っている。

ちょっとずつつやってみたらいいんよ。だまってちょっとやって様子をみる。「これいけそう」だと思ったら上司に報告するねん。これ怒られるやつか。(笑)
福野 博昭 奈良県 地域振興部 次長

写真左:福野博昭さん

最後に、今もっとも彼が力を入れているプロジェクトを聞くと「OKUYAMATO WHOLE LIFE Department store」と答えてくれた彼。

地域で頑張っているクリエイターやデザイナーの作品を都心や海外に持っていくのではなく、地域にお店を作ったら人はくるのか?そんな疑問から立ち上げた昔の小洒落た百貨店みたいな場所。

小さくてもいいから、街の人が目指す場所として、どんな店舗で、どんなデザインがいいかを0から考えた。奥さんとIKEAに行って、どんな商品の見せ方がいいのかを研究した。そして、商品そのものをただ並べるのではなく、暮らしの一部を切り取ることで商品を見せることを大切にした「OKUYAMATO WHOLE LIFE Department store」が出来上がったのだ。

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すでにジャカルタで「OKUYAMATO WHOLE LIFE Department store」のポップアップストアをオープンさせることが決まっていたり、他にもデザインキャンプや音楽祭、柔道大会など、今も各地を動き回りながら様々な企画を作っている彼。一度彼を知ってしまったら、きっと今後も彼から目が離せなくなるだろう。

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