デジタルノマド
リモートワークの普及により、場所に捕らわれずに働くことができるワークスタイルの「デジタルノマド」が注目されている現代。
前編では、ワーケーションを数多く経験してきた人たちが考える、海外から見た日本の印象や長崎の魅力について討論する様子をお届けしました。
今回は、オンラインイベント『長崎・新たな暮らし方会議第6回勉強会〜ワーケーション海外事情〜』よりパネルディスカッション「長崎はデジタルノマドにとって魅力的な場所になりえるか?」のレポート後編として「長崎県の魅力」をお届けします。
■登壇者■
大瀬良:朱さんも長崎に長くいてくださいましたよね。長崎の海外との違いや面白さはなんでしょうか。
朱:一番いいなと思ったのは、すごく多様性があることです。歴史としても、出島として日本の窓口になって海外の人たちを受け入れてきたことから海外の雰囲気もありますし、いろんな人たちが訪れて風と土が混ざり合う空気感がすごく好きです。
世界でデジタルノマドにすごく人気な国は、「オープンさ・多様性がある」という特徴があるんです。
例えば、アルゼンチンのブエノスアイレスや、南アフリカのケープタウンとか、スペインのカナリア諸島とか。全部いろんな人たちをぎゅっと集めた多様的な場所なので、そういう意味では、長崎はすでに多様性を実現しています。
そこにさらに長崎に海外のノマドたちが来ることになれば「人種のるつぼ(多種多様な民族が混在して暮らしている都市、またはその状態を表す言葉)」として、多様性を表現できる魅力的な場所になると思います。
大瀬良:まるで準備していたように、良い点を上げていただいてありがとうございます。(笑)
私も、長崎には大きな可能性があるなと感じています。松下さんは、国内でもいろんなところを回られてると思うんですが、国内でそういった多様性のある環境、あるいは制度・仕組みがある、もしくは施設といったソフト面、ハード面という意味で、海外のデジタルノマドを受け入れる土壌が進んでいる場所はどこでしょうか。
松下:今この瞬間に日本国内で「結構デジタルノマドが来てる!」っていうところは、正直まだないです。
ただ、観光で長期間滞在できそうなポテンシャルがあって、それをデジタルノマド的に変えられるんじゃないかとか、伸びしろが高いと思う場所はいくつかありますね。
1つは、奈良です。大阪や京都に電車1本で行けるし、伊勢神宮といった宗教的な文化にも触れられるので、いいかなと。
ほかには沖縄と北海道。あとは瀬戸内、しまなみ海道とか。自転車って結構大きなコンテンツで、ヨガとかサーフィンのようにサイクリングが趣味の方が結構いらっしゃるんですよね。
あとは軍艦島(端島)のような波が高いと行けない場所みたいに「2、3日じゃいけない可能性があるけど、1週間や1カ月ぐらい行ったらちょうどいいな」というアクティビティがある場所は強いと思います。
例えば、スペインのタリバンは、サーフィンでいい風や波が来るまで待ってるだけの期間があると、生活にも入り込めるし、ダメだったから今日はミートアップして地域としゃべろうみたいにできます。
大瀬良:移住とかワーケーションの企画で僕らがやったことに「長崎友輪家」(ながさきゆうりんち)があるんですが、本イベントを主催している『長崎・新たな暮らし方会議』がコミュニティを作ったんです。
往来のワーケーション企画は2泊3日なので、地域のいいとこずくめみたいになって、いつ何時から何時までは仕事時間、何時から何時まではワーケーション時間とか言われても「いやその時間にちょうど打ち合わせを入れられるわけでもないし」となるんです。
僕らは最初の企画としていろんな日程をバラバラにわける仕掛けをつくって「長崎に1週間来てください」というワーケーション を企画したんです。ゆっくり長崎の暮らしを感じてもらう内容にしたんですが、その企画に通じるものがありますね。
松下:とてもいいですね、そのイベント。坂道が多いというのも「めっちゃいいな」と思ってて、10年住むってなると結構大変だなと思いますけど、一カ月ならできそうだなと思いますよね。こういう「課題だと思ってても活かせるもの」は地域にたくさん眠ってると思いますし、デジタルノマド的な尺度で行くとアリだなと感じます。
大瀬良:西洋の方って結構歩くのが好きな人が多いんですよね。この街から1時間ぐらい歩いて行ったとか聞くので。ちなみに、今日本でデジタルノマドリストに人気な場所1位は、沖縄なんですよね。やはりサーフィンが楽しめるビーチがあると強いのかなと。
大瀬良:それ以外だと、東京、大阪、京都ぐらいですね。日本人みんなが知っている観光地なので、ここはインバウンドと同じレベル感かなと思うんですよね。
そして、面白いのがこの下に我らが長崎県の対馬が9位に入ってること。結構びっくりすると思うんですけど、これ何故かっていうと、プレイステーションのゲームで『Ghost of Tsushima(ゴーストオブツシマ)』というものがあって、それが大流行して、モデルとなった対島が注目を集めたんですよね。
エンジニアの中には、ビデオゲームが大好きな方々もたくさんいるので、そこから対馬に行きたいというニーズが生まれて、「対馬がどんなところか知らないけれど、あのゲームの舞台を楽しみたい」という注目の集め方でランキングに入っているんです。
長崎の離島だと日本の端っこで移動が大変というイメージはありますけど、遠い海外から来る人からしたら、マデイラ諸島みたいなところまで世界中から人が集まるわけだから小さな問題でしかなくて。Tipsを活かしながら体制を整えていくのが良いのではないかなと思います。
松下:世界から見ると中華街つながりで、横浜とか神戸とかに行く人がいるし、それと同じように誰が来ても個人でルーツを発見できる構造になっていますよね。それが長崎はすごいなと思います。
大瀬良:いろんな文化が混じってるので、長崎だけで一つの国と言ってもいいぐらい多様な文化があって、多様性を感じやすいポテンシャルはあるのかなと僕自身も思っています。
大瀬良:インバウンドの文脈では、長崎はどういうところが人気で誰に刺さってるんでしょうか。
古賀:距離的な近さからいうと、やはりアジアの方、台湾とか韓国からたくさん来てるように思います。ただ、九州の中で見ると他の県と比べて、長崎は欧米系の方が来てる割合は高いと感じます。
大瀬良:では、これからは西洋の方にマーケティングを強めていく感じですかね。
古賀:そうですね。我々としても、狙っている国としてはアジアになりますが、やはり長崎のキリストの歴史は他の国にはない日本ならではの歴史だと思いますので、そういったところもフックにして、広げていけたらと思います。
我々DMOとしては長崎市観光戦略の中で、「暮らしのそばに、ほら世界。」というコンセプトがあります。長崎は中国や西洋の歴史をはじめ、本当にいろんな国の影響を受けていて重層的な歴史を持つ場所なので、それを外国の方に対してストーリー立てて伝えていくことで、他の日本の場所とは違うプロモーションができるのではと考えています。
大瀬良:「これからどんどん日本にデジタルノマドを呼べばいいのではないか」という雰囲気の中で、デジタルノマドの人々がどれくらい日本にいたい、予算をかけたいと思ってくれているのか。朱さんは海外のデジタルノマドへの取材を通して、どんな印象を持たれていますか。
朱:期間に関してはやはり「ちょっと遠いから1回行ったら長期で滞在したい」というノマドがすごく多くて。
パスポートのビザ状況がありますが、「一度行ったら最低1カ月、最長なら上限である90日すべて使っていたい」という人がすごくたくさんいますね。
大瀬良:その場合、同じ場所にずっと3カ月いたいっていう感じなんですかね?
朱:いや、動いていないと息が詰まっちゃう人たちなので(笑)どちらかというと、1カ月ごとに都市を変えていくイメージですかね。例えば拠点を京都や大阪、奈良あたりに置くのであれば、そこから広島や福岡に行くとか、JRや海外の方しか使えない新幹線の割引を使って遠出する感じです。
これをロードトリップっていうんですけど、皆さん仕事しながら旅をするので「仕事がないこの1週間の空白を遠出に使う」みたいなイメージ。長崎だったら、福岡とか他の九州エリアにも行くみたいな。
この動きは経済的にもすごく潤うことはイメージできるかと思うんですが、具体的な予算感としては、45万円程度ですかね。
例えば1カ月コリビング(一緒に共同生活をして一緒にイベントに行くもの)の参加費もだいたい相場が3,000ドル(日本円で45万円程)くらい。
45万円をひと月払えるデジタルノマドの人達となると、欧米の会社に勤めていてマンハッタンで仕事してても月々45万円以上かかるので、それだったら窮屈なマンハッタンで仕事をするよりも、マデイラ島に行って、目の前に海や山があってハイキングができる場所で45万円払う方が嬉しいと感じる人がいると思います。
あとデジタルノマドの方は、年収が1,000万超えでかつ、できれば自分のお気に入りのところに長期で滞在したいという人たちが多いんです。なのでそういう人たちを狙っていくのもすごくいいんじゃないかなと思います。
大瀬良:日本人の感覚からすれば、1カ月45万円って少し高いなと感じると思います.。これは食費とかも込みなんですかね。
朱:食費は一部込みです。でも、これは先ほどもおっしゃってたコミュニティに対して付加価値をどれぐらい払いたいと思う人がいるかだと思うんですよね。
例えば自分一人で新しい国に行くってなった時に、その国のインターネット環境とか、どこに住んだら治安がいいのかとか、友だちをまたゼロから作ることに疲れたり、不安を感じたりする人にとって「じゃあプラスで10万20万円払うことで、この不安や悩みを全て解消できます」というサービスはすごく喜ばれるんですよ。ここが日本の感覚とは、ちょっと違うところなのかなと思います。
大瀬良:40万円以上払ってくださる方々が来るというのは大きなことですし、しかも1カ月ですからね。南アフリカだと一度に250人の方々が一つの町に集まって、そこで1カ月暮らしていることを考えると、地域に対する経済効果のポテンシャルはかなりあるんじゃないかなと感じます。
松下:今の観光業だけじゃないところにお金が落ちるのは大きいと思うんですよね。キッチンを使ってみんなで何か作ろうかとなれば、地元のスーパーや魚屋さんなどで買い出しをするので。
そこで観光としての経験じゃなくて、そこに住んでる人の経験ができるのはいいなと思います。今はすごく円安なので「10ドル出してこんな量の皿うどんが来るのか」「アメリカだともうこれ50ドルだよ」みたいな経験ができると、それはすごく魅力だし、いろんな食べ歩きができます。
そういうところで地元のいわゆる観光じゃない、いろんなところに1カ月お金が落ちていく。これは地域全体の活性化にも繋がるのではないかなと感じます。これだけの経済効果がある一方で、今までのノマドはバックパッカーのイメージが強いので、そうではないことも伝えていかなくてはいけませんよね。
大瀬良:お金があってちゃんとした暮らしを提供してほしい人に対して、提供できるサービスが今ないのは、ちょっと日本が遅れてるところかもしれません。
あとは、欧米では1人でご飯を食べる文化があまりないので、コミュニティで一緒にご飯を食べてあげるというサービスだけでも実はすごい喜んでくれたりしますもんね。このトークセッションを聞いている長崎の誰かが「そのサービスやります!」っていったらすぐできそうな気がしますね。
松下:日本で当たり前だと思ってる一人で食べることが、実は一つのエンターテインメントになるんですよね。回転寿司に一人でちょっとドキドキしながら行って、「できるのかな?」って面白いですよね。
大瀬良:デジタルノマドに限らず、長崎が多様な文化を受け入れてきた歴史がある上で、これから長崎市として今からやっていきたいことや、まず1歩目として何をお考えでしょうか。
古賀:やはり長崎市は21世紀の交流都市ということで、外から来る方と地元の方が交流をして、長崎がその選ばれ続ける町になるように貢献していきたいなと考えています。
地元の皆さんは、すごくやる気がある方たちが多くて、いろんな取り組みしているので、それこそ昔いろんな異文化を受けて共生してきた長崎が現代においても新しい文化であるデジタルノマドを歓迎してプラスに受け入れていければいいのではないかと思います。
オンラインイベント『長崎・新たな暮らし方会議第6回勉強会〜ワーケーション海外事情〜』のよりレポートをお届けしました。
デジタルノマドの中でも、行きたい国No.1として人気の日本。しかし物価や、物理的距離、時差といった問題で、まだまだ来訪者は少ないのが現状です。
このハードルを越えることができれば、経済的効果や、更なる異文化交流の発展が見込まれます。
デジタルノマドの聖地を目指し、長崎の挑戦は続いていきそうです。
Editor's Note
デジタルノマドの行先として注目をされながらも、物理的距離が問題となり、流れに乗り遅れている日本。
そんな日本が、経済難で悩んでいる地方の経済活性化と、デジタルノマドのワーケーション先として誘致という、win-winな状態を作ることができると、大きな可能性を感じたセッションでした。
これからの流れに乗り遅れないように、目まぐるしく変わるデジタルノマドの情報を追っていこうと思います。
YUYA ASUNARO
翌檜 佑哉