GUNMA
群馬
かかわるすべての人を笑顔にする。
そんなビジネス、しょせんは夢物語だと思いますか?
物語の舞台は、群馬県みなかみ町。「関東の水瓶」と称されるほど自然に恵まれたこのまちで、地域にかかわる人々の豊かなくらしをつくるため、ローカルビジネスに取り組んでいる方がいます。
株式会社plower(プラウアー)代表、茶屋 尚輝(ちゃや なおき)さん。
無人駅直結のアウトドアホテル、遊休資産を活⽤した温泉宿、駅ナカコーヒースタンドなどを運営しています。
「かかわる人が多いほうがおもしろい。安全じゃなくても、そっちを選びたいんです」
そう語る茶屋さんは、地域の人・お客さん・スタッフ、地域にかかわる多くの人たちと、どのように関係をつくり、どんな想いで地域活性に取り組んでいるのでしょうか。
ローカルビジネスを成功に導き、かかわる人々に喜びを届ける、その取り組みやマインドに迫ります。
株式会社plowerは、アウトドアフィールドで地域資産を活用したローカルビジネスを手がける株式会社VILLAGE INCの子会社として、2023年12月に設立されました。
現在はみなかみ町で、3つの施設を運営しています。
無人駅である土合駅を活用したアウトドアホテル「DOAI VILLAGE」、町有の温泉施設をリニューアルした温泉宿「さなざわ㞢テラス」、そしてJR上越新幹線上毛高原駅構内のコーヒースタンド「イヌワシストア」です。
みなかみ町に根付いた事業を行う茶屋さん。しかし、もともと地域活性に関心があったわけではありません。
現在の仕事をする前は、建築設計の仕事をしていました。建築の道に進んだ背景には、中学生の頃から続けていたバスケットボールのチームメイトとの思い出が影響しているといいます。
「練習のあと、メンバーをうちに呼んで、一緒にごはんを食べたりしてたんです。みんなをもてなしたり、みんなで何かをするのがすごく好きだったので、将来は人が集まる場をつくる仕事がしたいなと思っていました」
そうして建築の専門学校を卒業し、入社したのは駅や商業施設などの大規模な建築物をつくる設計事務所。あたたかな場をつくるという、思い描いた「設計」とは真逆の仕事でした。
「これでは自分が作った空間に誰が過ごしていて、どうやって笑っているかを見れないなと思って、転職を考えはじめました。もう少しコンパクトで、自分の手がふれられるようなサービスがしたいなと」
自分の手が届くような、人の喜ぶ顔が見られる場づくりがしたい。そう考えていたとき、茶屋さんに転機が訪れます。
「友人と一緒に、西伊豆にある株式会社VILLAGE INCのキャンプ場に泊まりに行ったんです。そこで、VILLAGE INC.代表の橋村のサービスを受けました。そのとき、人が集まる場をつくるのに建物はいらないと気づいたんです。人がいれば、空間は自然と生まれるものなんだなと」
さらに、アテンドしてくれた橋村さんの人柄にも惹かれたといいます。
「漫画『ONE PIECE』主人公のルフィみたいに、人をわくわくさせる魅力があって。この人と働いたらおもしろいことができるかもという気持ちになり、VILLAGE INC.への転職を決めました」
それから10年ほど、VILLAGE INC.の新拠点の立ち上げやマネジメントなどを行った茶屋さん。2023年には、みなかみ町の事業に注力すべく株式会社plowerを設立。新たな一歩を踏み出しました。
茶屋さんは、みなかみ町や群馬県の出身ではなく、仕事でかかわるまで縁がなかったそう。いわゆる田舎と呼ばれる地域において、地域外から来た「よそ者」が、地域の人と関係性を築くのは簡単なことではありません。
それでも、これまでの道のりは「順調だった」という茶屋さん。その理由をこう語ります。
「人に恵まれてますね。会社のスタッフもそうだし、地域の人たちにも助けてもらって進んでいます。
うちはサービスを自社だけで完結させず、地域の事業者さんも積極的に巻き込むようにしていて。仕事をお願いしていくうちに、だんだん関係性ができていきました」
サービスを自社で完結させるほうが、利益は大きくなるはず。なぜ、地域の人にも仕事をお願いするのでしょうか。
「そのほうがおもしろい、というのが理由のひとつです。自社だけで仕事を回すほうが安全なんですけどね。でも、かかわる人が多い方が、いい意味で想定外のことがおこったり、先々にいい影響をもたらすと思っているので。
地域の事業者さんにも、茶屋の会社と一緒にやったら、売り上げがもっと上がるようになったとか、新しい仕事が生まれたとか、そうなってくれたらうれしいなと。地域で関わってくれる人に対して、パスできる動きをとりたいなと思っています」
地域事業者を巻き込むことで、まち全体を盛り上げることをめざす茶屋さん。
そのために大切にしていることは、「まずは自分の会社のスタッフのくらしを豊かにすること」だといいます。
「地方って、地域内のどこに行っても知ってる人に会うので、仕事とプライベートを切り離しにくいんですよね。なので、仕事がちゃんと充実した豊かな状態をつくることで、仕事以外のときにも、地域の人に『このあいだはありがとう』って言ってもらえるようにしてあげたいなと。
そうやって、くらし自体が豊かになると、仕事もさらに充実すると思うので」
何よりもスタッフを大切に想う、経営者の鑑のような茶屋さん。しかし、株式会社plowerの代表就任前には、親会社の株式会社VILLAGE INC代表の橋村さんから「叱られた」とのこと。
「正直、代表になったのは、僕が望んだわけではなかったんですね。『みなかみ事業を子会社化するから、その代表になるように』と橋村から伝えられて。「やることは特に変わらないので、代表になるのも大丈夫です」と答えたら『いや、やることは変わるんだぞ』と」
「スタッフの人生を預かっている」という経営者の立場。その意識を強く持ったことで、スタッフへの想いや接し方が変わったといいます。
茶屋さんが日々心がけているのは、コミュニケーション。特に、自分の考えをスタッフにも理解してもらえるよう工夫しているといいます。
「何かをするとき、『代表に言われたから』ではなく『代表は言ってなかったけど、このほうがお客さんが喜ぶと思ってやりました』と、お客さんのことを考えて行動してほしいとよく伝えています。結局、目的に対して何の手段を選ぶかが大切なので」
例えば、カフェでコーヒーを提供するときも、「その1杯でいかに儲けられるかではなく、その先に何をめざすかをイメージしてほしい」とスタッフに伝えているといいます。
「『おいしい、また来たい』って思ってもらうとか、『帰ったら家でも淹れてみよう』って思ってもらうとか。お客さんの人生がちょっと変わってくれたらいいなと思って渡すのと、何も考えないのとでは、感じ方が違うと思うので。
お客さんは、そうしたスタッフのふるまいから『すごく愛がこもってるんだな』と感じると、ちょこっと感動したりすると思うんですよね」
事業を続けるなかで、いちばんうれしいことは「お客さんが喜んでくれること」だと、茶屋さんは笑みをこぼします。
「僕らは新しくつくるというよりは、既存のものに手を入れる仕事が多いんですね。なので『久しぶりに来たけど、なんだかすごく明るくなったわねぇ』と言ってもらえるのはうれしいです。その言葉に込められているのは、単に空間そのものへの評価だけじゃなくて、働いているスタッフの受け答えとかも含めてだと思うので。
『前よりもよくなった』と思ってもらえるのは、自分たちが選択してることが間違ってなくて、ちゃんとイメージしてるものが届いてるんだなと実感できるので、やっていてよかったなと思いますね」
地域の人を巻き込む、お客さんに幸せを届ける、スタッフのくらしを豊かにする…。
そこに共通するのは、茶屋さんの「人に喜んでほしい」という想いです。
茶屋さんにめざしているご自身の姿を伺うと、こう語ってくださいました。
「『茶屋に会ったらなんかおもしろくなった』って思ってもらえる人間ですね。
僕が提供する場で過ごした人が楽しんでくれて、その経験や感情を持ち帰って、誰かに話してくれたり、自分も似たことをやろうと思ってくれたりとか。かかわってくれた人の元になる、ひとつのきっかけを作れるような、そういう人間になれたらいいなと思ってます」
地域の人も、お客さんも、スタッフも。自分がきっかけとなって、誰かのくらしがちょっといいものになってくれたら。そして、その人がまたほかの誰かに、ちいさな喜びを届けてくれますように。
茶屋さんは、地域にかかわる多くの人たちに、喜びが循環するきっかけをつくっています。
株式会社plower。
「耕す人」を意味するその社名には、人が集まる空間をつくる前に、地域をしっかりと耕すという想いがこめられています。
耕した土地にくらす人、その地を訪れる人のこころに、ちいさな喜びの種をまく。
それが花開き、さらなる喜びや豊かさを生む。
「人が集まる場をつくりたい」。
かつて描いたその夢のつづきを、このみなかみの地を舞台に、茶屋さんはこれからも私たちに見せてくれることでしょう。
喜びがめぐり巡る、あたたかなくらしを、その先へとつないでいくために。
LOCAL LETTERでは、地域とかかわりたいあなたへ、多様な「生き方のヒント」をお届けしています。
本記事はインタビューライター養成講座受講生が執筆いたしました。
Editor's Note
インタビューのなかで、茶屋さんが「ありがたい、恵まれている」と繰り返しおっしゃっていたことが印象に残っています。
人に感謝し、大切に想う。そのこころの豊かさに人は惹かれ、素敵なご縁がつながっているのだろうなと感じました。
CHIAKI KOJIMA
小島 千明