TOHOKU・ZENKOKU
東北・全国
※本レポートは、東北経済産業局が主催したイベント「TOHOKU アトツギ Meetup in 仙台」(2026年3月3日開催)の一部を記事にしています
2026年3月、仙台市中小企業活性化センターにて、アトツギたちの挑戦を発信するイベント「TOHOKU アトツギ Meetup in 仙台」が開催されました。会場参加とオンラインを合わせ、多くのアトツギ、経営者、支援者が集まりました。
本イベントは、若手アトツギが新規事業アイデアを競う「アトツギ甲子園」の出場者や関係者が集い、挑戦の軌跡や未来について語り合う場です。
地域企業のアトツギたちがどのような課題と向き合い、どんな挑戦をしているのか。ローカルで事業に関わる人にとって、多くのヒントが詰まったイベントとなりました。
アトツギ甲子園は、39歳以下の中小企業の後継予定者を対象に、既存の経営資源を活かした新規ビジネスプランを競う全国大会です。令和2年度から開催され、今年度で第6回を迎えました。
2025年度は過去最多となる225名がエントリーし、東北6県すべてからエントリー者が集まりました。

「アトツギ甲子園に出場した人たちからは、『親や社員との関係性が変わった』『仲間と出会えた』という声をよく聞きます。賞金や補助金以上に、挑戦を通じて得られるこの2つは価値があると思います」(酒井原氏)

今回は、山形県で事業を営む3人のアトツギが登壇し、家業の経営資源を生かした新規事業のアイデアをピッチしました。
最初に登壇したのは、株式会社エコーの児玉氏。石材事業を営む家業を継ぐ3代目として、「墓じまいの増加」という社会課題に向き合う新規事業を発表しました。
「近年、少子高齢化やライフスタイルの変化、住職の減少により、墓を守る人がいなくなるケースが増えています。墓じまいをすると、その墓は産業廃棄物になってしまいます。私は、代々続く墓を産業廃棄物にしない未来を必ず創って、山形県と日本を笑顔にしたいと思います」(児玉氏)
墓石を積み上げて人々の想いをつなぐピラミッドを提案した児玉氏は、力を込めて言いました。

「アトツギ甲子園への出場を迷っている人は、まず応募してほしいと思います。出場が決まると期限までにプレゼン内容を準備しなければならないので、事業構想を形にする貴重な一歩になると思います」(児玉氏)
2人目の登壇は、アトツギ甲子園北海道・東北ブロック大会で優秀賞・チョイデジ賞を受賞した株式会社モトタテの富樫氏。
東京の鉄道会社で勤務した後、創業76年の宮大工の家業を継いだ若きアトツギです。
富樫氏が掲げたテーマは「仕組み化による伝統の進化」。宮大工の世界では、一人前になるまで10年以上の修行が必要とされ、「背中を見て覚える」という伝統的な技術継承に依存しているといいます。
「私が以前仕事をしていた鉄道業界の現場では、人が入れ替わっても高い安全と品質が保たれています。それは、確認や判断が全て仕組化されているからです。私はこの仕組みの力を、1300年間変わらなかった宮大工の世界に応用します」(富樫氏)
熱意を伝えるために、あえてマイクを握らずにプレゼンをする富樫氏の姿には、頼もしさとユーモアが混じっていました。

「家業に就いたばかりの頃、出場者のピッチを見て自分には到底できないと思いました。しかし平坦な道ではないものの、こうして登壇をすることができましたし、業界を越えたアトツギの先輩とつながることができました。挑戦して損はないと思います」(富樫氏)
最後に登壇したのは、北海道経済産業局長賞・東北経済産業局長賞を受賞した株式会社髙梨製作所の髙梨氏です。
髙梨氏が取り組んでいるのは、射出成形業界に存在する「金型の壁」を乗り越える技術です。射出成形では製品を作るために金型が必要ですが、その開発には多くの費用と時間がかかり、技術者たちのアイデアが実現する前に断念されてしまうことも少なくありません。
「周りの技術者たちは、たとえノーベル賞をとることも教科書に載ることもない製品でも、自分が作ったものを我が子のように誇らしく教えてくれます。私はそんな名もなき技術者たちが大好きです。だからこそ、技術者の素晴らしいアイデアを形にできない状況が悔しくてたまりません。
その悔しさを原動力に、私はすべての技術者のアイデアを具現化する、新しい射出成形の形を生み出しました」(髙梨氏)
髙梨氏は、金型を極小化する独自技術の開発に取り組み、コスト面で難しかったアイデアでも試作や製品化できる可能性を広げました。

「アトツギ甲子園に出てよかったと思う一番のポイントは、つながりを持てたことです。出場をきっかけに、ぎらぎらと熱意を持って挑戦している人たちに出会えました。そうした人たちと仲間になれたことは、自分にとって大きな財産です」(髙梨氏)

家業を継ぐという共通の立場を持ちながら、それぞれ異なる業界で新しい挑戦を続ける3人のアトツギ。彼らのピッチからは、地域企業だからこそ生み出せる価値と、次世代へ事業をつないでいこうとする強い意志が伝わってきました。
イベント後半では、アトツギ同士のつながりや挑戦のリアルを語るトークセッションが行われました。登壇したのは、東北地域でアトツギを支える支援者の方々。家業の未来をより自由で面白いものにしていくために、アトツギ甲子園での経験を地域にどう生かしていくのか、それぞれの立場から語り合いました。

モデレーターを務めたのは濱野氏。登壇者には、スパークル株式会社の福留氏、株式会社カーネ・ラ・ヴィータの今野氏、そして株式会社荘内銀行の石川氏が参加しました。
濱野氏(以下、敬称略):まず初めに、アトツギ甲子園に出場する魅力と価値について、それぞれ伺えればと思います。

今野氏(以下、敬称略):出会った仲間とその関係性を大切にすると、その人たちがまた別の仲間を生み、さらに仲間が広がっていく。そんな「クレイジーキルトの原則」こそが出場の価値だと思いました。
始まりは、メンターとの出会いでした。メンターに壁打ちをしていただいた結果、最初に私が用意したピッチ資料はファイナルのタイミングで1枚も残っていませんでした。そのくらい、がっつり壁打ちをして基準を上げてもらったんです。それがとてもいい出会いでした。
そして、そのおかげもあり、ファイナル出場者とのつながりができ、さらにはメディアに取り上げてもらったことをきっかけに出版の話をいただいたりしました。
自ら主体的に「巻き込まれていく」姿勢と、ご縁や出会いから「巻き込んでもらう」姿勢の両方を持っていることで、良い機会が生まれると思います。

今野:親との関係性を模索するアトツギにこそ、一番出場してほしいと思います。出場者の親に共通するのは、誰よりもアトツギの挑戦や出場を喜んでいることです。
自分自身も、出場して親がうれしそうにしているのを見て、すごく良かったなと思いましたし、出場をきっかけに親と同じ土俵で経営についてコミュニケーションが取れるようになりました。
何よりも「親父ってすごいな」という尊敬と感謝の気持ちが、改めて湧いてきます。

濱野:次に、金融機関の立場から多くの企業を支えてこられた石川さんに伺います。石川さんから見て、アトツギ甲子園に出場する魅力と価値はどのようなものでしょうか。
石川氏(以下、敬称略):銀行というドライな業界でも、出場すると熱くならざるを得ませんでした。営業店の担当者の心にどんどん火がついていくのを見るのは嬉しかったです。
また、各業界のアトツギたちが業界のクリティカルな課題をかみ砕いて取り上げてくれるので、銀行員として日本の良さと課題を知るいいきっかけにもなりました。

濱野:次に、仲間や伴走する人の存在について、具体的なエピソードを教えてください。
今野:メンターとの出会い、そして自分の違和感に向き合えたことは大きかったです。先ほど言った通り、私が作った資料は最終的にすべてメンターに直してもらいました。
自分のやりたいことは、こうしたら伝わるんだよということを、資料だけでなく話す構造まで徹底的に教えてもらえました。自分を引き上げてくれるメンターとの出会いは大きかったですね。
また、自分の中で大事にしたい軸ができ始めると、アドバイスを聞いているときに「それは親に申し訳ないな」と違和感を覚えることもありました。
実際に事業をやっていくうえで責任を取るのは自分です。だからこそ、違和感を放置するとブレた意思決定になってしまう。そこに向き合うことはとても大事でした。

福留氏(以下、敬称略):隠してもいいことはないという前提に立たないと、伴走はできません。人間ドックであれば、人はおめかししません。でもビジネスの場になると、急に着飾ったり武装してしまう人がいるんです。
心を開くにはある程度の練習が必要です。だから、そもそも本音を言うことに慣れていない人は、「本音を言うのが苦手です」と伝えるだけでもいいと思います。
メンターはギブアンドギブの精神を持った人ばかりです。メンターはメンティーの本音を引き出し導く存在なので、本音ベースでコミュニケーションをとることが大切だと思います。

今野:まさに、私も最初はメンターが怖くて、自分が一番かっこいいと思う“おめかし”をした資料で挑んでいました。
だから、それを全部脱がされて「こっちのほうがいい」と言われたときは、プライドがへし折られて苦しかったです。でも、アドバイスを受け入れつつ、自分の大事にしたいことを伝え、メンターのアドバイスを咀嚼していくうちに、この人は本気で自分に時間を割いて向き合ってくれているんだなと思うようになりました。
メンターが本気で向き合ってくれていると気づいてからは、おめかしをやめて、本音ベースでコミュニケーションをとり、全力で力を借りていこうと思いました。
石川:生涯、誰しも良いときもあれば悪いときもあります。だからこそ、悪いときに助けてもらえるよう、常に姿勢を整えておくことが大事ですね。

濱野:最後に、あったらいいと思うコミュニティや創ろうとしている地域ネットワークがあれば教えてください。

福留:今の東北の動きを見ると、発信力が足りないと思っています。東北は地域が大きく、人口密度も低い。だからこそ、発信を増やしてつながりの密度を濃くしていく必要があると思います。
石川:私も東北は広く、支援機関が散らばっているので、それを束ねていくのは難しいと感じています。その中でもつながっているネットワークはありますが、時間が経つと関係性は離れていってしまいます。だからこそ、まずは支援機関一人ひとりが強くなることが大事だと思います。また、一つの組織にキーマンが一人はいるべきだとも思います。
今野:東北は大きい分、集まるのに足が重くなるのは事実です。だからこそ、平時のつながりができるような東北アトツギ会のようなものを創りたいと思っています。オフラインにこだわらず、オンラインでつながって、事業について語り合える場が必要だと思っています。今年、立ち上げてみたいと思っています。

会場では、登壇者の言葉にうなずく参加者の姿が多く見られました。また、会場に参加していたアトツギからも今後の抱負などについて熱く語る場面がありました。
アトツギ甲子園をきっかけに生まれるのは、新しい事業だけではありません。
仲間との出会い、支援者とのつながり、そして地域を越えて広がっていくネットワークです。
ローカルから新しい事業を生み出す。その挑戦は、一人ではなく、関わる人たちとともに広がっていきます。
東北で何かを始めたい人。
地域の未来づくりに関わりたい人。
そんな人たちにとって、アトツギたちの挑戦はこれからも新しい可能性を生み出していくはずです。

Editor's Note
出会いを大切にすることと、自分と相手に本音でぶつかることの大切さを学ばせてもらいました。アトツギに関わらず、新しい仲間と切磋琢磨しながら創る事業は、面白いものになるにちがいないと思いました。
FUJITA MAI
藤田 真依