レポート
SNSやオンラインツールを駆使すれば、たくさんの人と出会い、つながることができる現在。しかし、そこにセレンディピティが生まれるかは、また別の話……。
そこで今回、北海道上士幌町を舞台に開催した地域経済サミット「SHARE by WHERE」では、「地域活性化最前線!セレンディピティが生まれるコミュニティ」を一つのテーマに、全国の実践者たちがトークセッションを実施。
オンラインを前提にした新たな生活スタイルが普及する中、「セレンディピティ」を設計し、地域に偶発的な出会いを創出している登壇者らが語ったものとはーー。
柴田(モデレーター):今回はセレンディピティって大事だよね、という前提で話を進めていきます。皆さんの動きやサービスの中で「偶発的な新たな発見・出会い」を意図的に設計していたり、予想せず起こっていたりする事例について聞かせてください。
秋田:僕の場合は、自分自身が何かを起こすというよりは、起案者の思いをなんとか形にしようとすることから始まります。カードゲームのように組めそうなもの同士を合わせていて、例えるなら社会課題というモンスターのためにデッキを組んで事業をつくっている感覚です。
佐別当:僕は、行ったことも聞いたこともない場所に行くという、全く計画しようのない状態を敢えてつくることが実は大切だと思っています。
例えば、小豆島に行ったついでにさぬき市に行ってみよう。うどんがおいしいのは知っていたけれど、行ってみて初めて焼きガキもおいしいことを知った、というような。僕自身ADDressというサブスクを通じて、知らない場所に行く機会をつくっています。
上村:「どうやってセレンディピティを起こしていくか?」を中心に話をすると、東かがわ市には市役所外組織の「東かがわ市わくわく課」という組織があります。そこには、市民はもちろん市外からもメンバーが集まっていて、新商品や新しい観光コンテンツを生み出そうと日々活動が行われていて。多種多様な人が入ってくることによって、新しいセレンディピティが生まれていますね。
永岡:セレンディピティという点では、おてつたびの中ではいろいろな出会いがあります。
同じ地域に同じタイミングで行っても、皆さん全く違うストーリーを持ち帰ってくれるんですよ。全く知らなかった地域にでかけ、いろんな方との出会いを通じて、人生の選択肢が変わったり広がったりしているのは、偶発的な出会いが大きく影響しているのではないかと感じています。
上村:皆さんの話を聞いていると、セレンディピティは動かないと得られないと感じますね。
佐別当:良くも悪くも日本人は真面目で、無計画であることに不安を持ってしまいますが、計画されたことだけでは成長や成果につながらない時代にきていると思っています。要するに、セレンディピティがすごく大事ということです。そのためには、鎧を1個1個外してフラットにする、人と違う空間に当てはめる、そして楽しむという3つがとても重要です。
ADDressの例でいうと利用者は「多拠点生活したい」という動機で来ているので、肩書きは関係ありません。当然名刺交換などはしないので、フラットな状態になります。さらに家守さん(コミュニティマネージャー)がいることで、楽しみやすい環境づくりができています。そういうダイバーシティが面白くて、いろんな人と出会える空間ができるんです。
柴田:秋田さんは特に立ち上げに携わられたコミュニティがたくさんあると思いますが、「つなぐ」という役割を通じて、コミュニティをどうやって浸透させているんですか?
秋田:みんながwin-winになる、納得するストーリーをつくることが大事だと思っています。官民連携でいうと、「官」「民」と言っている時点で境界線があるじゃないですか。それだと「連携」までしかありません。
でも行政・企業・市民・アカデミアなど4つくらいを混ぜ始めると、もはや誰が官で誰が民みたいなものがなくなって、一体感が出ます。自分の立場を超えられると、いろんなものが生まれるかなと。まさに「溶ける」!境界を溶かすようなことをやりたいです。
佐別当:コミュニティ同士を接続するって大事だなと思っていて。違う形同士を敢えてごちゃ混ぜにする、例えば「おてつたび」のように、農家さんとお手伝いしたい人をつなげるだけでもコミュニティがつくられて、セレンディピティが起こりますよね。
柴田:いかに既存の掛け合わせじゃない掛け合わせをつなぎ実現させるか、ですね。
秋田:東かがわ市の「わくわく課」には僕も所属しているんですが、普通に市長の上村さんが一会員としていますからね。しかも隅っこのほうに。「わくわく課」もごちゃ混ぜを感じます。
上村:ごちゃ混ぜが一番いいのかもしれないですよね。「じゃあそれやろうよ」ってなった時のスタートダッシュのエネルギーが、市役所が「これやります、皆さんいいですね、はいじゃあスタート」という時より、圧倒的に早いと実感しています。
佐別当:相手が社長とか首長になると、どうしても肩書きから入ってしまうじゃないですか。こちらが自らフラットになりにいくのが大事だと思っていて、そういう時に初めて人としての付き合いが始まります。例えば、スーツを脱ぐのもいいかもしれない。
柴田:服装って、距離感の隔たりをつくってしまう要素ですもんね。
永岡:私は毎日おてつたびTシャツで生きているんですけど、いろんなところで声かけてもらえるのがいいなあと思っています。おばあちゃんに「おてつたびってなあに?」って声をかけてもらえるきっかけになることもあるんですよ。
柴田:全員のギアが6に入りましたね!セレンディピティのセッションで得た発見や気づき、今後取り組みたいものなどを決意表明として話していただき、このセッションを締めたいと思います。
秋田:官民連携を超えた、溶けるような掛け合わせを実現していくうえで大事なのは、共感してもらうこと。共感とは同情ではなく、自分ゴトとして他の人の課題や苦労を一緒に体感して得るもの。例えば、おてつたびに行った人がその野菜を買うのは同情ではなくて、「おいしい」ってわかったから購入するというストーリーだと思うんです。
うまくはめ込んで、いろんなストーリーにつなげていきたいですね。
佐別当:外に出てくる人を1人でも増やすことはセレンディピティにつながります。地域の人口減少や高齢化は防げない流れで、その中で関係人口を増やし、外の人と中の人をつなぐことは社会的に重要だと改めて感じました。
本拠点のない人や常に移動している人(流動人口)の世の中の10%くらいまで増やせたら、地域にとって価値のある人たちになるんじゃないかなぁと感じたので、そういう人をもっと増やしていきたいですね。
上村:会場の皆さんの反応を見ていると、セレンディピティはフィジカルなものなんだと感じました。飛び込んで、会って絡んで溶けて、を考えていくと、こういうフィジカルな場がないと難しいなと。オンラインだけだとダメで、こうやってフィジカルな関係議論があってセレンディピティが成り立つんだろうなと思いました。これからも体張っていきます!
永岡:セレンディピティ、偶発的な出会いの価値を言葉にすると難しく、伝えきれないと思っていましたが、体験してみないとわからないと感じました。私たちもおてつたびを通じて、そういう出会いっていいよね!を、もっと伝えていきたいです。
おてつたびを通じて、地域との関わり方や出会いを求めている方が多くいらっしゃることも明確になっています。地域に惚れて、人生を地域に捧げたいと思っているので、これをチャンスとして、もっと地域と人をつないでいきたいなと思いました。
柴田:何か生まれそうな気がしていますね!
秋田:この後東かがわ市にADDressの拠点ができて、おてつたびがやってくる。
上村:そこの参加者に秋田さんがいるとか!
柴田:これから新しい何かが生まれていく気運の高まりに高揚しています。ありがとうございました!
Editor's Note
会場で生まれたセレンディピティに、私もひそかにワクワクしています。地域活性化の最前線にいる登壇者の皆様の想いや、ここから生まれる何かに、熱狂を感じるセッションでした。
CHIHIRO TAKAHASHI
高橋 千尋